科学技術振興機構報 第201号

平成17年8月5日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

生体骨に早期に結合し、長期に亘って安定的な人工股関節の開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業 委託開発(注1)の開発課題「生体活性傾斜機能を有する人工股関節」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、中部大学教授 小久保正氏らの研究成果を基に、平成11年3月から平成17年3月にかけて日本メディカルマテリアル株式会社(注2)(代表取締役社長 佐野健次、大阪市淀川区宮原3丁目3−31、資本金 25億円、電話:06−6350−1036)に委託して、企業化開発(開発費約186百万円)を進めていたものです。

 高齢化社会の進展に伴い、股関節の変形や、慢性関節リウマチなどにより、関節に激痛を訴え、寝たきりの生活を余儀なくされる患者が増えています。この様な患者に対し、侵された関節部を人工物に置き換えるという手術が行われ、最近その適用例は増加しております。置き換える人工股関節としては、チタン合金製のものにアパタイト)などを溶射したものが一般的でありますが、アパタイト層の組成や構造の制御が困難であり、長期間使用した場合に緩むなどの問題がありました。
 本新技術においては、チタン合金の人工股関節をアルカリ処理した後に加熱処理することによって、その表面にチタン酸アルカリ塩層を形成させました。得られた人工股関節を生体内に入れると、チタン酸アルカリ塩が体液と反応して、アパタイトの核を形成します。一旦、アパタイトの核ができると、体液中からカルシウムイオンとリン酸イオンを取り込み、股関節表面に生体骨類似のアパタイト層が形成されます。その結果、人工股関節はアパタイト層を介して生体骨と早期に強固に結合します。
 本新技術は、従来のものに比べ早期に強固な生体骨との結合性が得られ、しかも、長期にわたりゆるみなどが生じにくい信頼性の高い人工関節を可能にし、患者の生活の質の向上に大きく役立つことが期待されます。

(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。
(注2)委託開発採択時は、株式会社神戸製鋼所 医療材料部として採択。その後平成16年9月に京セラ(株)の医療材料部門と、新設分割により日本メディカルマテリアル(株)となりました。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  高齢化社会に入り、ますます増える人工股関節の需要

 高齢化社会の進展に伴い、慢性関節リウマチや変形性股関節症等の病気に悩む患者が増えております。この様な病気では、患者は、関節にひどい疼痛を感じ、思うように歩けないという生活面での不便を強いられることになります。最近、この様に破壊されてしまった関節を人工物に置き換える手術が一般的となり、患者を痛みから解放してきました。
 現在、人工股関節としては、軽さや靱性、耐食性に優れたチタン合金が広く用いられております。そして、チタン合金と骨組織との適合性を向上させるために、骨組織の構成成分であるアパタイト薄膜をプラズマ溶射法などによりチタン表面にコーティングして、早期に骨と固着させるという方法がとられてきました。しかし、この方法では、アパタイト粒子が瞬間的に1万℃以上にも加熱され、合金表面に吹き付けられるため、結晶性が悪くすぐに分解してしまったり、アパタイト層とチタン合金界面の結合力が弱かったりする問題がありました。したがって、チタン合金自身に早期に生体骨と結合できるようなアパタイト形成能力を付与する技術が望まれていました。

(内容)  生体内でのアパタイト形成を促進し、早期に骨と強固な結合を実現

 本新技術は、アルカリ処理して加熱するだけの簡便な処理を施すことによって、人工股関節に速やかなアパタイト層形成能力を付与する技術です。
 チタン合金にアルカリ・加熱処理を行うことにより、合金表面に強固に結合した非晶質のチタン酸アルカリ塩層が形成されます(図2)。この人工股関節を生体内に入れると、表面のチタン酸アルカリ塩層が体液と反応して、アパタイトの核形成を促進します。アパタイトの核がいったん形成されると、同核は体液中のカルシウムイオンとリン酸イオンを取り込み、アパタイト層を速やかに形成します(図3)。この様にして形成されたアパタイト層は骨の中のアパタイトと同種のものであるので、骨と早期に強く結合し、長期に亘って安定しています。

(効果)  患者の生活の質の向上に貢献

 本新技術により得られる人工股関節(図1)は、

1 早期に生体骨と強固に結合されるため、患者がギブスなどをつけなければならない期間を短縮させることができます。
2 股関節の広い面で生体骨と結合しているため、長期に渡り、強固な結合性を維持でき、股関節のゆるみを防止することができます。
3 処理はアルカリにつけて、加熱処理をするだけなので、非常に簡便であります。
といった特徴を有するため、今後、慢性関節リウマチや変形性股関節症等の病気に苦しむ患者のより一層の生活の質の向上に役立つことが期待されます。

図1 製品外観(左図)と使用状況概略図(右図)
図2 アルカリ加熱処理による早期アパタイト層形成の原理図
図3 アルカリ加熱処理したポーラス層の擬似体液浸漬前後の表面観察結果
開発を終了した課題の評価

【用語解説】

*アパタイト:骨はアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の微結晶の集合体がコラーゲン線維により補強された構造をとっており、アパタイトの骨に占める重量割合は約70%である。

この発表についての問い合わせは以下の通りです。

日本メディカルマテリアル株式会社事業企画室 蛯子美樹彦(えびこ みきひこ)

   TEL 06-6350-1036
JST開発部 開発推進課 菊地博道、住本研一

   TEL 03-5214-8995 FAX 03-5214-8999