科学技術振興機構報 第20号
平成16年1月15日
埼玉県川口市本町4-1-8
独立行政法人 科学技術振興機構
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生殖細胞で染色体を半数化するうえで鍵となるタンパク質を発見

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長:沖村憲樹)が戦略的創造研究推進事業[SORST]の一環として進めている研究テーマ「均等分裂と還元分裂:染色体分配機構の総合的な解明」(研究代表:渡辺 嘉典、 東京大学大学院理学系研究科助教授)において、東京大学の研究グループは、減数分裂(生殖細胞で起こる特殊な細胞分裂)の際に重要な働きをするタンパク質を発見した。このタンパク質は、生殖細胞から作られる精子や卵子が正しい組み合わせの染色体を生殖細胞から分配されて受け継ぐ上で必須の役割をもつ。また、生殖細胞以外の体細胞の分裂時に働く類似のタンパク質も併せて見つかり、体細胞での染色体の分配に間違いが生じないように機能していることも分かった。本研究成果は、ヒトの精子や卵子を作るときの染色体分配の間違いに起因するダウン症候群などの原因解明、あるいは染色体分配不全によるガンの誘発機構の解明に役立つ可能性がある。この研究論文は、平成16年1月19日(日本時間)に英国科学雑誌「Nature」オンライン版にて発表される
 細胞の染色体(注1)は遺伝情報(ゲノム)を担うことで知られている。体細胞の分裂過程では、複製した染色体(姉妹染色分体)を均等に同じ数だけ娘細胞に分配する。一方、子孫を残すための生殖細胞では、染色体を半数に減らすことにより精子や卵子といった配偶子が作られ、配偶子が受精により合体することにより、完全な数の染色体をもつ子孫が生み出される。このようにして、子供は父親と母親の両親から染色体を半分ずつ受け継ぐことができる。精子や卵子を形成するときに染色体を正確に半分に減らす過程は減数分裂と呼ばれ、体細胞の核分裂と明確に区別される。減数分裂は2回の連続する核分裂からなり、体細胞分裂に比べて、父親と母親由来の対応する染色体(相同染色体)を分離する過程(還元分裂)が1回余分に見られ、続く2回目の分裂で姉妹染色分体が分けられ半数の染色体をもつ配偶子が作られる(図)。この一連の過程で、1回目の分裂で姉妹染色分体が離れないように染色体の中心部分(動原体)の接着を守ることが重要であることが昔から知られていたが、そこに関わる因子は謎であった。
 今回の研究では、生殖細胞でこの染色体の動原体が離れないように"守護"するタンパク質シュゴシン(守護神)を、酵母を用いた研究により発見した。このタンパク質に傷があると、減数分裂の1回目の分裂で動原体の接着が離れてしまい、2回目の分裂の染色体分配がでたらめになってしまう。データベースの検索からシュゴシンはヒトを含めたほとんどの生き物に保存されたタンパク質であることが判明し、減数分裂の染色体分配様式はすべての生き物の生殖細胞で保存されていることから、今回のシュゴシンの発見およびその解析結果は、酵母のみならずヒトにおいてもあてはめて考えることができる。また酵母の解析から、増殖細胞に働く別のシュゴシン類似タンパク質があることが分かり、体細胞においても染色体分配を間違いなく行うために、シュゴシンが染色体の動原体で重要な働きを持っていることが分かった。以上の解析から、シュゴシンは生物に広く保存された新規の動原体タンパク質であることが示され、ヒトの体細胞では染色体分配不全による癌の誘発機構、また生殖細胞では不妊症あるいはダウン症(注2)などの原因解明の研究に、多くの波及効果をもたらすものと考えられる。
[用語説明]
(注1) 遺伝情報を担うDNAとタンパク質の構造体。ヒトの細胞では、父親と母親に由来する23組46本の染色体をもつことが知られている。
(注2) ヒトの先天性疾患で、減数分裂の染色体分配のミスにより21番染色体が1本余分に子供に受け継がれたときに起きる。
 なお、本研究は平成14年度より戦略的創造研究推進事業継続研究[SORST] にて研究を推進している。
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本件問い合わせ先:
渡辺 嘉典(わたなべ よしのり)
東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻
〒113-0033 文京区本郷7-3-1
TEL: 03-5841-4387 FAX: 03-5802-2042
高木 千尋(たかぎ ちひろ)
科学技術振興機構 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第三課
〒332-0012 埼玉県川口市本町4-1-8
TEL:048-226-5636 FAX:048-226-1216
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