科学技術振興機構報 第199号

平成17年8月3日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

ウイルス感染症治療用リンパ球培養キットの開発に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業・委託開発(注1)の開発課題「ウイルス感染症治療用活性化リンパ球培養キット」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、元国立がんセンター 関根暉彬氏と、(財)先端医療振興財団先端医療センター 主任研究員 伊藤仁也氏らの研究成果を基に、平成12年3月から平成16年3月にかけて株式会社リンフォテック(代表取締役社長 関根暉彬、本社 東京都文京区白山5-26-9、資本金 635,980千円、電話:03-5940-0977)に委託して、企業化開発(開発費約4億2千万円)を進めていたものです。

 免疫不全症患者等で難治性のウイルス感染症に罹患すると、重篤な経過をとることが知られています。この治療法の1つとして、免疫細胞であるリンパ球を患者の体外に取り出して培養し、増殖・活性化させて同一患者に戻す「活性化Tリンパ球療法」があります。この療法が普及するには、各医療機関で統一された、安全かつ効率よいリンパ球の培養手法が必要でした。
 そこで、本開発では、少量の末梢血から大量のリンパ球を安全に大量増殖できるリンパ球培養キットの量産技術を確立しました。リンパ球を活性状態に保つため、培養フラスコの底面に固着させた抗CD3抗体によりリンパ球表面にIL−2レセプターを誘導し、培養液に添加したIL−2と反応させて増殖を行います。本キットは培養フラスコと培養液から構成され、GMP準拠施設で生産されます。
 本キットは当面の間は研究用試薬として販売しますが、既にいくつかの医療施設で本キットを用いた臨床試験が行われており、将来的には医療用具承認の取得を目標としています。本キットを用いると、少量のリンパ球を大量に増殖、活性化できることから、免疫不全症患者の各種ウイルス感染症や、骨髄・臓器移植後の各種ウイルス感染症に対する、予防・治療への利用が期待されます。

(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  難治性ウイルス感染症の治療用リンパ球を活性化培養するにあたり、安全かつ効率の良い培養法が求められていました

 先天性免疫不全症、あるいは、骨髄移植・臓器移植時に使用される免疫抑制剤等による免疫不全状態の場合、難治性のサイトメガロウイルスやEBウイルス、アデノウイルス等のウイルス感染症に罹患し、重篤な経過をとる危険性が増大します。通常は抗ウイルス剤により治療が行われますが、薬剤耐性ウイルスの出現により治療困難となることが報告されています。
 これら薬剤耐性のウイルス感染症の治療法の1つとして、活性化Tリンパ球療法があります。これは、患者の血液を採取し、血液中のTリンパ球(免疫の中心的役割を担う細胞)を増殖・活性化させ、同一患者に戻すという治療法で、癌患者を中心にすでに700症例以上、延べ7,000回以上の投与が行われ、臨床での有効性が確認されています。
 この活性化Tリンパ球療法の問題点としては、各医療機関でリンパ球を培養する手法や使用器具が統一されておらず、一定の品質の培養細胞が得られにくいという点が挙げられ、この療法が普及するためには、安全かつ効率的な、統一規格の培養方法が必要でした。

(内容)  少量の抹消血から大量増殖可能な、活性化リンパ球培養キットを開発しました

 本新技術は、ウイルス感染症患者の血液を採取してリンパ球を体外で培養、増殖・活性化し、その自己リンパ球を患者に戻すことで治療を行う活性化Tリンパ球療法に用いる、リンパ球培養キットの製造技術に関するものです。
 本培養キットのリンパ球を活性化増幅させるメカニズムは次のとおりです。
 1 リンパ球を培養フラスコに固着させた抗CD3抗体により刺激し、リンパ球表面にIL−2レセプターを誘導発現させる。
 2 培養液中に添加したIL−2とリンパ球表面に発現したIL−2レセプターが反応して、活性化Tリンパ球を大量に増幅できる。
 リンパ球が効率よく増殖する培地成分やフラスコの大きさ、フラスコへの抗CD3抗体の固相化方法、キットの安全性、培養細胞の無菌性等を検討することにより、GMPに準拠したクリーンルーム設備で本キットを量産する技術を確立しました。
 本キットを用いてヒトリンパ球を培養すると、健常者のものなら2週間で数は120〜400倍に、活性化指標(CD3/HLA−DR)は1,750〜90,000倍に増大し、各種ウイルス感染症患者のものなら2−3週間で数は30〜900倍に、活性化指標は90〜6,600倍に増大することが可能でした。

(効果)  免疫不全症患者や、骨髄・臓器移植後患者の各種ウイルス感染症に対する、予防・治療への利用が期待されます

 本キットは研究用試薬として医療機関等に販売します。将来的には、医療用具承認の取得を目的としています。既に、本キットを用いた臨床試験が高度先進医療として東京医科歯科大学で進行しており(※1)、また、厚生労働省科学研究班でも臨床試験が計画されています(※2)。
 本キットは、先天性及び後天性免疫不全症患者の各種ウイルス感染症や、骨髄・臓器移植後の各種ウイルス感染症に対する、予防・治療への利用が期待されます。また、活性化Tリンパ球療法はウイルス感染症のみならず、癌の再発を抑制する効果も報告されていることから、癌への適用についての研究も進行しています。癌治療の分野に応用されれば、年間10億円程度の市場が見込まれます。

※1  1. 原発性、続発性免疫不全症の難治性日和見感染症および慢性活動性EBウイルス感染症を適応症とした、活性化Tリンパ球移入療法
 2. 進行肝細胞癌を適応症とした、活性化自己リンパ球移入療法
※2 厚生労働省科学研究ヒトゲノム・再生医療等研究事業「骨髄等を利用した効率的造血幹細胞移植の運用・登録と臨床試験体制の確立に関する研究」研究班
 1. 造血幹細胞移植後難治性CMV感染症に対する活性化CD4DLI療法に関する臨床第T-II相試験
 2. 造血幹細胞移植後難治性アデノウイルス感染症に対する活性化CD4DLI療法に関する臨床第T-II試験
 3. 造血細胞移植後再発白血病に対するドナー活性化CD4陽性細胞輸注療法の臨床第I/II相試験
厚生労働省科学研究ヒトゲノム・再生医療等研究事業「サイトカインによる増幅培養臍帯血による臍帯血移植の臨床研究」研究班
 4. 臍帯血移植後再発白血病に対する臍帯血活性化リンパ球輸注療法に関する臨床第I/II相試験

図1.活性化リンパ球培養キットの構成
図2.活性化Tリンパ球の培養と投与
開発を終了した課題の評価

【用語解説】

CD3:リンパ球表面に発現している糖鎖で、成熟したリンパ球のマーカーとなる。
IL−2:インターロイキン2。免疫細胞間でシグナル伝達の役割を担う。
GMP:厚生労働省が定めた、医薬品等の製造管理および品質管理規則。

この発表についての問い合わせは以下の通りです。

  株式会社リンフォテック 新規事業本部医薬品開発事業部 大隅 一興 [電話(03)5319-7031]
  JST 開発部 開発推進課  菊地 博道、今村 千早 [電話(03)5214-8995]