科学技術振興機構報 第197号

平成17年8月1日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
電話03(5214)8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

クロマトグラフィーの分析時間が飛躍的に短縮できる

"繊維"を用いた前処理濃縮装置の開発に成功

 独立行政法人 科学技術振興機構(理事長 沖村憲樹)は、独創的シーズ展開事業・委託開発(注1)の開発課題「クロマトグラフィー用前処理濃縮装置」の開発結果を、このほど成功と認定しました。
 本開発課題は、豊橋技術科学大学教授 神野清勝氏らの研究成果を基に、平成14年2月から平成17年2月にかけて信和化工株式会社(代表取締役社長 和田啓男、本社 京都府京都市伏見区景勝町50-2、資本金 20,000千円、電話:075-621-2360)に委託して、企業化開発(開発費約117百万円)を進めていたものです。
 環境分野、創薬研究分野等における代表的な試料の分析方法として、クロマトグラフィーが挙げられます。クロマトグラフィーによる分析において、目的物質が極微量であるために濃縮と不要物質の除去が必要な場合が多く、従来は、濃縮に多量の有機溶媒を用いる、不要物質の除去に煩雑な操作を要する等、試料の前処理に長時間を費やしていました。例えば、環境分析においては、環境水中に含まれる内分泌攪乱化学物質(環境ホルモン)の濃度は極めて微量(数〜数百ppb)であり、また、新薬開発においては、ハイスループットスクリーニングにより膨大な検体を処理する必要があることなどから、簡便な操作で短時間に試料を前処理濃縮することが望まれています。
 本新技術では、媒体に繊維を用い、細管に配列させることで、試料との接触面積を増やすこと、圧力損失を調整することができるため、抽出効率が良く、短時間で目的物質を捕集、濃縮することが可能となります。さらに、この細管に少量の有機溶媒を流すことによって、繊維に吸着した目的物質を濃縮、脱離させて分析装置に送り込むことができます。
 本開発では、濃縮媒体に用いる繊維の耐熱・耐溶剤試験や目的物質に応じて選択的に吸着するよう化学修飾の検討を行いました。多環芳香族炭化水素(疎水性)と残留農薬(親水性)について、繊維と化学修飾の組合せによる選択性・吸脱着性能の試験を行い、最適な組合せを確認しました。本新技術によるクロマトグラフィー用前処理濃縮装置は、前処理工程を大幅に軽減でき、簡便に操作できる、さらに、気体試料の濃縮や分離媒体としての使用も可能なことから、創薬におけるスクリーニング、環境分析、その他の極微量分析等への利用が期待されています。

(注1)独創的シーズ展開事業 委託開発は、平成16年度まで、委託開発事業として実施されてきました。

本新技術の背景、内容、効果の詳細は次の通りです。

(背景)  簡便に短時間で試料を前処理濃縮することが求められています。

 環境分析、創薬研究、科学捜査・法医学・臨床分野等においては、数多くの化合物の中から極微量の目的物質を探索することが必要とされています。そのため、クロマトグラフィーで定量可能な程度に目的物質を分離・濃縮する必要があります。従来の溶媒抽出法では、多量の有機溶媒で種類を変えながら分離・濃縮していくため、工程が煩雑で処理に長時間を要し、さらに、試料の損失・汚染の危険性や有機溶媒の環境への影響等の問題が生じます。また、SPME固相マイクロ抽出法でも、試料の捕集が完全でなく、抽出に30分程度の時間を要しています。特に、創薬研究分野では、膨大な数の化合物を迅速に分析する必要があり、簡便に短時間で前処理濃縮できることが望まれています。

(内容)  繊維を用いたクロマトグラフィー用前処理濃縮装置に関するものです。

 本新技術は、試料中にある極微量の目的物質を濃縮するためのクロマトグラフィー用前処理装置に関するものです。
 本開発では、まず、濃縮媒体に用いる繊維の耐熱・耐溶剤試験を行いました。次に、化学修飾の検討を行い、各試料における繊維と化学修飾の最適な組合せを確認しました。主に多環芳香族炭化水素(疎水性)と残留農薬(親水性)について、繊維と化学修飾の組合せによる選択性・吸脱着性能の試験を行いました。また、装置化、自動化等について検討を行い、簡便に目的物質を前処理濃縮できる装置を実現しました。

(効果)  目的物質を短時間で捕集し、少量の有機溶媒等により容易に脱着して分析装置に直接送り込むことが可能となります。

 本新技術は、媒体に繊維を用いることで、
1 試料との接触面積を大きくできる
2 試料に適した化学修飾ができる
3 媒体の充填率を可変にできる
という特徴を有しています。そのため、吸脱着性、耐熱・耐圧性に優れ、容易に目的物質の濃縮が可能となり、目的物質の濃縮、脱着を約1分程度で行うことができます。また、使用する有機溶媒は少量で済むため、廃液処理等の負担が軽減できます。さらに、気体試料の濃縮や分離媒体としての使用も可能なことから、クロマトグラフィー用前処理におけるデファクトスタンダードとなる装置として期待されています。

【用語解説】
図1.従来技術と本新技術の比較
表1.従来技術と本新技術の比較
写真1.前処理濃縮装置
開発を終了した課題の評価

この発表についての問い合わせは以下の通りです。

信和化工株式会社テクニカルグループ
  執行役員ディレクター小寺健三
TEL 075-621-2360
JST開発部開発推進課
菊地博道、正木法雄
TEL 03-5214-8995 FAX 03-5214-8999