補足説明
 
 本研究によって明らかにされたプロトン能動輸送機構の概略をFig.1Fig.2によって説明する。
1)ヘム周辺のX線構造
 Fig.1Fig.2も本文にあったヘム(鉄イオンを含む化合物)周辺の構造を示している。ヘムはheme a、中心に含まれている鉄イオンはFea, 本文にあった要となるアミノ酸残基(アスパラギン酸)はD51と書かれている。oxidizedと reducedはそれぞれFeaが電子を放出した状態と受容した状態とをしめす。D51(reduced) とD51(oxidized)はFeaがそれぞれ電子を受容した状態の時のD51と電子を放出したときのD51の空間配置を示す。Reducedのときの構造は青く着色されている。その他の部分はoxidized/reducedによる変化を示さなかった。Fig.1Aは立体図で、右の図と左の図が重なるように左右の目の角度を調節すると立体的に見える。見やすくするために、この図の領域にある多くのアミノ酸が省略されている。青い小球は水分子の酸素原子の位置を示している。点線は水素結合と呼ばれる弱い化学結合である。プロトンはこの水素結合を経由して蛋白質内部を移動することができる。Fig.1Aの下から上へ水素結合を経由してプロトンが輸送される。D51(reduced)は図上方の分子表面に露出しているがD51(oxidized)は分子内部に埋没している。D51の水素結合状態のoxidized/reducedによる変化はFig.1Bに模式的に示されている。この分解能ではX線構造解析によって水素原子を検出することは不可能であるが、この水素結合状態に基づいて、reducedではCOO-、oxidizedではCOOHとなっていると結論できる。このプロトン化状態のoxidized/reducedによる変化は赤外分光法によっても確認されている。図に示されているとおり、水素結合のネットワークはD51からヘムのformyl group (-CHO)までつながっている。そこから下方はFig. 2に示されている。Fig. 2Aの赤はFea がoxidized青はFea がreducedのときの構造を示す。点で示された空間は複数個の水分子の入りうる空間である。鎖線は水分子がこの図の下方の分子表面(Fig. 2Aには示されていない。Fig. 2B模式図参照)から入り込むことのできる経路を示す。OxidizedからreducedにFeaが変化したときに、いくつかのアミノ酸残基とヘムの側鎖のアルキル基との立体構造変化のため新しい水空間(青色点で示された空間)が生じる。Fig.2Bにはこのようなoxidized/reducedの変化によって誘起される水の入り込める空間の構造変化を模式的に示す。影をつけた部分が水分子の入り込める空間を示す。矩形の枠はFig.2Aで示されている領域を示す。青い楕円はreducedで生ずる水空間である。
 
2)プロトン能動輸送機構
 プロトンは水溶液中では必ず水分子に付加してヒドロニウムイオン(H3O+)になっていることはよく知られている。この水分子の入りうる空間の容積の増加によって、H3O+が下方分子表面から吸い込まれ、水素結合のネットワークの下端のformyl groupまで到達する。そこで水素結合のネットワークにプロトンが渡される。Feaがoxidizedになると水空間の容積が現象するため下方表面からプロトンを脱離した水分子は排出される。一方水素結合ネットワークに残されたプロトンは、Feaがoxidizedになるとヘム全体に生ずる正電荷による静電的反撥力によって、水素結合ネットワークを経由してD51まで運ばれる。そこでD51はプロトンをうけとり-COOHになり、reducedになったとき立体構造変化によって上方の分子表面に露出させられる。そこで脱プロトン化されるため上方分子表面からプロトンが放出される。以上のようにしてヘムのoxidized/reducedの変化に駆動されてプロトンが能動輸送される。
 
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This page updated on December 12, 2003

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