科学技術振興機構報 第178号

平成17年6月1日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
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EUVリソグラフィ用マスク欠陥検査装置の開発に成功

-次世代半導体製造プロセスの実現に向けて大きく前進-


 JST(理事長 沖村憲樹)の研究グループは、極端紫外線リソグラフィ(EUVL)用マスク上の微細な位相欠陥像の観察に世界で初めて成功した。極端紫外線(EUV)顕微鏡の開発によって得られた今回の成果は、次世代の半導体製造プロセスの実現に向けて前進する画期的な成果といえる。
 2009年頃の実用が期待されている最小線幅32nmのLSIデバイスでは、その製作にEUVLが用いられると考えられている。これまでの研究開発によって、露光装置の実用化にはほぼ見通しが得られているが、多層膜を形成した反射型マスクの無欠陥化に、まだ多くの技術的課題が残されている。特に32nm世代のマスクでは、30nmの微小な欠陥でも問題となるため、多層膜表面ならびに吸収体部分の欠陥、さらには、多層膜に特有な問題として、ガラス基板上の研磨痕や異物に起因する位相欠陥を評価する必要がある。マスクの表面や吸収体の欠陥は従来のレーザ光の散乱による測定などでも検査可能であるが、多層膜の深い部分の欠陥に起因した位相欠陥の評価は従来法では不可能であり、その評価方法の開発が熱望されている。
 本研究では6インチ角ガラスマスク基板上の多層膜位相欠陥の高速かつ高分解な検査法として、EUV顕微鏡を開発し、マスクパターンを直接拡大観察すると同時に位相欠陥を高速に検査することを狙いとした。その結果、EUV顕微鏡によって、90nm幅の擬似欠陥による位相欠陥像の観察に世界で初めて成功した。本装置では欠陥の有無のみならず、大きさ、形状を推定することも可能であった。今後、30nmの位相欠陥についても本装置で検出を試みる。
 本成果は、戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CRESTタイプ)の研究テーマ「位相差極端紫外線顕微鏡による機能性材料表面観察・計測技術」の研究代表者 木下 博雄(兵庫県立大学高度産業科学技術研究所 教授)および、共同研究者 笑喜 勉(HOYA株式会社先端リソグラフィー開発センター グループリーダー)により得られたもので、 米国オーランドで開催の国際会議EIPBN(エレクトロン・イオン・フォトン・ビーム・テクノロジー・アンド・ナノファブリケーション)で6月3日に報告される。


<背 景>

 半導体製造技術は、2年に4倍の速度で高密度化が進み、2009年には32nmの最小線幅をもつLSIデバイスの実用化が予想されている。半導体デバイスの高密度化は露光光源の短波長化によって実現されてきており、現在は波長193nmのArFレーザが用いられている。さらにその先の短波長光源としてはF2レーザが期待されてきたが、光学系を構成する材料CaF2に複屈折性の問題があるため、現在は波長13.5nmの極端紫外線リソグラフィ(EUVL)(注1)が注目されている。
 これまでの研究開発から、EUVL露光装置の実用化はほぼ見通しが得られているが、EUVL用の多層膜(注2)を形成した反射型マスクの無欠陥化にまだ多くの技術的課題を残している。とくに32nm世代のマスクの多層膜表面ならびに吸収体部分の最小欠陥サイズは30nmとされており、さらには、多層膜に特有な問題として、ガラス基板上の研磨痕や製膜中の異物に起因する位相欠陥(注3)の検査が必要となる。多層膜表面の欠陥については従来の真空紫外光(VUV)の散乱による測定の高度化で検査可能と思われるが、多層膜に覆われた深い部分の異物などに起因する位相欠陥の検査は従来法では不可能である。このため、EUVL用マスクの表面・吸収体パターンの欠陥のみならず、多層膜内部の欠陥の高速かつ高分解能な検査法が熱望されている。
 これまでの類似の研究としては、つくばの半導体Mirai研究所-ASETにおいて進められている、レーザプラズマからのEUV光のマイクロビームを被検査面に照射し、その暗視野像を20倍のシュバルツシュルト光学系により拡大してX線CCDカメラで観察するという試みがある。昨春の応用物理学会において、70nm幅の擬似的に作られた位相欠陥の検出が可能との報告があった。しかしこの検査法は散乱光を検出する方式のため、欠陥の有無を知ることは可能であるが、欠陥のサイズ、種別等の情報は得られない。

<研究成果の内容>

 図1に、本研究で開発を進めているEUV顕微鏡システムの概要を示す。この装置は、30倍のシュバルツシュルト光学系(注4)と200倍までの像拡大が可能なX線ズーミング管(注5)とから構成され、露光光と同一波長の13.5nmのEUV光で直接マスクの像を拡大観察する。光学系の理論的な解像度は20nmであり、マスク面上の30nm以上の欠陥の観察が可能である。また、波長13.5nmの光は一部多層膜を透過するため、この透過光によって、ガラス基板上の研磨痕や異物に起因する位相欠陥の形状・大きさ等の多層膜構造内部の3次元構造を検査することが可能となる。
 図2は基板に擬似欠陥を設け、その上に多層膜を形成した時の断面の模式図である。擬似欠陥の高さやサイズによっては最上層への影響が消えてしまうことが分かる。図3に今回検査に用いたガラス基板に予め作成された擬似欠陥の断面の透過電子顕微鏡像を示す。基板に形成した高さ5nm、幅90nmのパターンの上に多層膜を形成すると、最上層部では図のように表面での散乱光を検出できないほどのなだらかな突起となっている。
 図4(a)に本研究で開発した装置による擬似欠陥の観察結果を示す。図の疑似欠陥はどれも高さ5nm、長さ400μmで、図の上部から幅90nm、100nm、110nmに対応し、それぞれきれいに観察できている。図4(b)は幅90nmの疑似欠陥の拡大像である。また、図5には幅500nmの擬似欠陥の観察例を示すが、2本のラインとして観察されている。これは線幅が広く、擬似欠陥の両サイドのエッジで生じた位相変化を捕らえているためである。
 このように、本研究ではEUV顕微鏡を用いて擬似欠陥の観察を進め、初めて多層膜内部の位相欠陥像の観察に成功した。これらの結果は、EUV顕微鏡では表面の形状に依存することなく、内部の反射率分布を捕らえることが可能なことを示している。この成果は今後のEUVL実用化に向けて前進する画期的な成果といえる。

<今後の展開>

 本研究では、多層膜に覆われたガラス基板上の研磨痕や多層膜成膜中に混入した異物に起因する位相欠陥の3次元像観察が可能なEUV顕微鏡を開発し、極端紫外線領域での初めての位相検出像を得ることを可能とした。今回の成果は擬似欠陥ではあるが、多層膜内部の欠陥を表面の形状に依存することなく検出可能なことが明らかになり、多層膜表面上の欠陥も、多層膜に厚く覆われたガラス基板上の欠陥も検査可能であることが明らかになった。今後は装置メーカと共同で高速・高解像度な検査装置の開発を進める。さらに、埋め込み欠陥としてはどこまでデバイスに影響を与えるかについての定量的な検討を進め、EUVL用マスクの無欠陥化への道筋を明らかにする。


この研究テーマが含まれる戦略的創造研究推進事業の研究領域、研究期間は以下の通りである。

チーム型研究(CRESTタイプ)
研究領域「高度情報処理・通信の実現に向けたナノファクトリーとプロセス観測」


(研究総括:蒲生 健次(大阪大学名誉教授))
研究期間平成14年度~平成19年度
用語説明
図1 EUVマスク検査のための極端紫外線顕微鏡の構成
図2 ガラス基板上の擬似欠陥の模式図
図3 擬似欠陥の透過電子像
図4 ガラス基板上に形成した擬似欠陥の観察例 
図5 幅500nmの擬似欠陥観察像

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<本件問い合わせ先>

 木下 博雄(きのした ひろお)
 兵庫県立大学高度産業科学技術研究所 教授
 E-mail:
 Tel: 0791-58-2546 / Fax: 0791-58-2504

 笑喜 勉(しょうき つとむ)
 HOYA株式会社先端リソグラフィー開発センター グループリーダー
 E-mail:
 Tel: 042-546-2749 / Fax: 042-546-2742

 金子 博之(かねこ ひろゆき)
 独立行政法人科学技術振興機構
 特別プロジェクト推進室
 E-mail:
 Tel: 048-226-5623 / Fax: 048-226-5703

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