科学技術振興機構報 第175号

平成17年5月17日

東京都千代田区四番町5-3
科学技術振興機構(JST)
電話(03)5214-8404(総務部広報室)
URL http://www.jst.go.jp

高速酸化法により低温で緻密な光学薄膜の形成に成功

 JST(理事長 沖村憲樹)は、委託開発事業(注1)の開発課題「高速酸化法による光学薄膜の低温形成技術」の開発結果をこのほど成功と認定しました。
 本課題は、金沢大学 名誉教授 畑 朋延氏らの研究成果を基に、平成14年2月から平成16年12月にかけてCBCイングス株式会社(平成17年4月1日に、CBC株式会社に合併 代表取締役社長 土井宇太郎 本社 東京都中央区月島2-15-13 資本金850百万円)に委託して企業化開発を進めていたものです。

 情報通信機器や携帯機器等の普及に伴い、ディスプレイ等に使われる光学薄膜の重要性も高まってきております。従来、緻密な光学薄膜を成膜するのに使われている真空蒸着法は、耐熱性の低い樹脂基板に対しては十分な加熱が出来ず膜強度に問題がありました。また、蒸着では膜の厚さについての制御が難しく、そのために設備が高価になってしまうという問題点もありました。一方、制御性の良いスパッタリング法では、緻密な膜が得られにくく、特に光学薄膜のような酸化物薄膜は、高周波の反応性スパッタリングで行なうため、成膜速度が遅い等の問題がありました。このため、低温で、かつ高速に、緻密な膜質が得られる成膜技術が求められていました。
 本新技術は、マグネトロン・スパッタ法で金属の極薄膜を堆積した後、引き続き酸素イオンを打ち込むことにより、低温で酸化物薄膜を高速堆積する技術です。金属の極薄膜を堆積する金属エリア(スパッタ源)と堆積した極金属薄膜に酸素イオンを打ち込む酸化エリア(逆スパッタ源)を分けて、独立に制御することにより、高速の成膜レートを維持しながらも、緻密な酸化物薄膜の成膜を可能にする大型実用装置を開発しました。これにより、樹脂基板に4層の反射防止膜として、金属酸化物薄膜を低温・高成膜レートで成膜することができます。
 本製法により製造した反射防止膜は、緻密なので耐環境性に優れており、携帯機器用ディスプレイの反射防止膜、各種光学フィルターへの利用が期待されます。

(注1)委託開発事業は、平成17年度より独創的シーズ展開事業―委託開発―として実施しています。

本新技術の背景、内容、効果は次の通りです。

(背景)
低温かつ高成膜レートで緻密な膜質が得られる成膜技術が求められています。

従来、光学薄膜は真空蒸着法で製作されていますが、緻密な膜を得るためには高真空中で基板を加熱しながら真空蒸着によって成膜するため、耐熱性の低い樹脂基板は使用できません。一方、スパッタリング法はスパッタガス雰囲気中で成膜が行われるため、ガスを膜中に取り込み緻密な膜は得られにくいとされています。また、光学薄膜のような酸化物薄膜は、高周波の反応性スパッタリングで行わねばならないので、成膜レートが低い等の問題があります。

(内容)
マグネトロン・スパッタ法で金属の極薄膜を堆積した後、酸素イオンを打ち込むことにより、酸化物薄膜を低温で高速堆積する技術を実用化しました。

 本新技術は、マグネトロン・スパッタ法で金属の極薄膜を堆積した後、引き続き基板に酸素イオンを打ち込むこと(逆スパッタ)により、酸化物薄膜を低温で高速堆積する技術です。この技術を基に、大型の実用装置を開発しました。本装置では、基板をセットする円筒ドラムの周囲に金属の極薄膜を堆積する金属エリア(スパッタ源)を3カ所設け、多数の金属ターゲットをスパッタリングできます。ターゲットは円盤状で7枚設置できるようにし、それぞれ独立して制御できます。金属の極薄膜に酸素イオンを打ち込む酸化エリア(逆スパッタ源)は上下に分割して2カ所設けることで均一な酸化被膜を形成することができます。また、回転ドラムには30mm×40mmの基板が1,440枚取り付け可能で量産性も向上させました。
 本装置で樹脂基板に4層の反射防止膜を成膜する場合、1層目で金属ターゲットとしてNb(ニオブ)を用い、Nb金属の極薄膜を堆積した後、引き続き上下に分かれた酸化エリアで酸素イオンを打ち込むことでNb2O5(五酸化二ニオブ)を形成し、目標の厚みになるまで繰り返します。つぎにSiをターゲットとして、Nb2O5と同様にSiO2(二酸化珪素)を目標の厚みになるまで繰り返します。3,4層目も同様にして成膜します。これにより、均一で緻密な金属酸化物薄膜による4層の反射防止膜を、低温・高成膜レートで樹脂基板に形成することができました。

(効果)
 低温・高速レートで耐環境性に優れた光学薄膜が形成できます。

 本新技術により、低温・高速レートで耐環境性に優れた緻密な光学薄膜が形成できるため、携帯機器用ディスプレイの反射防止膜、各種光学フィルターへの利用が期待されます。

図1. 4層反射防止膜のプロセス
図2. スパッタ装置の概略図
図3. 大型実用゙装置(スパッタ装置外観)
開発を終了した課題の評価

なお、本件についての問い合わせは以下の通りです。

 CBC株式会社 CBCイングスカンパニー
       光学技術部 課長代理  千葉 忍(電話:055-991-7303)
 独立行政法人科学技術振興機構開発部 開発推進課
                    菊地博道、住本研一(電話:03-5214-8995)