資料4


選定した研究領域および研究総括の評価

研究領域
   
1. 量子スピン情報
2. 膜機構
研究総括
   
1. 樽茶清悟(東京大学大学院 工学系研究科 教授)
2. 楠見明弘(京都大学 再生医科学研究所 教授)
評価結果
1. 研究領域「量子スピン情報」は、人工原子(量子ドット)系での知見をより自由度の大きい「人工分子」に拡張してスピン相関の物理の探究と量子情報処理への展開を図るものである。具体的には、分子に類似あるいは既存分子にはない電子の結合系を作成するなどにより分子的量子論の解明とスピン相関の制御を目指す。また、これらの応用として、量子計算の基本要素の実現、検証やさらには単一電子スピンから光子、核スピンへの情報の転写の可能性を探る。

本研究領域において、量子スピン情報をもとにした新規な情報通信技術の基盤創成に貢献することが期待される。これにより本研究領域は戦略目標「情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築」に資するものと期待される。

樽茶清悟氏は本研究領域の重要な基礎となる電子スピン相関、量子計算の基本要素に関する先導的な研究を行ってきており、本研究領域の研究総括として相応しいと認められる。

本研究領域において、量子細線デバイスの開発と研究で先導的な成果を輩出しているデルフト工科大学Leo P. Kouwenhoven教授、および量子情報理論の世界的権威であるバーゼル大学Daniel Loss教授と共同研究を行うことにより、相互補完的な協力体制が生まれ、各国の高い研究活力が融合することで革新的な研究成果が期待される。

2. 研究領域「膜機構」は、細胞膜上のナノドメインの動的構造およびナノドメインとシグナル変換機能の作動機序の解明を目指すものである。具体的には、生細胞中の1分子観察/操作による、細胞内シグナルシステム研究の新しい手法開発を目指すとともに、それらで見出された知見をもとに膜特有の分子間相互作用の基本的理解を目指す。

本研究領域において、生細胞における1分子ナノバイオロジー技術の基盤創成に貢献することが期待される。これにより本研究領域は戦略目標「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオテクノロジーを活用した機能性材料・システムの創製」に資するものと期待される

楠見明弘氏は本研究領域の重要な基礎となる生細胞中の1分子観察/操作に関する先導的な研究を行ってきており、本研究領域の研究総括として相応しいと認められる。

本研究領域において、生細胞中シグナルの実時間観察の開発に関して先導的な成果を輩出しているインド国立生命科学研究センターのSatyajit Mayor教授と共同研究を行うことにより、相互補完的な協力体制が生まれ、両国の高い研究活力が融合することで革新的な研究成果が期待される。

評価者
科学技術振興審議会 基礎研究部会 部会長: 竹内 伸
科学技術振興審議会 基礎研究部会 委員: 石井 紫郎、岩渕 雅樹、大泊 巌、小柳 義夫、
郷 通子、榊 佳之、鈴木 紘一、東倉 洋一、
中西 準子、村橋 俊一、吉村 進