科学技術振興機構報 第152号

平成17年 2月10日

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世界最大の光閉じ込め効果をもつ新しい光ナノ構造
「光ダブル・ヘテロ構造」の開発

− 自身のもつ光閉じ込め世界記録を大幅に更新。新しい情報・通信分野への展開が可能に−

 JST(理事長:沖村憲樹)と京都大学(総長:尾池和夫)は、戦略的創造研究推進事業および文部科学省プログラムで進めている研究において、新たな光ナノ構造「光ダブル・ヘテロ構造」を考案・開発し、自らのもつ世界最大の光閉じ込め記録を1桁以上更新することに成功した。この成果は、情報・通信分野における新しいキーデバイスの開発を加速するものと期待される。
 上記の成果は、京都大学大学院工学研究科電子工学専攻の野田進教授等のグループと住友電気工業株式会社との共同によって得られたもので、2月13日付(英国時間、日本では、2月14日)の英国科学誌「ネイチャー・マテリアルズ」オンライン版で発表される。

<研究概要>

 現在、光ファイバーが各家庭にまで広く導入され、情報・通信分野における光の役割が益々重要になりつつある。しかしながら、光はもともと一旦放出されると四方八方へと拡がる性質をもつため、光を自在に制御するには、光を極微小領域へ強く閉じ込めるなどの様々なブレークスルーが必要となっている。このような背景のもと、現在、世界的に如何に小さな領域に如何に強く光を閉じ込めるかの研究の先陣争いが行われている。
 今回、野田教授等は、自身が見出した極微小領域への強い光閉じ込めのための概念−光を強く閉じ込めるためには、逆に緩やかな光閉じ込めが必要−を完全に満たす構造として2次元フォトニック結晶[注1]を基に「光ダブル・ヘテロ構造」(図1にイメージ図を示す)を考案・開発した。これにより、光閉じ込め性能を示すQ値[注2]として、野田教授自らのもつ世界記録を一桁以上上回る600,000を実現することに成功した。
 今回の成果により極微小領域に光を強く閉じ込めるための理想的な構造が見出されたため、今後、電気に変換することなく光のままで情報を蓄えたり、様々な処理を高速に行う極微小光デバイスの実現にもつながり、様々な新しい通信・情報分野への展開が可能になるものと期待される。さらに光と物質の強い相互作用を利用し、現在よりも桁違いに速い演算が可能な量子演算などの次世代情報処理技術にも貢献できるものと期待される。

<成果の具体的な説明>

1. 極微小領域に強い光閉じ込めを可能にする構造とは?

 今回、考案・開発した極微小光閉じ込め構造は、図2に示すような半導体(例えばシリコン)の薄板(厚さ数100nm)に、3角格子状に規則正しく空気孔を設けた構造(2次元フォトニック結晶)を基本とし、この構造に同図(a)のような空気孔を一列埋めた光の通り道、すなわち光導波路[注3]を設け、さらに、同図(b)のように、光導波路の中央部分の(元々あった空気孔の)間隔をわずかに(10nm程度だけ)拡げたものである。光は、赤色で示した中央部分に閉じ込められる。この構造は、2種類の異なる周期をもつフォトニック結晶を接続させた構造ということで、光二重異種接合構造(光ダブル・ヘテロ構造)と名付けることが出来る。
 実験結果を、図3に示す。同図(a)は実際に作製したダブル・ヘテロ光閉じ込め構造の電子顕微鏡写真である。同図には、光閉じ込め部に光を導入するための、導波路が併設されている。同図(b)に示すように、波長1.57 mの光を入射した場合、鋭い光共鳴が起こり、同図の添付図から分かるように、極微小閉じ込め部分に、光が強く局在している様子が見て取れる。一般に、光の閉じ込めの強さは、Q値と呼ばれる指標で評価されるが、今回、達成したQ値は600,000である。このQ値は、従来の野田教授自身が持つ世界記録45,000に比べ、1桁以上大きい。光の波長の3乗程度の体積に、60万というQ値をもつ光閉じ込めが達成されたのは驚異的であると言える。さらに、構造を最適化すると、ほぼ同じ体積に、Q=2,000万を超える光閉じ込めが可能になることも、理論的に判明した。

2. なぜ、光を強く閉じ込めることができるか?

 図2に示すような半導体の薄板に光を閉じ込める場合、光の漏れは上下方向に起こる。光を強く閉じ込めるためには、この上下方向の漏れを防ぐことがポイントとなる。光は光閉じ込め部分において、主として長軸方向に伝搬し、共鳴する波長の光は境界部分で反射され、逆方向に伝搬し、再び境界部分で反射され、光閉じ込め部を行ったり来たりしながら定在波[注4]として閉じ込められることになる。光が境界部分で反射される際に、光は上下方向にも散乱され、それが光閉じ込め効果を弱めることになる。特に、境界面での反射が急峻であればあるほど、上下により多く散乱され、漏れが大きくなる。また、閉じ込め領域の大きさが小さくなるほど、境界部分での光散乱の影響が顕著になり、Q値の減少が顕著となる。今回、考案した構造は、図2(b)あるいは図3(a)から分かるように、光導波路の中央部にわずかだけ、構造を変調し、境界部分の存在がほとんど分からないような光閉じ込め構造となっている。その結果、境界部分での反射が非常に緩やかになり、上下方向の光散乱による漏れが、極限的に抑えられた結果であると考えられる。これは、野田教授自らが見出した極微小域に強く光を閉じ込めるための概念−光を強く閉じ込めるためには、逆に緩やかな閉じ込めが必要−を完全に満たすものである。)図4には、計算により求めた光(電界)分布を描いている。同図からわかるように、光閉じ込め部の境界において非常に緩やかに光が分布していることが分かる。やや詳細に説明すると、ちょうど光の境界部で減衰する電界分布のピークが、ガウス型関数的になるとき、光閉じ込めが最大となる。今回発見した構造は、まさしくこの理想的なガウス関数型の閉じ込めを達成したものである。

<まとめと今後の展開>

 以上述べたように、半導体の薄板の極微小領域に極めて強い(野田教授自身のもつ世界記録をさらに1桁以上更新する)光閉じ込めを実現することに成功した。理論的には、さらに、2000万を超える強い光閉じ込めが可能となることも判明している。これらの成果により、今後、光のままで、情報を蓄えることの出来る光メモリーへの展開や、これらの光閉じ込め構造を複数並べることにより、一連の光パルスを一旦ストップさせることなども可能になるものと期待される。また、極微小領域に光を閉じ込めることが可能となるため、極めて弱いエネルギーで、スイッチ可能な極微小光デバイスや、さらには、桁違いに速い演算速度をもつ量子演算などのキーデバイスとして展開可能と考えられる。その他、量子通信のための単一光子光源や、超高感度センサーデバイスなどへの応用も可能になると考えられる。

[注1]
2次元フォトニック結晶:2次元面内に周期的な屈折率分布を設けた光のナノ構造。周期屈折分布の周期に対応する波長の光の存在を許さないという特長をもつ。周期性を人為的に乱すことにより、その部分に光の存在が許されるようになる。
[注2]
Q値:Quality FactorのQをとって、Q値と呼ばれる。これは、光閉じ込め部分の共鳴の鋭さを表す値であり、どのぐらい強く光を閉じ込めることが出来るのかの目安になる。Q値が大きいほど、共鳴した波長の光は減衰が少なくなり、より強く光を閉じ込めることが出来るようになる。
[注3]
光導波路:フォトニック結晶の周期性をわざと乱すと、その部分(すなわち欠陥)にのみ光が存在できるようになる。この欠陥の導入の仕方を様々に工夫することにより、様々な光の制御が可能となり、超小型の光デバイスが実現できるものと期待される。この場合のように、線状に空気穴を埋めて設けた欠陥(線欠陥)は、埋めた部分に光が存在できることから光の通り道となる。
[注4]
定在波:光閉じ込め部に共鳴する波長の光は、境界部で反射して閉じ込め部を行ったり来たりすることにより、互いに逆向きに進む光が重なり伝搬せず止まったように見える。これを定在波(または定常波)と言う。この定在波の状態で光は閉じ込められる。共鳴しない波長の光は、行ったり来たりする光の位相が一致せず、互いに打ち消し合うため光を閉じ込めることが出来ない。

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:電子・光子等の機能制御(研究総括:菅野 卓雄 東洋大学 理事長)
研究期間:平成12年度〜平成17年度

図1 図2 図3 図4
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本件問い合わせ先:

野田 進(のだ すすむ)
 京都大学 大学院工学研究科 電子工学専攻
 〒615-8510 京都市西京区京都大学桂
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E-mail:

島田 昌(しまだ まさし)
 科学技術振興機構 研究推進部 研究第一課
 〒332-0012 川口市本町4−1−8
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 FAX:048‐226‐1164

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