科学技術振興機構報 第151号

平成17年 2月 9日

東京都千代田区四番町5−3
科学技術振興機構(JST)
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「文法中枢」で英語の達人判定

〜大学生、英語の熟達度で脳活動に差〜

 JST(理事長:沖村憲樹)の研究チームは、機能的磁気共鳴映像法(fMRI)の実験から、英語の熟達度(*1)で脳の「文法中枢」の反応が変わることを初めて直接的に証明した。
 本成果は、戦略的創造研究推進事業(チーム型)の研究領域「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」の研究代表者の東京大学大学院総合文化研究科 助教授 酒井 邦嘉と、同研究科大学院生 辰野 嘉則によるもの。
 新たな外国語の習得訓練を短期集中的に行えば、中学生と同様に大人でも、成績の向上に比例して脳の文法中枢の活動も向上することが明らかとなっている。一方、中学生から大学生に至るまで英語が定着していく過程で、長期的に文法中枢の活動がどのように変化するかについては明らかになっていなかった。
 今回、大学生を対象として、英語に関連する課題を行っている際の脳活動をfMRIにより測定することによって、英語の「熟達度」が高くなるほど文法中枢の活動が節約されていることが明らかになった。
 この結果と、英語習得を開始したばかりの中学生の英語の成績の向上に比例して文法中枢の活動が増加することを合わせると、中学生から大学生にかけて英語が定着するに従って、文法中枢の活動が高まり、維持され、節約されるというダイナミックな変化が見られることが示唆された。本研究成果は、語学教育の改善や言語の獲得機構の解明へとつながることが期待される。なお、本研究成果は、平成17年2月16日発行の北米神経科学会誌(The Journal of Neuroscience, ジャーナル・オブ・ニューロサイエンス)に発表される。

(*1)英語の熟達度とは、英語の知識が定着した程度を表す指標で、今回は英語の不規則動詞の過去形に対する正答率で評価した。

<研究概要>

 脳科学の進歩に伴い、人間の脳の活動を画像として捉える機能イメージングの手法を用いて、心のさまざまな機能の座が、脳のどこにあるかを調べられるようになってきた。しかし、言語などの高次機能の脳における発達メカニズムはまだほとんどわかっていない。本研究は、第二言語である英語の熟達度に注目して、英語の文法知識がどのようにして定着するのかという疑問に対し、当チームが平成14年に報告した「文法中枢」の機能変化として客観的に答えようとするもので、熟達度の個人差と脳機能の相関を明らかにした発見は、世界で初めてである。

 本研究では、英語の熟達度に見られるような大きな個人差が、どのように脳のはたらきと関係しているのかを明らかにすることを目標とし、この熟達度を年齢や課題の成績などの要因から分離するために次のような調査を行った。東京大学教養学部の理科系に在籍中で、年齢が同じ19才の15名に対して、当チームが平成16年に報告した中学1年生を対象とする調査と同様の文法課題を行っているときの脳活動をfMRIによって測定した。
 その結果、大学生でも中学1年生と同様に左脳の前頭前野(ブローカ野)に活動の活性化が見られ、この活動変化は英語の成績(動詞の過去形テスト)そのものではなく、熟達度と負の相関を示した。この脳の場所は「文法中枢」の一部であり、日本語による同様の課題で見られた活動の場所と一致する。従って、英語が上達すると、日本語を使うときと同じ脳の場所の活動が変化するという言語の普遍性が、子供に限らず大人でも確かめられた。

 このように、英語の熟達度が学習による個人の脳活動の変化として、科学的にそして視覚的に捉えられたことは意義深い。従来、熟達度の個人差は、年齢や課題の成績などの要因から分離することが困難であった。今回のfMRIを用いた方法は、個人の学習の到達度を直接的に測定する可能性を示すものとして、これからの教育の評価の方法やあり方に非常に大きな影響を与える可能性がある。今後、この先駆的な研究成果が突破口になって言語の獲得機構の解明が進み、語学教育の改善につながることが期待される。

<補足説明>

こちらを参照

<発表論文題名>

“Language-Related Activations in the Left Prefrontal Regions Are Differentially Modulated by Age, Proficiency, and Task Demands”
(言語に関連した左前頭前野領域の活動は年齢・熟達度・課題負荷の違いにより変化する)
doi :10.1523/JNEUROSCI.3978-04.2005

<著者名>

辰野 嘉則・酒井 邦嘉

この研究テーマが含まれる研究領域、研究期間は以下の通りである。
研究領域:脳の機能発達と学習メカニズムの解明(研究総括:津本 忠治 大阪大学)
研究期間:平成15年度〜平成20年度

<補足説明> 図1 図2 図3 図4
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本件問い合わせ先:

酒井 邦嘉(さかい くによし)
 東京大学大学院総合文化研究科 相関基礎科学系
 〒153-8902 東京都目黒区駒場3-8-1
 TEL: 03-5454-6261(直通)
 FAX: 03-5454-6261
 E-mail:
 URL: http://mind.c.u-tokyo.ac.jp/index-j.html

島田 昌
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 戦略的創造事業本部 研究推進部 研究第一課
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