1.課題名
森林動態データベース
(URL:http://fddb.ffpri-108.affrc.go.jp/)
2.開発・運用責任者
独立行政法人森林総合研究所
開発責任者:新山馨(森林植生研究領域 群落動態研究室長)
運用責任者:同 上
3.課題概要
森林動態データベースは、森林総合研究所が日本各地に設置した林相の異なる大型天然林試験地において学術的調査研究のために収集・蓄積してきた長期にわたる森林の観測データを保存し、研究用に役立てるとともに、幅広く内外の研究者、行政、教育関係者に提供することを目的として開発された。
本データベースは、天然林の更新と樹木の生長のデータで構成されている。試験地ごとに成木データ(胸高直径5cm以上)を中心に、幹の位置、種名、サイズ(胸高周囲長)、リター(落葉落枝)、種子生産、林床植生などのデータを収録した。
また、オリジナルデータを提供するとともに、試験地別、樹木の生活史クラス別(当年実生、実生、稚樹、成木)に、幹数・幹断面積・バイオマスの経年変化や、幹の空間分布、直径階分布がWeb上で図表化できる。
<データ種類とデータ量>
小川 (茨城県) |
綾リサーチ サイト (宮崎県) |
カヌマ沢 (岩手県) |
苫小牧 (北海道) |
日光河畔林 (栃木県) |
屋久島 スギ林 (鹿児島県) |
屋久島 照葉樹林 (鹿児島県) |
苗場山 ブナ更新 (新潟県) |
合計 | |
林相 | 落葉広葉樹林 | 常緑広葉樹林 | 渓畔落葉広葉樹林 | 落葉広葉樹林 | 落葉広葉樹林 | 常緑針葉樹林 | 常緑照葉樹林 | 落葉広葉樹林 | |
樹種数 | 59 | 65 | 47 | 32 | 33 | 33 | 51 | 13 | |
成木幹数 (調査初年度) | 4,945 | 4,182 | 3,696 | 3,532 | 3,532 | 4,981 | 6,775 | 402 | 32,045 |
樹木 | 218,918 | 22,858 | 3,696 | 14,085 | 7,313 | 4,981 | 6,775 | 86,045 | 364,671 |
リター | 26,544 | 0 | 0 | - | 0 | - | - | - | 26,544 |
種子 | 42,154 | 0 | 0 | - | 0 | - | - | - | 42,154 |
林床植生 | 25,288 | 0 | 0 | - | 0 | - | - | 256,514 | 281,802 |
合計 | 312,904 | 22,858 | 3,696 | 14,085 | 7,313 | 4,981 | 6,775 | 342,559 | 715,171 |
(注) 0:データ整理未完のため未収録 -:データなし
<開発期間> 平成12年10月~平成15年9月
4.アクセス状況
公開時(平成15年10月)~平成16年9月 : 6,640件
5.外部発表
*開発中
発表年度 | 件数 | 備考 |
平成14年度 | 1件 | The international symposium on response of terrestrial watershed ecosystems in monsoon Asia to global change |
平成15年度 | 1件 | Ornithology Science 2:3-23 |
*開発終了後
発表年度 | 件数 | 備考 |
平成15年度 | 1件 | 第40回情報科学技術研究集会(INFORUM2003) |
平成16年度 | 2件 | 第115回日本林学会大会 他 |
6.事後評価結果
6-1 当初計画の達成度
日本各地の大型天然林試験地で森林総合研究所が蓄積した天然林の更新と樹木の生長のデータで構成されており、今後の森林データベースの基盤となるものである。当初計画された以上のデータが収録され、当初計画は達成されたと認められる。研究機関の蓄積したデータを公開したひとつの成果といえる。試験地は全国に点在し、樹木のデータ以外にも、種子や実生のデータも入れ始めており、日本の森林、樹木の動態を知るのに重要なデータベースであるといえる。
6-2 データベースの評価
日本列島は森林被覆率が世界屈指の高さであり、しかも南北に広がっているため、亜熱帯から亜寒帯までの様々な形態の森林が存在している。また、世界的に見ると北緯30度帯はほとんどが乾燥地帯であり、この緯度帯に位置する屋久島の森林データは極めて貴重である。このような観点から、日本の森林データを整備することは国際的な観点からも重要である。
森林データは、林業振興という役割よりも、今や環境問題研究のための重要モニタリングデータとしての役割が重要になってきているとみられる。これに関して、環境省、大学等の事業、研究との連携を図りつつあることは評価できる。利用者の範囲を考え、内容、項目などに十分な配慮がされればさらに利用が増えるであろう。
成木以外の稚樹、実生などのデータも入っており、年々更新されれば、文字通り「森林動態」を把握する鍵となり得よう。国内には類のないこのデータベースは我が国の環境への配慮とこの面での研究を世界に示すものとなろう。
6-3 データベース化終了後の公開運用体制及び運用状況
公開開始後、小川試験地と苗場山試験地のデータ追加とユーザインターフェース等の改良が行われ、順調に運用されている。
進行中の研究用に収集したデータであることから、データの公開には制約があるが、本来、国費で取得したデータであるから、なるべく広く利用されることが好ましい。この点は一層の努力を要請したい。
研究所の中期計画の中で本データベースの開発が位置づけられており、運用体制は整ったといえる。
6-4 運用の今後の展開
現在、サーバは研究室で管理しているが、平成17年度に計画されている研究所の大型コンピュータの更新の際に新システムに移行する予定であり、森林総合研究所全体の中で安定運用が保証されることになり、不安はない。
「森林動態」のデータベースであるから今後も着実にデータを積み重ねて行くことを要望する。我が国の「森林動態」の把握のためには、データの収集先を森林総合研究所の試験地だけでなく更に拡大し、搭載データ数の増加を促進することが必要と考えられる。信頼性の高い情報の収集、搭載データ数の増加はデータベースの信頼性を高めるために不可欠な因子である。
一般向けではなく、専門性の高いデータベースであることはそれなりに有意義なことであるが、関連分野の幅広い研究者層への広報、浸透を図りつつ、森林総合研究所単独のものにとどまらず、より広汎な機関、学会等との協業体制を志向してゆくのが、本データベースの今後の展開にとって有効と考えられる。
今後の利用者の開拓を推進するためにも啓蒙活動を積極的に行い、活用度の向上を図る必要があると考える。
6-5 その他
森林データのように、取得に労力を要する貴重な長期データの公開については、研究者自身によるデータ採取・占有的利用と、他研究者への公開・提供との間にジレンマがある。この分野の研究の特性に関わることで、にわかな解決は困難と思うが、本データベースの構築・運用を進めることが、関連研究者間において、占有と公開の妥当な着地点を模索・形成することにつながると思われる。
7.総合評価
データベースの搭載データ数、運用の面から判断して、当初の目標を達成していると考えられ、総合評価は「良好」と判断する。専門性の高いデータベースということから利用者の広がりという観点で、懸念なしとしないが、総じて開発責任者の熱意が感じられる。専門データベースであるという性格を明確にして、関連分野の研究者の利用喚起、意見交換に一層力を傾注する必要があろう。