1.課題名
鳥類を指標生物としたアジア生物多様性保護支援データベース
(公開名:BirdBase-アジアの鳥類分布データベース-)
(URL:http://birdbase.hokkaido-ies.go.jp/)
2.開発・運用責任者
北海道環境科学研究センター
開発責任者:佐竹聖一 (自然環境部長)
運用責任者:同 上
3.課題概要
動植物の分布情報は生物多様性を保全するための基本的なデータとして重要である。本データベースではバードライフ・インターナショナル、環境省、日本野鳥の会のデータも統合して、アジアの絶滅危惧鳥類約300種を含む850種・亜種の鳥類の30万件以上の分布データを収録した。WebGISソフトを活用しており、これらの分布データを種名や地域から検索して地図上に表示できる。また、地図上に表示された生息地の詳細な情報も得ることができる。
さまざまな機関や個人によって野外調査が行われるが、調査データが各所に分散し、データの入手が難しい。この状況を改善するために、調査グループが観察データを地図上に入力するための支援ソフトBirdBase for Windowsを開発し、ホームページからの無償配布を平成16年11月から開始した。入力された複数グループの観察データを収集・統合することができ、さらにインターネットを介して調査者同士の観察データの交換も可能である。
<データ種類とデータ量>
(1) 日本とアジアの重要自然環境地域 | 301種・亜種 | 3,600件 |
(2) 日本とアジアのレッドデータブック | 304種・亜種 | 20,000件 |
(3) 第2回自然環境保全基礎調査 | 223種・亜種 | 41,000件 |
(4) 第3回自然環境保全基礎調査 | 316種・亜種 | 67,000件 |
(5) 東アジア地域ツル類重要生息地ネットワーク | 107種・亜種 | 250件 |
(6) 衛星追跡調査 | 4種・亜種 | 16,000件 |
(7) ガン・カモ・ハクチョウ類一斉調査 | 66種・亜種 | 50,000件 |
(8) 鳥の生息環境モニタリング調査 | 50種・亜種 | 250件 |
(9) 北海道の重要湿地データ | 111種・亜種 | 600件 |
(10) 北海道の鳥類分布データ | 324種・亜種 | 126,650件 |
合計 | 850種・亜種 | 325,350件 |
(データ件数は、平成16年11月現在) |
(注) | バードライフ・インターナショナルのデータ | ・・・(1)~(2) |
環境省のデータ | ・・・(3)~(4) | |
日本野鳥の会のデータ | ・・・(5)~(8) |
<開発期間> 平成12年10月~平成15年9月
4.アクセス状況
公開時(平成15年10月)~平成16年9月:5,865件
5.外部発表
*開発中
発表年度 | 件数 | 備考 |
平成14年度 | 2件 | 生物の科学 遺伝(9月号);自然系調査研究機関連絡会議 |
*開発終了後
発表年度 | 件数 | 備考 |
平成15年度 | 2件 | Joint International Forum on Biodiversity Information 他 |
6.事後評価結果
6-1 当初計画の達成度
生物の多様性維持のための基礎データとして動植物の分布、生育環境の把握は重要である。このデータベースは、北海道のほか、バードライフ・インターナショナル、環境省、(財)日本野鳥の会の4機関から公表されている調査データを同一のフォーマットで整理し、WebGISの地図上で検索・表示できるシステムの構築を意図して作られたものであり、データベースの構築、収録データ件数等の面から当初の計画を十分に達成したと考える。調査報告書の発行元による資料の公表の遅れから、一部のデータが収録されていないという問題はあるが、データ量、システム機能等は十分計画通りに達成されていると思われる。
30万件以上の分布データを検索し、即時に検索結果を地図上に表示でき、「鳥を見た」という段階から、「分布状況も検索できるようになった」という段階へ移行できたことは特筆される。
6-2 データベースの評価
最近では、鳥類の分布は生物としての鳥を研究する上に重要な役割を果たすとともに、分布状況の変化に伴う環境の変化を知る上での貴重なデータとしても期待されている。このような状況の中でこのデータベースが整備されつつあることはきわめて価値が高いものと思われる。研究調査機関のみならず、様々な組織の協力によって行われたことは高く評価される。また、このような分野では専門家のみならず、多くのアマチュア愛好家の協力が重要であるが、本システムにより既存データの公開を行うとともに、データ整理用ソフトウェアであるBirdBase for Windowsを開発・無料配布し、一般の愛好家からの目撃報告も書式を整えてオンラインで登録できる仕組みは更新データ収集のメカニズムとして十分評価できる。
6-3 データベース化終了後の公開運用体制及び運用状況
公開開始後は北海道の分布データの追加と背景地図の表示等の改良が行われ、運用体制も管理も一応確立されているようである。
公開後の利用者は少なめとなっているが、データベースの必要性は高く、今後に期待される。継続的な運用とデータベースとしての拡充を図るために、この問題に関心のある諸機関との連携により利用促進のPRが不可欠であろう。その際、専門研究者とアマチュア愛好家とを区分した利用動向分析が有効と思われ、この方向での展開に期待したい。とくに潜在人口的には、後者が圧倒的多数であるから、日本野鳥の会との連携、協力体制の整備・強化は、利用促進の面でも非常に重要である。
また、最近、鳥インフルエンザの流行があり、家禽の保護やヒトへの感染も危惧されているように、各種鳥類の分布の消長は人類の衛生問題とも密接に関連している。野生鳥類の大量死や人畜共通感染症に関するプロジェクトでも本データベースが利用されており、鳥類の研究者のみならず、環境保護や衛生の視点からアプローチされる価値もあろう。
6-4 運用の今後の展開
平成17年度からは、北海道環境科学研究センターの新サーバに移行する計画であり、データ更新、普及啓発活動は日本野鳥の会の協力を得ながら行うことになっているとのことで、運用体制に不安はないと思われる。協力機関・団体などの関係が重要であり、全国レベルでの展開が望まれる。
一般の愛好家を巻き込んだシステムになっており、運用によっては、愛好家を増やし、データの充実が促進されると思われるが、運用には大きな労力を要するであろう。ボランティアの活用などの工夫が望まれる。
また、環境保護計画等における有効利用に資するために、年次的変動(ダイナミックス)も視野に入れてデータの拡大・高密度化を図ることを期待する。
7.総合評価
短期間に膨大な情報をデータベース化し、鳥類の分布がわかり易くなったこと、データベースの活用についての啓発運動も熱心に行っている等のことにより、当初の目標を達成しており、サーバ保守の面に関しても北海道環境科学研究センター全体の中で安定運用が保証されることになり問題はない。本データベースの構築、維持、運用は適切に推移しており、総合評価は「良好」と判断する。
アマチュア愛好家の利用の喚起が、今後の展開にとって肝要な点と思われる。