【用語説明】
1. 学習記憶変異体: 変異体とは、ある遺伝子に異常がある個体。ハエの学習記憶変異体とは、学習や記憶に必要な遺伝子に異常がみられるハエ。ハエの他にマウスなどの学習記憶変異体も知られている。
2. 行動遺伝学的解析: どのような遺伝子が、ある行動を引き起こすのか、その分子メカニズムを探る手法。例えば学習記憶の分子メカニズムを調べるためには、ある遺伝子の変異体を作成し、その変異体の学習記憶行動を調べることで、その遺伝子が "どのような記憶成分"を作るために、"どのような働き"をしているか明らかとなる。加齢性記憶障害の分子メカニズムを調べるには、注目する遺伝子、もしくは無作為に選ばれた遺伝子に対する変異体を作成し、その加齢体の学習記憶行動が普通のハエと比べてどのように異なっているか調べることで、その遺伝子の加齢性記憶障害における働きを調べることができる。マウスでは、その寿命が2-3年のため、いくつもの遺伝子に対する変異体を作り、行動遺伝学的解析を行うのに多大な時間を要する。
3. amnesiac遺伝子: 'amnesiac'とは記憶喪失の意味である。amnesiac遺伝子は中期記憶の形成に必要な遺伝子。amnesiac遺伝子から、cAMP(細胞内で情報伝達を媒介する重要な化合物、用語4)の産生を活性化するペプチド(2つ以上のアミノ酸から成る直鎖化合物)PACAPを始め、数種のペプチドが産生される。amnesiac遺伝子産物の一つと考えられるPACAPはcAMP合成酵素を活性化し、その結果、cAMP依存性のリン酸化酵素PKA(用語5)が活性化される。このPACAPからPKAの活性化による標的タンパクのリン酸化が中期記憶の形成に必要と考えられている。
4. cAMP: ATP(アデノシン三リン酸、エネルギー代謝により産生される生体の自由エネルギー通貨)からアデニレートシクラーゼという酵素により作られる環状AMP。ホルモンや神経伝達物質、ペプチドなど細胞外の第一メッセンジャーが運んできた情報を、細胞内の効果器に伝える細胞内の第二メッセンジャー。神経細胞、筋細胞、内分泌細胞など、いろいろな細胞で細胞外からの刺激に応じて起こる生理現象を仲介する。
5. PKA: cAMP依存性のリン酸化酵素。標的タンパクはPKAによるリン酸化の修飾を受けることにより、その機能を変化させる。
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This page updated on December 4, 2003

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