1.プログラムの背景
2015年9月に国連総会で「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ(通称:2030アジェンダ)」が採択されました。2030アジェンダでは「直面する課題」として貧困、飢餓、不平等などのほか、自然災害や環境などが挙げられており、これらの課題に対する取り組みが期待されています。同じく2030アジェンダでは、科学技術イノベーションは人間の進歩を加速化させ、デジタルデバイドを埋め、知識社会を発展させる大きな潜在力を持つ旨が主張されています。科学技術イノベーションは重要な実現手段として位置づけられており、持続可能な開発目標の達成に向けた貢献が求められています。
2030アジェンダには、「誰一人取り残さない」という基本理念の下、17の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)と169のターゲットが掲げられています。このSDGsの達成に向けて、社会課題を特定し科学技術イノベーションを手段とした解決策を創出するには、「社会課題に国内の地域で取り組んでいる人」と「自らの技術シーズを社会課題への取り組みに活用したい人」が手を組み研究開発を行うことが重要です。本プログラムでは両者の共創による研究開発を推進します。
2.プログラムの目標
本プログラムでは、研究開発の提案を募集し、研究開発プロジェクトとして選定します。研究開発プロジェクトでは、国内の地域において社会課題を特定し、その解決策を実証するとともに、研究開発プロジェクトが終了した後に解決策を実現するための事業計画を策定します。この解決策と事業計画を合わせてソリューションとし、ソリューションを創出することを目標とします。
国内の地域において実証された解決策は、研究開発プロジェクトが終了した後に、さらに他地域にも広く展開可能なものであり、さらにはSDGsの達成に向けたものであることが求められます。
3.プログラムの枠組み
(1)対象とする研究開発
本プログラムは、具体的な社会課題を解決するための取り組みそのものを対象とします。
社会課題の解決のために活用する技術シーズがあることが必須条件であり、技術シーズの研究開発そのものは対象にはなりません。また、最終的に社会課題の解決に寄与する活動であってもソフトウェアや機器類の商品化、企業化のみを追求する活動は対象になりません。SDGsの達成には科学技術イノベーションが重要な手段になりますが、最先端の科学技術が唯一のイノベーションの原動力ではなく、既存の技術やさまざまな知見を活用し、社会課題の解決を図ることも有効なアプローチであることにも留意します。なお、本プログラムにおける技術シーズとは、用途が想定された科学技術の研究開発成果であり社会の中で可能性試験ができる段階にあるものとします。
(2)研究開発チーム
研究開発の提案は、研究開発の責任者となる研究代表者、社会課題に取り組む当事者の代表である協働実施者の連名となります。研究代表者と協働実施者は研究開発チームを統括し、リーダーシップをもって自らプロジェクトを推進します。研究代表者もしくは協働実施者の所属機関は大学等注1)であることを条件とします。協働実施者は創出されるソリューションの受け手となることを想定しています。
研究代表者は研究開発の責任者として、研究開発全体に責務を負い、推進することができる人物であることが要件です。研究代表者は研究者(自然科学、人文学、社会科学、技術シーズを創出した研究者を含む)、協働実施者らによる研究開発チームを編成します。研究開発チームは社会課題に取り組むために必要なステークホルダーにより組織されることが求められ、そのコーディネート活動も重視します。コーディネート活動を行うコーディネーターは、研究代表者、協働実施者以外の人物でも構いません。
ステークホルダーの例として、自然科学の研究者や人文学の研究者、社会科学の研究者、非営利組織(NPO法人、一般社団法人など)、自治体、住民、企業、金融機関なども含まれます。
- 注1)大学等
-
- ア 国立大学法人、公立大学、私立大学等の学校法人
- イ 国公立研究機関、公設試験研究機関、独立行政法人などの公的研究機関
- ウ 公益法人などの公的性格を有する機関であって、JSTが認めるもの
(3)プログラムのマネジメント
本プログラムはプログラム総括を運営責任者とし、プログラム総括の任務の一部を代行するプログラム総括補佐、プログラムの実施に必要な専門的事項についてプログラム総括に助言を与えるプログラムアドバイザーにより運営されます。必要に応じて特定分野の専門家などの有識者に意見を求めることもあります。
プログラム総括はサイトビジットなどによりプロジェクトの進捗を把握し、研究開発チームの自主性、自律性を尊重しつつ指導や助言を行います。特にコーディネート活動については重視します。また、産業界やSDGs未来都市、地方創生SDGs官民連携プラットフォーム、海外のSDGs達成に向けた活動などとの連携を重要視します。プログラム総括およびJST事務局は、研究開発プロジェクトの活動や成果を公開して、人脈形成を促す機会や、外部からの意見を取り入れる機会を提供します。なお、プログラム総括の判断によりプロジェクトの期間短縮、研究開発費の減額もしくは中止を行うことがあります。
(4)フェーズ
本プログラムでは、国内の地域における具体的な社会課題を対象として、ソリューションの創出までの研究開発を行います。研究開発の進捗に応じて適切な支援を行うため、シナリオ創出フェーズ、ソリューション創出フェーズの2つのフェーズを設定します。いずれのフェーズも、目指すべき姿を描き、その姿から立ち戻って現時点から計画を立てるバックキャスティングの手法を採用します。
a.シナリオ創出フェーズ
具体的な社会課題に取り組むために、対話、協働を通じて地域における社会課題の特徴を抽出してボトルネックを分析、明確化し、社会課題を解決する新たな社会システムを想定して、技術シーズを活用した解決策を検討し、社会において可能性試験を実施します。さらに、可能性試験により得られたエビデンスを基に、2030年度までに他地域にも展開してSDGsを達成する構想(以下、「シナリオ」という)を創出します。
- 研究開発期間:原則2年
- 研究開発費:600万円/年(直接経費注2))
【重視する視点】
- 目指すべき姿(SDGsの達成に向けたソリューション展開後のビジョン)
- 対象とする社会課題
- 対話、協働を行うステークホルダー(ネットワークの構築とコーディネート活動の状況、参加者の動機、活動内容を含む)
- 解決のアイデア(技術シーズとその活用案、解決のためのアプローチや手法のアイデア)
b.ソリューション創出フェーズ
シナリオに基づき研究開発を行い、地域での実証試験を経て社会課題の解決策の有効性を示します。併せて、他地域に展開するための適用可能条件や環境設定も提示します。 さらに、研究開発プロジェクト終了後の自立的継続のための事業計画の策定および計画実行の準備を行います。この事業計画は、協働実施者を中心に実行することを想定しています。
- 研究開発期間:原則3年
- 研究開発費:2,300万円/年(直接経費)
【重視する視点】
- 目指すべき姿(SDGsの達成に向けたソリューション展開後のビジョン)
- 対象とする社会課題
- 技術シーズとその活用法
- 実証試験を含むソリューション創出の計画
- ソリューション定着、展開の構想
- 社会課題への取り組みの状況(ネットワーク構築とコーディネート活動の状況、参加者の動機を含む)
- 注2)直接経費とは、研究開発プロジェクトの実施に直接的に必要な経費であり、物品費、旅費、人件費・謝金、その他(研究成果発表費、会議費、運搬費、外注費など)の費目で構成されます。JSTは委託研究開発契約に基づき、直接経費に間接経費(直接経費の30%が上限)を加え、委託研究費として支出します。
(5)研究開発プロジェクト採択予定件数
- シナリオ創出フェーズ:8件/年
- ソリューション創出フェーズ:4件/年
(6)研究開発プロジェクトの評価
評価はマネジメントチームが行います。必要に応じて特定分野の専門家などの有識者の協力を得ることもあります。
①研究開発プロジェクトの選考
- シナリオ創出フェーズとソリューション創出フェーズの両方において研究開発提案を募集します。書類選考と面接選考を行い、研究開発プロジェクトと研究代表者を選定します。
- 応募者はシナリオ創出フェーズ、ソリューション創出フェーズ、いずれかのフェーズに応募することができます。
- ソリューション創出フェーズへの応募のうち、内容はおおむね優れているものの研究開発の進捗が不十分な提案についてはシナリオ創出フェーズの研究開発プロジェクトとして選定することがあります。
②シナリオ創出フェーズ終了時の評価
シナリオ創出フェーズを終了した研究開発プロジェクトのうち、優れたソリューションの創出が期待されるものについては評価を経て、ソリューション創出フェーズに申請し採択されることで継続して研究開発をすることができます。
③事後評価
研究開発プロジェクト終了後、または研究開発プロジェクト終了前の適切な時期に、研究開発プロジェクトによる報告および意見交換などにより評価を行います。
④追跡調査
研究開発プロジェクト終了後、一定期間を経過した後、追跡調査を実施します。
4.研究開発プロジェクト終了後の構想
本プログラムにより創出されたソリューションを成果の担い手が引き継いで特定地域への定着や海外を含め地域へ展開する活動を通じて地域レベルでの実績を積み重ね、SDGsの達成につなげることを想定しています。また、多様なステークホルダーのコミュニケーションツールとして国連のプラットフォーム(オンラインプラットフォーム:Technology Facilitation Mechanism)などで展開することに加えESG投資の誘引や内閣府「SDGs未来都市」の取り組みの後押し、他の研究開発事業などにつながることも期待しています。