本新技術の背景、内容、効果は次の通りです。

(背景) 血液型のクロスマッチの必要がない、感染症の危険がない長所から、長期保存が可能なPFC乳剤の開発が期待されています。

 赤血球の酸素運搬機能を代替えする人工酸素運搬体の1つであるパーフルオロカーボン(PFC)乳剤の新規の製造システムを開発しました。
 ヘモグロビンやPFC乳剤を利用した人工酸素運搬体は輸血と異なり、クロスマッチの必要がない、感染症の危険がない、長期保存が可能なことが大きな特徴であります。人工酸素運搬体の臨床応用としては、赤血球代替のみならず、虚血性疾患での酸素供給など、種々の応用が可能であり、今後の実用化が期待されます。現在海外で十数社、国内で数社が研究開発に取り組んでいます。その中にはフェーズⅢの臨床試験に入っているものもあります。
 これらの開発においてPFC乳剤については、その生産は研究室規模の少量であり、工業規模の製造に関しては処方・装置ともに未確立でありました。このため従来の乳剤では、高濃度で均一径の超微粒子の製造に限界があり粗大粒子の発生が避けられませんでした。また、滅菌処理における凝集や、長期貯蔵時の不安定性の問題がありました。さらに生体内投与後、乳剤の一部が細網内皮系に取り込まれ実質的な血中滞留時間が短くなることによる副作用の問題がありました。これらの解決が求められ、工業規模で大量生産できる製造システムの開発が望まれていました。

(内容) 最適な乳化補助剤の選択と超高圧のジェット流乳化機の導入により高濃度で安定な乳剤製造が可能になりました。

 本新技術では、PFCの乳化のためにレシチンを添加したうえで、新規に細網内皮系への取り込み回避のためにPEG化リン脂質を加え、安定性を強化した最適な処方を開発しました。この処方の溶液に高圧ジェット流乳化装置を用いて強力な剪断力を加えることにより、粒子表面を親水性物質で修飾した超微粒子の乳剤を得ます。この乳化剤の処方と装置の圧力条件を変えた多数の運転試験から、最適な製造システムを構築することができました。
 新技術の高圧ジェット乳化装置においては、高速のジェット流を多段のオリフィスを通過する際の剪断により微粒化をおこないます。第1段目の高圧ジェット流乳化装置により粗乳化し、これを第2段目の高圧ジェット流反転型乳化装置に加圧注入し、対向するジェット流同志の衝突による強烈な剪断力により、超粒子が密に分散した状態の乳剤が製造できます。この製造システムにより、50%w/vの高濃度で200nmの粒径の安定なPFC乳剤の連続生産が可能となりました。
 本新技術により製造された乳剤について、ラットによる体内動態解析や安全性に関する試験において、酸素運搬能が高く、生体適合性に優れ、安全性においても有望な結果が示されました。特に、PEG化リン脂質の添加の効果については、明らかな血中滞留性の向上のデータを得ることができました。

(効果) 本新技術による製造システムは、GMPに準拠した大量生産に移行可能。

 本新技術による製造システムは、医薬品製造品質管理規範(GMP)に準じて厳格な品質管理のもとで安全に乳剤の製造が可能な様に、処方のソフトと装置ハードが最適に組み合わされたシステムとして構築されているため、今後工業的生産に移行可能です。
 製品のPFC乳剤の臨床応用としては,外傷性出血性ショックの改善を第1に、心臓バイパス手術時等の局所循環の改善、虚血性再灌流障害の防止、臓器局所の酸素治療、臓器保存液への応用に実用化が期待できます。