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参考2

未来社会創造事業 平成29年度重点公募テーマ・技術テーマの概要

詳細内容は未来社会創造事業ウェブサイト(https://www.jst.go.jp/mirai/jp/theme/)にて公開しています。

事業概要

未来社会創造事業は、社会・産業ニーズを踏まえ、経済・社会的にインパクトのあるターゲット(出口)を明確に見据えた技術的にチャレンジングな目標を設定し、戦略的創造研究推進事業や科学研究費助成事業等の有望な成果の活用を通じて、社会や産業において、研究開発成果の実用化が可能かどうか見極められる段階(概念実証:POC)を目指した研究開発を実施します。

本事業は異なる2つのアプローチで構成されます。

探索加速型では、探索研究から本格研究へと段階的に研究開発を進めます。探索研究はスモールスタート方式注1)で多くの斬新なアイデアを取り入れ、本格研究に向けてアイデアの実現可能性を見極めることとします。研究開発課題は、文部科学省が定める領域注2)を踏まえ、JSTが提案募集などを通じて設定した「重点公募テーマ」に基づき公募します。

大規模プロジェクト型では、科学技術イノベーションに関する情報を収集・分析し、現在の技術体系を変え、将来の基盤技術となる「技術テーマ」を文部科学省が特定し、その技術テーマに係る研究開発課題に集中的に投資します。

本事業ではステージゲート方式注3)を導入します。探索加速型においては、探索研究から本格研究へ移行する際や、本格研究で実施している研究開発課題を絞り込むことで、最適な研究開発課題の編成や集中投資を行います。大規模プロジェクト型においては、民間投資の誘発を図るため、研究開発途上からの企業等の資金導入を求めます。

未来社会創造事業(探索加速型)平成29年度重点公募テーマ

1.「超スマート社会の実現」領域

運営統括:前田 章(元 株式会社日立製作所 ICT事業統括本部 技師長)

1‐1「多種・多様なコンポーネントを連携・協調させ、新たなサービスの創生を可能とするサービスプラットフォームの構築」
<テーマ概要>

「超スマート社会」の実現を加速させるため、IoTによってネットワーク接続されたさまざまな機器が持つ『機能』や、既存/新規システムが持つ『機能』の一部を切り出してコンポーネント化(部品化)し、これらを組み合わせて連携・協調させることで、新たなサービスの創成を可能とする仕組み「サービスプラットフォーム」の構築を目指します。具体的には、実世界でのモノの制御を含むさまざまな階層の機能注1)をコンポーネント化し、オープンなAPI注2)を提供することで、各種コンポーネントの連携・協調の仕組みを構築します。コンポーネントの機能をAPIによって呼び出して活用し組み合わせることで新しい機能やサービスを実現することが可能になります。さらに、人工知能等の技術により機能間の連携を自動化し、システム間や機器間の交渉・調停機能などを含めた柔軟で動的な連携・協調の仕組みを可能にする技術を開発します。これらの研究開発を通して、新しいシステム・サービス・ビジネス・イノベーションを継続的に生み出すことが可能になり、超スマート社会の実現に貢献するとともに新しい価値の創出を加速します。

2.「持続可能な社会の実現」領域

運営統括:國枝 秀世(名古屋大学 審議役)

2‐1「新たな資源循環サイクルを可能とするものづくりプロセスの革新」
<テーマ概要>

これまでの大量生産・消費社会において、多くの製品は使い捨てを前提に性能と価格を重視して設計されてきましたが、将来的に確実に起こる世界的な資源逼迫・枯渇への対応のため、資源を高効率に利用する“資源循環型ものづくり”への移行が強く求められています。資源の有効利用は、科学技術の進歩や社会の変容に対応し、鉄から稀少元素・プラスチックへと範囲が広がり、再生利用からより効率の高い再利用・長期利用へと循環サイクルが徐々に変わりつつあります。本重点公募テーマは、社会や産業の変容に対応する産業競争力の向上および世界的に逼迫している鉱物資源(金属資源・非金属資源)と化石資源の材料としての持続的利用や環境保全を促進するため、材料の選択から製品(構造物を含む)の設計・製造・使用・分離・再(生)利用までのサイクル全体を最適化し資源効率性を飛躍的に向上させる、材料設計・製造・分離等の研究開発を行い、ものづくりの新たなプロセスを創出することを目指します。

2‐2「労働人口減少を克服する“社会活動寿命”の延伸と人の生産性を高める『知』の拡張の実現」
<テーマ概要>

我が国は超高齢化・人口減少時代を迎え、生産年齢人口の減少による労働力の縮小、社会保障費の増大などに直面し、産業競争力の面からも早急な対策が必要となっています。本重点公募テーマでは、高齢者を含む多様な人々が社会の中で活躍する“社会活動寿命”を延伸するなど、多様で未開拓な労働力の発掘と産業競争力強化に資することを目的とし、科学技術により、人の「知」を支援するシステムの創出を目標とします。例えば、個人の知的活動の維持・向上、新しい仕事・技能への対応、高度な技能の伝達等を支援することで、高齢者をはじめとする多様な人々の社会参加、就労機会を促進すると同時に、生活や仕事の質を向上させることが期待されます。それは、人と機械が協働していくと予想される未来社会において、人が「人らしさ」を発揮し続ける環境を提供することになると考えられます。本テーマを通じて、誰もが生きがいを持ってその能力を最大限発揮し、活き活きと永く活躍する社会の実現を目指します。

3.「世界一の安全・安心社会の実現」領域

運営統括:田中 健一(三菱電機株式会社 役員技監)

3‐1「ひとりひとりに届く危機対応ナビゲーターの構築」
<テーマ概要>

ハザードとは自然災害のみならず、事故、事件、サイバー攻撃など、現代社会で想定される非常事態を引き起こすあらゆる危険因子を意味します。ますます多様化・複雑化する現代社会では、さまざまなリスクに取り囲まれていることを認識した上で、科学技術によりハザードによる被害をゼロもしくは最小限にとどめるアプローチを考えなければなりません。そのアプローチは、ハザードの予測(ハザードを察知する)・予防(被害に備える)・対応(危機に対応し、迅速に危機を克服する)の3つのフェーズに整理することができます。ハザードの予測・予防フェーズのアプローチは、近年、科学技術による高度化が進められています。他方、対応フェーズは依然として「人の判断」に大きく依存する傾向があります。そこで、本重点公募テーマでは、対応フェーズを高度に支援する技術の確立を目指します。非常事態における組織の判断精度を向上させるとともに、ひとりひとり(個人)に確実に行動オプションを届けるナビゲーター(危機対応ナビゲーター)を構築し、誰もが守られていると実感できる社会の実現を目指します。

3‐2「ヒューメインなサービスインダストリーの創出」

ヒューメイン(humane)は、人道的、人情的という意味や、人を高尚にするという意味を持つ。)

<テーマ概要>

さまざまなサービスの登場により私たちの生活は安全・安心で豊かになり、今後もますますその傾向は続くと想定されます。このような背景から、本テーマでは実現手段として科学技術を活用した新しいサービスの創出を目指します。そのためには未来の社会ではどのようなサービスが求められ、どのような科学技術がその実現に貢献するかの検証が必要です。例えば現在の通信では音声、文字が主な伝達手段になっていますが、未来では触覚や、味覚、嗅覚など、言葉にできない内容を共有することが可能になるかもしれません。昨今の科学技術の進展と、私たちの想像力とを組み合わせれば、多くのより良いサービスを創出し、安全・安心ひいては快適な社会を作ることができるはずです。本重点公募テーマでは、人と人とのつながりを促進することや、人の周囲の環境を適切に制御することにより、誰もが安全・安心ひいては快適を実感することができるヒューメインなサービスの実現を目指します。

4.「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域

運営統括:橋本 和仁(国立研究開発法人 物質・材料研究機構 理事長)

4‐1「『ゲームチェンジングテクノロジー』による低炭素社会の実現」
<テーマ概要>

地球温暖化問題の原因である温室効果ガス、特に二酸化炭素(CO)の排出を抑制する「低炭素社会」を構築することが世界的課題となっています。国際枠組で約束された努力目標の達成等、この課題の取り組みにおいては、全く新しい概念や科学に基づいた革新的な技術、すなわち「ゲームチェンジングテクノロジー」の創出が必要です。ゲームチェンジングテクノロジーの創出に向けては、当該分野の研究者による先端的研究手法を融合・駆使・発展させた挑戦的な提案に加え、異分野の研究者による全く新しい提案も重要です。これを促すべく、本領域では、専門家の意見を踏まえた「ボトルネック課題」(成果を社会実装する上での技術的ボトルネック)を提示します。本テーマを通じて、2050年に想定されるサービス需要を満足しつつCOを抜本的に削減する「ゲームチェンジングテクノロジー」を創出し、社会実装につなげることで、低炭素社会の実現に貢献することを目指します。

未来社会創造事業(大規模プロジェクト型)平成29年度技術テーマ

運営統括:林 善夫(国立研究開発法人 科学技術振興機構 開発主監)

1.「粒子加速器の革新的な小型化及び高エネルギー化につながるレーザープラズマ加速技術

<テーマ概要>

粒子加速器は、物理学、化学、生物学、工学、農学、医学、薬学、考古学など幅広い分野の研究に応用され、物質や生命の謎の解明研究や、社会の身近な産業分野で活用されている。近年、粒子加速に必要な長さを革新的に小型化できる、高強度レーザーを利用したレーザープラズマ粒子加速技術が進展しており、本技術による粒子加速器の小型化により、加速器をより身近に活用できる機会を大幅に拡大することが期待される。

2.「エネルギー損失の革新的な低減化につながる高温超電導線材接合技術」

<テーマ概要>

超伝導技術は高磁場が必要なNMR、MRIや、超電導リニアのマグネットなどに利用されているが、社会に導入されている低温超電導材は、冷却コストの高い液体ヘリウムを使う必要があり、超伝導技術普及のボトルネックになっている。超伝導技術を本格的に社会実装していくためには、冷却コストが低い液体窒素を利用でき、さらに低温超電導材より高い磁場が形成できる高温超電導材の導入が効果的である。しかしながら現状高温超電導線材は数百メートル単位でしか作製できないため、実用化には線材同士を超伝導または極低抵抗で接合する技術を確立する必要がある。接合技術を確立できれば、超伝導技術に期待される高効率な高磁場コイルや長距離直流送電の実現に大きく近づく。

3.「自己位置推定機器の革新的な高精度化及び小型化につながる量子慣性センサー技術」

<テーマ概要>

自己位置推定は、物・人の測位、機器等の自動化・自律化に適用され、例えば全球測位衛星システム(GNSS、Global Navigation Satellite System)による航空機のオートパイロットや、携帯型移動端末等による周辺情報発信といった各種サービスなど、その活用が急激に広がり、社会の身近な分野で役立っている。GNSSは衛星からの電波受信が必須であり、地下や屋内、海中といった電波の届かない遮蔽空間や電波の届きにくい状況では、移動体の角速度等を高精度に計測してどの位置でどの方向に進んでいるかを推定する慣性センサー装置で代替・補完等活用することが有効である。また、精度の高い慣性センサーの創出は、人工衛星やロボット等の姿勢制御など応用範囲が広い。近年、自己位置推定機器の革新的な高精度化および小型化につながる量子効果を用いた慣性センサーの研究が進展しており、将来的に高精度な慣性センサーを実現する一手法として期待される。