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科学技術振興機構報 第1286号

平成29年10月10日

東京都千代田区四番町5番地3
科学技術振興機構(JST)

風力発電の大量導入のもとでも電力の安定供給を実現する
プラグイン型制御技術を開発

ポイント

JST 戦略的創造研究推進事業において、東京工業大学の定本 知徳 特任助教、石崎 孝幸 助教および井村 順一 教授らは、風力発電が大量導入された電力システムにおいて、電力の安定供給を可能とする新たな制御技術を世界に先駆けて開発しました。

風力発電の導入量が増えるにつれて電力の安定供給が難しくなることが知られています。そのため、風力発電が大量導入される将来を見据えて、電力の安定供給をより高い信頼性で実現する制御技術の開発が非常に重要となります。そのための制御アルゴリズムの研究開発が従来から盛んに行われていますが、これまでの手法では、信頼性の向上を理論的に保証するために、電力システムを構成する全ての機器や設備などについて、知識や情報を必要としていました。しかし、非常に複雑かつ大規模な電力システム全体の詳細な情報を得ることは難しく、こうした既存のアプローチは現実的ではありませんでした。

本研究グループでは、電力システム全体の詳細な情報を必要とすることなく、風力発電機単体に関する知識や情報のみを用いて設計された制御アルゴリズムをそれ自身に適用するだけで、電力安定供給の信頼性を向上することが可能な、プラグイン型の制御技術を世界に先駆けて開発しました。さらに、実データに基づく詳細なシミュレーション実験を行い、有効性を実証しました。この技術は、電力自由化に伴ってより一層の複雑化が予想される将来の電力システムに対して、電力の安定供給を実現するための新たな技術として、その発展性が期待されます。

本研究成果は、平成29年10月6日(日本時間)に米国電気電子学会誌「IEEE Transactions on Power Systems」のオンライン速報版で公開されました。

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)

研究領域 「分散協調型エネルギー管理システム構築のための理論及び基盤技術の創出と融合展開」
(研究総括:藤田 政之 東京工業大学 教授)
研究課題名 「太陽光発電予測に基づく調和型電力系統制御のためのシステム理論構築」
研究代表者 井村 順一(東京工業大学 教授)
研究期間 平成27年4月~平成32年3月

多角的な観点から進めています。本研究課題では、大量導入された太陽光発電のもとで、電力系統の安定的な運用を行うための次世代の電力系統制御技術の構築を目指しており、その国際連携による研究展開の一つとして風力発電が大量導入された電力システムの安定度向上にも取り組んでいます。

<研究の背景と経緯>

米国や欧州を中心として電力システムへの風力発電の導入が盛んに進められており、わが国でも風力発電の導入量は今後も増加すると見込まれています。 しかし、風力発電の導入量が増加するにつれて、電力システムの系統安定度注1)が低下することが知られています(図1)。系統安定度が低下すると、落雷などをきっかけとして停電などの重大な障害が引き起こされる可能性が高くなり、電力の安定供給の信頼性が低下してしまいます。したがって、系統安定度の向上に必要な風力発電機の制御技術の開発は、今後の風力発電の大量導入に向けて非常に重要です。

系統安定度を高めるための従来手法のひとつとして、火力発電機や風力発電機に通常備え付けられているPI制御注2)器などのパラメータ調整が知られています。ここでの制御器とは、発電機内部の電流や電力系統との接続点の電圧などを計測することにより、発電機内部の回転子電圧を適切な値に修正するための制御アルゴリズムやそれを搭載した機器を指します。しかし、既存のパラメータ調整指標は、これまでの電力システムの運用実績から経験的に作成されたものであり、風力発電が大量導入された将来の電力システムに対して系統安定度を向上することができる保証はありません。

このようなパラメータ調整以外のアプローチとして、電力システム全体の数理的なモデル注3)が得られていることを前提として、従来の制御理論を適用し新たな制御アルゴリズムを構築することが考えられます。しかし、現実の電力システムは非常に複雑かつ大規模であるため、電力システム全体の数理モデルを構築すること自体が大きな問題となります。さらにこのアプローチは、新たな設備が増設されるなどの電力システムの部分的な変化に対しても、その詳細な情報を反映して制御アルゴリズムを再設計しなければいけません。したがって、電力自由化に伴ってより一層の複雑化が予想される将来の電力システムには適しているとは言えません。

このような背景から、新たに導入する風力発電機単体に関する数理モデルに基づき制御アルゴリズムを設計および適用するだけで、信頼性の高い電力安定供給が電力システム全体で実現可能な、プラグイン型の制御技術の開発が望まれていました。これは、複数の独立した事業者が、既存の電力システムの系統安定度の低下を危惧することなく自身の発電機を自由に導入・取替・撤去するために不可欠な技術です。

<研究の内容>

本研究では、風力発電機(または風力発電機群)に対して、上述したプラグイン型制御アルゴリズムの設計技術を世界に先駆けて開発しました。本研究の成果は次の2点にまとめられます。

1)レトロフィット制御理論に基づくプラグイン型制御アルゴリズムの設計

本研究では、石崎助教らによって提案されたレトロフィット制御理論を活用し、風力発電機に対して制御アルゴリズムを適用することにより系統安定度を向上する新たなプラグイン型制御技術を開発しました。提案する制御技術の概要を図2に示します。レトロフィット制御理論とは、制御の対象とするシステム(ここでは電力システム全体)が非常に多数のサブシステム(火力発電機、風力発電機、電力消費者群など)により構成されていたとしても、個々のサブシステム(独立した事業者の風力発電機群)に適用されるプラグイン型の制御アルゴリズムが、互いに悪影響を及ぼすことなくシステム全体の制御性能が向上されることを示した、新しい考え方の制御理論です。個々の発電機に適用される制御アルゴリズムには、通常の風力発電機の制御アルゴリズムに加えて、注目する風力発電機の数理モデルのみから構築可能な数値シミュレータが内在するという特徴的な機構をもち、この機構が複数の制御アルゴリズムの干渉による悪影響を防止します。したがって、個々の制御アルゴリズムのパラメータ調整なども、系統安定度の低下を危惧することなく、事業者ごとに独立して行うことが可能です。

2)実データに基づく詳細なシミュレーション実験の実施

1)で提案した制御技術の有効性を検証するために、IEEE68バスシステム注4)と呼ばれる電力システムの数値シミュレータに風力発電機を接続して、詳細なシミュレーション実験を行いました。

図3は落雷などの事故に起因する擾乱が発生した際の、すべての発電機の周波数の、60ヘルツからのずれの時間変動を示しています。この結果から、制御を行わなかった場合(赤点線)には周波数の変動が持続している一方で、提案するプラグイン型制御アルゴリズムを風力発電機に適用することにより、速やかに擾乱の影響が除去され、系統安定度が向上していることがわかります。

図4は、2つの風力発電機が異なる事業者によって導入された状況を想定し、提案手法により個別に制御アルゴリズムを適用した場合のシミュレーション結果を示しています。この結果から、風力発電機1付近で擾乱が発生した際には、事業者1の制御アルゴリズムによって、擾乱の影響が速やかに除去されていることがわかります。一方で、事業者2の制御アルゴリズムは風力発電機1付近の擾乱に対しては作動していないことがわかります。この理由は、1)で述べた制御アルゴリズムに内在する数値シミュレータ機構が、各々の擾乱が自身の管理する発電機付近に生じたものかどうかを適切に判別して制御動作を行っているためです。同様に、風力発電機2付近で擾乱が発生した場合には事業者2の制御アルゴリズムのみが作動します。これらの結果は、複数の運用者が独立に設計した制御アルゴリズムが同時に適用されていたとしても、それらは互いに悪影響を及ぼすことなく、電力システム全体の系統安定度が向上されることを示しています。

本研究は、戦略的創造研究推進事業において国際共同研究を推進する取り組みを行っている一環として、ノースカロライナ州立大学のNSF ERC FREEDMシステムセンター注5)のアラーニャ チャクラボッティ准教授と共同で行いました。また本共同研究を機に、アラーニャ チャクラボッティ准教授が研究代表者を務めるNSF ECCS研究プロジェクト注6)が新たに開始されました。

<今後の展開>

今後は、風力発電に加えて太陽光発電や蓄電池も含めたより複雑な状況下での電力システムシミュレータを用いたシミュレーション実験を行い、実際の電力システムへの適用を目指します。

<参考図>

図1 風力発電導入量に対する系統安定度の変化

図1 風力発電導入量に対する系統安定度の変化

IEEE68バスシステム注4)の適当な箇所に風力発電所(風力発電機群)を連系したシステム(左図)を対象としたシミュレーション結果。右のグラフは、落雷などに起因する擾乱が発生した際における電力システム内すべての発電機の周波数の60ヘルツからのずれの時間変動を表している。風力発電所に設置される風力発電機の基数が増加するにしたがって、擾乱発生時の周波数変動がより振動的になることが確認できる。これは、60ヘルツで電力を安定供給している状態へ復元する力(系統安定度)が低下していることを意味している。

図2 提案する制御技術

図2 提案する制御技術

制御アルゴリズムの設計は、着目する風力発電機(または発電機群)の数理モデルのみを用いて行うことができ、大規模かつ複雑な既存の電力システムの数理モデルを必要としない。設計されたプラグイン型の制御アルゴリズムは、既存のPI制御器の出力を補正して回転子電圧を操作するものであり、その補正量は、風力発電機の計測値(回転子に流れる電流やタービンの回転角速度、系統との接続点の電圧など)や回転子電流の設定値を用いて計算される。

図3 IEEE68バスシステムに一つの風力発電機(発電機群)が繋がった電力システムを想定したシミュレーション結果

図3 IEEE68バスシステムに一つの風力発電機(発電機群)が繋がった電力システムを想定したシミュレーション結果

時刻0秒において発生した落雷などの擾乱に対する、提案するプラグイン型制御アルゴリズムの有効性を示している。赤点線は、制御を行わなかった場合における、電力システム内の発電機それぞれの周波数の60ヘルツからのずれの時間変動を、青実線は提案する制御を行った場合の時間変動をそれぞれ示している。

図4 ふたつの風力発電機が導入された状況のシミュレーション結果

図4 ふたつの風力発電機が導入された状況のシミュレーション結果

右のグラフは、風力発電機1付近で擾乱が発生した際、事業者2の制御アルゴリズムは作動せず、事業者1の制御アルゴリズムによってその擾乱による周波数変動が除去されることを示している。風力発電機2の付近に擾乱が発生した場合も同様の結果となる。

<用語解説>

注1) 系統安定度
落雷などの擾乱に起因する周波数変動に対して、基準周波数で電力を安定供給している状態へ復元する力。
注2) PI制御
比例動作(Proportional)と積分動作(Integral)による制御アルゴリズム。ここでは、発電機内部の電流などの目標値からの偏差に関する比例値や積分値を用いて、発電機内部の回転子電圧を適切な値に修正する。
注3) 数理的なモデル
特定の現象やシステムの時間変化を記述する数学的な表現。しばしば時間に関する微分方程式や差分方程式などにより表現される。例えば、電力システムの時間変化を解析するシミュレータを構築するためには、発電機や送電網、電力消費者群などの数理モデルが必要となる。
注4) IEEE68バスシステム
電力工学分野で標準的に用いられる実データに基づく電力システムシミュレータであり、米国のニューイングランドとニューヨークが繋がれた電力系統を模擬している。
注5) NSF ERC FREEDMシステムセンター
米国立科学財団(National Science Foundation)が支援する工学研究センター(Engineering Research Center)の1つで、Future Renewable Electric Energy Delivery and Management(FREEDM)Systemsに関する研究を行っている。
注6) NSF ECCS 研究プロジェクト
米国立科学財団(National Science Foundation)が支援するElectrical、 Communications and Cyber Systems (ECCS) の研究プロジェクトの1つで、研究課題名はRetrofit Control: A New、 Modular Gyrator Control Approach for Integrating Large-Scale Renewable Power(https://www.nsf.gov/awardsearch/showAward?AWD_ID=1711004&HistoricalAwards=false) である。

<論文情報>

タイトル Retrofit Control of Wind-Integrated Power Systems”
(風力発電連系系統のレトロフィット制御)
掲載誌 IEEE Transactions on Power Systems
doi 10.1109/TPWRS.2017.2750411

<お問い合わせ先>

<研究に関すること>

井村 順一(イムラ ジュンイチ)
東京工業大学 工学院 システム制御系 教授
〒152-8552 東京都目黒区大岡山2-12-1 W8-1
Tel/Fax:03-5734-3635
E-mail:
URL:http://www.cyb.mei.titech.ac.jp/crest/

<JST事業に関すること>

松尾 浩司(マツオ コウジ) 科学技術振興機構 戦略研究推進部
〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K’s五番町
Tel:03-3512-3526 Fax:03-3222-2066
E-mail:

<報道担当>

科学技術振興機構 広報課
〒102-8666 東京都千代田区四番町5番地3
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