JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第1282号 > 資料1
資料1

研究総括および研究領域

1.研究総括

稲見 昌彦(イナミ マサヒコ) 45歳

(東京大学 先端科学技術研究センター 教授)

稲見 昌彦(イナミ マサヒコ) 教授

<略歴>

平成 6年 東京工業大学 生命理工学部生物工学科 卒業
平成 8年 東京工業大学 大学院生命理工学研究科 修士課程 修了
平成11年 東京大学 大学院工学系研究科 博士課程修了、博士(工学)
平成11年 東京大学 国際・産学共同研究センター リサーチアソシエイト
平成13年 東京大学 大学院情報理工学系研究科 助手
平成15年 電気通信大学 電気通信学部 講師
平成17年 電気通信大学 電気通信学部 助教授
平成18年 電気通信大学 電気通信学部 教授
平成20年 慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 教授
平成27年 東京大学 大学院情報理工学系研究科 教授
平成28年 東京大学 先端科学技術研究センター 教授

この間

平成15~18年 科学技術振興機構 さきがけ研究者(「情報基盤と利用環境」研究領域、富田 眞治 研究総括) 兼任
平成17年 マサチューセッツ工科大学 コンピューター科学人工知能研究所 客員科学者 兼任
平成20~25年 科学技術振興機構 ERATO五十嵐デザインインタフェースプロジェクト グループリーダー 兼任
平成26年~現在 超人スポーツ協会 共同代表 兼任
平成27年~現在 慶應義塾大学 大学院メディアデザイン研究科 客員教授 兼任

<受賞>

平成10年 情報処理学会 山下記念研究賞
平成15年 TIME誌Coolest Inventions
平成19年 文化庁メディア芸術祭 アート部門優秀賞
平成22年 Laval Virtual Grand Prix Du Jury
平成23年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
平成23年 慶應義塾 義塾賞
平成24年 情報処理学会 長尾真記念特別賞
平成24年 経済産業省Innovative Technologies 特別賞
平成29年 高柳健次郎財団 高柳健次郎業績賞
平成29年 ACM SIGGRAPH Emerging Technologies Best in Show

2.研究領域名

自在化身体

3.戦略目標

ネットワークにつながれた環境全体とのインタラクションの高度化

4.研究領域「自在化身体」の概要

IoT、人工知能(AI)、バーチャルリアリティ(VR)など情報技術は目覚ましく発展しています。人間は自然環境を物理的に構造化することで農地や都市を形成し、さらには情報的に構造化することで情報環境を構築してきました。物理的あるいは情報的な環境の飛躍的な進展に対し、その環境の中で生活する主体である人間自身の身体に対する私たちの考え方、つまり身体観は産業革命以降ほとんど変化していません。

このような背景のもと、本研究領域では超スマート社会に自由自在に適応可能な、新たな身体像「自在化身体」を設計し、人間の身体観をアップデートすることを目指します。「自在化」と位置づけられる技術開発は、人間がロボットやAIなどと「人機一体」となり、自己主体感を保持したまま行動することを支援し、人間の行動の可能性を大幅に広げると考えられます。

この自在化身体を実現するために、身体・行動のシステム的な理解に基づき、VR・ロボット・ウェアラブル技術・脳情報デコーディング・画像解析・機械学習などを用いて、人間と情報環境との関係性を柔軟に設計する「身体性編集」に関する基礎的知見の解明と設計指針を確立します。さらに、設計した自在化身体およびそれがもたらす心と社会の変容を、実社会とバーチャル社会において検証します。

本研究領域で提案する身体性の編集技術は、高齢者支援や就労支援、コミュニケーション、スポーツ、エンターテインメントなどの分野に自在化を軸とした新サービスを拓くとともに、新たな共有経済サービス(シェアリングエコノミー)を創出すると考えられます。具体的には、外出が難しい高齢者がぬいぐるみに身体性を移して遠方の孫と一緒に遊べる家族コミュニケーション、ドローンや潜水機器を手足のように操り空中や水中を舞台に競う人間と機械が一体となり楽しむスポーツ、1人のコーチが多数の生徒と視点・動作・感覚を同期させて専門技能を教える教室などのように、これまで実現困難であった体験を現実のものとする可能性があります。本研究で得られる成果により、誰もが身体能力や住む地域を問わずに自在化身体を操り、新たな価値を創造できる多様性あふれる社会へと発展することが期待されます。

図 研究領域「自在化身体」の概要

1.研究総括

水島 昇(ミズシマ ノボル) 51歳

(東京大学 大学院医学系研究科 教授)

水島 昇(ミズシマ ノボル) 教授

<略歴>

平成 3年 東京医科歯科大学 医学部医学科 卒業
平成 8年 東京医科歯科大学 大学院医学研究科修了、博士(医学)
平成14年 岡崎国立共同研究機構 基礎生物学研究所 助手
平成16年 東京都医学研究機構 東京都臨床医学総合研究所 室長(副参事研究員)
平成18年 東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 細胞生理学分野 教授
平成24年 東京大学 大学院医学系研究科 分子生物学分野 教授(現職)

この間

平成11年~14年 科学技術振興機構 さきがけ研究者(「素過程と連携」研究領域、大島 泰治 研究総括) 兼任
平成14年~18年 科学技術振興機構 さきがけ研究者(「タイムシグナルと制御」研究領域、永井 克孝 研究総括) 兼任

<受賞>

平成13年 日本生化学会 奨励賞
平成17年 日本分子生物学会 三菱化学奨励賞
平成18年 文部科学大臣表彰 若手科学者賞
平成19年 FEBS(Federation of European Biochemical Societies) Letters Young Scientist Award
平成20年 日本学術振興会賞
平成20年 ブレインサイエンス振興財団 塚原仲晃記念賞
平成21年 井上科学振興財団 井上学術賞
平成22年 日本生化学会 柿内三郎記念賞
平成23年 武田科学振興財団 武田医学賞
平成25年 トムソン・ロイター引用栄誉賞
平成26年 読売テクノフォーラム ゴールド・メダル賞
平成26年 フロンティアサロン財団 永瀬特別賞
平成27年 日本抗加齢医学会 学会賞
平成28年 上原記念生命科学財団 上原賞
平成28年 持田記念医学薬学振興財団 持田記念学術賞
平成29年 第一三共生命科学研究振興財団 高峰記念第一三共賞

2.研究領域名

細胞内分解ダイナミクス

3.戦略目標

細胞外微粒子により惹起される生体応答の機序解明と制御

4.研究領域「細胞内分解ダイナミクス」の概要

細胞内ではたんぱく質やオルガネラの合成と分解が連動しており、このダイナミックな代謝回転は、細胞恒常性、分化、環境適応などに重要です。オートファジーは多くの真核生物に備わっている細胞内分解システムで、たんぱく質だけではなくオルガネラなどのより大きな標的の分解も可能です。オートファジーは基本的には非選択的ですが、一部の標的を選択的に分解します。しかし、オートファジーによるたんぱく質やオルガネラ分解の体系的および定量的理解はいまだ不十分です。さらに、老化過程や神経変性疾患を抑制し得るオートファジーの細胞内品質管理作用は、創薬ターゲットとしても着目されており、これまで以上の理解が求められています。

このような背景のもと、本研究領域では細胞内機能因子としてのたんぱく質とオルガネラの分解について、オートファジーに焦点を当て、その革新的計測技術開発、脊椎動物での意義とメカニズムの包括的理解、および数理モデリングによる本質的パラメーター抽出を目指します。

具体的には、個体レベルでのオートファジーの活性測定系や、オルガネラなどの微粒子の量や性状の定量的解析・単離法を確立します。また、オートファジーの生理・分子機能解析のために、分解の基質の網羅的同定、選択的オートファジーなどを対象とした新規オートファジー不全モデルの構築を行います。さらに、オートファジーによるたんぱく質分解や細胞内相転移の制御、オートファゴソーム形成時の膜動態について、数学・物理学の手法を導入して解析します。

本研究領域は、オートファジーによる細胞内代謝回転の定量的理解、オルガネラ・微粒子の新規動態解析・単離技術開発などを通じ、細胞生物学、細胞生理学を中心とした幅広い基礎研究分野への波及効果が期待されます。さらに、細胞内代謝回転が関連する多くの疾患の理解と治療戦略への展開や健康寿命の延長へとつながると考えられます。

図 研究領域「細胞内分解ダイナミクス」の概要