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別紙1

平成28年度新規採択プロジェクトの概要一覧

「人と情報のエコシステム(HITE)」研究開発領域

【研究開発プロジェクト】 実施期間:原則3年、研究開発費:数百万円~10百万円程度(上限目安20百万円)/年

プロジェクト名 研究代表者
所属・役職
概要 研究開発に参画する実施者、
協力する関与者
多様な価値への気づきを支援するシステムとその研究体制の構築
江間 有沙
東京大学 教養学部附属教養教育高度化機構
特任講師
価値が多様化している現在、異なる価値を持つ人やコミュニティが出会うと、想定外の対立や炎上が起きる。そのため、技術の社会実装を行う前に、多様で変化する価値に気付き予防的に安心して議論や試行錯誤ができる場が必要である。 本プロジェクトは、(1)研究者が研究開発の過程からフィードバックを得ることで、異なる価値観に気づく手助けをするシステムのプロトタイプを製作する。また、(2)そのようなシステムを開発・運用・維持する仕組みを検討する。特に、たこつぼ化している研究者コミュニティにおいては、プロトタイプの段階から、多様な価値についての先見的な知識を得ることが、炎上を防ぐだけではなく、新たな研究アイディアの発生を促すことになる。
  • AIR(Acceptable Intelligence with Responsibility)
AIR:人間・AI共生時代の社会制度や倫理等のテーマについて議論する有志によるコミュニティ
日本的Wellbeingを促進する情報技術のためのガイドラインの策定と普及
安藤 英由樹
大阪大学 大学院情報科学研究科
准教授
情報技術は人間の知的作業に効率性をもたらす一方で、ユーザーの心的状態への負の影響も指摘されており、効率性とは異なる視点から、心の豊かさをサポートする情報技術の設計指針が求められている。欧米で現在採用されている個の主観的幸福に着目したWellbeingの設計指針だけでなく、本プロジェクトでは、日本特有の価値体系(人間同士の関係性やプロセスから生まれる価値等)に着目し、それを情報技術にどのように取り入れるか、また、日本特有の問題に情報技術がどのようにアプローチできるかという点を重視した情報技術ガイドラインの策定・普及を行う。そして、このような取り組みを通して、真に現代社会に馴染む情報技術を創発するプラットフォームの構築を目指す。
  • 東京都市大学 都市生活学部
  • NTTコミュニケーション科学基礎研究所
  • 情報通信総合研究所
  • 株式会社ディヴィデュアル
  • シティライツ法律事務所
  • 芝の家
  • 平等院
「内省と対話によって変容し続ける自己」に関するヘルスケアからの提案
尾藤 誠司
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター 臨床研究センター 政策医療企画研究部臨床疫学研究室
室長
情報が多ければ多いほど人は合理的選択が可能になり、幸せになることができるわけでは必ずしもない。むしろ、情報に翻弄され自らの価値観を見失った生き方を選んでしまうことも少なくない。「情報と人とのなじみがよい社会」の実現においては、情報とうまく付き合い続ける上でのものの考え方について解明される必要があると考える。 本プロジェクトは、ヘルスケア現場を未来の情報社会の縮図と見立て、そこで行われている情報のやり取りがどのように人の認識や価値観、さらには感情に影響するかについて明らかにする。その上で、人間個人が「内省と対話によって変容し続ける自己」として、どのように情報に向き合い、利用し、自らの価値観に照らし合わせながら暮らすかに関する心のあり方と考え方、対処の仕方についての提案を行う。
  • 東北大学 大学院医学系研究科
  • 静岡大学 情報科学科
未来洞察手法を用いた情報社会技術問題のシナリオ化
鷲田 祐一
一橋大学 大学院商学研究科
教授
2040年ごろまでの日本における情報社会の変化シナリオを複数作成し、そこで発生すると想定される情報社会技術問題を明らかにする。その際、「スキャニング手法」を用いることで、従来のデルファイ法や技術ロードマップ法などを用いた技術予測では把握しにくかった非連続な社会変化を伴う未来シナリオを作成する。そして、それを前提にして、特に人工知能、IoT技術、ロボットの開発と、マーケティング実務での応用について、技術課題、社会制度課題、企業戦略課題を抽出し、有効な解決のための問題提起をする。具体的には2025年以降、マーケティング実務工程がどの程度まで新しい情報技術で代替されるのかを検証し、マーケティング実務実態はどのように変化し、当事者はどのような困難や不安を持つ可能性があるか、などを検討する。
  • 科学技術・学術政策研究所 科学技術予測センター
  • 株式会社国際社会経済研究所
法・経済・経営とAI・ロボット技術の対話による将来の社会制度の共創
新保 史生
慶應義塾大学 総合政策学部
教授
汎用性の高いAI・ロボット技術は、IoTなど情報技術の進化に伴い更なる発展が見込まれる。急速な技術発展が社会へ与える影響を予見し、社会制度の議論を行うには分野横断的で多様な観点からの評価軸の設定が望まれる。しかし日本国内にはAI・ロボット技術が社会に与える影響を体系的に研究した試みはなく、技術発展を見込んだ新しい法律、経済システム、経営戦略といった社会制度作りの準備が十分になされていない。 本プロジェクトでは、AI・ロボット技術分野、社会制度に関わる法、倫理、経済、経営分野の研究者そしてAI・ロボットの利活用を先導する国内企業など、多様なステークホルダーとの対話を通し、未来の技術と社会のあり方を共創することを目的とする。加えて世界の拠点として、最先端のルール、社会基盤の構築に必要な制度を提案することを目指す。
  • 慶應SFC研究所 AI社会共創ラボラトリ
  • 全脳アーキテクチャイニシアチブ
  • ドワンゴ人工知能研究所
  • 玉川大学 脳科学研究所
  • クックパッド株式会社
  • 情報ネットワーク法学会「ロボット法研究会」
  • AI社会論研究会

【プロジェクト企画調査】 実施期間:5ヶ月、企画調査費:3百万円以下

プロジェクト企画調査とは、優れた構想ではあるものの、有効な提案とするには更なる検討が必要なものについて、問題の関与者による具体的なプロジェクト提案を検討するための調査。

企画調査名代表者名
所属・役職
分子ロボット技術に対する法律・倫理・経済・教育からの接近法に関する調査
小長谷 明彦
東京工業大学 情報理工学院 教授
社会システムと情報システムの相互作用を促す共進型社会実験プロジェクト管理手法の検討
~ITS(高速道路交通情報システム)の実用化を事例として
手嶋 茂晴
名古屋大学 未来社会創造機構 特任教授
人間と情報技術の共進化を目指す共創コミュニティALife Lab. の構築
岡 瑞起
筑波大学 システム情報系 准教授
多種ステークホルダーが関与した教育・育児支援ロボット技術の開発手法に関する調査
田中 文英
筑波大学 システム情報系 准教授
高度情報社会における責任概念の策定
松浦 和也
秀明大学 学校教師学部 専任講師
リアルタイム・テクノロジーアセスメントのための議題共創プラットフォームの試作
標葉 隆馬
成城大学 文芸学部マスコミュニケーション学科 専任講師

<領域総括総評> 國領 二郎(慶應義塾大学 総合政策学部 教授)

「人と情報のエコシステム」研究開発領域では初年度の公募を6月から8月にかけて実施いたしました。公募にあたっては東京と京都において説明会を開催し、本領域がめざす、人間と技術がなじみながら、共進化するエコシステムのイメージについて説明させていただきました。結果として研究開発プロジェクトの提案が54件、プロジェクト企画調査の提案が13件と多くの応募をいただきました。力と思いのこもった提案が多く、応募された皆様と、選考してくださったアドバイザーの皆様にお礼を申し上げます。

審査にあたっては、領域の目指す、人と情報技術がなじんで共進化するプラットフォームづくりに貢献してくださる可能性の高いと思われる提案を重視しました。採択された11提案は、テーマはさまざまですが、それぞれ、プラットフォーム形成に重要な礎石を提供してくださることを期待させるものです。

一方、レベルの高い提案でありながら、採択に至らなかった提案に二つのタイプがあったように思います。来年応募することを考えてくださる方々のためにご説明します。

一つは技術を活用しながら社会問題を解決することを目指すものです。共感は持てましたが、残念ながら特定の課題解決に特化しており、人と情報技術が共進化する一般化可能なプロセスとして定式化し、それをベースにプラットフォームを作って展開をはかる、という本領域の目指すゴールに合致していないものが多くありました。

もう一つのタイプは特定の情報技術の普及に向けて社会の理解の獲得を目指すものでした。そのようなプロセスも当然必要なのですが、本領域としては、むしろ技術の側がELSI的観点から設計思想を修正していくようなプロセス作りを狙っています。そのため、開発する技術はあらかじめ決まっていて、その社会的受容を考えるというような姿勢が見える場合には、本領域の目指すところと異なると判断しました。もっと素朴に開発コストの一部を賄うための応募をされたように見えるものもありましたが、不採択とさせていただきました。

いずれのタイプについても、実証フィールドとしては非常に魅力的なものが多く、採択にいたらず残念です。本領域の狙いに共感いただけるようでしたら、上述の点を踏まえて、ぜひ再度挑戦していただきたいと願います。

審査を終えて、本領域の重要性と同時に、ただならぬ難しさを改めて感じています。情報技術は単なる便利な道具であることを超えて、人類を人類であらしめている「知」を、そしてあるいは「心」さえも作り出す圧倒的な力を持ち始めています。存在や倫理について真剣に考えて技術を育てることで、大きな果実を得ることが可能ですが、それを怠ると、大きな災厄を招いてしまう場合があります。技術の進化を止めることなく人間となじみを保っていくためには、技術の意味を理解し、正しく導く人間と技術の相互フィードバックを迅速かつ円滑に行っていかなければなりません。そのためには文理の壁を超えた議論のできるプラットフォームと人材づくりが欠かせません。それは言うは易くとも行い難い使命です。困難を乗り越えるべく取り組んでまいりますので、皆様のお力添えをよろしくお願い申し上げます。

ELSI(Ethical, Legal and Social Issues):科学技術の倫理的・法的・社会的問題