プロジェクト名 | 研究代表者 所属・役職 |
概要 | 研究開発に参画する実施者、 協力する関与者 |
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多様化する嗜癖(しへき)・嗜虐(しぎゃく)行動からの回復を支援するネットワークの構築 | 石塚 伸一
龍谷大学 法務研究科教授 |
アルコール・薬物への依存、DVや虐待、性暴力、ギャンブル、万引き・摂食障害、インターネット依存などの多様な嗜癖・嗜虐行動(アディクション)の背景要因には「孤立」があり、これに対応するには、「公」と「私」の領域を超える支援モデルが不可欠である。しかし、現状では、公的支援間の分断のみならず、「厳罰主義」という処罰への過信、自己責任論による当事者の孤立、家族への責任転嫁などが蔓延し、適切な支援が行なわれていない。 本プロジェクトは、多様化する嗜癖・嗜虐行動を新たな視座の下で再定義し、「アディクション円卓会議」(“えんたく”)により、当事者と支援者の間に課題をめぐる関係性を醸成することで、「公」と「私」の間にあらたな公共圏として「ゆるやかなネットワーク」の構築を目指す。 |
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都市における援助希求の多様性に対応する公私連携ケアモデルの研究開発 | 島薗 進
上智大学 グリーフケア研究所所長 |
都市型コミュニティでは孤立化が進み、公的機関が市民の援助希求を把握して介入・支援することが困難になっている。市民の安全な暮らしをつくるには、生活課題が複雑化する前に、「公」と「私」の領域の間をまたぐ総合的な対応を行う必要があるが、そのような対応を試みている都市は少ない。 本プロジェクトでは、平成27年度から全市民を対象とする地域包括ケアシステムの構築に取り組んでいる神奈川県川崎市をフィールドに、公的支援を俯瞰、モデル化し、その適正化を働きかける。さらに、「私」領域に存在するNPOなどの支援集団の実態把握、潜在的機能の抽出を行い、多様な援助希求に対応する集いのモデルの生成を図る。「公」、「私」双方の機能強化の方策を示すとともに、相互の連携の拡充を目指す。 |
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妊娠期から虐待・DVを予防する支援システムの確立 | 藤原 武男
東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学分野教授 |
児童虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)は増加傾向にあるが、その効果的な予防対策は未だ確立されていない。その理由として、母子保健の現場で集められる情報が電子化していないために、ハイリスク群の抽出方法が不明確で介入効果の評価ができないこと、ハイリスク群の多くにみられる保健師などの介入に対して拒否的なケースへのアプローチ方法が確立していないことがあげられる。 本プロジェクトでは、虐待・DVのリスクを同定するために必要な情報を含む妊娠届を電子化することに成功した東京都足立区をフィールドとして、ハイリスク群を抽出する既存のアルゴリズムを精緻化する。加えて、妊娠期からの保健師による家庭訪問などの介入においてアプリを用いた支援デバイスを整備し、虐待・DVを予防するシステムの確立を目指す。 |
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プロジェクト企画調査とは、優れた構想ではあるものの、有効な提案とするには更なる検討が必要なものについて、問題の関与者による具体的なプロジェクト提案を検討するための調査。
企画調査名 | 代表者名 所属・役職 |
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情報管理・共有システムを活用した地域包括ケア支援に向けた調査 | 金井 秀明
北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科 ヒューマンライフデザイン領域 准教授 |
発達障害青年成人を支援するアプリケーション開発の検討 | 辻井 正次
中京大学 現代社会学部 教授 |
地域住民が高齢者を見守る「新しい親密圏」に向けた情報基盤の検討 | 村井 祐一
田園調布学園大学 人間福祉学部 教授 |
自殺リスク低減にむけたネットパトロール技術活用の可能性調査 | 吉冨 康成
京都府立大学 大学院生命環境科学研究科 教授 |
「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域では、2年度目の公募を4月から6月にかけて実施しました。公募にあたっては、東京と京都に加え、仙台でも説明会を実施し、研究開発領域全体の取り組みイメージについて説明しました。さらに、さまざまな事象の背景や対処策に見られる共通の問題を取り上げる横断的視点、現場を対象にエビデンスを積み上げる制度設計に資する提案、そして何よりも、新しい「間」の構築に関する予防的視点にたっての提案に期待することを強調しました。
これに呼応して、大学や研究機関、企業などから研究開発プロジェクト31件の応募が寄せられました。社会システム・制度の創生と伝承に関わるもの、公/私が協力し適切に介入・支援するための「間」の構築に関わるもの、情報通信技術などの利活用による新たな支援機能の構築に関わるものと、提案内容は多様でした。また、研究開発の対象も、コミュニティ・高齢者・医療介護・発達障害・多様な嗜癖・子ども・サイバー空間と多岐に渡りました。
選考にあたっては、説明会で強調した視点を中心に、新しい「間」の仕組みの社会実装の可能性を最も重視し、「間」の構築に関わる課題や障壁を十分に認識しているか、課題・障壁を乗り越えられるだけの現場関係者との協力関係があるか、研究開発の成果は他の地域・現場に展開できるか、などを評価しました。また、国内外の類似の取り組みや先行研究を十分に整理しているか、新規性や独創性を客観的根拠に基づいて示しているか、最終的な目標および実施期間での達成目標それぞれを適切に立てているかなども評価しました。
選考の結果、研究開発プロジェクト3件を採択しました。それに加え、4件について、優れた構想ではあるものの有効な提案とするには更なる検討が必要であるとして、プロジェクト企画調査として採択しました。
採択された提案は、多様な住民が住む都市において援助希求行動も多様化するなかで公私連携ケアモデルを構築しようというプロジェクト、児童虐待とドメスティックバイオレンスのハイリスク群を妊娠の段階から抽出して予防に向けて対応しようというプロジェクト、アルコールや薬物依存などの嗜癖(しへき)(アディクション)の背景にある孤立に対応するように関係者が周辺を囲んで援助する仕組みを実現しようというプロジェクトと、新規性・独創性に富んだ、しかし、社会実装を明確に目標とするものとなりました。研究開発の対象が昨年度採択されたプロジェクトから広がり、横断的に解決策を考えるという研究開発領域の取り組みイメージに沿うものとなりました。また、個人情報保護の問題を克服して地域住民による高齢者の見守りシステムの構築を目指す企画調査、ネットパトロール技術を用いて自殺予告などを検出することで安全な暮らしを創出しようとする企画調査なども採択されました。
初年度採択のプロジェクトと今回採択されたプロジェクト・企画調査が相互に刺激しあい、協力し合うことで、「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」という研究開発領域の目標が実現するように、研究開発実施者とマネジメントチームが一体となって研究開発を推進してまいります。
採択に至らなかった提案には、取り上げるテーマは重要であるものの計画や成果イメージの具体性を欠いている、現場関係者との連携可能性が不十分である、あるいは、必ずしも本領域の目標・趣旨と合致しないといった課題が見受けられました。これらの点については、提案いただく皆様に趣旨をしっかりと理解いただけるよう改善に努めてまいりますので、来年度も積極的な提案を期待します。
俯瞰・横断枠とは、領域全体の成果創出に向け、特定の地域をフィールドとしない代わりに、幅広い視野を持って多世代交流・共創の経験の効果などの実証分析を目指すものや、社会実装を必ずしも求めていないが制度改革などへの含意を持つものなど、領域全体の取りまとめに役立つものなどを対象とする。
プロジェクト名 | 研究代表者 所属・役職 |
概要 | 研究開発に参画する実施者、 協力する関与者 |
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一般枠 | 漁業と魚食がもたらす魚庭(なにわ)の海の再生 | 大塚 耕司
大阪府立大学 大学院人間社会システム科学研究科教授 |
世界の人口増加を背景に、食料や水の持続可能性が危ぶまれている。そこで、水やエネルギーの使用量を低く抑えつつ確保できるタンパク源として近海漁業の役割を見直す必要がある。しかし、地魚を調理して食べる習慣が衰退する中で、少量多品種であるため流通面でも軽視され、近海漁業への需要が細り、その担い手も高齢化し減少している。 本プロジェクトでは、かつて「魚庭(なにわ)の海」と言われた大阪湾で獲れる魚を軸に、ヒト・モノ・カネが好循環する地域のモデルを創出する。具体的には、魚を引き寄せる小石状の栄養供給骨材に利用するための魚あらのリサイクル、子どもが憧れるような漁師像の創出・提示、近海魚を使ったメニューの開発などを多世代共創で実施することに加えて、流通経路の確立と鮮度保持技術の開発・普及を行う。これにより、地域に根差した漁業と魚食文化の再生を目指す。 |
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一般枠 | 農山漁村共同アトリエ群による産業の再構築と多彩な生活景の醸成 | 大沼 正寛
東北工業大学 大学院ライフデザイン学研究科教授 |
農山漁村では、元来の生業に加え、地域資源に根ざした近代産業が隆盛した時期もあったが、現在は衰退し、人口流出が進んでいる。東日本大震災からの復興を目指す東北地方には多くの事例があるが、地場産品の需要は大幅に減り、日々の暮らしの風景(生活景)から地域らしさが失われつつある。 本プロジェクトでは、地域資源を現代的な観点から見直し、持続可能な地域を支える産業として再構築することを目指す。具体的には、農業、鉱業、ものづくり、アートなどにおいて、地域らしい構想や技術を持つ人々が集う産業・創作活動の場を「共同アトリエ」として、運営・育成を図る。また、各地の多様な事例をつなぐネットワークを形成することにより、新たな資源の組合せや技術継承の可能性を探る。こうしたことによって、共創の営みと地域資源が織りなす生活景が、多彩に醸成されていくことを目指す。 |
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一般枠 | 空き家活用によるまちなか医療の展開とまちなみ景観の保全 | 後藤 春彦
早稲田大学 大学院創造理工学研究科教授 |
全国で空き家の増加が深刻な問題となっている。特に、重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)では建築行為の制約などにより空き家が増え、まちなみの維持が困難になっている。一方、増加する高齢者の健康維持にとって、まちなかに出て人々との交流の機会を持ち続けることが重要であり、それにより高度医療への依存が減少することが期待される。 本プロジェクトでは、元気を失った歴史的なまちの社会関係資本を多世代の手によって再生し、「ひとも元気に、まちも元気に」の実現をめざす。具体的には、重伝建制度のルーツである奈良県橿原市今井町を舞台に、町内の空き家を拠点に地元医大が漢方外来、リハビリ訓練、健康体操、妊婦健診、食事療法などの「まちなか医療」を展開する。こうした活動を地元組織・医学生・専門家を含む多世代・多主体で実践するとともに、まちづくり経験知を集積し、他地域への実装を目指す。 |
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一般枠 | 地域を持続可能にする公共資産経営の支援体制の構築 | 堤 洋樹
前橋工科大学 工学部准教授 |
多くの地方都市では人口減少や少子・高齢化に伴い財政が悪化し、公共建築物や土木インフラなどの公共資産の維持・整備や運用にかかる経費の捻出が困難になっている。しかし、公共資産の現状把握が不十分なこともあり、自治体や住民の危機感は乏しい。 そこで本プロジェクトでは、自治体職員が多世代の住民とともに地域生活の基盤である公共資産の望ましい姿を描き、実現させる支援の仕組みを構築する。具体的には、公共資産の老朽化や利用状況の評価を基に、将来世代を見据えた公共資産経営の方向を提示し、住民や議会も含めた合意形成に繋げていく手法を開発する。こうした知見を蓄積し、多様な地域を支援するプラットフォームの構築を目指す。 |
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一般枠 | 生業・生活統合型多世代共創コミュニティモデルの開発 | 家中 茂
鳥取大学 地域学部教授 |
中山間地域の疲弊、過疎化・高齢化の深刻化、その一方で、大都市への人口集中、心身の消耗という、著しい不均衡こそが現代社会の大きな問題である。地方への移住希望者は増加傾向にあるが、受け皿となる仕事はなく、地域生活を支える機能は弱体化の一途を辿っている。 本プロジェクトでは、中山間地域の生業を、最大の資源である森林を生かした自伐型林業と多様な仕事を組み合わせて創出する。高齢者の知的支援を受けてUIターンの若者たちの生業を支えるとともに、地域の生活を相互に支える仕組みを創り出す。これらの活動を支援するため、地域の暗黙知をICT活用によりみんなが使える「ソーシャルな知」として育てる。同時に、地域の新たな価値を生み出す「サポートデザイナー」を養成する。 |
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俯瞰・ 横断枠 |
寄付を媒介とした多世代共創モデルの提案 | 岸本 幸子
公益財団法人パブリックリソース財団代表理事 |
山積する介護、医療、子育て、環境、エネルギーなどの社会課題の解決のためにNPOや社会的企業などが革新的な視点から事業を起こしているが、そのインパクトを強めるためには、女性や高齢者、障がい者などを含む多様な担い手のより積極的な参画が期待されている。寄付や遺贈は資金面からの支援であると同時に、理解や参加を促すための重要なチャネルとも考えられる。 本プロジェクトでは、寄付対象の信頼性を担保する寄付適格性評価、多様な世代に適した情報発信と寄付の仕組み、寄付の成果を検証する評価手法を検討し、個人や企業の金融資産の一部を「ソーシャルなお金」として動員するために有効な手法を提案する。また、持続可能な社会づくりへの参画意識への影響を探る。 |
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俯瞰・ 横断枠 |
多世代哲学対話とプロジェクト学習による地方創生教育 | 河野 哲也
立教大学 文学部教授 |
地方の衰退の背景には、地域の産業の可能性を認識しその開花・実現を担っていくような人材が地域で育成できていない状況がある。一方、地域に雇用機会が少ないために、人材が大都市圏に流出している。持続可能性のある地域社会を創生するためには、地域資源の活用に関する教育を充実させ、これと地域の産業との好循環を作り出す必要がある。 本プロジェクトでは、地域の学校、図書館、研究機関が連携し、持続可能な地域づくりのため、「哲学対話」を子どもを交えて実施する。哲学対話とは、先入観にとらわれず相互理解・価値創出・合意形成に向けて徹底的に意見交換する手法である。さらにこの哲学対話を踏まえて実際の社会の文脈における課題解決に向けたプロジェクトを設定し、その実施を大人が支援する。これらを通じて「地方創生教育」のモデルケースの創出を目指す。 |
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俯瞰・ 横断枠 |
ソーシャル・キャピタルの世代間継承メカニズムの検討 | 要藤 正任
京都大学 経済研究所先端政策分析研究センター特定准教授 |
多くの地方都市では、人口減少・高齢化、財政制約の高まりなどから、社会資本の適切な維持管理や、多世代が共生し安心して老年期を迎えられるような地域社会の維持といったことが困難になっている。こうした状況に対処するためには、地域環境の維持管理に主体的に参画し地域の価値を協働して高めていこうという意識や活動が、多世代間で共有・継承されることが必要である。 本プロジェクトでは、上記のような課題の解決に向けて、WEBアンケート調査と複数地域におけるケーススタディの2つをアプローチの柱とし、地域における住民活動などの利他的行動への意識・参画が、時代の要請に応じて変容しつつも世代間で継承されていくためのメカニズムを明らかにする。その成果を踏まえて、地域にとって望ましいものの継続性に不安を抱える地域活動や、今後立ち上がっていく住民活動の持続可能性を高める方策を提示することを目指す。 |
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平成26年度に開始された「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域では、地球環境問題、少子高齢化、過疎化、財政赤字、など、成熟社会が抱える重層的な問題を見据え、多世代・多様な人々の共創と、科学的根拠に基づき、環境、社会、経済、文化などの多面的側面から持続可能な都市・地域をデザインすることを目指しています。
昨年までの2回の募集では、多くの提案がなされたものの、「多世代共創」や「研究開発と社会実装」との関係があまり明確でないものが少なくありませんでした。そこで今回の第3回目の募集に際しては、2つの工夫を行いました。第1は、領域合宿などの討議も踏まえ、領域として明らかにすべきと思われる研究課題をリサーチ・クエスチョンとその検討状況という形で明示的に掲げ、東京で開催したシンポジウムや、仙台と名古屋で開催したワークショップ、東京と京都で開催した募集説明会でもご説明しました。第2は、今回の募集が最終で、今後は領域全体としての成果をとりまとめる作業に注力する必要があることにも鑑み、新たに「俯瞰・横断枠」を設け、フィールドで活動することを要件としない代わりに、俯瞰・横断的な観点から多世代共創によってどのように持続的な社会が作り得るかを研究するプロジェクトを募集しました。一方で、従来と同様の提案も一般枠として募集しました。
この結果、昨年度とほぼ同数の101件(一般枠89件、俯瞰・横断枠12件)の応募がありました。一次選考(コンセプトペーパーに基づく書類選考)と二次選考(フルペーパーに基づく書類選考および面接選考)を慎重に実施し、最終的に一般枠のプロジェクトを5件、俯瞰・横断枠のプロジェクトを3件採択しました。昨年度採択の企画調査の中からも1つを一般枠のプロジェクトとして採択しました。
今後は、採択課題(一般枠が過年度採択分も合わせて13件、俯瞰・横断枠が3件)の実施を支援するとともに、合宿などを通じて相乗効果の醸成を図ったり、課題横断的な視点から応用可能性の高い知見の抽出に努めたりすることを通じて、領域全体としての成果創出努力を続けて参ります。その進捗状況についても情報発信していく所存です。
プロジェクト名 | 実装責任者 所属・役職 |
概要 | 実装活動に参画する実施者、 協力する関与者 |
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エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデルの実装 | 熊 仁美
特定非営利活動法人ADDS共同代表 |
日本の発達障害児の早期発見の仕組みは、これまで医療や保健分野において整備が進んできた。しかし、早期支援については、専門家や人員、財源の不足などから、療育の頻度や質が十分でなく、重要な発達時期を逃してしまう子どもがいまだ多く存在する。本プロジェクトでは、国際的に効果が実証されている応用行動分析(Applied behavior analysis ;ABA)の技法を用いた早期療育プログラムおよび人材研修プログラムを、自治体の療育センターや民間児童発達支援事業所、保育やリハビリテーションの現場で活用するため、ITを活用した支援システムとして実装し、その効果を評価する。これにより、既存制度を活用したABA早期療育の持続的な地域モデルを確立し、全国への普及を目指す。 |
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熊本地震被災地の仮設住宅で暮らす高齢者の行動分析データと医師、保健師、生活支援相談員から得られる情報を統合化したケアシステムの実装 | 白水 麻子
熊本県立大学 総合管理学部准教授 |
東北大震災では、震災関連死での死者の9割を65歳以上の高齢者が占めている。また、被災地における要介護度の認定率は被災地以外の認定率の3倍に至り、仮設住宅でのコミュニケーションの減少や生活行動の減退が高齢者の健康状態に悪影響を及ぼしている。さらに、仮設住宅を定期的に訪問する保健師や民生委員の人員不足も深刻であり、入居者の生活状況や健康状態の確認などを行う医療サポート体制も脆弱である。 本プロジェクトでは、平成28年熊本地震で被災した益城町において、仮設住宅で暮らす高齢者の生活状態を名札型行動センサーで把握し、さらに高齢者の医療情報を活用することで、支援の手が必要な高齢者をいち早く把握し、必要な支援を素早く提供する地域の仕組み作りを行う。これにより、被災した多くの高齢者の命を未来へ繋ぐことができる。 |
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被介護者の状態から得られる情報に基づく質の高い介護サービス支援システムの実装 | 神成 淳司
慶應義塾大学 環境情報学部准教授 |
今後さらに高齢化率が高まることを踏まえ、厚生労働省などは2020年時点で25万人不足すると推計される介護人材を新たに確保するための取り組みを進めている。ヒューマンサービスである介護サービスは、介護現場の状況や個々の利用者の状態への依存度が高く、これら新たな介護人材の対応能力向上を、迅速かつ着実に、個々の介護現場で実現するしくみの実装が求められている。 本プロジェクトでは、JST-RISTEXでの取り組み成果である、介護人材の対応能力の早期向上に資する、気づきデータを活用した「状態把握システム」を、地域における介護サービスの中核拠点としての役割を果たしている社会福祉事業団などの介護人材育成のしくみとして実装し、全国展開を図る。 |
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熊本地震被災地の復旧・復興のための広域連携した情報活用支援体制の実装 | 鈴木 進吾
国立研究開発法人 防災科学技術研究所主幹研究員 |
熊本地震では多数の市町村が被災し、復旧・復興期を迎え行政界を超える被災者も多く、熊本県が中心となって共同歩調をとっているり災証明発給を嚆矢とした、広域的に情報連携した生活再建が必要となっている。その中で、被災者台帳による一人一人の生活再建支援、地図による広範な状況の可視化、さまざまな業務情報の共有が課題となっており、また、そのための体制と仕組みづくりが求められている。 本プロジェクトでは、状況認識統一技術の研究開発成果を核に、熊本県において復旧・復興のための情報活用の実装活動を行う。その経験から、復旧・復興に情報を利活用するための標準的な手順書をまとめ、平時から支援要員を養成するための研修・訓練を検討し、今後の災害への対応において情報活用を支援する産官学の組織の設立を目指す。 |
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低エネルギー消費型製品の導入・利用ならびに市民の省エネ型行動を促進するシステムの実装 | 吉田 好邦
東京大学 新領域創成科学研究科教授 |
地球温暖化対策計画において、家庭における省エネは2030年に39%の二酸化炭素削減を目指す重要な位置づけとされるが、低炭素機器の導入と省エネ型行動の促進が課題である。本プロジェクトでは節電で減った光熱費分でローンを返済する「電気代そのまま払い」による省エネ家電などの導入促進、ならびに電力消費量の「見える化」と「節電アドバイス」などのフィードバックのシナジー効果に着目する。実装活動では、「電気代そのまま払い」の実験的試みを行っている北海道下川町と、「電力見える化実験」を行っている東京都足立区をモデル地域とし、互いの地域での成果を両地域で実装することで全国への普及の糸口とし、省エネ・経済性・快適性を同時達成する社会の実現を目指す。 |
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今年度は、36件の応募があり、そのうち5件は熊本地震に対応するものでした。熊本地震対応提案は2年以内に実装を終了し効果を発揮することを前提に、「熊本地震被災地の仮設住宅で暮らす高齢者の行動分析データと医師、保健師、生活支援相談員から得られる情報を統合化したケアシステムの実装」ならびに「熊本地震被災地の復旧・復興のための広域連携した情報活用支援体制の実装」の2件を採択しました。熊本地震対応以外の提案として、社会に与えるインパクトが大きいと予想される「エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデルの実装」、「被介護者の状態から得られる情報に基づく質の高い介護サービス支援システムの実装」、「低エネルギー消費型製品の導入・利用ならびに市民の省エネ型行動を促進するシステムの実装」の3件を採択しました。いずれのプロジェクトも実装支援の対象となる団体や受益者が明確であり、社会への定着が予想されます。実装支援プログラムは受益者と研究者との共同作業が不可欠であり、受益者との柔軟な組織的連携が重視されますが、いずれの提案も研究組織の中に関与者を重要なプレイヤーとして取り込んでおり、確実な実装が期待されます。
本プログラムは開始後9年を経過しましたが、研究開発成果の社会的価値を実証し、社会に定着させ、普及の端緒を拓きたいという意志を以て提案する提案が増加しています。本プログラムは東日本大震災で現実に実効を上げたプロジェクトや、社会的に注目を浴びることとなったプロジェクトが増加しており、今後とも社会に大きなインパクトを与えるプロジェクトの選択と効果的な実装支援を進めて参ります。
新たな価値を提供する「新サービスの創出」に取り組み、サービス研究開発の基盤としての「サービスをデザインするための方法論の確立」に取り組む研究開発プログラム構想を検討するため、その実施可能性を調査する。
調査名 | 代表者 所属・役職 |
概要 | 調査に参画する実施者、 協力する関与者 |
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コンテキストと時間変化を考慮したサービスシステムのフレームワークの導出と検証 | 澤谷 由里子
東京工科大学 大学院バイオ・情報メディア研究科 アントレプレナー専攻教授 |
経済のサービス化、問題の複雑化、情報技術の発展を背景に、イノベーション創造の仕組みの変容が求められている。これらの変化は、身近な生活に影響を及ぼし、人々の思考変容・行動変容や社会制度の変容を促す。このように、未来のサービスシステムの創造のためには、技術の進展だけではなく、人的・組織的・制度を含む社会的状況と時間変化を考慮することが不可欠となっている。本可能性調査では、サービスデザイン手法のサービスモデル記述と事例を分析することによって、サービスシステムのコンテキストと時間変化を考慮したサービスシステムフレームワークを導出する。また、特定のプロジェクトでそれらを活用して、共創する仕組みについて考察し、推進すべきリサーチアジェンダやイニシエータの具体的な機能・役割を抽出する。 |
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日本製造業のサービス化における阻害要因とその解決のための研究課題に関する調査 | 下村 芳樹
首都大学東京 大学院システムデザイン研究科教授 |
近年、製品やサービスの価値を提供者と顧客が共創する価値共創の重要性が盛んに指摘されており、特に製造業におけるこの方向性は「製造業のサービス化」と呼称され、注目を集めている。サービス化を指向する製造業が提供するサービスは、いくつかの段階を経て成長することが指摘されている。しかしながら、これに関連する既存研究は、サービス化の方向性を捉える上での一定の示唆を与えている一方で、製造業がサービス化を達成する上での具体的な要件を示すまでには至っていない。本可能性調査では、サービス化を指向する製造業が提供すべきサービスを具体化するとともに、そのようなサービスの製造業による創出を可能とする研究課題とその実施体制を明らかにすることを目指す。 |
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つなぐ技術による豊かな共空間創造サービスの開発 | 白肌 邦生
北陸先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科准教授 |
これからの社会では、先端技術がもたらす「あらゆるものをつなげる」可能性を人間同士の新しい交流機会の創造に生かし、豊かな「共空間」を創造することを通じてさまざまな問題解決への基盤を確立していくことが重要と考えられる。本調査は、この空間形成を促進するサービスの開発に向けて、何が必要かを探索するための可能性調査と位置づける。まず、「共空間」の原型としてその構成概念を抽出し、共空間の形成・評価に関する技術開発と共空間活性化のための人材開発の2つの調査を進め、その知見を基盤に、社会実装を見据えて「豊かな食の共空間」を題材に、石川県の特定地域を対象にしたアクションリサーチを実施する。そして豊かな共空間の効果的形成・活用方法およびそのためのサービスイニシエーターの機能を考察する。 |
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豊かなコンテクストのある超スマート社会のサービス・デザイン | 鈴木 智子
京都大学 大学院経営管理研究部特定准教授 |
IoTや人工知能は、サービス産業の供給効率化を促進するなど、大きな恩恵をもたらすが、同時にこうした新技術は、コモディティ化を加速し、価値の低減を招くとも考えられる。例えば、日本の自然、文化、歴史、生活などのコンテクストの豊かさが、創出される価値の高さにもつながっているように、超スマート社会において高付加価値サービスを持続・発展させるためには、豊かなコンテクストを生成するサービスケイパビリティが求められるといえよう。本可能性調査では、コンテクストを生成・活用するサービス・デザインの方法論確立に向けた課題を検討する。 |
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社会厚生を拡大する共創型プラットフォームサービスの可能性調査 | 原 辰徳
東京大学 人工物工学研究センター准教授 |
現在、さまざまな産業領域においてプラットフォーム(PF)事業が増加する中、その恩恵とともに問題点が顕在化しつつある。限られたリソースが有効活用され、社会厚生が拡大される社会へと進むためには、多様な生活者のニーズとサービス提供者の資源の適切なマッチングにより、新サービスを創出できる共創的PFが望まれる。本可能性調査では、既存のPFサービスを生活者、PF事業者、サービス提供企業の立場から調査し、近い将来に起こりうる課題やリスクを明らかにするとともに、共創的PFサービスを実現する上で必要な技術(マッチング方法、情報基盤設計、セキュリティなど)、制度(ルール、メカニズム、パーソナルデータ)、および生活者との協働方法(参画方法と社会受容性)を明らかにする。 |
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超高齢・定常型社会における分散型サービス展開に向けた調査 | 藤田 卓仙
名古屋大学 大学院経済学研究科CBMヘルスケアイノベーション寄附講座(アイカ工業)寄附講座准教授 |
少子超高齢社会においては、健康寿命延伸産業の育成への期待とともに、定常人口で推移する定常型社会への移行を見越した、成長を前提としない、持続可能な社会の形成という視点からのサービス構築が求められる。 本調査では、「超高齢・定常型の、成長を前提としない、持続可能な社会」において、求められるサービスの実現に向けた、可能性調査を行うことを目的とする。具体的には、ICTを用いることにより、定量化されたサービスの質的評価を基礎とする、生産性・効率性が担保された、分散型のサービスモデル構築を目指し、調査検討を行う。 |
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集合知メカニズムを埋め込むことによるサービスイノベーション | 水山 元
青山学院大学 理工学部経営システム工学科教授 |
社会が全体として持っている、または獲得できる知識は、現状では、個人や組織の意思決定に完全に活用し尽くされているとはいえない。集合知メカニズムとは「複数人に分散している知識を集約して集合知を形成するために意図的にデザインされた仕組み」であり、直接アクセスすることが難しい、人々の頭の中にある知識を引き出すための、知識提供者とシステムの間のインタラクション、そのインタラクションを機能させるためのインタフェースやインセンティブなどで規定される。本可能性調査では、知識をより有効に活用できる社会を目指して、適切に設計した集合知メカニズムを埋め込んで新サービスを創出する、あるいは既存サービスに革新をもたらす方法について検討する。 |
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未来の安心のための災害避難所に関するレジリエンスアシストサービス実装の可能性調査 | 綿貫 茂喜
九州大学 大学院芸術工学研究院 デザイン人間科学部門教授 |
予知不能な地震や津波に対する建物の耐震設計や防潮堤の強化などの工学的な第一次災害対策は熱心に行われ国民も安心しつつある。一方、避難時の不眠症やエコノミークラス症候群などに伴う災害関連死など、二次災害は予知できるにも関わらず、社会性をもった生物としてのヒトという被災者の視点に立った組織的な科学的知見の集積は行われていない。 この問題を解決するために、本可能性調査では、多方面のステークホルダーの協力を得て、今後確実に発生する災害に耐え、災害後の未来設計を迅速化させるための方法について調査を行う。その結果に基づき、被害を乗り越え復活する力であるレジリエンスをアシストするサービスの仮説を抽出し、社会実装の可能性を探る。 |
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「問題解決型サービス科学研究開発」プログラムは、平成22年度より活動を開始し、サービスに関するさまざまな問題を解決するための技術や方法論の開発を目指すとともに、サービスを科学の対象ととらえ、サービスに関する概念・理論・技術・方法論などを体系的に構築していくことを目指しています。
本プログラムでは、過去4回の公募によって採択した18件の研究開発プロジェクトの中で、さまざまなサービスに関する問題解決の方法や技術を創出するとともに、サービス科学研究開発基盤の構築に取り組んでまいりましたが、この活動を推進する中で、サービスに関わる社会の状況は大きく変化してきました。今後は、人工知能(AI)やロボットを含む情報通信技術(ICT)を活用した新たな価値を提供するサービスの創出が加速される状況が期待されており、本プログラムでも、「サービス学将来検討会」を設置して、こうした将来の社会を見越した新たなサービスの研究開発の可能性を検討してまいりました。本検討会の活動報告書「未来を共創するサービス学を目指して」において、多様なステークホルダーの関与のもと、新たな価値を提供する新サービスの創出を通じて、サービスをデザインするための方法論の確立に取り組む研究開発が必要とされ、その研究開発の進め方として「未来共創型アプローチ」が提案されています。
本年度は、この「未来共創型アプローチ」の実施可能性および有効性を検証する可能性調査の提案を募り、44件の応募が寄せられました。提案者の所属は、大学、独立行政法人、特定非営利活動法人、民間企業など多岐にわたるとともに、若手・女性からの応募など多様性に富んだものとなり、新たなサービス研究開発への関心の広がりがうかがわれました。提案で取り上げられたテーマは重要と評価されるものがほとんどでしたが、「進むべき社会像」が明確であることや、「創出を目指すサービス」の実現性、提案されたステークホルダーとの協働体制の有効性などの観点について評価を行った結果、最終的に8件の採択を決定しました。
本年度、採択した課題における調査をもとに、本プログラムとして、今後のサービス研究開発の在り方を検討し、具体的な施策への反映を目指して、情報発信に努めてまいります。