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別紙1

研究成果展開事業(産学共創基礎基盤研究プログラム)
新規研究課題および総評

技術テーマ:革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築

プログラムオフィサー:加藤 雅治(新日鐵住金株式会社 顧問)

技術テーマ概要

本技術テーマでは、革新的な構造用金属材料の創製のための基盤技術と指導原理の構築のための基礎基盤研究を行い、今後数十年~百年にわたる日本の社会基盤の強化と、製造業の国際競争力の維持・強化に資する成果を得ることを目指します。

本技術テーマでは、金属材料中のさまざまな不均一性(ヘテロ構造)を積極的に利用することを考えます。そして、強度、延性、じん性、加工性、耐環境性など、構造用金属材料に要請される諸性質の飛躍的な改善、さらには、従来は両立が困難であった複数の機能を同時に向上させるような革新的な材料設計・開発思想を確立することを目指します。今までの金属学、材料工学の知識の延長線上での取り組みを超えた新たな学術的、技術的な指導原理を構築できる独創的な基礎基盤研究を推進します。また、これらの成果が将来的に材料の実用化に貢献できるよう、産業界と研究者との意見交換(「産学共創の場」)の結果を基礎基盤研究の推進方針に積極的に反映していきます。

新規研究課題 (氏名五十音順)

研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
近藤 勝義 大阪大学 教授 固溶原子と相変態を利用したマルチスケールでのヘテロ構造化によるチタン焼結材の高強度・高延性同時発現機構の解明と高次機能化 純チタン焼結材中への酸素、窒素、珪素など単純元素の微量添加により汎用チタン合金の力学特性を凌駕できることを見いだした。本課題では、局所構造解析や計算材料科学などを利用し、α/β相への各元素の固溶現象や結晶格子内の歪み形成機構、冷却時の局所遅れ相変態挙動などを解明する。これらの知見に基づき、マルチスケールでのヘテロ構造化により高強度・高延性・高靱性を同時に満たすチタン材の新指導原理を提案する。
芹澤 愛 芝浦工業大学 助教 階層的マルチヘテロ構造の創出によるアルミニウム合金の多機能化とその指導原理の解明 本研究では、水蒸気を利用した新規プロセスにより、7000系および6000系アルミニウム合金の母相内および表面それぞれにヘテロ構造を創出させ、アルミニウム合金の強度と耐食性を同時に向上させる技術開発を行う。この技術開発で生じる階層的なマルチヘテロ構造の創出に関する指導原理を導出し、アルミニウム合金に高強度化と高耐食化を同時付与するための革新的技術の構築を目指す。
中田 伸生 東京工業大学 准教授 ミクロな内部応力の不均一分布形成機構の理解とその制御技術の確立 金属における内部応力のミクロかつ不均一な分布を理解するため、二相間のミスフィットによって顕著な内部応力が発生するパーライト鋼を対象として、動的緩和を考慮した不均一な内部応力の形成機構と、これに対応した階層的下部組織の形成、さらに、残存する内部応力が強度に及ぼす影響について、理論、実験、計算を融合して解明する。そして、構造用金属の力学特性向上を可能にする内部応力支配型の組織制御技術を確立する。
宮本 吾郎 東北大学 准教授 ナノクラスタリング・ナノ析出の学理に基づく鉄鋼材料の表面硬度分布制御と摩擦摩耗特性向上の指導原理確立 鉄鋼中の炭素や窒素は特定の置換型合金元素と引き合ってクラスターを形成し、組織や特性に影響を及ぼすことが知られている。本研究ではこの現象に関する基礎研究を理論・実験の両面から推し進めてナノクラスタリング・ナノ析出の学理を構築し、その応用として、フェライト低合金鋼の窒化においてナノクラスタリング制御によって高い表面硬度と厚い硬化層を同時に付与し、優れた摩擦摩耗特性を実現する方法を提案・実証する。
渡辺 義見 名古屋工業大学 教授 ヘテロ凝固機構により高造形性・高強度を実現する積層造形用金属粉末の開発 ヘテロ凝固機構による材料組織微細化を通し、高造形性と高強度を実現する積層造形(3Dプリンタ)用金属粉末を開発する。ヘテロ凝固核導入は、造形後の組織微細化の効果による均一組織と高強度を持つ造形体の製造に加え、逐次凝固を行う積層造形での凝固の均一性担保による造形性向上や、添加した粒子による複合強化も期待できる。このような金属学的な知見を駆使した組織制御により、革新的強度を実現させる。

<プログラムオフィサー総評>

本技術テーマは平成22年度に設定されました。日本の社会基盤を強化して高い国際競争力を維持するために、製造業のさらなる発展を意図するもので、優れた機能を持つ革新的な構造用金属材料の開発に資する基礎的な研究を戦略的な産学連携によって展開しています。構造用金属材料として重要な諸性質・性能の飛躍的な改善、さらには、従来は両立が困難であった複数の機能を同時に向上させるような革新的な材料設計・開発思想を確立することが目的です。そのために、今までは性能発現の阻害因子と考えられがちであった材料に存在するさまざまなスケールの不均一性(ヘテロ構造、heterogeneity)をむしろ積極的に利用し、「ヘテロ構造制御」による新材料創製と新指導原理の構築を目指しています。

本技術テーマは昨年度までに4回の研究課題公募を行い、合計18件の課題が採択され、現在は7件の課題研究が進行中です。終了した11件の課題の全てが、得られた指導原理の実用化への適用に向けて、企業との共同研究などへと発展しています。そして、本年度末でさらに1件の課題が終了予定です。

以上の現状を鑑み、第5回の公募を行いました。前回までの採択課題とのバランスを考えて、今回は「チタン合金、鉄鋼材料、マグネシウム合金、複合材料、ヘテロ組織と力学特性の関係、新しい組織制御(第二相、格子欠陥)、高信頼性・ 高寿命化(耐食性、耐熱性など)、実験・理論・計算の融合、評価・解析技術」というキーワードを含む課題を歓迎する旨と、参加研究者間で効率良い有機的・相補的な連携が組み込まれた研究計画が望まれる旨などを公募要領に記載しました。その結果、上記分野とその周辺分野で、優れた研究提案がありました。前4回と同様に、学術的には高いレベルにありながら採択できなかった課題が多かったため、応募して下さった方々には申し訳なく思います。

採択された研究課題5件は、チタン合金、鉄鋼材料、ヘテロ組織と力学特性の関係、新しい組織制御(第二相、格子欠陥)、高信頼性・ 高寿命化(耐食性、耐熱性など)、実験・理論・計算の融合、評価・解析技術などのキーワードを含み、今まで採択された研究課題ではカバーされない新しい研究分野を含んでいます。しかも、いずれの課題も、異なる大学や機関に所属する複数の研究者によるチームワークを組んだ研究計画になっており、「産学共創の場」を利用した産業界との積極的な意見交換によって、革新的な構造用金属材料創製に対する指導原理の構築が大きく期待されます。これらの研究の進展が、日本の国際競争力の維持・強化につながることを、私は確信しております。

技術テーマ:テラヘルツ波新時代を切り拓く革新的基盤技術の創出

プログラムオフィサー:伊藤 弘昌(東北大学 名誉教授)

技術テーマ概要

テラヘルツ波は電波と光波の間の周波数帯に位置し、電波の良好な透過性と光波の持つ制御性の良さを兼ね備えており、1990年代から本格的な取り組みが始まった新たなフロンティアです。この波長帯で固有の指紋スペクトルをもつ物質も多いことから、スペクトルの基礎的な解明やその特性を生かし、従来実現できなかったさまざまな新用途が期待されています。

本技術テーマでは、優れた特色を持つテラヘルツ波の産業応用に必要な能力や特性を兼ね備えるための、科学に基づく革新的な基盤技術により要素技術を創出し、テラヘルツ波新時代を日本から切り拓くことを目的とします。また、この制度の特徴である産業界と研究者との対話の場「産学共創の場」を活用することにより、産業界の基本的ニーズを共有し、世界をリードする基礎的な研究に反映していきます。

新規研究課題 (氏名五十音順)

研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
大道 英二 神戸大学 准教授 テラヘルツ電子スピン共鳴イメージング法の開発 本提案では、テラヘルツ光を用いることで電子スピン共鳴(ESR)による3次元イメージング法の空間分解能を従来よりも2桁以上改善することを目指す。高い信号選択性と高い空間分解能を持ったESRイメージング手法を駆使することにより、バイオ、医療、半導体、電子材料など幅広い分野において、ミクロな視点から発生現象と位置を空間的に可視化する。
小川 雄一 京都大学 准教授 細胞計測を目的としたテラヘルツ近接アレイセンサの開発 細胞内水分子状態の違いに着目した新しい細胞評価技術の構築を目指し、各種細胞やマウスの生体組織などの分光データをカタログ化するとともに、センサ直上の細胞の誘電特性に応じた周波数シフト量を計測する「テラヘルツ近接アレイセンサ」を開発する。本センサを集細胞遠心装置(サイトスピン)と組み合わせ、各種細胞を評価する革新的基盤技術を開発し、テラヘルツ波による非標識単一細胞解析の実現性を明らかにする。
坪内 雅明 量子科学技術研究開発機構 主幹研究員 高速テラヘルツカラーイメージング装置の開発 近年テラヘルツ(THz)光は、非侵襲非破壊なプローブとして医療産業分野に応用範囲を拡げている。本研究ではTHz光の二次元画像観測の実用化を目指して、高速THzカラーカメラの開発を行う。100kHzで動作可能な高速ラインセンサーカメラとYbファイバー増幅器を用いて画像取得時間を劇的に短縮させ、リアルタイム測定を達成する。さらにその技術を用いた三次元THzカラートモグラフィーなどへの応用展開を目指す。

<プログラムオフィサー総評>

本技術テーマは平成22年度に設定されました。日本で独自の研究開発が活発に続けられ、新たな各種応用が期待されているテルヘルツ波技術を真の産業応用に展開するため、科学に基づく革新的な基盤技術と戦略的な産学連携によってその要素技術を確立し、テラヘルツ波新時代を日本から切り拓くことを目的とします。このため、この制度の特徴である産業界と研究者との対話の場である「産学共創の場」の活用により、産業界の基本的ニーズを共有し、世界をリードする産業に展開できるような基盤的な研究を推進していきます。

本技術テーマは昨年度までに3回の研究課題公募を行い、合計20件の課題が採択され、現在は9件の課題研究が進行中です。終了した12件の課題の全てが、産学共創基礎基盤研究プログラムにより確立された要素技術の実用化に向けて、企業との共同研究などへと発展しています。また、広く関心を持たれる皆様に、これまでに研究を終了した本技術テーマ課題の成果を中心に、実際に試用できる仕組みを用意しております。テラヘルツテクノロジープラットフォーム(TTP)であり、ホームページ上からご覧いただけます。

以上の現状を鑑み、第4回の公募を行い、多岐にわたるテラヘルツ波技術について、幅広い層から興味深い研究提案をいただきました。提案には、テラヘルツ波の光源や検出、特色ある計測法、バイオ・アグリ・ライフサイエンスへの展開、テラヘルツ波を活用するための自然界には存在しない性質を持つ材料(メタマテリアル)の研究など多岐にわたりました。

審査に当たっては、サイエンスの内容、技術の高さ、新規性、研究計画の妥当性はもちろんのこと、特に産学共創という観点から、日本の産業競争力に将来どのようなインパクトを与えうるか、どのように産業界と関わりながら研究を発展させていけるかなど、当制度独特の観点も十分考慮しました。

採択された研究課題3件は、いずれも目的をきちんと見据えて、産業界にユニークな成果を提供し得る研究です。

テラヘルツ技術の普及には、光源の高出力化・高安定化、高感度検出器の実現、計測手法の高度化・高速化、スペクトルの分光学的理解など、まだまだ乗り越えるべきハードルは沢山あります。そのため本プログラムの特徴を生かし、個々の研究者には産業界の要望に耳を傾け、研究に有効に反映してもらおうと思っています。

残念ながら、今回は断腸の思いで不採択とさせていただいた課題にも、これまでと同様、すばらしい可能性が多々ありましたことをここに特記します。

今後研究推進の段階に入る新採択テーマは、既採択の継続テーマとともに、「産学共創の場」という当制度のユニークな機能を存分に生かし、産業競争力の強化に資するという大きな目標に向け研究の一層の推進を図っていきます。

技術テーマ:革新的次世代高性能磁石創製の指針構築

プログラムオフィサー:福永 博俊(長崎大学 理事・副学長)

技術テーマ概要

Nd-Fe-B磁石の発表から35年が経過しました。この間、Nd-Fe-B磁石の特性を越える新永久磁石の探索や製造が試みられてきましたが、これを越える新永久磁石の開発には至っておらず、次世代永久磁石の開発が強く望まれています。また、磁石性能に加えて資源的な観点からも既存永久磁石の飛躍的特性改善や新永久磁石の開発が必要とされています。

本技術テーマでは、革新的次世代永久磁石の創製のための基盤技術とそれに繋がる指針を確立するために、大学・公的研究機関などでの基盤研究を推進し、日本の産業競争力の維持・強化と社会基盤の強化に資する成果を得ることを目指します。

新規研究課題 (氏名五十音順)

研究代表者 研究課題名 研究概要
氏名 所属 役職
齊藤 準 秋田大学 教授 磁石破断面の3次元磁場イメージングが可能な高分解能・交番磁気力顕微鏡の開発による保磁力機構の解明 研究代表者が開発した高分解能・交番磁気力顕微鏡技術を基盤に、直流磁場により磁化状態を連続的に変化させた破断面などのさまざまな表面状態の磁石に交流磁場を印加することで、印加磁場に対して可逆的および不可逆的に変化する磁化から発生する磁場を試料表面からの距離を連続的に変化させて3次元イメージングする技術を新たに確立し、磁性結晶粒の表面から内部に渡る断面方向の磁気情報を解析することで保磁力機構の解明に取り組む。
嶋 敏之 東北学院大学 教授 軽元素添加による高磁化磁性材料の創製ならびに革新的永久磁石材料の開発 高性能永久磁石の需要は増加し続けており、従来型Fe系希土類系磁石の性能を超えるブレークスルー技術が要求されている。本研究開発では、高機能性が期待される軽元素添加による新しいマンガン(Mn)基高飽和磁化・高磁気異方性磁性材料の創製の可能性を、エピタキシャルモデル薄膜および第一原理計算から得られた知見を基にバルク材料へ展開することによって革新的次世代高性能永久磁石の開発を目指す。
中村 哲也 高輝度光科学研究センター 副主席研究員 永久磁石の微細組織とその局所磁気特性の解析による高保磁力化の指針構築 Nd-Fe-B磁石やSm-Co磁石をはじめとする高性能永久磁石では、磁石内部の微小な磁石粒子の粒径や結晶方位が不均一に分布しており、この不均一組織が保磁力性能に影響すると考えられている。本研究では、大型放射光施設(SPring-8)を活用して粒子毎の結晶方位と磁気特性を詳細に解析することで、高保磁力化の指針を構築する。
宝野 和博 物質・材料研究機構 フェロー ネオジム磁石の超微結晶化による高温磁石特性の飛躍的改善 結晶粒径を液体急冷/熱間加工法ならびに水素吸蔵分解反応法で超微細化したNd-Fe-B系磁石を試作し、それらの結晶粒界を700ºC以下の低温プロセスで改質することにより、室温での残留磁化1.35T、保磁力2.5Tのネオジム磁石を実現するための基礎研究を推進する。微結晶化により保磁力の温度低下改善し、160ºCにおいても保磁力0.8Tを確保できる磁石を目指し、同時に特性改善のメカニズムを解明する。

<プログラムオフィサー総評>

高性能永久磁石は産業・民生・医療機器などに広く使用され、優れた永久磁石の製造技術が日本の社会基盤を支える技術の1つとなっています。一方で、Nd-Fe-B磁石の発表から35年が経過したことから、次世代磁石の開発が強く望まれています。また、磁石性能に加えて資源的な観点からも既存磁石の飛躍的特性改善や新磁石の開発が必要とされています。本技術テーマでは、革新的次世代磁石の創製のための基盤技術とそれにつながる指針を確立するために、基盤研究を推進し、日本の産業競争力の維持・強化と社会基盤の強化に資する成果を得ることを目指しています。

本技術テーマでは、平成23年度のテーマ開始以来、2回の公募により合計9件の研究課題を採択して産学共創を推進して参りました。この間、学術論文の発表に加えて、民間企業との共同研究の開始、特許の出願などの成果も出て参りました。

以上の現状を鑑み、第3回の公募を行いました。今回の公募に応募いただいた研究課題の内容は、材料のキャラクタライゼーションを通じた永久磁石高性能化のための指導原理の確立に関する課題4件、新規な手法による希土類磁石の創製・高性能化に関する課題4件、革新的視点からの希土類フリー磁石の開発に関する基礎研究課題4件と次世代磁石の開発に向けた多様なアプローチが提案されました。また、前回の公募と同様に、磁石以外の研究領域で実績を残しておられる研究者の方々からも応募をいただき、本技術テーマの設定が磁石研究の広がりに寄与していることを実感する一方で、応募件数が前回公募時と同じであったことから、本技術テーマの実施を通じた研究分野の広がりをさらに加速する必要があることも感じられました。

応募いただいた提案はいずれも意欲的な研究でしたが、研究目的、独創性、計画の妥当性、実現性などを備え、本技術テーマの解決に大いに貢献すると期待できる課題を採択しました。特に、提案いただいた研究課題が現存の磁石の特性を凌駕する次世代高性能磁石創製につながるか、磁石の生産・応用に関連した産業の競争力強化に貢献できるか、について重視して評価しました。残念ながら、今回は不採択とさせていただいた課題にも、すばらしい可能性を含む提案が多くありましたことを、ここに特記させていただきます。

採択された研究課題については、本技術テーマの目的達成を促進するために運営する「産学共創の場」において、各研究課題の研究計画、進捗状況や成果創出状況、産業界の要望などを議論していただきます。各研究者には、産業界からの要望も取り入れながら研究を進めていただくことになります。

このプログラムを通して、各研究課題を進展させ、革新的次世代高性能磁石創製のための指針を構築し、日本産業の国際競争力の維持・強化と社会基盤の強化につなげたいと思います。