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別紙1

テーマ概要、採択課題一覧およびプログラムオフィサー総評

戦略テーマ重点タイプ

研究開発テーマ:IoT、ウェアラブル・デバイスのための環境発電の実現化技術の創成
プログラムオフィサー:竹内 敬治((株)NTTデータ経営研究所 シニアマネージャー)

研究開発テーマ概要

あらゆるモノがインターネットにつながるIoTを実現するためには、あらゆるモノに電源が必要です。電源配線敷設や充電・電池交換が技術的にあるいはコスト的に困難なケースも少なからずあり、代替となる低コストで普遍的な電源技術の確立は急務となっています。そのような代替電源技術の1つが、環境中に存在する光、振動、温度差、電波などのさまざまなエネルギーを電気エネルギーに変換する、環境発電技術です。

IoT関連技術のなかでも、近年、技術開発が急速に進んでいるものの1つがウェアラブル・デバイスです。ウェアラブル・デバイスは、スポーツ、健康管理、医療、見守り、作業効率化、エンターテインメントなどさまざまな用途への展開が始まっていますが、充電や電池交換の手間が普及の障害となっています。環境発電技術の活用によってウェアラブル・デバイスの無給電化が実現すれば、上記用途を始め、人間以外(家畜、ペット、野生動物、さらには植物、無生物)へのウェアラブル・デバイス適用などによる、新たな産業の創出が期待されます。

ウェアラブル・デバイス向けの環境発電技術には、発電性能だけでなく、超小型、低コスト、軽量、フレキシブルなどの特性が求められます。さらに、テキスタイルへの実装、洗濯耐久性、生体適合性などが要求される場合もあります。このような多様な要求を満たす環境発電技術の開発成果は、ウェアラブル・デバイス以外のIoT用途への展開も可能でしょう。サイバーフィジカルシステムを社会実装するうえで、各種センサや通信デバイスの省電力化に伴い、超小型、低コスト、軽量でフレキシブルなどのポテンシャルを持っている環境発電技術は重要な基盤技術となることが期待できます。

本研究開発では、ウェアラブル・デバイス向けの超小型、低コスト、軽量、フレキシブルな次世代環境発電技術の実現化技術を創成することにより、新たな産業創出の礎となる技術確立を目指します。

採択課題(4件)
課題名 概要 PL 企業責任者
研究責任者
ジャイロ効果を利用したウェアラブル発電システム 人や移動体の振動から電力を生成する発電機を開発し、健康増進や作業補助に利用します。小型軽量な装置で大電力の発電を行うため、高速回転するロータを振動させて、ジャイロ効果により低周波、低加速度の振動から大きな慣性トルクを取り出します。ウェアラブルサイズの装置で1Hz程度の振動から、10mW~1Wの電力を得ることを目指します。本装置を靴、ベルト、衣服、ザックなどに装着してランプ、携帯電話、生体センサ、微弱無線などを駆動させます。   谷口 博昭 精技金型株式会社
保坂 寛 東京大学
スポーツを対象としたウェアラブル圧電型振動発電モジュールの開発 圧電型振動発電素子をセンサとして利用することで、自立動作可能なセンサ素子の開発を行います。特に高い運動エネルギーの供給が可能であり、今後運動機能の計測ニーズが高まると予想されるスポーツシューズへの応用を想定したセンサ機能内蔵振動発電モジュールの開発を行います。軽量・高出力と共に高い柔軟性と耐久性を備えた素子の設計・試作に加え、得られた情報の活用について体系的な検証を行います。   加賀田 博司 パナソニック株式会社
神野 伊策 神戸大学
3次元圧電単結晶スプリングを用いた振動発電の研究開発 「圧電結晶を用いた3次元スプリング構造」により、ウェアラブル・デバイスに適した小型、軽量でかつ柔軟性に優れた振動発電デバイスを実現します。圧電体をスプリング構造にすることで、人の動作に共振する低周波共振に対応しながらも、デバイスサイズの大幅な小型化を図ることが可能となり、その柔軟性により必ずしも共振現象によらない、人の動作による変形を利用した発電をも可能にする革新的な振動発電デバイスを実現します。 井上 憲司 株式会社Piezo Studio
  大橋 雄二 東北大学
バイオ燃料電池を搭載したウェアラブルヘルスケアデバイスの創成 環境や身体に安全な酵素を利用し、体液に含まれる糖分や乳酸から電力を取り出す“バイオ燃料電池”を開発します。さらに、その出力値をもとに体液中の成分をセンシングする自己駆動型ヘルスケアデバイスの開発を行います。これにより、アスリートの疲労管理や真夏時の熱中症の見守りなど、電池交換を不要とし、また、薄くて軽く装着感を感じさせない、ウェアラブルヘルスケアデバイスの実現を目指します。   小出 哲 株式会社タニタ
四反田 功 東京理科大学

PL(プロジェクトリーダー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー総評>

IoT関連技術のなかでも、近年、注目が高まっているウェアラブル・デバイスは、充電や電池交換の手間が普及の障害となっています。本研究開発テーマでは、環境発電技術の活用によるウェアラブル・デバイスの無給電化を目指しますが、その過程において、超小型、低コスト、軽量、フレキシブルな次世代環境発電技術の実現化技術を創成することにより、ウェアラブル・デバイスに限らず、広くIoT全般に関わる新たな産業創出の礎となる技術の確立を目指しています。

本研究開発テーマの推進のためには、環境発電技術に関する確固たるシーズを持つ大学などと、実装面での技術・経験に長けたデバイスメーカとの緊密な協力が必須となります。さらに、これら2者に加えて、ウェアラブル・デバイスの活用を目指す企業を研究開発体制に含めることが推奨されます。本テーマの短い公募期間の中で、テーマに合致した研究課題や推進体制を練り上げることは困難であったと思われますが、13件の応募をいただくことができました。提案には、環境光や人間のさまざまな動作、体液などを利用して発電する課題などが含まれていました。提案には含まれませんでしたが、体温を利用するなど、環境発電には他にもさまざまな可能性があります。本プログラムでは採択ができなかった技術についても、産学が連携した取り組みが、別途進められることを願っています。

審査にあたっては、産業界・アカデミアからなる全7名のアドバイザーの協力のもとに、書類選考と面接選考を行いました。応募いただいた提案はいずれも意欲的な研究でしたが、研究開発テーマ・目標・計画・研究開発体制の妥当性、産業創出のインパクト、採択課題全体のバランスなどの観点から慎重に審査を行い、最終的に4件の提案を採択させていただきました。残念ながら、今回は不採択とさせていただいた課題にも、素晴らしい可能性を含む提案がありましたことを、ここに特記させていただきます。

採択された研究課題については、研究開発チーム間の連携、情報共有を推進し、アドバイザーの先生方の支援も得て、テーマとしての成果最大化を図っていきます。また、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへの関心の高まりも視野に入れたデモンストレーションなどの実施も目指します。このプログラムを通して、環境発電技術の実現化技術の創成、ウェアラブル・デバイスをはじめとするIoT技術の進展と、新たな産業の創出、我が国の産業競争力の強化に貢献したいと思います。

戦略テーマ重点タイプ

研究開発テーマ:ナノレベルの空間分解能と識別感度を持つイオンセンサの実現に向けた技術開発
プログラムオフィサー:宮原 裕二 東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 教授

研究開発テーマ概要

半導体産業の分野では、ムーアの経験則によるトランジスタ微細化の限界が指摘され、微細化の極限追求と並行して多様化を指向した研究が行われています。その多様化の1つの方向として半導体デバイスとバイオ・化学との融合分野の研究領域が広がりつつあり、世界的に活発な研究が展開されています。半導体を用いたイオンセンサ(ISFET)の最初の研究は1970年にさかのぼり、その後実用化されて長らく汎用pHセンサとして使用されていましたが、2010年、ISFET型pHセンサを高密度にアレイ化したDNAシーケンサーが製品化され、半導体とDNAを融合したシステムとして注目を集めました。半導体技術を用いることにより、小型、高密度集積化などの特長を持ったイオンセンサが実現され、この特長を最大に活かすことで新たな応用が拓けることが期待されます。

本研究開発テーマでは上記の背景、方向性に沿った研究領域において「ナノレベルの空間分解能と識別の感度を持つイオンセンサ」に関する研究を推進します。測定対象として試料中に均一に存在するイオンのほか、生体分子の反応や細胞の応答により増減するイオン、あるいは局所的に生成、消費されるイオンなども対象に含め、測定対象に適したデバイスの構造・材料、反応スキームに関する研究開発を推進します。

日本の産業の強みであるエレクトロニクス、分析機器、化学、素材などの企業が特徴技術を持ち寄り、アカデミアと産業界の研究者が力を合わせて研究開発を行うことにより、医療・健康、生命科学、環境、食品、情報通信などの分野で革新的な機器・システムを創出し、この融合分野で学術、製品ともに国際競争力向上につながることが期待されます。

採択課題(3件)
課題名 概要 PL 企業責任者
研究責任者
標準CMOS集積回路とメムスプロセスによるスマート・イオンセンサ技術の開発 イオン信号に適した新しい集積回路技術を開発します。標準CMOS集積回路上にセンサ特有の構造をメムスプロセスで形成する際、両プロセスの間に存在するリソグラフィのギャップを自己整合プロセスにより解決します。分子認識部としてプローブを固定したビーズの3次元空間位置制御技術を開発します。スマート・イオンセンサに特化した汎用集積回路およびウィルスをフィールドで10分以内に検出する小型可搬型装置を開発します。   小切間 正彦 株式会社メムス・コア
中里 和郎 名古屋大学
CMOSセンサ技術とMEMS技術を融合した高精細イオンイメージセンサ開発 微小領域のイオンの挙動を可視化するため、CMOS技術とMEMS(微小電気機械システム)技術によりナノレベルの空間解像度とナノモーラレベルの検出感度を持つイオンイメージセンサ製作技術を確立します。ナノ材料や生体から放出されるイオンが、センサ表面に達するまでに横方向に拡散するのを防ぐためのインターフェースの開発を進めます。さらにイオンイメージセンサの信頼性の保証、およびそのための出荷検査の基準を検討し事業化への検討課題を明確にします。   水野 誠一郎 浜松ホトニクス株式会社
澤田 和明 豊橋技術科学大学
電子線検出によるイオン分布のナノイメージセンシングシステム イオン感応膜の電荷検出に集束電子線を用いることにより、ナノスケールの分解能を実現するとともに、細胞の単一イオンチャンネルをイメージング可能なイオンセンサシステムを実現することを目指します。本システムでは、集束電子線を用いるためナノメートルスケールの空間分解能を実現することが可能であり、センサの加工限界などの制限を受けないため、飛躍的な空間分解能の向上が期待できます。   小粥 啓子 株式会社アプコ
川田 善正 静岡大学

PL(プロジェクトリーダー):課題の取りまとめ役

<プログラムオフィサー総評>

半導体産業の分野では、トランジスタ微細化の極限追求と並行して多様化を指向した研究が行われており、その1つの方向として半導体デバイスとバイオ・化学との融合分野の研究領域が広がりつつあり、世界的に活発な研究が展開されています。本研究開発テーマでは、ナノ・マイクロエレクトロニクス技術の微細化、高密度集積化などの特長を活かし、ナノレベルの空間分解能と識別感度を有するイオンセンサの実現とその応用開発に関する基盤研究を推進します。異分野融合領域において、世界をリードし製品化を見据えた研究成果の創出と日本の産業競争力の強化に資することを目的としています。

今回の研究開発テーマの募集において8件の応募があり、さまざまなナノイオンセンサ技術とその応用について、幅広い層から大変興味深い研究提案をいただきました。提案は、半導体技術を用いたバイオ・化学専用の回路技術、高密度集積化イオンセンサ実現のためのデバイス構造・製作プロセス、選択性を付与するためのさまざまな材料および分子認識技術、疾病マーカー検出による医療応用、ヘルスケア応用、細胞の動態解析など、多岐にわたりました。

審査にあたっては、半導体技術分野、イオンセンサ・材料分野、バイオ・医療応用分野において高い学識と経験を持つ産業界・アカデミアからなる全7名のアドバイザーの協力のもとに、書類選考と面接選考を行いました。応募いただいた提案はいずれも意欲的な研究内容ばかりでした。その中で、本研究開発テーマの趣旨との整合性、研究目的、独創性、計画の妥当性、実現性などを備え、採択課題の間で相乗効果が期待でき、本研究開発テーマの目的を達成すると期待できる課題として、3件の提案を採択させていただきました。特に実用化に至る過程の具体性、企業との協力体制など本制度独特の観点も考慮いたしました。残念ながら、今回は不採択とさせていただいた課題にも、素晴らしい可能性を含む提案が多くありましたことを、ここに特記させていただきます。

採択された研究課題については、本研究開発テーマの目的達成を促進するために、各研究課題の研究計画、進捗状況や成果創出状況、実用化へ向けた取り組みなどをさまざまな観点からアドバイザーのご意見をいただきながら議論していただきます。また、研究開発チーム間の連携、情報共有を推進し、アドバイザーの先生方の支援も得て、テーマとしての成果最大化を図っていきます。企業、アカデミアの研究者が協力して、世界に先駆けて製品の世に送り出すことを念頭に置きながら、研究を進めていただくことになります。

エレクトロニクス、分析機器、化学、素材などの分野は日本が強い産業であり、このプログラムにより各研究課題を進展させ、ナノレベルの空間分解能と識別感度を持つイオンセンサの実現を通して、異分野融合領域における学術創成と市場開拓、および日本の産業の国際競争力の強化につなげたいと思います。

産業ニーズ対応タイプ

技術テーマ:コンパクト中性子源とその産業応用に向けた基盤技術の構築
プログラムオフィサー:吉沢 英樹 東京大学 物性研究所 附属中性子科学研究施設 教授

技術テーマ概要

日本では大型施設による放射光と中性子線の相補的利用により中性子線の特徴の理解が深められるにつれて、その産業利用への期待が大いに高まっています。中性子線の持つ高い透過力や軽元素の識別能力などの特徴は、産業利用の分野でも分析・解析ツールとして広く活用されるべきです。しかし、実験室で利用可能なX線発生源と比較して、中性子線の発生源は研究用原子炉や大型加速器であり、その利用機会は著しく制限されています。中性子線の産業利用の裾野が拡大し、日本の高い技術力・競争力の維持に貢献するためには、高輝度でコンパクトな中性子線源の開発と、その利用技術の高度化が不可欠なのです。

そこで本技術テーマでは、中性子線の産業利用に適した小型高輝度中性子線源から構成される分析解析システムの開発を目指して、その主構成要素であるコンパクト中性子源の基盤技術の確立と実証研究を推進します。

一方、測定・解析・分析技術としての中性子を含めた量子ビームの産業応用に対しては、多様なニーズが存在しています。例えば、イメージング技術と回折技術を駆使する技法の産業応用には、構造物検査、集合組織解析、複合材料解析、残留応力解析、リチウム電池や燃料電池の部材開発・動作環境解析、高分子材料開発などがあり、また、分析技術の応用としても、食品成分分析、多成分組成分析などと、多様な応用が想定されています。

そこで本技術テーマでは、具体的な測定対象、利用分野などを想定した上で、中性子線の特徴を活かした検出・可視化・分析システムの開発・実証研究を推進します。ここでは、コンパクト中性子源からの中性子線の制御・検出技術を高度化し、具体的な利用の用途に応じた計測・分析システムを構成する個々の構成要素の開発へと連なる基盤技術の開発・実証研究を取り上げます。

また研究の推進にあたっては、この制度の特徴である産業界と研究者との対話の場「産学共創の場」を活用することにより、産業界のニーズを常に共有し、研究者の基礎基盤研究に反映していくことで、世界をリードする独創的な基盤技術の構築を目指します。

採択課題(10件)
課題名 概要 研究責任者
小型定常中性子源を用いた中性子透過撮像 低速中性子は水分子によって強く散乱を受けるため、燃料電池内部の水の挙動を直接観察するのに適しています。しかし、利用場所が限られており、製品開発に必要な即時的利用が困難である、という問題があります。小型中性子源を用いた計測システムを燃料電池透視に限って高度化することで、製品開発において実用的に利用できるシステムの実現を目指します。特に、研究終了後に実用システムとできるよう配慮しながら研究を進めます。 清水 裕彦 名古屋大学
レーザー駆動中性子源の開発と高速ラジオグラフィへの応用 高出力レーザーを駆動源としたピコ秒、サブミリメートルの中性子源を開発するとともに、高速移動体や大型検体を対象とした時間分解中性子ラジオグラフィ法を開発します。中性子発生に関して複数の方式を対象に研究を進め、絞り込みを行います。平行して、時間分解2次元中性子画像検出器やターゲット連続供給装置を開発し撮像試験を行うことにより、レーザー駆動高速ラジオグラフィ装置開発に求められる技術仕様を明らかにします。 西村 博明 大阪大学
He-3代替位置敏感型中性子検出器の開発 He-3ガスは主要な中性子検出媒体であるが、昨今のHe-3ガスの価格高騰はすさまじく、その使用が難しくなりつつあります。本研究では、中性子検出媒体をHe-3から純国産技術で開発されたLiCAFシンチレータに置き換えた位置敏感型中性子検出器を開発することに主眼を置きます。とりわけLiCAFを微細化して透明樹脂中に分散させたTRUST LiCAFを用いて、高検出効率、高計数率特性、高いガンマ線弁別性能を有する位置敏感型中性子検出器の開発を目指します。 TRUST LiCAF:リチウムを主構成元素としてカルシウム、アルミニウムを含むフッ化物(LiCAF6)を透明樹脂中に分散した材料を用いたガンマ線分別能を持つ中性子検出器。 瓜谷 章 名古屋大学
医療用加速器中性子源技術の産業利用への応用に関する研究 医療分野(BNCT:ホウ素中性子捕捉療法)で急速に進展している加速器中性子源技術の産業分野への応用を図ります。筑波大学を中心に開発したリニアックベースBNCT用加速器中性子源装置に対して、熱外中性子を減速・熱化する2次モデレータ、中性子強度を増強するための陽子ビーム輸送技術などの開発を行い、同装置で熱中性子を発生する環境を整備します。 この熱中性子ビームを小角散乱研究グループなどに提供し、これらの研究開発を支援します。 熊田 博明 筑波大学
中性子フラットパネルディテクタの研究開発 ガラス基板を利用した微細加工技術を用いて高効率・大面積の中性子フラットパネルディテクタを開発し、中性子ディジタルラジオグラフィの基盤技術を確立します。微細構造を持つ固体ホウ素コンバータにより、高い中性子検出効率を得るとともに、信号読み出しには新規気体電子増倍器と薄膜トランジスタ(TFT)を組み合わせた大面積・高効率読み出し方式を用い、軽量・薄型かつ低ガンマ線感度の高感度中性子イメージング用検出器を実現します。 高橋 浩之 東京大学
安全で取扱容易なコンパクト中性子源のためのターゲット・減速体・ビーム輸送系の研究開発 ベリリウム核反応を用いた中性子発生ターゲットのブリスタリング破壊を防ぐ新規な水素拡散性基材を有する構造に加え、常温接合などの直接接合技術の開発を行い低放射化と長寿命化を実現すると共に、メチルベンゼン系溶媒を用いた冷中性子源と光学素子の開発により安全性が高く取り扱いが容易でかつ実用的な冷中性子源強度を実現し、産業界で導入可能なコンパクト中性子源の基礎技術の確立を目指します。 山形 豊 理化学研究所
慣性静電閉じ込め式可搬型コンパクト熱中性子源の開発 慣性静電閉じ込め式(IEC)中性子源と反射材・モデレータをパッケージ化し、コンパクトな可搬型熱中性子源を開発します。IEC中性子源は装置構成が単純なため、操作が容易かつ長寿命な点で他の中性子源より優れています。IEC中性子源の小型・高出力化と核融合中性子の熱化のための反射材・モデレータの最適化に取り組むとともに、中性子測定・分析システムを組み合わせた将来の商品化に向けた技術的課題を明らかにします。 長谷川 純 東京工業大学
産業用コンパクト中性子源陽子加速器システムの小型化開発 産業界が導入しやすいエントリータイプの小型中性子源の早期商品化に向けた課題解決として、陽子線ベースの加速器駆動型中性子源に用いられる高周波四重極(RFQ)線形加速器の小型化、省電力化、高強度化、軽量化、低廉化を実現するために、運転周波数の高周波数化と独自の特許技術を融合した技術開発に装置不要時の廃棄処分方法も考慮しながら取り組み、産学連携により5年後の商品化を目指します。 林崎 規託 東京工業大学
複合材料の品質管理を目指した小型中性子源小角散乱イメージング装置の開発 小型中性子源において、小角散乱とイメージングを融合した構造評価装置を開発します。ミクロスケールの構造に高い評価感度を有する小角散乱を複合材料の各場所で網羅的に計測して、その構造情報を透視画像に上書き(マッピング)することで「小角散乱イメージング法」とする計画です。その結果、タイヤなどの繊維強化プラスチック、鉄筋コンクリート、金属基複合材料の非破壊検査装置を実現します。特に中性子が得意とする水(水素)の検出に威力を発揮する新手法です。 小泉 智 茨城大学
レーザー駆動指向性中性子の発生・制御及び検出に関する基盤技術開発 高い透過性・直進性を有する中性子線はその特徴の反面、屈折や反射によるビームのハンドリングに困難があります。これを発生時から指向性を付与することにより、中性子の利用効率を向上させ、可用性を高めることができます。本研究では、高繰り返し高出力超短パルスレーザを用いた指向性を有するパルス高速中性子の発生・制御、およびその計測に関する技術開発を行います。さらに、自動車エンジンなどの透過画像計測やリチウム電池電極内のナノスケール現象のその場計測などへの応用に向けた基盤技術開発を行います。 花山 良平 光産業創成大学院大学

<プログラムオフィサー総評>

大型研究施設における中性子線の利用が広がるにつれて、その産業利用への期待が高まっています。しかし実験室で利用可能な発生装置が存在するX線の場合と異なり、中性子線には類似の小型発生装置が存在しないため、その利用機会が著しく限られています。そこで本技術テーマでは実験室レベルで利用可能なコンパクト中性子発生源と計測システムを開発して中性子線の利用をX線並みに普及させ、分析・解析手段として中性子線とX線の相補的利用が大学や企業で日常的に利用できる状況を現実のものとし、ひいては日本の産業競争力の維持・強化に資することを目指します。なお本格的に中性子線の産業利用を広げるためには小型中性子発生源の開発に加えて、検出・可視化・分析技術が組み合わされた一体型の測定・分析システムの確立が必須です。そのため本技術テーマでは小型中性子発生源から検出器まで多様な要素技術の開発提案を受け入れることにしました。

平成27年度から本技術テーマが開始されるにあたり研究課題を公募したところ、38件のご応募をいただきました。応募していただいた研究課題は、公募の趣旨をよく反映して複数の方式に基づく小型中性子発生源の研究開発から、中性子のエネルギー変換に関わるモデレータの開発、非ヘリウム3型検出器の開発まで、非常に多岐にわたっていました。審査に当たっては多様な申請課題の専門性をカバーするために、産業界・アカデミアからなる全7名のアドバイザーの協力のもとに、書類選考と面接選考を行いました。応募いただいた提案はいずれも魅力的な研究でしたが、産業利用を視野に入れた小型計測システムの開発に資する要素技術の研究開発提案であることを重視しました。特に本技術テーマ終了後、一体型計測システムを構成する可能性の高い要素技術の提案課題を優先的に採択しています。多様な要素技術を開発する必要があるため採択課題数を10件程度に制限して審査に臨みました。そのため不本意ながら不採択とさせていただいた課題にも、優れた研究提案が多数含まれていたことを、ここに特記させていただきます。

なお、本技術テーマの特殊性として、本技術テーマで採択された研究課題の提案する各種の要素技術の開発を成功させるためには、既存の小型中性子源でビームを用いた要素技術の評価・実証試験が不可欠です。既に稼働中の小型加速器中性子施設を保有されている国内の研究機関の先生方には、本技術テーマの研究ネットワークのハブとしてご協力いただくことを期待しております。また、本技術テーマの目的達成のために運営する「産学共創の場」において、採択された各研究課題の間の連携、および施設ハブと課題間の連携を強力に促進していく予定です。各研究者には、他の研究課題の研究計画を相互に把握し密接な研究協力を行い、また産業界からの要望を取り入れながら、研究を進めていただくことになります。

本プログラムを通して、実用的な一体型小型中性子計測システムの設計指針を構築し、量子ビームの1つである中性子線の幅広い利用の促進につなげたいと思います。