資料1

戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATOタイプ)
(平成16年度発足)

研究領域「複雑系生命」研究総括

金子 邦彦 氏
(東京大学 大学院総合文化研究科 教授)

■ 研究領域「複雑系生命」の概要
 この50年、分子生物学は数々の成果をもたらし、生命の各要素過程の詳細が次々と明らかにされてきた。また、重要な機能と関係する遺伝子を見出し、さらにはゲノム、プロテオーム(細胞内の総タンパク質の総称)など膨大なデータベースが作成され、その結果各要素を組み合わせた機械的な生命観が形成されてきた。ところが、細胞内の素過程である分子反応では、例えばタンパク質の合成量は同一遺伝子の細胞間でも一桁違うなどのように大きな揺らぎを伴う。さらには外部環境にも揺らぎがある。このように揺らぎが膨大に絡みあうにもかかわらず、生物が自らを柔軟に変化させて、複製・適応・進化を示し、総体としてうまく働く仕組みについては、いまだに明らかになっていない。
 本研究領域では、(1)個々の要素と全体の間のダイナミックな相互関係として生命システムを理解する「動的複雑系の理論」と、(2)生命システムにおける自己複製や環境に適応した生命の維持等の機能に関して、人工的に設定した実験系を構築し、普遍的性質を探る「定量的構成生物学」という2つの方法論を用い、理論と実験を密接に関連させながら、細胞レベル・多細胞レベル・共生系レベルといった各階層を対象にしつつ、相互の関係を明らかにし、生命システムの普遍的性質の定量的理解を目指す。
 具体的には、人工的な自己複製系を構築し、細胞が揺らぎの中で自己複製する基本原理を明らかにする。大腸菌や粘菌等を用いたモデルにおける遺伝子発現の計測等を行うことにより、細胞が揺らぎを利用して環境に適応・進化する仕組みや高次構造(多細胞系、共生)を作る仕組みを探求する。さらに、これらの系についての普遍統計法則のモデル構築といった理論的探究を行う。
 本研究領域においては、生命システムの柔軟性をもとにしたバイオデバイス・システムの基盤創成に貢献することが期待される。これにより、戦略目標「非侵襲性医療システムの実現のためのナノバイオロジーを活用した機能性材料・システムの創製」に資するものと期待される。
■ 研究総括 金子邦彦氏の略歴等
1. 氏名(現職) 金子 邦彦(かねこ くにひこ)
(東京大学大学院総合文化研究科 教授)48歳

2. 略歴
昭和54年 3月東京大学理学部物理学科卒業
昭和56年 3月東京大学大学院理学系研究科修士課程修了
昭和59年 3月東京大学大学院理学系研究科博士課程修了(理学博士)
昭和59年 4月〜10月日本学術振興会 研究員
昭和59年10月〜60年3月Los Alamos National Laboratory, posdoctoral fellow
昭和60年 4月〜平成2年7月東京大学教養学部物理教室  助手
平成 2年 8月〜6年8月東京大学教養学部基礎科学科 助教授
平成 6年 8月〜東京大学教養学部基礎科学科 教授

この間
昭和62年 9月〜63年7月 University of Illionis at Urbana-Champaign 文部省在外研究員
昭和63年 8月〜平成元年9月 Los Alamos National Laboratory, Stanislaw Ulam Visiting Fellow
平成11年12月〜12年1月 Freiburg大学客員教授
平成14年 4月〜 大阪大学生命機能研究科客員教授
平成16年 7月〜 SantaFe複雑系研究所 External Faculty

3. 研究分野
理論物理学(非線形ダイナミクス、カオス、非平衡現象論)、複雑系、理論生物学、構成的生物学

4. 学会活動等
Oji International Workshop on "Complex Systems ----from Complex Dynamical Systems to Sciences of Artificial Reality"( April 5 - 8, 1993)Search for Logic of Life as Complex Systems: Constructive, Dynamic, and Developmental Approach. (27-28, 2001, at Tokyo)などの国際会議 組織委員長

学術誌 adiviory board, editorial board:
Physica D (1992-1996), Chaos (1991-), Int. J. of Modern Physics C (1989-1993),Int.J. of Bifurcation and Chaos (1990-), Artificial Life (1994-), Complexity (1995-) J.Theor.Biology (2004-) など

5. 業績等
 時空カオス、パターン動力学の基本モデルとしてCoupled Map Lattice(CML)を導入、時空間欠性などを予言、実験で検証される。CMLは物理学の1分野として認められている(Prog.Theor.Phys.84,85,PhysicaD86,89,90,Phys.Rev.Lett. 89,93,97、編著 Theory and Applications of Coupled Map Lattice (Wiley 1992)、ChaosCML 特集号(1992)など)。ついで大自由度カオス、カオスネットワークの基本モデルとしてGlobally Coupled Mapを提唱、特にそこで発見したクラスター化、階層化、カオス的遍歴、集団運動は大自由度系の基本概念となる。(PhysicaD90,91,92.94,98、Phys. Rev .Lett.89,90,97,98,99,2000等。Chaos"ChaoticItinerancy特集号"(2003)。以上は津田一郎との共著"Complex Systems:Chaos and Beyond" (Springer2000)でも解説。
 90年頃より生物系の力学系サイドからの研究を開始。92年、DNA配列が長距離相関(1/fゆらぎ)を持つことを理論的に予想、実験データで検証(Europhys.lett1992;Dr.Liと)。93年頃、大阪大学四方哲也氏とともに複雑系生命科学を提唱し、以降、理論と実験が連携して研究を進める。特に相互作用力学系に基づく自発的な細胞分化理論を提唱し、発生過程の安定性と分化の不可逆性を示す(四方氏、古澤力氏と;B.Math.Biol. 1997、J,Theor.Biol.1999-2003, PhysRevLett.2000)。さらに表現型可塑性に基づく種分化理論を提唱 (Proc. Roy. Soc.London 2000等)。物理の揺動応答理論に基づく表現型ゆらぎと進化速度の理論を提唱し、実験で確認(Proc.Nat.Acad.Sci.USA2003;佐藤勝彦氏らと)。少数分子の重要性による遺伝情報の起源理論を提唱(J.TheorBiol2002,Phys.Rev.E2003)、複製系実験で(部分的に)確認(四方氏らと)。反応ネットワークが再帰的に増えるために細胞内の多数の成分の量の間に普遍特性(巾乗則)があることを示し、遺伝子発現実験データで検証(古澤氏と:Phys.Rev.Lett.2003)など。
 これらの研究成果は「生命とは何か--複雑系生命論序説」(東大出版会)に解説されている。上記の研究に伴って、生命システムの基本性質を提供しうる力学系の基礎研究も進めている(PhysicaD 1994-2004,PhysRevLett 2001,2004など)。

受賞等
昭和63年Stanislaw Ulam フェロー
平成 4年西宮湯川賞
平成 7年IBM 科学賞

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This page updated on September 30, 2004

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