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別添

Healthcare Brainチャレンジ入選アイデアの発表

内閣府 革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)「脳情報の可視化と制御による活力溢れる生活の実現」(プログラム・マネージャー:山川 義徳)は、「Healthcare Brainチャレンジ」において、機能性食品や植物由来成分、運動やワークショップ、ウェアラブル機器を活用した取り組み12件を入選アイデアとして採択しました。

「Healthcare Brainチャレンジ」は、脳の健康促進の観点から、非医療分野の製品やサービスに関する革新的なアイデアを幅広く募集する取り組みです。コンテスト初年度である2015年度は、49件の応募があり、12件の提案を入選アイデアとして採択しました。

具体的には、機能性食品や植物由来成分としては、乳酸菌、キサントフィル、ビール苦味成分、アロマオイル、ユズ精油などを、運動やワークショップとしては、ストレッチや卓球、アートセラピー、健康プログラムなどを、ウェアラブル機器としては、ヘッドマウントディスプレイ、姿勢センサー、カラーレンズなどを活用する取り組みを入選アイデアとしました。

採択された入選アイデアの一部は、理化学研究所、京都大学、東京大学の施設で実際に脳の状態を計測する実証トライアルを行い、その提案内容が脳の健康に与える影響について科学的観点から評価します。実証トライアルの結果については、来年2月に開催するシンポジウムで公開する予定です。

■ Healthcare Brainチャレンジ(2015年度)入選提案

審査有識者により、アイデアの革新性や実績、実証トライアルの実現可能性などの点で審査を行い、機能性食品やアロマ、運動プログラムやアートセラピー、ウェアラブル機器を活用した取り組み12件を入選アイデアとして採択しました。

<機能性食品・植物由来成分関連>

<運動・ワークショップ関連>

<ウェアラブル機器関連>

(審査有識者一覧)

審査委員長 渡辺 恭良(理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センター センター長)
審査委員 荒牧 勇(中京大学 スポーツ科学部 教授)
根本 清貴(筑波大学 医学医療系臨床医学域 講師)
朴 啓彰(高知工科大学 地域交通医学・社会脳研究室 室長)
萩原 一平(株式会社NTTデータ経営研究所 ニューロイノベーションユニット センター長)
向林 隆(株式会社アイティーファーム 執行役員)

■ Healthcare Brainチャレンジ(2015年度)入選アイデアの紹介

以下、審査コメントと共に以下に各入選アイデアを紹介いたします。

<機能性食品・植物由来成分関連>

パプリカキサントフィルの摂取は、赤血球の酸素運搬機能を高め、高齢者の脳機能の維持・向上に役立つ (江崎グリコ株式会社・一般財団法人生産開発科学研究所)

(審査員コメント)

  • パプリカキサントフィルの一定期間の摂取は、運動機能ばかりでなく、高齢者の脳機能の維持・向上に役立つ可能性が高く、認知機能などのタスクでこの効能を示すことができると期待される。(渡辺)
  • パプリカキサントフィルの摂取により赤血球の酸素運搬機能を高め、脳機能を向上させるというコンセプトは面白い。(荒牧)
  • パプリカキサントフィルによる赤血球の酸素運搬機能亢進作用は、アスリートの運動機能向上に役立つことは検証されているが、脳機能向上は未知である。しかし、この着眼点はユニークである。脳疾患に対する高圧酸素療法との併用効果の可能性がある。(朴)
  • パプリカキサントフィルの摂取は、赤血球の酸素運搬機能を高め、高齢者の脳機能の維持・向上に役立つというはっきりとした仮説があり、それを実証するための実験デザインになっているため、実現可能性が高いと考える。(根本)
  • 未検証の仮設ベースの研究ではありチャレンジングなテーマ設定であるが、既に商品化されている研究の延長線上であり、高齢者の認知機能向上という社会的に大きな課題に対する効果が期待される。(萩原)
  • 機能食品の開発につながる。根拠がシンプルかつ明確であり、効果が実証される可能性が高い。(向林)
ビール苦味成分イソフムロンによる生活習慣病予防を通じた認知機能改善効果 (キリン株式会社)

(審査員コメント)

  • イソフムロンの生活習慣病改善作用を介して認知機能の改善につながるという観点は他の物質でもすでに知られた連関であり、本研究で結果を示すことができると考えられる。(渡辺)
  • イソフムロンは、既に高血糖・脂質代謝異常の改善が動物で、抗肥満効果がヒトで確認されている。脳計測データが加味されることで、本成分を利用した機能性食品開発が一層推進されると考えられる。(朴)
  • イソフムロンの摂取により、生活習慣病改善作用を通じて認知機能に変化が起こるかという観点は興味深い。イソフムロンは抗肥満作用があることは示されており、実験デザインもよく練られている。(根本)
  • 生活習慣病予防を通じて認知機能を改善する食習慣という提案コンセプトは現在社会が抱えている大きな課題解決に寄与できる可能性があり、動物実験中心ではあるが、過去の研究成果も活用し成果が期待できる。(萩原)
バランス活性乳酸菌SBL88による脳健康効果の検証 (サッポロビール株式会社)

(審査員コメント)

  • バランス活性乳酸菌SBL88による睡眠改善作用を介した脳機能改善効果を脳計測などによって検証することは非常に興味深く、勝算が高い。(渡辺)
  • サイコバイオティクス研究。乳酸菌により、睡眠の質を高め脳を健康にするというコンセプトは面白い。試料について睡眠や脳内セロトニンとの関係に関する実績がある。(荒牧)
  • 乳酸菌SBL88による抗アレルギー・睡眠改善作用などの生理活性効果は長年の研究より蓄積されている。今回、睡眠改善作用を介した脳機能改善を脳計測などによって検証する試みは、大変ユニークである。腸脳相関のメカニズムの一端を説明できるかもしれない。(朴)
  • 睡眠の重要性は社会の高ストレス化、多様化などによって年々高まっており、その改善が脳にどのように影響するかは価値の高い研究テーマであり、成果が期待される。(萩原)
アロマセラピーによる認知症予防メカニズムの解明 (鳥取大学 医学部保健学科 生体制御学講座)

(審査員コメント)

  • アロマセラピーが認知症予防になるという観点はリーズナブルである。しかし、ここに提示されたアロマ成分の新規性については疑問を否めない。(渡辺)
  • 認知症は嗅覚障害が早期から出ることから、嗅覚の刺激により認知機能が維持できることが実証できるならば、そのインパクトは大きい。実験デザインも実現可能性が高いと考える。(根本)
  • 認知症については決定的な治療方法がない現在、香りによる認知症予防効果に期待する。とりわけ、香りの効能についてはさまざまな効果が期待される一方、脳科学的なエビデンスが少ないため、しっかりとした検証が望まれる。(萩原)
  • なぜこのアロマを選択したのか。なぜ混合するのか。脳活動との相関を測定するのであれば種類を増やし、混合は止めるべきでは?事業的には秘密のレシピ開発を目指すべき。(向林)
ユズ精油の嗅覚刺激が脳の認知機能に及ぼす影響 (公益社団法人 日本アロマ環境協会)

(審査員コメント)

  • これまで、レモンなどの香りが脳に及ぼす影響などの報告があるが、ユズ精油に関しても、非常に興味深く魅力的な取り組みである。(渡辺)
  • ユズの香りを嗅ぐだけで脳に良い効果が出れば面白い。脳計測だけでなく、嗅覚検査、認知機能検査、POMS検査を同時に行う計画は良い。アロマを日常利用していない被験者で実施すると良い。(荒牧)
  • 和精油の活性化は、魅力的なテーマである。特にユズは、オレンジ・スイートの生産量と比べると圧倒的に少ないが、日本では、高知県・愛媛県など四国エリアで生産されている。四国の産業振興にも役立つ可能性がある。(朴)

<運動・ワークショップ関連>

オフィスでの定期的な軽運動が脳へ及ぼす効果検証 (コクヨ株式会社)

(審査員コメント)

  • 近年、オフィスでもこのようなスペースを考慮する企業も増えてきており、このようなストレッチなどの取り組みの脳機能から見たエビデンスは貴重である。(渡辺)
  • 運動介入により認知機能向上効果を狙っている。オフィス内に軽運動環境を構築するサービスは実現性が高そうである。(荒牧)
  • オフィスという限られた空間内での汗をかかない脳トレ用ストレッチ運動の提案であり、このためにリフレッシュコーナー設置する必要がある。オフィス内の限定リフォームのニーズは大きく、市場展望性は高いと考える。(朴)
  • 軽強度運動が認知機能を高めることは既に実証されており、それを勤務時間中に取り入れるという発想は斬新である。実現可能性も高い。(根本)
卓球による脳への刺激が認知機能を格段に向上する (株式会社タマス)

(審査員コメント)

  • 卓球は確かに他の球技よりもより早い反射機能が必須であり、本提案の企業ならではのものである。また、卓球は高齢者など非常に幅広い層に適用できるので、認知症予防セラピーの開発には寄与する可能性が高い。(渡辺)
  • 卓球という特定スポーツによる認知機能向上を狙う。特に運動視に関わる領域が発達する可能性があるが、それ以外の脳領域への効果があれば面白い。場所をそれほどとらず、誰でもできるので普及させやすい。(荒牧)
  • 運動による脳機能改善効果は枚挙に暇がないが、その中でも卓球は白眉である。手軽さ、動体認知の鍛錬、瞬時のマルチタスク運動、コストパフォーマンスの良さがその理由であり、脳のための運動を普及させるためには、卓球が最善の提案である。(朴)
  • 卓球は素早い反射神経が必要であるが動きは単純で解析しやすい。認知機能に好影響するとすれば、その原因となる運動要素の抽出も比較的容易であると推測する。新しい認知症予防セラピーの開発につながる可能性がある。(向林)
美しい脳プロジェクト「脳のいきいき健康教室」 (株式会社ドクタープラネッツ)

(審査員コメント)

  • さまざまなツールを活用して脳の活性化を実施し、効果の計測により評価するシステム的なプログラムは汎用性が高く、効果が期待される。ただ、これらの効果を検証するためには、詳細にマトリックスを考慮したプログラムが求められる。(渡辺)
  • 認知機能を高めるプログラムのパッケージで脳を活性化させる狙い。1カ月の介入期間の中でどこまで実施するかの検討は必要である。(荒牧)
  • 認知症学会の研究会で認定された構成ツールを用いて、認知症短期集中リハビリ加算プログラムとして普及を目指す「脳のいきいき健康教室」は、一般社団法人や大学研究室との連携も構築できていて、実現性が高い。(朴)
  • 既に商品・サービスとして開発されているものの実証研究であり、実現可能性が高い。(根本)
  • 脳の活性化をさまざまなツールを活用して実施、計測、評価するシステム的なプログラムは汎用性が高く、効果が期待される。ただし、限られた期間でこれらの効果を検証するためには、さらなる詳細の実証プログラムの検討が求められる。(萩原)
ストレス軽減を目指した「臨床美術」プログラムの脳機能の活性化に関わる検証 (凸版印刷株式会社)

(審査員コメント)

  • アート、特に、絵画がヒト脳に与える効果などは研究されてきたが、「臨床美術」プログラムの脳機能の活性化については、いまだほとんど研究がされていないことから、脳機能計測によるエビデンスが示せれば、その波及効果は大きい。(渡辺)
  • 臨床美術の脳への効果を調べる狙いは斬新である。現場への導入実績も多数ある。具体的な脳への効果が可視化できれば面白い。(荒牧)
  • 既に実用化されているプログラムが脳機能画像にどう影響するかを評価するという点で目的が明確であり、実現可能性が高い。(根本)
  • アートセラピーは認知症の改善などで経験的に効果があるといわれているが、脳科学的なアプローチによる実証はほとんど行われていない。また、芸術に関する脳機能、システム的な活動の理解はさまざまな分野においてその成果の活用が可能なため、その実証に期待する。(萩原)
  • 一般に精神に良い影響があると考えられている一方で、明確なエビデンスもない行動の効果を定量的に観察することは有意義である。効果が実証されればいずれ機序が解明され、さらに効率的なセラピーあるいは癒しグッズの開発につながる可能性がある。(向林)

<ウェアラブル機器関連>

ウェアラブルデバイスにより身体の歪みを正すことで集中力を向上させる! (株式会社Sassor)

(審査員コメント)

  • 身体の歪み矯正により、自閉症まで改善したという米国のカリスマ整体師などが知られているが、本提案のデバイスで身体の歪みを矯正し集中力を上げることは十分勝算がある。(渡辺)
  • 体幹の歪みをベルト装着のジャイロセンサーで感知して、歪みを知らせ修復させることで、健康と脳活性化を図る試みであり、非常に斬新なアイデアである。(朴)
  • 効果があれば新しいでデバイスならびに健康管理アドバイスなどのサービスが事業化できる。良い姿勢が精神に影響を与えるのか否か興味深いところである。(根本)
  • 身体のゆがみについては、いろいろな治療方法などが実用化されているが、いずれも効果は被験者の実感であり、科学的に証明されているものはあまりないと推測される。したがって、一定の効果が科学的に検証できれば、その価値は高い。ただし、脳波では集中力、ストレスなどの結果しか分からず、MRIなどによる脳科学的因果関係の立証までも視野に入れられれば興味深い。(萩原)
身体エクストラパーツのイメージトレーニングによる脳活動の変化 (セイコーエプソン株式会社)

(審査員コメント)

  • 道具使いで脳活動領域が広がるという入来博士たちの仕事も視野に入れ、このようなエクストラパーツのイメージングトレーニングによる脳活動変化は非常に興味深い。(渡辺)
  • 将来の仮想現実では、身体に装着したエクストラパーツを意思だけで制御可能とする要望が高まると予想される。よって、それを可能ならしめるイメージトレーニング法の確立が必須であり、脳計測技術との連携が渇望される。(朴)
  • エクストラパーツという発想は興味深く、実際にHMDがあることから、トライする価値は十分にあると考える。提案そのものは、タスクfMRIを考えているが、実証では、安静時fMRIを用いるため、実験前後での安静時fMRIで運動野の変化を見るといった工夫が必要だろう。(根本)
  • 身体エクストラパーツのイメージトレーニングというのは、人間の運動能力の拡張という観点で興味深く、当然脳との関係が重要であることから、成果に期待する。ただし、実験の組み方が重要であり、さらなる詳細検討が必要である。(萩原)
  • 人間が有しない可動部分を含むマンマシンインターフェースの開発につながることが期待できる。短期に収束させるには学習パターンの最適化が必要であろう。(向林)
女性の悩みを軽減するピンクレンズのメガネで脳も健康に!! (東海光学株式会社)

(審査員コメント)

  • 安全性が担保されれば、興味深い試みである。さまざまな色療法もなされているが、常時着けているレンズであれば、例えば食べ物などの色合いが失われたりする副作用的なものも十分に考慮する必要がある。(渡辺)
  • 色による脳への鎮静効果に着眼している点が斬新。被験者が実際にどの程度メガネを着用したかをチェックする工夫が必要である。(荒牧)
  • 紫外線カットのためにサングラスを使用するが、特殊ピンクレンズによる鎮静効果や脳機能向上効果は、男女問わず色眼鏡産業の新たな市場開拓につながる。(朴)
  • 更年期や月経前症候群で悩んでいる女性が多い中、メガネでそれらの症状が和らぐのであれば、インパクトは大きい。脳の何が変化するのかの仮説はもう少し検証する必要がある。(根本)
  • 効果が実証されれば機能メガネレンズの事業につながる。他の色、男女別の効果などが判明すればさらなる商品の開発につながる。(向林)

■ 実証トライアルに向けた取り組み

入選提案の一部は、今後、実証トライアルを進めます。その結果については、2月に開催する本プログラムの公開シンポジウムにて発表を予定しています。

実証トライアルは、提案企業の責任において各提案を実施すると共に、その前後に理化学研究所、京都大学、東京大学の協力を得て、MRIによる脳計測を通じて、脳の構造から萎縮度などを可視化するVBM(Voxel-based morphometry)、脳の神経線維の太さを定量化する拡散MRI、安静時の脳活動をパターン化する安静時機能的MRIといった脳情報の見える化を行い、それらによる多面的な評価を行います。これら最先端の研究現場で使われてきた手法をオープンに利用できる初めての試みです。

■ 参考情報

Healthcare Brainチャレンジ(2015年度)募集要領(今年度は募集を終了しております)

1.募集期間平成27年7月29日(水)~8月31日(月)午後6時
2.提案申込ホームページより申し込み
3.書類選考 書類審査を行い、優れた提案(10~15件程度)はホームページなどで入選提案として公表します。
4.実証トライアル 入選提案の一部(3~5件程度)は、実証活動と共に脳情報の計測、解析・評価を行います(9月~1月頃を予定)。
5.表彰 実証トライアルの結果に基づき、公開シンポジウムで表彰します(2月頃を予定)。