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別紙1

平成27年度 新規プロジェクトの概要一覧

「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域

【研究開発プロジェクト】 実施期間:原則3年、研究開発費:数百万円〜30百万円程度/年

プロジェクト名 研究代表者
所属・役職
概要 研究開発に協力する関与者
集合的幸福の概念構築と多世代共創の効果検証
内田 由紀子
京都大学 こころの未来研究センター
特定准教授
地域共同体が衰退しつつある現代日本社会においては、人口減少や高齢化に加え、自他のつながりの希薄化や世代間交流の断裂が、幸福感低下を招いている。地域社会のwell−beingの実現に向け、個人の幸福を追求するだけではない、新たな幸福度の考え方が求められている。 本プロジェクトでは、個人レベルと地域レベルを組み合わせた「集合的幸福」の概念を新たに構築し、測定ツールを開発する。また、集合的幸福と、世代間あるいは地域内外におけるソーシャルキャピタルやシェアド・リアリティ(価値や経験の蓄積と共有)との関係を明らかにする。それらを基に、持続可能な地域の実現に向けての多世代共創の効果を検証するとともに、さまざまな地域で活用可能な多世代共創を促す実践プログラムの開発を産官学民連携で取り組む。
  • 京都大学 フィールド科学教育研究センター
  • 大宮南地域里力再生協議会
  • つねよし百貨店
  • NPO法人ミラツク
  • アミタホールディングス株式会社
  • 株式会社ウエダ本社
ほか
羊と共に多世代が地域の資源を活かす場の創生
金藤 克也
一般社団法人 さとうみファーム
代表理事
東日本大震災の被災地の中には過疎高齢化が加速し、一次産業を中心とした地域の主要産業の衰退や若い世代の流出が大きな問題となっている地域がある。復興支援策によりさまざまな取り組みがなされているものの、一次産業の後継者不足の解消や若い世代に魅力ある雇用の創出には至っておらず、新たな視点の取り組みが求められている。 本プロジェクトでは、羊の牧場を核として地域の人々が協働し、高齢者の有する伝統技術や主産業の問題を新たな製品開発に活かす取り組みを宮城県南三陸町で行う。これらを通じて多様な雇用を創出し、子どもから高齢者、障害者など、多世代・多様な人々が役割を持ってコミュニティに参画し、自然との共生を図りながら新たな伝統や技術を生み出していく、持続可能な地域のモデル構築を目指す。
  • 宮城大学 食産学部
  • 宮城大学 事業構想学部
  • 帝京科学大学 生命環境学部
分散型水管理を通した、風かおり、緑かがやく、あまみず社会の構築
島谷 幸宏
九州大学 大学院工学研究院
教授
現在の集中型水管理システムは効率的である一方、用途目的ごとに分断され、管理も縦割となっている。そのため、豪雨や洪水などのリスクに対し、総合的な対応が困難である。また、水管理システムは生活者の目に見えないため、人々の関心が向かず、社会全体として水管理の問題が顕在化しにくい環境となっている。 本プロジェクトは、治水・利水・環境・暮らしなどを見据えた包括的な水循環が存在する「あまみず社会」を提案し、福岡県樋井川流域において、水を軸としたコミュニティの再構築を目指す。現在の水管理システムを補完する分散型のサブシステムとして、雨水を貯留し、地下へ浸透させる取り組みを流域の多世代多様なステークホルダーにより実施する。雨水を貯め、利用する過程で人々の水管理に対する意識を育むともに、流域内の豊かな生態系の再生にも取り組む。
  • 九州産業大学 工学部
  • 東京大学 大学院新領域創成科学研究科
  • 福岡県建築士協会まちづくり委員会
ほか
ジェネラティビティで紡ぐ重層的な地域多世代共助システムの開発
藤原 佳典
地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター
東京都健康長寿医療センター研究所
研究部長
全国の市町村では、多様で複雑化した子育て世代と増加する中高年世代の生活課題を支援する資源や人材の確保が課題となっている。しかし、これらが進まない背景には、縦割の行政施策や、自己世代の利益のみを優先しようとする潜在的な世代間対立がある。 本プロジェクトでは、次世代に向けた価値や文化を生み出し、つないでいく、「ジェネラティビティ」の意識を醸成し、子どもの健やかな成長の喜びを全世代が共有できるまちの実現を目指す。具体的には、日常的な声かけなどによる緩やかなサポートネットワークの形成、子育て支援と高齢者の生活支援をマッチングするシステムの開発、多世代交流プログラム開発による社会参加支援、生活に困窮する子育て世帯への就労・学習支援、これら4層から成る地域多世代共助システムの開発に取り組む。
  • 日本大学 法学部
  • 桜美林大学 大学院老年学研究科
  • 東邦大学 看護学部
  • 北区役所
  • 和光市保健福祉部
  • 株式会社AsMama
未来の暮らし方を育む泉の創造
古川 柳蔵
東北大学 大学院環境科学研究科
准教授
今後益々厳しくなるであろう地球環境制約や、少子高齢化などの社会的制約の中で、持続可能かつ心豊かな社会を実現するためには、経済成長や暮らしの利便性を追求する従来の考え方ではなく、制約を踏まえた新たなライフスタイルの創造と移行が求められる。 本プロジェクトでは、制約条件が異なる4地域をモデル地域として、地域に適した未来のライフスタイルを創出する基盤をそれぞれ構築する。具体的には、現在90歳前後の高齢者へヒアリングを行い、戦前の厳しい制約の中で豊かさを生み出す価値や地域らしさを抽出する。それらを基に、新しいライフスタイルをバックキャスト思考によりデザインする。また、描いた新しいライフスタイルを多世代共創により具現化し、浸透させるための方法論の構築を目指す。
  • 北陸先端科学技術大学院大学 サービスサイエンス研究センター
  • 立命館大学 情報理工学部 情報コミュニケーション学科
  • 大阪大学 産業科学研究所
ほか

【プロジェクト企画調査】 実施期間:半年、企画調査費:3百万円以下

企画調査名研究代表者名
所属・役職
農地と里山が結ぶ多世代参加の医農福連携モデル 天野 正博
早稲田大学 人間科学学術院 教授
多世代共創による魚庭(なにわ)の海の再生に向けた検討 大塚 耕司
大阪府立大学 大学院工学研究科 教授
輝く女性のワークライフバランスを通じた持続可能な地域デザイン 亀岡 孝治
三重大学 大学院生物資源学研究科 教授
仮想将来世代との共創によるビジョン設計・合意形成手法の検討 原 圭史郎
大阪大学 環境イノベーションデザインセンター 特任准教授
多世代で共に創る学習プログラム開発の検討 森 玲奈
帝京大学 高等教育開発センター 講師

<評価者総評>

平成26年度に開始された「持続可能な多世代共創社会のデザイン」研究開発領域では、地球環境問題、少子高齢化、過疎化、財政赤字など、成熟社会が抱える重層的な問題を見据え、多世代・多様な人々の共創と科学的根拠に基づき、環境、社会、経済、文化などの多面的側面から持続可能な都市・地域をデザインすることを目指しています。

昨年度の第1回目の募集では、多くの提案がなされたものの、「多世代共創」や「研究開発と社会実装」との関係が必ずしも明確でないものが少なくありませんでした。そこで今回の第2回目の募集に際しては、領域自身でもコンセプトをブラッシュアップするとともに、参加者公募型のワークショップを宮城県石巻市と東京都千代田区でそれぞれ開催しました。そこでの議論も踏まえ、募集説明会を東京と京都で開催しました。また、一次選考に必要な書類を少なくするなど、応募者負担の軽減を行いました。

この結果、昨年度を上回る104件の応募がありました。一次選考(コンセプトペーパーに基づく書類選考)と二次選考(フルペーパーに基づく書類選考及び面接選考)を実施し、最終的に研究開発プロジェクト、プロジェクト企画調査、それぞれ5件を採択しました。

第1回目に比べ、領域のコンセプトに沿った提案が多くなされ、領域の目指す方向で、各所でさまざまな試みがなされていると感じました。特に、多世代共創については、今を共に生きている子どもから高齢者までの多世代が共創するというものに加え、過去世代や将来世代との共創を意識した提案も見受けられました。

しかしながら、研究を通じて何を明らかにしようとしているのかが必ずしも明確でないものが多かったとの印象受けました。また、応募された方々は実践的な取り組みに忙しく、一般化可能な知見を抽出しようとの発想がまだ弱いようにも思われました。こうしたことから、二次選考においては各提案に対し、リサーチ・クエスチョンを箇条書き・疑問文形式で明示するようにお願いし、選考の際の参考にしました。

今後は、採択課題の実施を支援するとともに、課題横断的な視点から応用可能性の高い知見の抽出に努め、領域全体としての成果創出努力を続けて参ります。その進捗状況についても情報発信していく所存ですので、来年度の提案の参考にしていただくことを期待します。

「研究開発成果実装支援プログラム」

支援期間:1年〜3年、実装費:5〜10百万円/年

実装活動の名称 実装責任者名
所属・役職
概要 主たる協働組織
(活動地域)
研究開発成果を得た
公的資金
大規模稲作農家への農業水利情報提供システムの実装
飯田 俊彰
東京大学 大学院農学生命科学研究科 生物・環境工学専攻
准教授
日本農業の基幹である水田稲作は、後継者不足や貿易自由化による輸入米の流入、米消費量低下に直面しており、耕作放棄地の増加による国土の荒廃、食料自給率の低下などが懸念されている。これを打開すべく、担い手農家の経営の大規模化が推進されているが、圃場(ほじょう)が広域に分散している現状のもと、圃場を毎日見回らなければならない水管理の労力増大が大規模化の足かせとなっている。 本実装活動では、実装責任者らが開発した、圃場の水深などの情報を農家のモバイル端末へ提供するシステムを、大規模稲作農家の圃場に実装する。現実スケールでの効果を実測して農林水産省や農業関係者にその実用性を提示し、新しい農業の水利システムの構築に貢献する。
  • 農業生産法人 有限会社アグリ山ア
  • 金沢工業大学
  • 中部大学
(茨城県坂東市)
JST 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)
医師の高度な画像診断を支援するプログラムの実装
金 太一
東京大学 医学部 脳神経外科
助教
専門医が不足する日本(特に僻地や被災地)では、技術の進歩で膨大化する医用画像情報に対して、非専門医による診断や他施設への読影依頼などで対応せざるを得なくなっている。その結果、ややもすると不正確な診断や診断の長期化が発生し、患者のQOLが低下するリスクが増大している。 本実装活動では、膨大な医用画像データを三次元コンピュータグラフィックスとして可視化し、参考書などの知識情報と融合をすることで、モバイル型コンピュータで高度な医療画像診断の技能が習得できるシステムを社会実装し、医療および医療教育の質の向上を目指す。
  • 埼玉医科大学
  • 株式会社マックスネット
  • 株式会社Medica Scientia
(離島を含む日本全国)
科学研究費助成事業・若手研究(B)
間伐材を用いた土砂・雪崩災害警報システムの実装
下井 信浩
秋田県立大学 システム科学技術学部 機械知能システム学科
教授
近年多発している土砂災害などは、建築物やライフラインの損壊、人的被害、場合によっては人命の損失など深刻な被害を引き起こす危険をはらんでおり、その予測・予報は喫緊の課題である。 本実装活動では、間伐材を用いた低価格モニタリングシステムによる土砂・雪崩などの災害予測・予報を行う。短期的には、秋田県内の危険地域における早期土砂・雪崩災害などの異常発生通知、警報システムの構築を実現し、県の防災行動計画へ反映させることを目指す。長期的には全国の危険地域における土砂災害の予測、防災行動計画への反映を行い、あわせて間伐材の有効利用を含めた地域産業の育成を目指す。
  • 秋田県農林水産部、建設部
  • 応用地質株式会社
(秋田県能代市、秋田市)
科学研究費助成事業・基盤研究(A)
機能的近赤外分光分析診断法による注意欠如・多動症児支援システムの実装
檀 一平太
中央大学 理工学部人間総合理工学科
教授
注意欠如・多動症(ADHD)は、5%程度の児童に発症する発達障害で、症状の結果として生じる困難な生育・生活環境が学業不振や社会的不適応、精神疾患の発症という二次障害に繋がることから、小学校就学前後の適切な支援の提供とそのための客観的指標の確立が課題となっている。これまで、ADHDの診断は行動観察が中心であったが、実装責任者らはADHD児の脳機能低下と薬効による回復を客観的にモニターする機能的近赤外分光分析診断法を開発した。 本実装活動では、この診断法を活用して、診断・検査、結果の提供という一連の検査システムを機能させるとともに、開発した客観的な指標の共有を通じて家族・学校・病院間の密な連携を促進する。
  • 自治医科大学、独協医科大学
  • 国際医療福祉大 リハビリテーションセンター、草加市発達支援センター診療所
  • 国際医療福祉大学 付属病院
  • 株式会社日立メディコ
(栃木県、埼玉県)
科学研究費助成事業・基盤研究(B)

<総評>プログラム総括 冨浦 梓(元 東京工業大学 監事)

今年度は、47件(前年度比:138%)の応募があり、その中から、社会技術の特性を考慮しつつ、研究開発がほぼ終了しており、目的、方法、効果が明確であるもの4件を採択しました。「大規模稲作農家への農業水利情報提供システムの実装」、「医師の高度な画像診断を支援するプログラムの実装」、「間伐材を用いた土砂・雪崩災害警報システムの実装」、また「機能的近赤外分光分析診断法による注意欠如・多動症児支援システムの実装」の4件です。いずれのプロジェクトも実装支援の対象となる団体や受益者が明確であり、社会への定着が予想されるものです。

本プログラムは開始後9年を経過しましたが、研究開発成果の社会的価値を実証し、社会に定着させ、普及の端緒を拓きたいという意志を以て提案する案件が増加しています。実装プロジェクトは受益者と研究者との共同事業であり、受益者との柔軟な組織的連携に十分配慮しているかなども評価することにしています。

本プログラムは東日本大震災で現実に実効を上げたプロジェクトや、社会的に注目を浴びることとなったプロジェクトなど実装に成功した例が増加しており、先見性のあるプロジェクト選択をしてきたと考えています。今後とも社会にインパクトを与えるプロジェクトの選択と効果的な実装支援を進めて参ります。