(資料5)

戦略目標


■ 戦略目標:医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立
  (平成14年度設定)
1.名称
医療・情報産業における原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計・高度治療実現のための次世代統合シミュレーション技術の確立

2.具体的な達成目標
 計算機内で微視的(ミクロ)現象から巨視的(マクロ)現象までを統合的に解析することで、
2010年頃を目処に、物質材料・デバイス等の原子・分子レベルの現象に基づく精密製品設計開発や、細胞内タンパク質の挙動解析、生体機能シミュレーションによる高度治療等を可能とする、統合解析シミュレーション技術の実用化を目指し、以下を達成目標とする。
マルチスケール・シミュレーション技術の確立
原子・分子のミクロスケール、無数の原子・分子を扱うマクロスケール、その間のメゾスケールの現象全体を統合して解析するマルチスケール・シミュレーション技術の確立。
マルチフィジックス・シミュレーション技術の確立
熱、構造、流体、化学反応、電磁気的現象等の連成現象(マルチフィジックス現象)を統合解析できるマルチフィジックス・シミュレーション技術の確立。
ネットワーク上に分散した多数のソフトウェア・データベース等を有機的に統合し、複雑問題を解析するシステム構築手法(データベースシステム技術等)の確立
 ―ネットワーク上に分散した大規模データに自由にアクセスし、データを収集・分析可能とするデータベースシステム技術の確立。
 ―複雑現象が連成して同時並行的に生じる事象の並列シミュレーション技術(タスク並列技術、収束化技術 等)の確立 等。
革新的アルゴリズムの開発
逆問題解析、高速最適化計算手法(収束化技術等)の確立 等。

3.目標設定の背景及び社会経済上の要請
 近年のコンピュータ、ネットワークの驚異的進歩を背景に、ミクロ現象からマクロ現象にいたる多様な現象を統合的に解析できる技術が確立すれば、ナノ材料や生体高分子機能等を物理化学の法則に基づき正確に把握でき、開発に精密性が求められるナノデバイス設計や精度の高さが恒常的課題として求められる最適治療が可能になる等、医療・情報産業における精密製品設計・高度治療等の飛躍的発展を実現できる。これにより、研究開発や医療現場における高い成功率・スピード化を実現し、ナノ、バイオ市場の拡大速度を加速するとともに、製品化に至るまでの開発ステップの簡略化、治療期間の短縮化等による時間的・経済的な効率化が図られる。また、高度なシミュレーション技術には、スパコン、サーバー、データベース等の計算資源をネットワーク上に共有化するための技術開発や環境整備が不可欠となることから、次世代のIT基盤への貢献も期待でき、社会的・経済的な波及効果は極めて大きいと考えられる。
 以上の理由から、当該目標の達成に向けた研究開発を推進することに対し、社会的、経済的要請が大きいと判断した。

4.目標設定の科学的裏付け
 シミュレーション技術は、従来の理論、実験とは異なる新しい研究手法を実現し、科学技術のブレークスルー・国際競争力の強化に資する基盤技術として、その重要性が高まっている。欧米では、従来から積極的な取組みが進められており、特に、米国では、ASCI(Accelerated Strategic Computing Initiative)プロジェクト(※1)等の国家プロジェクトの中で、コンピュータの高速化とともにシミュレーション技術の研究開発が集中的に行われている。
 また、現在のシミュレーション技術は、流体や構造の特定の物理現象の解析、量子化学計算に基づくミクロ現象の解析、古典論に基づくマクロ現象の解析等に止まっており、ミクロからマクロにいたる多様な現象を統合的に解析できるシミュレーション技術は確立されていない。
 我が国は、実用シミュレーションソフトウェアでは大きく遅れを取っているものの、研究者の基礎的研究の水準では、欧米と互角、一部では優位な分野もある。例えば、量子化学計算を用いたタンパク質の機能・構造解析では、我が国は100残基(1500原子)以上の大規模タンパク質の電子計算に成功して世界をリードしており、循環器系の血流のシミュレーション技術では世界の最高水準にある。更に、新しいアルゴリズムや並列計算技術等の研究も進めらており、タンパク質の機能解析等、特定の研究テーマにおいては、統合シミュレーション技術の研究も取組まれはじめている。
 また、地球シミュレータの本格的運用やスーパーSINETの整備が進む等、必要なハードウェアの環境が整いつつあるとともに、Grid技術等、ネットワーク上の計算資源を共有化するミドルウェア技術の研究も急速に進展している。
 以上の理由から、当該戦略目標の達成に向けた研究開発を推進するために十分な科学的ポテンシャルがあると考えられ、当該目標の下、国内の最高峰の研究者の総力を結集し、研究の体系的取組みを行うことで、技術の飛躍的進展が期待できる。

※1)1994年~2004年の10年間に約1,400億円を投入し、超並列コンピュータの実現と大規模シミュレーション技術等開発を目標とした米国家プロジェクト。

5.重点研究期間
 平成14年度から16年度までに研究体制を順次整備しつつ、1研究課題は、概ね5年の研究を実施する。(なお、優れた研究成果を挙げている研究課題については、厳正な評価を実施した上で、研究期間の延長を可能とする。)

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This page updated on September 21, 2004

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