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別紙1

平成26年度 可能性調査採択課題の概要 一覧

フューチャー・アース構想の推進事業「フューチャー・アース:課題解決に向けたトランスディシプリナリー研究の可能性調査」

実施期間:6ヵ月、研究開発費:1件400万円以内
題名 研究代表者名
所属・役職
概要
インドネシアにおける小規模アブラヤシ農園の持続可能ガバナンスの樹立に向けて
岡本 正明
京都大学 東南アジア研究所
准教授
現在の地球環境が抱える問題の中でも、熱帯林破壊は最も深刻な課題であり、その主要な一因は熱帯地帯での商品作物栽培の拡大にある。本FS(フィージビリティースタディ)は、そうした商品作物の中でも東南アジアを超えて世界の赤道地帯に拡大しつつあるアブラヤシ農園に着目し、持続可能なアブラヤシ栽培のためのガバナンス・モデル構想を提示することを目的とする。 アブラヤシから採れるパーム油についてはすでに持続可能性を考慮した認証スキームが始まっており、少しずつ浸透し始めている。しかし、環境問題に関心のある欧米や日本を重要なマーケットとするアブラヤシ関連業者とは異なり、50Ha以下の小規模農園主は、生産性が低く、認証取得のコストを負担する動機付けが低く、熱帯林破壊の主役となりつつある。たとえば、世界最大のパーム油生産国インドネシアを見れば、小規模農園のパーム油生産が急速な伸びを見せている。従って、こうした小規模農園によるアブラヤシ農園ガバナンスを樹立することは喫緊の課題であり、地球環境問題解決の重要な一助となる。 そこで、本FSでは、インドネシアのリアウ地方と西カリマンタン州に焦点を当て、現地の自治体、大学やNGOを巻き込みながら、小規模農園ガバナンス・モデルを構想し、小規模農園ガバナンス条例案の制定可能性を検討すると同時に、小規模農園ガバナンスのベスト・プラクティス・ネットワーク構築の可能性も模索したい。
水・食料・エネルギーネクサスを考慮した地域の持続可能性構築に関する予備研究
沖 大幹
東京大学 生産技術研究所
教授
本FSでは、モンスーンアジア領域における非大都市コミュニティーの持続可能性構築に関して、水・食糧・エネルギーネクサス注3)を考慮した本格的な研究実施の可能性について調査する。モンスーンアジア領域では、経済のグローバル化によって近年急速な工業化が進み、非大都市コミュニティーに支えられて、都市化が進展し経済的に発展してきた。その結果、非大都市コミュニティーにおける持続可能な食料生産のための人的資源の確保や、都市における過密人口を支えるのに十分な水資源の確保といった社会・環境問題が顕在化している。こうした問題は今後想定される気候変動などの自然環境変化や、さらなる社会変化によって、ますます深刻化することが懸念される。 これらの課題を乗り越えて非大都市コミュニティーに持続可能性を構築するためにはTD研究の枠組みによる問題探索型の取り組みが不可欠であり、水・食料・エネルギーの三位一体の相互関係の観点や適切な土地利用、そしてどのような規制的、誘導的、技術的な取り組みが必要かについて、日本を含むモンスーンアジア領域の非大都市を対象とした研究構想を固める。
持続可能な開発目標(SDGs)実施へ向けたトランスディシプリナリー研究
蟹江 憲史
東京工業大学 大学院社会理工学研究科
准教授
2015年に達成期限を迎えるMDGs注4)に続く国際開発アジェンダとして、2015年9月の国連総会でSDGs注5)が決定される見込みである。SDGsはMDGsと異なり、国連レベルからリージョナル、ナショナル、ローカルといった各レベルでSDGsを策定、実施し、その成果を再び国連レベルで取りまとめることが期待されている。真に持続可能な形でこれを進めるためには、各レベルにおけるCo−Design、協働実施が必要不可欠であり、2015年のSDGs策定過程はもとより、2016年以降の実施やモニタリング、評価において、協働が極めて重要な意味を持つ。こうした観点から、フューチャー・アースも初期設計の段階から、SDGsをTD研究の試金石になると期待している課題の1つである。 本FSでは、フューチャー・アースと連携しながら、特に制度設計に焦点を当て、①国連レベルにおけるSDGs実施へむけたTD研究課題の設定および実施体制の構築と、②地域、国、そして地方あるいは企業などといったサブ・グローバルレベルにおけるSDGs設定および実施へむけたTD研究課題の設定および実施体制の構築という課題に取り組む。
地域・伝統知と科学知の融合を活かしたアジア太平洋地域における社会・生態システムの将来シナリオとガバナンス
齊藤 修
国際連合大学 サステイナビリティ高等研究所
学術研究官
2012年4月に設立された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム」により、国際的に生物多様性や生態系サービスを評価する新たな枠組みや手法、またその成果を諸政策につなげるための検討が行われている。一方、今後予想される社会経済および地球環境の変化により、かつてない規模の生物多様性・生態系への影響が懸念される。こうした影響を未然に回避・緩和するには、自然的要因と社会経済的要因を包含した将来予測シナリオの構築とそれと連動した生態系サービスと人間の福利の予測評価モデルの確立が不可欠である。そのため、生態系サービスの包括的維持機構である「自然資本」を、さまざまなステークホルダーの参加により、複数の空間スケールにわたって重層的に共同管理していくためのガバナンス構築が急務となっている。 本FSは、アジア太平洋地域を対象として、将来シナリオ研究を縦軸に、伝統的な知識・技術と科学知・技術との融合システムの検討を横軸にして、多様な主体との連携で自然資本の重層的なガバナンス構築と社会実装をめざすための課題とアプローチ・手法を特定するとともに、行政・民間企業・NGOを含めた関係主体との協働ネットワークを形成する。これを通じて、フューチャー・アースの主に”Transformation towards Sustainability”に関して自然共生型の社会転換に向けた具体的な研究展開に貢献することをめざし、フューチャー・アースが重視するCo−Designと研究知見の共同創出を具現化する。
気候工学(ジオエンジニアリング)のガバナンス構築に向けた総合研究の可能性調査
杉山 昌広
東京大学 政策ビジョン研究センター
講師
気候工学は人工的に気候システムに介入して地球温暖化の影響を抑える新たな対策であり、地球温暖化対策の遅れゆえ急速に関心が高まっている。 気候工学の一種であるSRM注6)は未成熟な技術であり、気候冷却の効果はある程度想定できるが、地域的な気候変化やさまざまな副作用、人為的気候制御の倫理的課題など潜在的に多くの問題を抱える技術である。緩和策・適応策が第一優先であることは変わらないが、国際的な議論の高まりを受けると、ステークホルダーとの協働の上で(研究開発を途中で止めるというオプションも含めた)適切な科学技術ガバナンスが必要である。 本FSではこのSRMに照準を絞り、(1)ステークホルダーとのネットワークを通じたTD研究実施体制の構築、(2)ステークホルダーとの協働を支える自然科学および人文・社会研究アジェンダ、(3)ガバナンスの原則や枠組みの検討方法、についてステークホルダーとCo−Designする。将来、気候工学の技術開発やガバナンスの構築に、日本も応分の負担が要請されることは疑いなく、SRMのガバナンスはTD研究として取り組む必要性が極めて高い。
気候・社会変動への対応を推進するイノベーション創出フレームワークに関する調査
福士 謙介
東京大学 国際高等研究所 サステイナビリティ学連携研究機構
教授
フューチャー・アースはICSU注7)傘下の3つの既存研究プログラムの統合を推進するだけではなく、ICSUが長年掲げてきたScience for Societyを実現するため、問題解決型、社会実装型の研究アプローチを全世界的に推進するために創設された研究プラットフォームである。科学的成果が、より社会の問題解決に貢献するためには、プロジェクトの設計段階において社会実装時に関係する人々や団体(ステークホルダー)を関係させることが必要である。これは、科学者の演繹的思考と実際の社会メカニズムとの融合であり、研究成果の社会実装を容易とさせるだけではなく、設計段階に研究者を含むステークホルダーが相互に話し合うことにより(Co−Design)、新たな「気づき」が、イノベーション創出を加速させると思われる。 本FSは1)気候変動と自然・社会システムの適応策の検討、2)企業と連携した気候変動緩和策の推進に関する調査を実施する。具体的には、1)に関しては、気候変動と自然・社会システムの適応策の検討途上国の気候変動に関する対話とレジリアントな適応策の検討と気候・経済変動下における健康に関する適応に関する調査を行い、2)に関しては、気候変動緩和策の推進のためのビジネスモデル構築とJCM注8)枠組みを活用した実装社会科学の構築に関する調査を行うものである。このようなステークホルダーが関与した形のプロジェクト成果をどのように統合的にまとめるかの検討も行う。
指標開発を通じたメガ都市のサステイナビリティの実現
森 宏一郎
滋賀大学 国際センター
准教授
本FSの目的は、都市のサステイナビリティ評価指標を開発・発展させ、人類社会にとってサステイナブルなメガ都市(人口1,000万人以上の世界18都市)を実現するための実践的な知のネットワークを構築し、実際に世界のメガ都市をサステイナブルにするための政策・教育活動までつなげることである。 現在、都市人口は約36億人で世界人口約70億人の約半数を占めており、2050年には世界人口約93億人の約68%を占めると予測されている。中でも、人口規模がきわめて大きいメガ都市は18存在し、今後も増加すると予想されている。特に、メガ都市は、ライフスタイルが発現する場所であり、そのライフスタイルは他の都市へと伝播・波及することが多い。ライフスタイルは人類社会のサステイナビリティのために制御すべき1つのカギである。 本FSでは、問題構造化手法を用いて、メガ都市現地の多様なステークホルダー(アカデミア、行政、国際機関、研究助成機関、産業界、市民、メディアなど)を巻き込み、協働の可能性を分析・検討し、評価指標体系の構築自体および具体的な解決策の創造のためのCo−Designの方法論を追究する。
環境・災害・健康・統治・人間科学の連携による問題解決型研究の可能性調査
矢原 徹一
九州大学 持続可能な社会のための決断科学センター
センター長
フューチャー・アースは、気候変動・生物多様性損失など、人類社会の持続可能性を脅かす地球環境問題の解決をめざす科学研究プログラムである。従来のプログラムとの大きな違いは、ステークホルダーとのCo−Designを重視している点にある。しかし、集団の協働による意思決定はしばしば「集団浅慮」と呼ばれる失敗を生むことが知られている。本FSでは、この意思決定のあり方自体を科学的研究の対象とし、環境・災害・健康・統治・人間科学という5つの学際科学の成果を地球環境問題などの社会的問題解決に結びつける方法論を検討する。具体的には、カンボジア・インドネシア・バングラデシュ・屋久島・対馬などの現場で、科学者・行政・市民・企業による協働を実践し、自然科学的な観測や社会科学的な調査を行うとともに、その成果を生かすための意思決定・合意形成のあり方を検討する。このような研究の可能性を調査するために、研究会・ステークホルダー会合を開催し、関連諸分野の研究者やステークホルダーとともに、研究計画の具体化をはかる。

<総評>フューチャー・アース委員会 委員長 安岡 善文(東京大学 名誉教授)

平成26年度フューチャー・アース構想の推進事業「フューチャー・アース:課題解決に向けたトランスディシプリナリー研究の可能性調査」には、24件の応募があり、上記の8件を採択しました。

本選考にあたっては、地球規模課題の解決に向けた研究としての重要性に加え、文理融合、ステークホルダーとの協働設計(Co−Design)、また国際連携の実現性を評価し、さらに課題の多様性も考え、採択しました。

いずれの採択提案もフューチャー・アースを十分理解し、自然科学研究者、人文社会研究者が参加する文理融合であることに加え、ステークホルダーを巻き込んだCo−Designを進める提案となっています。取り組む課題も、フューチャー・アースとして、重要なテーマとなっています。

プロジェクトの成果として、ベルモントフォーラムなどの国際的なファンディングへも提案ができる研究へと発展していくことも期待できます。そのためにも我々が積極的にサポートをしていきたいと考えています。

フューチャー・アースで取り組もうとしているトランスディシプリナリー研究(以下、TD研究)は、地球規模での課題を解決するための新しい取り組みであり、その方法論も確立したものではありません。手探りの部分がまだまだあります。研究者にとっては、個々の学術領域を超えて、分野を融合し、さまざまなステークホルダーとのCo−Designを行うなど、新たな手法の展開を必要とする野心的なプログラムといえるでしょう。

本公募には、さまざまな研究分野から、実績のある研究を基盤としたTD研究を目指す提案をいただきました。今回採択に至らなかった提案の中にも多くの重要な課題や取り組みがあります。これらの提案についても今後の公募への再提案を含めさらなる展開を期待します。これらの課題も含めて、TD研究を進めることにより、フューチャー・アースプログラムの一層の推進を図っていきたいと思います。

注3) ネクサス
水・エネルギー・食料の安全保障の相互連関
注4) MDGs
ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)
注5) SDGs
持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)
注6) SRM
太陽放射管理(Solar Radiation Management)
注7) ICSU
国際科学会議(International Council for Science)
注8) JCM
二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism)