JSTトッププレス一覧科学技術振興機構報 第1060号 > 別紙1
別紙1

平成26年度 新規プロジェクトの概要一覧

「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」研究開発領域≪平成24年度発足≫

実施期間:上限3年、研究開発費:(カテゴリーⅠ)1000万円未満/年
(カテゴリーⅡ)2000〜3000万円程度/年
【カテゴリ−】※1
題名
研究代表者名
所属・役職
概要 研究開発に協力する関与者
【Ⅰ】
災害マネジメントに活かす島しょのコミュニティレジリエンスの知の創出
岡村 純
日本赤十字九州国際看護大学 看護学部
教授
2005年福岡県西方沖地震で被災した玄界島は、甚大な被害にもかかわらず、住民が協力して2次災害防止と迅速な全島避難のために行動し、発災3週後には住民主体の復興計画を策定して、3年で帰島に至った。この復興過程は、厳しい自然環境のなかで漁業をともにしてきた住民同士のつながりと歴史文化が寄与している優れた災害復興事例と考えられる。 本プロジェクトは、玄界島住民の復興経験・復興過程を多角的に分析し、災害マネジメントに活かすことのできるコミュニティレジリエンスの知として抽出し、この知を宗像市地島において住民とともに活用・検証することで、より多くの島しょに応用可能なコミュニティレジリエンスの知を創出することを目的とする。本研究ではコミュニティレジリエンスの知を、コミュニティが歴史文化として創り上げ、柔軟に変化させてきた暗黙の社会的ルールと暫定的に定義する。この知をほかの島しょを始め各所で活用できるようにすることで、災害に強いコミュニティを育成することが可能となる。
  • 福岡教育大学 教育学部
  • 佐賀大学 大学院工学系研究科
  • 宗像市 健康づくり課・生活安全課
  • 宗像市 地島・大島地区・漁協
  • 福岡市 玄界島地区・漁協
  • 一般社団法人 地域社会継続研究所
【Ⅰ】
都市部コミュニティを含めた自助による防災力と復興力を高めるためのLODE手法の開発
倉原 宗孝
岩手県立大学 総合政策学部
教授
南海トラフ地震などによる大災害時においては大きな被害が予想されるなか、都市部をはじめとして、地域コミュニティに対する継続的で十分な量の情報提供の有効性が明らかになった。一方で、地域コミュニティが希薄な地区では要援護者や要配慮者、あるいはその方々を支援できるリソースを見つけ出すのが困難であり、地域防災活動に大きな課題を抱えている。コミュニケーションを通じてそれらを解決するための方法論は確立されているとは言えず、そのようなコミュニティづくりのツールも存在しない状況といえる。 本プロジェクトは、「要援護者の災害時救援と平時の見守り」という防災・福祉両面からの視点を通して、現場住民や福祉関係者などの防災意識醸成と連携体制づくりを促進するためのツールとして利用する、住民主体・参加型手法『LODE(Little,Old, Disabled people’s Evacuation)』の普及モデルを開発することを目的とする。具体的には、複数のモデルコミュニティにおいて住民組織や地区社協などの普及の担い手となる関連団体と協働しながら、手法の体系化を実施し、実効性が高くかつ広く普及力のある標準的な手法の開発を目指す。
  • 生きる力を育む研究会
  • みんなが龍馬塾
  • 特定非営利活動法人 災害ボランティアネットワーク鈴鹿
  • 盛岡市 市長公室 企画調整課
  • 一般社団法人 SAVE IWATE
  • 伊丹市 社会福祉協議会
【Ⅰ】
災害時動物マネジメント体制の確立による人と動物が共存できる地域の創造
羽山 伸一
日本獣医生命科学大学 獣医学部
教授
日本では、災害時における動物の救助や医療の体制や研究が未発達なため、先の東日本大震災においても、被災動物との同行避難が困難となった結果、野生化や過剰繁殖といった事態も発生し、人間にとっても公衆衛生や精神衛生面における悪化などが深刻化した。災害時の動物医療体制を整備することは、動物の健康や福祉向上効果だけでなく、人の安全確保と環境保全を担う大きな役割がある。 本プロジェクトは、災害時の動物医療体制の確立を目指す我が国初の試みであり、東日本大震災での被災地域の経験や対策先進地域である米国での現地調査結果をふまえ、首都直下型地震を想定した「災害時に派遣する動物医療支援チームの育成と組織化」および「動物シェルターにおける適正飼育の推進」を実現させる。
  • 富士通株式会社 イノベーションソリューション事業本部 ソーシャルクラウドサービス統括部
  • 日本医科大学 付属病院高度救命救急センター
  • カリフォルニア大学 デイビス校 獣医学部
【Ⅰ】
災害救援者のピアサポートコミュニティの構築
松井 豊
筑波大学 大学院人間総合科学研究科(人間系)
教授
自然災害などの際に職業的に被災者を支援する災害救援者が被る惨事ストレスに対する社会的認識は高まっている。しかし、多くの災害救援者のストレスケアは自治体単位、施設単位での実施に留まっており、より組織だったケアシステムが必要である。 本プロジェクトでは、各種の災害救援者(消防職員、看護職員、小中学校教師、保育士、障害者施設・高齢者施設などの介護施設職員、一般公務員)の惨事ストレスケアを可能とするピアサポートコミュニティ(ネットワーク)の構築を目的とする。 具体的には、消防・看護職員に関しては、ネットワークの構築と、研修と効果測定を行う。ほかの職種に関しては、震災時の職員に対するストレス対策の実態調査や意識調査を実施し、コミュニティ構築を試みる。
  • 東京消防庁 惨事ストレス部会有志
  • 日本ミクニヤ株式会社
  • 特定非営利活動法人 じぶん未来プロジェクト
  • 国立のぞみの園研究部 ほか
【Ⅰ】
医療における地域災害レジリエンスマネジメントシステムモデルの開発
棟近 雅彦
早稲田大学 理工学術院
教授
東日本大震災での医療の経験からも明らかなように、災害が発生しても医療事業を継続可能にすることは、医療機関だけでなく地域の安全・安心な社会を作る責務を持つ自治体にとっても不可欠な活動である。災害時における医療の継続性を確保するには、医療の地域レジリエンスを評価し、高めることが急務となっている。医療の地域レジリエンスとは、災害が発生しても、対象地域における医療事業に関係する組織・団体が、通常診療業務と災害時の緊急医療業務を継続・運用でき、万が一機能喪失した場合にも速やかに復旧できる状態・状況を常に維持し、さらに必要に応じて向上できる能力である。 本プロジェクトでは、医療の地域レジリエンスを高めるための方法論の提案を目的とする。 具体的には、埼玉県川口市周辺地域を対象コミュニティとし、医療の地域レジリエンスを評価するための評価モデル、およびそれを向上させる仕組みである地域災害レジリエンスマネジメントシステムのモデルを開発する。
  • 東海大学 情報通信学部
  • 東京理科大学 工学部
  • 川口市
  • 川口市立医療センター
【Ⅱ】
多様な災害からの逃げ地図作成を通した世代間・地域間の連携促進
木下 勇
千葉大学 大学院園芸学研究科
教授
東日本大震災を教訓として、共助の重要性が認識されたが、行政と地域団体、住民個人、さらに地域間の連携が図られていないのが実態である。 本プロジェクトは逃げ地図作成という避難時間・経路を描く住民参加ワークショップによって地域の世代間リスクコミュニケーションを活発にし、個人とコミュニティおよび地域間の連携による安全・安心なコミュニティ形成を支援する技術開発を目的とする。 具体的には、より早く避難できる経路の可視化に向けたワークショップの実践と検証を通して、子どもから高齢者まで平易に参加できるワークショップの準備・運営、作成された逃げ地図の活用に関するワークショップを開発し、さまざまなハザードに対する逃げ地図ワークショップパッケージの技術開発と情報共有プラットフォームの構築を目指す。
  • 千葉大学 園芸学部
  • 明治大学 理工学部
  • 一般社団法人 ひと・まち・鎌倉ネットワーク
  • 株式会社日建設計 設計部
  • 一般社団法人 子ども安全まちづくりパートナーズ
  • 静岡県 下田市役所 ほか

※1 カテゴリーⅠ:社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標などの体系化など)。
カテゴリーⅡ:社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするもの。

<総評>領域総括 林 春男(京都大学 防災研究所 巨大災害研究センター 教授)

「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」は、平成24年度に開始されました。本プログラムでは、20世紀の科学技術の発展が生み出したリスク社会において持続的な発展を続けていくために、必要となるさまざまな分野の科学技術を集めて総合化し、さまざまな種類のリスクに対して社会を「強くしなやか」にすることで、社会の安全・安心を守るための概念・理論・技術・方法論などを体系的に構築し、社会実装していくことを目指しています。

第3回目の募集となる今年度も、これらの目的や問題意識を提示するとともに、期待されるプロジェクト像として、(1)コミュニティの特性を踏まえた危機対応力向上に関する研究開発、(2)自助・共助・公助の再設計と効果的な連携のための研究開発、(3)安全・安心に関わる課題への対応のために個別技術・知識をつなぐしくみを構築する研究開発、(4)コミュニティをつなぐしくみの社会実装を促進するための研究開発(法規制や制度などの整理分析、新たな取り組みへの仕掛けづくり)、を挙げ、特に“レジリエンスを測る”という観点を強調して提案を募りました。応募の種別は、各課題が目指す位置づけに応じてカテゴリーT、カテゴリーUの2つを設けました。カテゴリーTとは、社会の問題を解決するための選択肢を提示しようとするもの(研究開発のあり方や科学的評価のための指標の体系化など)、カテゴリーUとは、社会の問題の解決に資する具体的な技術や手法などについてその実証まで行おうとするものです。また、より幅広い提案者層に呼びかけることを目的に、東京と京都で募集説明会を開催しました。

この結果、大学や研究機関のみならず、特定非営利活動法人、民間企業などから、34件(カテゴリーT:12件、カテゴリーU:22件)の提案が寄せられました。研究開発を実施するコミュニティは北海道から九州まで幅広く分布しており、内容についても、募集時に特に強調した“レジリエンスを測る”以外にも、地域デザイン、能力開発、平常時からの避難・応急(災害救援者・人と動物)といった、より一層コミュニティを意識し、東日本大震災からの復興そのものにフィードバックするためというよりも、今後予想される大規模災害に対し社会をより強くしなやかなものにしようとするための提案の割合が前年度までに比べて増えました。

募集締め切り後、領域総括および領域アドバイザーなどの事前評価者が書類選考と面接選考(事前評価)を実施し、最終的に6件を研究開発プロジェクト(カテゴリーT:5件、カテゴリーU:1件)として採択しました。実施者は所属が国立大学・私立大学・NPOなど多岐にわたり、主たる研究実施者には若手・女性も含む提案を採択することができ、多様性に富むものとなりました。

総合的な判断の結果、採択に至らなかった提案には、取り上げるテーマは重要と評価されるが計画において具体性を欠いている、取り組む必要性は認められるものの新しいアプローチや研究開発要素に乏しい、あるいは、個別領域における研究としての着想が優れており研究計画自体には魅力を感じるものの、必ずしも本プログラムの目的・趣旨と適合しないといった課題が見受けられました。今後も採択した課題が「コミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造」のモデルケースとなるように、研究実施者とマネジメントチームのメンバーが一体となってプロジェクトの推進に取り組んで行く所存です。

「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」≪平成23年度発足≫

実施期間:1年半〜3年、研究開発費:(通常枠)1500万円未満/年
(特別枠)3000万円未満/年
【通常枠・特別枠】※2
題名
研究代表者名
所属・役職
概要 研究開発に協力する関与者
【通常枠】
国際特許出願・審査過程と関連した審査品質ベンチマークの開発
淺見 節子
東京理科大学 専門職大学院 イノベーション研究科
教授
国際的なビジネスを行うためには各国での特許の保護が必須であるが、特許審査の品質は特許庁間でばらつきが存在し、品質が低い特許庁では先行技術の発見漏れにより無効な特許権が成立し、訴訟の乱立を招来する。 本プロジェクトでは、特許審査の品質を定量的に国際比較評価するため、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願など、各国の審査のタイミングに差のある国際的な出願を対象として、先行文献調査の包括性を統計的手法により分析し、審査の品質のベンチマークを開発する。このベンチマークによって、国際的な審査の品質の向上や国際的な制度の枠組みの方向性を示すとともに、出願人の特許取得の予測可能性を向上させる。
  • 学習院大学 経済学部
  • 一橋大学 大学院商学研究科 イノベーション研究センター
  • 一般社団法人 日本国際知的財産保護協会・国際法制研究所
  • 一般財団法人 知的財産研究所
【特別枠】
製品ライフサイクルに立脚した環境影響評価基盤の構築と社会実装によるグリーン購入の推進
伊坪 徳宏
東京都市大学 環境学部
教授
産官民が一体となってグリーン購入を推進し、継続したグリーンイノベーションを進めるためには、多様なステイクホルダーが共有できる環境側面の評価軸が必要である。現在、欧米諸国ではLCA(ライフサイクルアセスメント)に基づくグリーン購入が注目されているが、現在の日本におけるグリーン購入法にはライフサイクル思考が十分反映されているとは言い難い。 本プロジェクトでは、最新の環境負荷データベースと環境影響評価手法に基づく環境ホットスポット分析手法の開発を行う。 科学的な方法を駆使して100品目を対象とした分析を実施するとともに、社会に向けた評価結果の発信と環境ラベルへの実装などを通じてライフサイクル思考に基づくグリーン購入の効果的な推進を目指す。
  • 独立行政法人 産業技術総合研究所 安全科学研究部門
  • 早稲田大学 政治経済学術院
  • 公益財団法人 日本環境協会
【特別枠】
医療の質の地域格差是正に向けたエビデンスに基づく政策形成の推進
今中 雄一
京都大学 大学院医学研究科
教授
高齢社会が進展し、かつ財政が逼迫している日本では、高齢者や若人の生き生きとした生活を支える有効な社会システムを再構築することが急務である。それを実現するためには、医療の質の地域間格差をなくすことが喫緊の課題である。 本プロジェクトでは、特に大きな社会的負担を及ぼす脳梗塞・急性心筋梗塞などを対象に、医療の質の地域格差を課題として取り上げ、ビッグデータ解析により格差を可視化する。また、可視化された情報を関係者が広く共有したうえで、各々が役割を発揮して有効な政策・対策を推進するための体系構築を目指す。
  • 京都大学 公共政策大学院、経営管理大学院、大学院法学研究科、大学院経済学研究科、経済研究所附属 先端政策分析研究センター
  • 国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部
  • 学習院大学 経済学部
  • 京都橘大学 現代ビジネス学部
  • 京都造形芸術大学 空間演出デザイン学科
  • 公益社団法人 日本脳卒中協会
  • 特定非営利活動法人 地域ケア政策ネットワーク
  • 特定非営利活動法人 ささえあい医療人権センターCOML
  • 公益社団法人 全国自治体病院協議会
  • 全国キャラバン・メイト連絡協議会事務局
  • 株式会社studio−L
【特別枠】
感染症対策における数理モデルを活用した政策形成プロセスの実現
西浦 博
東京大学 大学院医学系研究科
准教授
計算機の飛躍的発展と、感染症流行のモデル化手法の発展により、緻密な論理を積み上げて政策評価や予測を行うことが可能となった。海外ではHIV/AIDSやSARS、新型インフルエンザなどの流行動態の分析や対策評価に既に数理モデルが取り入れられているが、日本では十分な疫学的エビデンスに基づいて政策形成が行なわれていない。 本プロジェクトは、効果的な予防接種体制の整備や新興感染症への適切な危機管理など、感染症の公衆衛生政策の立案・決定において、数理モデルを用いて客観性の高い政策選択肢を特定し、医療施策の形成過程における数理モデルの日常的使用を達成する実装を目的とする。
  • 東京大学 大学院数理科学研究科
  • 九州大学 理学研究院
  • 広島大学 大学院医歯薬総合研究科
  • 立命館大学 文学部
  • 東京大学 大学院総合文化研究科
  • 青山学院大学 理工学部
【特別枠】
生活空間の高度リスクマネジメントのためのエビデンス情報基盤構築
三上 喜貴
長岡技術科学大学 安全安心社会研究センター
教授/センター長
交通事故や労働災害が減少する中で、住宅などの生活空間の事故は増加している。科学的な方法論によって生活空間のリスク低減を図るためには、情報の空白地帯となっている生活空間のリスクの姿を正確に把握することが必要である。 本プロジェクトは、政策当局 、メーカー、消費者などの関与者が必要とする情報を、政府統計、各種ビッグデータなどを基礎として抽出し、リスクマネジメントに応用する具体的方策論を開発・提案する。前半ではリスク情報とその利用に関するデータモデルを構築するとともに、アプローチの有用性を実証して当事者のインセンティブを顕在化させる。後半では研究成果の社会実装を進め、オープンデータコミュニティ形成を図る。
  • 長岡技術科学大学 システム安全系/環境・建設系
  • 独立行政法人 産業技術総合研究所 デジタルヒューマン工学研究センター
  • 日本大学 経済学部
  • 経済産業省 商務流保安グループ 製品安全課
  • 消費者庁 消費者安全課
  • 消費者関連専門家会議 事務局

※2 通常枠:エビデンスを与えるうえで有意義であり、かつ、政策のための科学として新規性や独自性を追求する提案を期待します。

特別枠:特定の社会的課題の解決を対象とし、科学技術の研究成果を社会で生かす仕組みや政策・制度の形成段階の議論までを含む研究開発。取り組みの実現のために、異なる検討フェーズ(研究・実証・政策提案・制度化・社会実装など)を網羅するプロジェクト推進体制を求めます。

<総評>プログラム総括 森田 朗(国立社会保障・人口問題研究所 所長)

平成23年度にスタートした「科学技術イノベーション政策のための科学 研究開発プログラム」は、現代社会におけるさまざまな問題の解決に貢献し得る科学技術イノベーションをもたらす政策の選択肢を、「客観的根拠(エビデンス)」に基づいて、より科学的に策定するための体系的知見を創出することを目的としています。

我が国は少子高齢化や財政危機に加えて、震災・原発事故などがもたらした大きな課題に直面しています。これらに関する数多くの課題を適切に把握し、課題解決に向けて取り組んでいくためには、科学技術の力を活用し、社会にイノベーションを起こすことが必要と考えられています。しかし、これまでは、先端的な科学技術の知見が存在しながらも、それを活用して社会的課題の解決に結びつけ、公的投資に対する充分な効果を示せなかったという反省がなされています。研究成果を活かして、科学技術イノベーションの創出に結びつけるようなインセンティブも不足していましたし、そのインセンティブを顕在化させるような社会的な仕組み、すなわち制度の形成も依然として充分とは言えません。

第4回目の募集となる今年度の公募プロセスでは、昨年度に引き続き、(1)特別枠と通常枠という2つの異なる枠組から提案を募り、(2)2段階の公募プロセスを導入する、という試みを行いました。(1)の枠設定では、主として実装への道筋や体制に注目する特別枠と、主として研究の新規性や独自性に注目する通常枠に分け、両枠で異なる基準から評価し、両枠に共通に「誰に」「何を」提供しうる研究提案であるかを明確にすることを求めました。また、(2)の2段階の公募プロセスでは、第1段階でコンセプトの明確さによって提案を絞りこみ、第2段階の書類選考から面接選考に至る過程で各提案に対してアドバイスを行い、よりプログラム趣旨に合う提案に改善されるように働きかける工夫をしました。結果的に、第1段階では、大学・研究機関・独立行政法人などから計53件の応募が寄せられ、そのうち22件が第2段階に進み、さらにそのうちの13件が面接選考に進み、最終的に5件の研究開発プロジェクト採択が決定しました。選考過程では、「科学技術イノベーション政策」や「政策のための科学」の範疇であるかどうかという本質的な点について評価が分かれる提案もありましたが、昨年度に引き続いて導入された選考プロセスにより、当プログラムが求める趣旨が応募者全体に明確化され、社会実装の観点も強調されたと思われます。採択に至らなかった提案も、取り上げられた課題はいずれも社会において重要な課題であると評価されるものがほとんどでしたが、掲げる目標と用いる方法論の間の乖離が大きいものが目立ちました。また、チャレンジとしては魅力ある提案でも、成果として何を得ようとするかが不明瞭な提案は、相対的には高く評価されませんでした。

本プログラムは、4年間にわたり計21件のプロジェクトを採択し、今回で公募は終了します。また、初年度の採択プロジェクトは間もなく研究期間が終了します。総括である私も含めたマネジメントチームは、遂行中の採択プロジェクトをこれまで以上に強力にフォローしつつ、終了プロジェクトの評価を開始する予定です。

「研究開発成果実装支援プログラム」≪平成19年度発足≫

支援期間:1年〜3年、実装費:最大500〜1000万円/年
実装活動の
名称
実装責任者名
所属・役職
概要 主たる協働組織
(活動地域)
研究開発成果を得た
公的資金
脳活動画像化装置による認知症予防プログラムの社会実装
田中 美枝子
株式会社脳機能研究所 研究本部
主任研究員
高齢化が進み、認知症患者数462万人、その予備軍の軽度認知障害(MCI)患者が400万人(平成24年時点)と言われる中、MCIの段階で早期発見し認知症に進行するのをくい止めることが社会的課題となっている。一方、認知症予防活動は本人や家族が効果を実感できなければ継続が困難である。 本実装活動では、認知機能の変化を「見える化」する技術を提供し、MCI患者の認知症予防活動の効果的な取組みの支援を行う。脳波を用いた脳活動画像化装置(NAT)の利用を組み込んだ認知症予防プログラムをデイケアなどの医療機関に実装し、普及を目指す。
  • 筑波大学
  • 株式会社ルネサンス
    (茨城県、東京都周辺)
JST 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)
聴覚障害高校生への遠隔パソコン文字通訳での授業支援
玉田 雅己
特定非営利活動法人 バイリンガル・バイカルチュラルろう教育センター
代表理事
小中学校では聴覚障害生徒に対する学習支援制度(特別支援学級・通級)があり、大学でも聴覚障害学生への支援体制の整備が進んでいる。一方、高等学校では情報支援制度がないため、十分な学習効果を得られず、結果的に社会的自立を阻まれるケースが少なくない。 本実装活動では、この解決策として、遠隔パソコン文字通訳を通した授業支援システムの社会実装と公的制度化を目指す。教師の声をスマートフォンから複数の遠隔地の文字通訳者に送り、連係入力によって文字に変え、生徒のスマートフォンに表示させるものである。
  • 筑波技術大学(障害者高等教育研究支援センター)
  • 国立情報学研究所(社会共有知研究センター)
  • 公益社団法人 こども環境学会
    (東京都内(高等学校))
科学研究費助成事業・基盤研究(C、B)
旅行者と地域との共生に資する観光プランの作成支援技術の基盤化と社会実装
原 辰徳
東京大学 人工物工学研究センター
准教授
訪日旅行者が急増する中、インターネットを介した観光情報提供、および宿泊施設・観光案内所での観光案内サービスの強化が求められている。一方、受け入れ先となる地域の現場では、地域活性化を目指す上で、訪日旅行者の実態把握と地域の魅力の発信力不足に悩んでいる。 本実装活動では、CT−Plannerと呼ぶ観光プラン作成支援ソフトウェアを基盤技術として位置づけ、諸地域の行政組織・観光事業者に働きかけ、種々の観光案内サービスに組み込んでいく。そして、それらのサービス提供を通じて収集した訪日旅行者の期待や行動データを利活用することで、地域と旅行者の共生に資する観光まちづくり活動の継続的な実施を支援する。
  • 首都大学東京
    (東京都台東区上野エリア、山形県米沢エリア)
JST 戦略的創造研究推進事業(社会技術研究開発)
発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用
船曳 康子
京都大学 医学部附属病院 精神科神経科
助教
発達障害者支援法の制定後10年となり、支援センターの設立や診断書に基づいた支援制度など枠組みが整いつつある。一方で、個人差への対応、多職種連携、人材育成など裁量に任されていた個別面への対応が今後必要である。 本実装活動では、発達特性の要支援度を多面的に示す評価法を用いて、ライフステージごとの評価支援マニュアルの策定、定期的な講習会による専門家の育成に取り組むとともに、本評価法の医療保険の認定を目指す。発達特性に由来する社会問題の解決のためには、医療・教育・社会をまたぐ共通言語が必要であり、本評価法を支援者が共有することによって効果的な支援・連携モデルの構築を目指す。
  • 京都国際社会福祉センター
  • 京都府総合教育センター
  • 京都大学 こころの未来研究センター
    (京都府)
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者対策総合研究事業
エビデンスに基づくスクールソーシャルワーク事業モデルの社会実装
山野 則子
大阪府立大学 人間社会学部
教授
スクールソーシャルワーカー(SSWer)活用事業は2008年の開始から7年目を迎え、来年度からは子どもの貧困が深刻な社会問題となっていることを受けて、SSWerが増員される見込みである。一方で、SSWerの資格や業務は必ずしも標準化されておらず、事業計画を担う自治体の判断やSSWer個々人の資質に委ねられている部分が大きい。 本実装活動では、エビデンスに基づいて作成したスクールソーシャルワーク事業の実施マニュアルをWebシステム化し、自治体に提案することを通して、支援を必要とする子どもや家庭に対してSSWerが効果的に関与できる体制を整備する。6地域への実装を足掛かりとし、関係者や日本社会福祉士養成校協会と連携しながら、学校を中心とした子ども・家庭の支援モデルを全国規模で展開していくことを目指す。
  • 北星学園大学
  • 帝京平成大学
  • 上智大学
  • 桃山学院大学
  • 藍野大学
  • 沖縄国際大学
  • 九州ルーテル学院大学
  • 岡山県立大学
  • 一般社団法人 日本社会福祉士養成校協会
    (北海道、関東甲信越、関西、中国・山陰、熊本、沖縄)
大阪府立大学 学内競争的資金キーパーソンプロジェクト

<総評>:プログラム総括 冨浦 梓(元 東京工業大学 監事)

今年度は、34件(前年度比:89%)の応募があり、その中から、以下の5件を採択しました。

「脳活動画像化装置による認知症予防プログラムの社会実装」、「聴覚障害高校生への遠隔パソコン文字通訳での授業支援」、「旅行者と地域との共生に資する観光プランの作成支援技術の基盤化と社会実装」、「発達障害者の特性別評価法(MSPA)の医療・教育・社会現場への普及と活用」、「エビデンスに基づくスクールソーシャルワーク事業モデルの社会実装」。

いずれのプロジェクトも社会的インパクトが大きく、実装支援の対象となる機関や受益者が明確であり、社会へ定着し普及していくと予想されます。

本プログラムは開始後8年を経過しましたが、年を追って社会技術研究開発の趣旨に立脚した提案が増加しています。すなわち、研究者は研究開発成果の社会的価値を実証し、社会に定着させ、普及の端緒を拓きたいという熱意を以て提案する案件が増加しています。実装支援プログラムの選考にあたっては研究者と受益者の組織的連携やプログラムの遂行過程で生じる障害に対する柔軟な対応体制も評価することにしています。

本プログラムでは、過去において、東日本大震災で効を上げたプロジェクトや、社会的に注目を浴びることとなったプロジェクトが数多くあることから理解される通り、先見性のあるプロジェクト選択をしてきたと考えています。今後は、採択された実装活動がより効率的に社会に普及するよう、実装責任者との連携を深めてまいります。