別紙3

「ヒトミトコンドリアDNA多型データベース」事後評価結果


1. 課題名
ヒトミトコンドリアDNA多型データベース
(公開名:ヒトミトコンドリアゲノム多型データベース)
(URL http://www.giib.or.jp/mtsnp/
2. 開発・運用責任者
財団法人 岐阜県国際バイオ研究所
 開発責任者 田中 雅嗣(遺伝子治療研究部 部長)
 運用責任者 田中 雅嗣(同上)
3. 課題概要
 ヒトミトコンドリアゲノムは、2種のリボゾームRNA遺伝子、22種のトランスファーRNA遺伝子、13種の酸化的リン酸化系酵素サブユニットの遺伝子およびコントロール領域から構成されている。本データベースはこのヒトミトコンドリアゲノムに生じた一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphism)の機能的相違を評価するための多様な方法を提供しており、遺伝子座や塩基変異によるSNP検索、疾患群間でのSNP頻度比較、発現蛋白質およびRNAの二次元構造上でのSNP該当箇所の表示等ができる。このデータベースは、長寿あるいは加齢に伴う神経変性疾患に関連する多型のみならず、肥満および糖尿病など生体のエネルギー代謝に関わる病態に関連する多型を同定するのに有用である。
 本データベースの主要な部分は、各々96人からなる7群(百寿者、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者、若年肥満男性、若年非肥満男性、一般の糖尿病患者、および顕著な血管病変を伴う糖尿病患者)合計672人のミトコンドリアゲノムの全塩基配列(16,569塩基対)に含まれるSNP情報である。さらに外部データとして世界各地の876人のミトコンドリアの全ゲノム領域あるいは翻訳領域の塩基配列に含まれるSNP情報を収録し、日本人との比較が可能である。

<データ項目とデータ量>
内部データ(日本人)
下記7群(各96人)合計672人からの全塩基配列中のSNP:1,396件
 A)百寿者、B)パーキンソン病患者、C)アルツハイマー病患者
 D)血管病変を伴う糖尿病患者、E)一般糖尿病患者
 F)若年肥満者、G)若年非肥満者
外部データ(世界各地)
316人の全塩基配列及び516人の翻訳領域の塩基配列のSNP:1,671件
総計1,548人からのSNP(重複を除く):2,264件
(データ件数は平成16年4月現在)

<開発期間> 平成12年4月~平成15年3月

4. アクセス状況
 公開時(平成15年4月)~平成16年3月 : 14,941件
5. 外部発表
*開発中
年 度 件 数 備 考
平成13年度 1件 環境変異原研究
平成14年度 5件 J Neurol Suppl 2他
*開発終了後
年 度 件 数 備 考
平成15年度 12件 Ann NewYork Acad Sci、実験医学他
6. 事後評価結果
6-1 当初計画の達成度
 各々96人からなる7群(百寿者、パーキンソン病患者、アルツハイマー病患者、若年肥満男性、若年非肥満男性、一般の糖尿病患者、および顕著な血管病変を伴う糖尿病患者)合計672人のミトコンドリアゲノムの全塩基配列の一塩基多型(SNP)情報及び世界各地の876人の外部データがデータベース化された。機能的にはミトコンドリアゲノム中のSNP検索に加えて、発現する膜貫通蛋白質やRNAの二次元構造図上でのSNP該当箇所の表示等の多彩な機能がある。収録人数(当初計画では6群576人)及び機能的にも当初計画を上回っている。
6-2 データベースの評価
 過去3~4年間でミトコンドリアDNAに関する研究は、非翻訳領域(D-ループ領域:500塩基対)の研究からゲノム全体の研究に転換してきた。また、これまでの人類遺伝学的あるいは分子進化学的な研究から、生活習慣病や長寿に関する研究に世界の研究者の目が向けられるようになった。この意味で本データベースは世界におけるミトコンドリアSNP研究の先駆けである。また、日本人のデータに加えて、GenBank及び海外との共同研究に基づく外部データも収録され、世界最大規模のヒトミトコンドリアゲノム多型データベースが構築されている。
 機能的には遺伝子座や塩基変異によるSNP検索、疾患群間でのSNP頻度比較、発現蛋白質およびRNAの二次元構造上でのSNP該当箇所の表示等が容易にでき、個体間の機能的相違のハプログループ解析に利用できる。
6-3 データベース化終了後の公開運用体制及び運用状況
 研究所のホームページに本データベースを掲載し、研究成果として発信されている。運用責任者と臨時職員により、平成15年度はデータ更新1回を含め、格別な支障もなく公開・運用された。データ更新では内部データについては遺伝子特許申請後の平成16年1月にアルツハイマー病患者1群96人のデータが追加された(総計7群672人)。また、平成16年4月には世界各地の876人の塩基配列データが追加され、着実に運用されている。
 国内外の大学・研究所等でのバイオ研究に活用された実績のある有用なデータベースである。平成16年6月に開催された「欧州生化学連合(FEBS)会議」でも本データベースが紹介されており、海外での知名度の向上と利用増が期待される。
6-4 運用の今後の展開
 公開サーバのリプレース、画面や検索機能の改善、内部データ及び外部データの追加が予定されており、このままデータベースの拡充を着実に進められたい。また、国内外の共同研究が進行中あるいは計画されており、その成果も反映されたい。
 ハプログループをサブハプログループに細分し、ミトコンドリアSNPとの対応が調べられており、サブハプログループに特異的なSNPを同定し、疾患感受性の相違・長寿の可能性・日本人の人類学的ルーツ等の研究がこのデータベースを活用して進められている。これらの研究成果の搭載が期待される。
6-5 その他
 内部データの公開にあたっては事前に遺伝子特許の申請が行われ、知的財産権へも対処されている。既に糖尿病、肥満、パーキンソン病、アルツハイマー病、長寿に関連するSNPが発見されている。
7. 総合評価
 ミトコンドリアというかなり小さい限定されたゲノム領域を利用して、そのSNPによって、疾患から体質へ、更に民族の移動といった問題に踏み込み得る可能性を見出しており、データベースの利用分野は疾病関係には限定されず、広く見込まれる。これからの日本におけるミトコンドリアのSNPを利用したハプログループの解析は、日本人の疾患の研究や、予防治療へも大きな効果をもたらすであろう。
 海外との共同研究も含め、データベースを利用した共同研究の推進と搭載データの拡充が図られており、ヒトミトコンドリアゲノムのSNPデータベースとしては世界に類を見ない研究に役立つ良好なデータベースが構築されている。

■ 戻る ■


This page updated on August 27, 2004

Copyright©2004 Japan Science and Technology Agency.