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別紙1

平成26年度 新規研究代表者および研究開発課題の概要および総評

研究代表者 所属機関・役職 研究開発課題名 研究開発課題概要
有田 正規 独立行政法人
理化学研究所
環境資源科学研究センター
チームリーダー
生物種メタボロームモデル・データベースの構築

本研究課題では、イネやトマトのような作物、油をつくる藻類のような有用微生物について、モデル生物としてよく研究されているシロイヌナズナや酵母と同等レベルの代謝情報(化合物およびスペクトル情報)を提供するデータベースを構築する。生物種ごとに整理した化合物データを、代謝マップを通してゲノム情報とリンクさせ、医薬学のみならず生態学や栄養学にも役立つウェブサイトを構築する。

金久 實 京都大学
化学研究所
特任教授
ゲノムとフェノタイプ・疾患・医薬品の統合データベース

ヒトゲノム、病原体ゲノム、腸内細菌メタゲノムをはじめとしたゲノムの情報と疾患との関連、および医薬品の作用・副作用との関連を理解するために、個々の遺伝子だけでなく、複数の遺伝子から構成された機能モジュール、さらには遺伝子、タンパク質、環境因子、医薬品等から構成された相互作用ユニットに関する知識をデータベース化し、ゲノム情報を有効利用するための統合データベースリソースを開発する。

黒川 顕 東京工業大学
地球生命研究所
教授
ゲノム・メタゲノム情報統合による微生物DBの超高度化推進

微生物統合DB「MicrobeDB.jp」を真菌類、藻類を対象として拡張するとともに、データの収集や更新の自動化など持続可能なシステムの構築、解析結果を提示するアプリケーション群(Stanza)の開発、また不特定多数のイノベータをも対象としたユーザビリティの向上などを徹底することで、単なる統計量の羅列ではなく、大規模データから新規知識発見を容易に引き出すことが可能なシステムを構築する。

菅野 純夫 東京大学
大学院新領域創成科学研究科
教授
疾患ヒトゲノム変異の生物学的機能注釈を目指した多階層オミクスデータの統合

本研究課題では、ヒト疾患ゲノム解析より見いだされた突然変異がトランスクリプトームにいかなる影響を及ぼすのか、近傍のエピゲノム(ヒストン修飾、DNAメチル化パターン)、トランスクリプトーム(発現量、スプライスパターン)の多階層オミクス情報を網羅的に記載する。データの統合は臨床がんゲノム解析を志向したものを端緒に行うが、最終的には疾患の別を超えて、あるいは時には生物種を超えてデータの統合を目指す。

田畑 哲之 公益財団法人
かずさDNA研究所
所長
植物ゲノム情報活用のための統合研究基盤の構築

Plant Genome DataBase Japan (PGDBj)による植物ゲノムDBや関連情報の統合をさらに進めるため、遺伝子オルソログDB、植物リソースDB、DNAマーカーDBを拡充する。さらに、DB間連携、オントロジー整備、ゲノムアノテーション情報の高度化による横断検索の効率化を行なう。これにより、植物遺伝学研究や植物バイテク研究の加速、新品種育成への活用につながるDBの構築を目指す。

徳永 勝士 東京大学
大学院医学系研究科
教授
個別化医療に向けたヒトゲノムバリエーションデータベース

これまでに構築してきた「ヒトゲノムバリエーションデータベース」における遺伝情報と疾患・臨床情報との関係性データを一層充実させる。さらに、NBDCと連携してより多くの新規データを受け入れ、登録データの公開・再配布をより広範に行うことにより、疾患の遺伝要因や疾患間の共通性・異質性の解明、遺伝疫学・ゲノムコホートなどの基盤構築、そして個別化医療の実現に貢献する。

中村 春木 大阪大学
蛋白質研究所
教授
蛋白質構造データバンクの高度化と統合的運用

PDB(蛋白質構造データバンク)とBMRB(NMR実験情報データバンク)を日米欧の国際協力により継続的に構築・公開し、特に蛋白質・リガンド複合体構造データ登録の仕組みを整備する。また、これまでに開発した統合化技術に基づき二次データベースと種々のサービスを高度化する他、利用者・登録者への教育とアノテータの育成を行い、他の生命データベースとの統合化による構造生命科学の基盤を与える研究開発とする。

成松 久 独立行政法人
産業技術総合研究所
糖鎖医工学研究センター
センター長
糖鎖統合データベースおよび国際糖鎖構造リポジトリの開発

ライフサイエンスデータベース全般の共通基盤であるセマンティックウェブ技術を用い、糖鎖科学と周辺のライフサイエンス研究分野の融合を目指す。研究開発の技術課題としては、国際協働体制を拡大し、国際糖鎖構造データリポジトリシステムを開発するとともに、全糖鎖構造データの標準化作業を進める。並行して糖鎖関連データベースの開発と標準化対応開発を進めることによって、他分野データベースとのより高度な統合を目指す。

桝屋 啓志 独立行政法人
理化学研究所
バイオリソースセンター
ユニットリーダー
生命と環境のフェノーム統合データベース

遺伝子の多様性の結果として現れる生命の表現型(フェノタイプ)の情報を、モデル動物(マウス、ラット、ゼブラフィッシュ、メダカ)、ゲノム編集研究など、幅広い研究コミュニティから収集し、研究分野の垣根を超えて標準化・統合化・体系化してオープンに公開する。集約されたフェノタイプ情報は、ゲノム情報や分子情報とともに横断的に利活用することで、新たな生命科学イノベーションの原動力となると期待される。

<総評> 研究総括:高木 利久(東京大学 大学院新領域創成科学研究科 教授)

本プログラムは、国内外に散在しているライフサイエンス分野のデータやデータベースについて、それらの共有を強力に促進し、公共財として誰もが自由に活用できるようにするとともに、生物種や個々の目的やプロジェクトを超えて幅広い統合化を実現することにより、データがより多くの分野の研究者、開発者、技術者に簡便に利活用できるようにして、データの価値を最大化することを目指すものです。すなわち、データの共有、統合を通して、我が国のライフサイエンス研究の成果をあまねく行き渡るようにするとともに、それを十分に活用できる環境を構築することにより、ライフ分野におけるイノベーションを促すことが本プログラムの目的です。

一般に、データベースはその構築目的や特長に応じて、規模の大小や利用者数の多い少ないにかかわらず、どれも有用なものではありますが、このプログラムでは、限られた予算の中で、より多くの研究者、開発者、技術者に役立つものを効率的に実現することを目指すことから、個別研究分野をまたいで、高い汎用性(分野を超えて多くの研究者、開発者、技術者が利用可能で自分の仕事に役立てられるものであること)があるデータをできるだけ網羅しているとともに、フォーマットやオントロジーが標準化されていて、統一的なインターフェースで誰でも簡便に利用できる統合データベースの構築を目指します。そのため、これらの統合データベースは、我が国の中核、拠点となるデータベースであることはもちろんのこと、世界的にみても十分な競争力、発信力を備えた日本を代表するデータベースでなければなりません。プロジェクトや機関を超えて、また、個別の生物種や個別の生命現象の枠をできるだけ超えて、データを収録・統合する横断的データベースが対象です。

このような方針のもとに、ライフサイエンスの幅広い分野から提案を募りました。選考に際しては、多様な分野をカバーするために7名の研究アドバイザーにご協力をいただきました。

今回は、さまざまな分野から19件の応募がありました。このうち、平成23年度採択の統合化推進プログラムを継続・発展させた提案が9件、新規のものが10件でした。データベースの構築・統合化には長期間にわたる継続的な取り組みが求められ、また、既存課題との接続性や補完性を課題選考の観点にしましたので、その意味でハンディキャップのある新規提案がどの程度あるか懸念されましたが、10件もの新規課題の提案があったことは公募した側としては大変喜ばしいことであり、データベースがライフサイエンスの多くの分野で構築され、それぞれが重要な役割を担っていることが再認識されました。全てが重要な、かけがえのない提案であり、選考は難航しましたが、書類選考で面接対象課題を12件にしぼり、最終的には面接選考で9件採択しました。

選考に際しては、既存課題と新規課題とのバランスに十分に配慮し、新規課題が不利にならないようにと注意しましたが、結果的には、9件のうち、既存課題を継続発展させた提案が8件採択になりました。新規課題が1件に留まったことは残念でしたが、既存課題も単なる継続ではなく、それを大きく発展させた提案になっており、これにより、幅広い分野の、かつ、相互に補完的なデータベースをバランスよく採択することができました。 選考に際しては、(1)ライフサイエンス分野のどの程度幅広い研究者、技術者にどの程度役に立つものになりそうか、(2)今後のオープンイノベーションをどの程度牽引できるものになりそうか、(3)既存課題や既存データベースとの接続性、補完性が高く、それらが全体として有機的につながるものになり得るか、(4)日本を代表するデータベースであるか、今後そうなり得るか、(5)産業界も含め、誰もが自由に利用できるデータベースであるか、データの共有や公開に関して明確なルールを備えているか、(6)データ生産者や研究コミュニティとの連携が十分あるか、(7)データの網羅性が高く、また、分野間のバランスがとれていて全体として多くの分野や利用者をカバーするものになり得るか、などの観点を考慮しました。今後は採択された課題を個々に推進することはもちろんのこと、これらの課題間の有機的な連携を深め、これまでより、より高い次元でのデータベース統合化を目指したいと考えております。

以上