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CREST「情報システムの超低消費電力化を目指した技術革新と統合化技術」
研究領域事後評価報告書

総合所見

 情報システムの省電力化のため、デバイスからシステムにいたる各階層の研究課題の採択と具体的達成目標を設定した運営手法は、本研究領域で取り上げた問題の解決に対し有効かつ適切であったと評価できる。研究成果においても、採択した研究課題毎のバラツキはあるものの、概ね研究総括のねらいに沿って“各階層で消費電力あたりの処理性能を100倍から1000倍とする数値目標”が達成されたと考えられる。それら研究成果の中には国際的に高く評価されたものも複数含まれ、イノベーション創出の点では今後の更なる努力を必要とするものの、デバイスからシステムまでの各階層での科学技術の進歩に貢献した面は大きいと評価できる。
 ULP統合システムに関しても、Place &Playを選定し、その概念を世界に先駆けて実証するために柔軟で効果的な研究チームの再編成と予算割り当てを行う等、優れたリーダシップを発揮したと評価できる。同時にULP統合システムを見据えた研究進捗管理を行うことは、異なる階層の研究チーム間の連携意識を高めることに効果的であった。また電力当たりの処理性能を100倍から1000倍にするという意欲的数値目標を定めることで、各研究チームの目的意識を高めることにも成功したいえる。
 他方、やや意欲的すぎるこの数値目標やULP統合システム構築は、本研究領域への応募者側からみると“高い障壁”とも見えるために、特に第2期目において必要十分な数の応募を得るためには、ややマイナス方向に働いた面もうかがえる。言い換えると、社会にとって必要と考えられる研究課題と実際の研究者意識や研究人口の間に“ギャップ”が存在し、研究総括にとっては応募課題の選択とその相互連携の構築にはかなりの苦労があったと推察される。このギャップはわが国の研究推進戦略に共通する問題でもあり、中長期的に“研究者を社会が必要とする課題へ向け誘導する”施策の必要性を示しているといえる。
 以上のように研究総括は、本研究領域で掲げた意欲的で実現性が必ずしも容易でない数値目標とULP統合システムの達成に向け、最大限の運営努力と進捗管理を行い、研究の成功に貢献されたと考えられる。また研究総括の選任についても、本研究領域がデバイスからシステムまでの広範な技術に対する高い見識と実用性に対する冷静な判断力を必要とし、各学術分野についての知識経験はもとより企業活動に対する理解経験をも必要とする領域であることから、南谷研究総括のこれまでの業績と経験から判断して最適の人選であったと考えられる。

1.研究領域のマネジメントについて

(1)研究総括のねらいと研究課題の選考
 情報システムのエネルギー問題が重要な課題となることを見越し、研究課題と達成目標を設定し領域研究を指導した研究総括のねらいは高く評価できる。対象とする各技術階層で消費電力あたりの処理性能を100倍から1000倍にする意欲的数値目標を掲げ、階層をまたがるULP統合システムの実現をめざしたことは、研究グループの共通意識を確立し、研究グループ間の連携を促進することに効果的であったと評価できる。一方、意欲的な数値目標を掲げたゆえに、重要であっても高い数値目標にそぐわない研究テーマの選定において不足をきたした面もうかがえる。また改善指標のベンチマーキングの定義がやや曖昧であったため、達成度の評価において、イノベーション効果の評価に必要な“類似・代替技術との客観的比較”に物足りないものもあった。
 領域アドバイザーの構成は各分野の第一線の有識者を招聘しており適切な人材の起用となっている。産業界の人材を多く選定し「新産業の創出」に資する方向性を目指したものと評価できる。一方、本事業終了時ではその方向性が必ずしも実現されていないのはやや残念である。
 研究課題の選考は各階層の技術分野で実績のある研究チームが主に選ばれており、妥当性が高い。しかし採択時に期間内での目標達成が期待できるテーマが選考されている一方で、期間内達成やそのイノベーション効果が不明確なのもいくつか含まれている。
 また研究課題の選考は応募・採択によることから致し方ない面もあるが、研究目標達成のために各技術階層で必要と思われるテーマが必ずしも充分網羅されていず、研究領域全体の目標に向けた戦略にやや苦労された面もうかがえる。

(2)研究領域の運営
 当初からの数値目標の設定やULP統合システム計画の立案、初期段階での課題の集中的抽出・確認作業、領域内の定期的成果発表会やサイト訪問等による進捗管理、主要な 国際会議との連携による広報活動等、運営手法は大変適切であったと評価できる。
 研究進捗状況の把握や評価に関しては、領域内の定期的成果発表会や中間評価、事後評価における研究総括自身による進捗状況把握と達成度評価は大変客観的であり、本評 価委員会の判断と重なる部分が多く適切である。
 また進捗状況・達成度に応じた柔軟な研究計画の変更、ULP統合システムに向けたチーム編成の変更等を主導し、最終研究成果の最大化に努め、それ応じた総括裁量予算配分 を弾力的に行った運営手法は適切であり、高く評価される。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
 各採択研究課題の数値目標達成度にはやや課題毎にバラツキがあるものの、概ね個別目標の達成度は高い。特に幾つかの課題では世界水準を超える成果が達成されている。
 研究総括のねらいの一つであるULP統合システムの実現においては、実証システムが完成したことが評価される一方、採択課題の中には実証システムに寄与するまでに至らなかったものも見られる。ULP統合システム自体は研究総括の指導と関係研究チームの努力の成果であり評価できるが、現在の主流技術との比較が充分でないことから、当初の目標の一つである「新産業創出」への展望は必ずしも明らかとまでは言えない。

(2) 科学技術の進歩に資する研究成果
 研究課題毎のバラツキはあるものの、科学技術の進歩に対する貢献は、学術文献、国際学会等への投稿、発表数から判断して、概ね充分なレベルと考えられる。特に第一期採択課題では内外の学会でも高く評価されている成果を含む。一方、ULP統合システムを指向する採択課題では統合化に注力されたためか、科学技術への貢献は相対的に低いと思われる。

(3) イノベーション創出に資する研究成果
 各採択研究課題のイノベーション創出への貢献については、ベンチマーキングによる代替技術との比較検討が不十分なものや、実用レベルの実証までに至っていない研究段階のものが多く、また特許等が十分申請されていない課題もあるなど、必ずしも充分とまでは言えない。しかし、一部の無線通信技術や画像表示デバイス、メディア処理デバイス等においては、イノベーションの創出のための充分な実証データは与えられてはいないものの、今後の研究次第ではイノベーション創出の可能性を有すると期待されるものが見られる。
 ULP統合システム自体に関しては、大きな努力の成果である点は異論のないところであるが、差別化の点や新規性の点でイノベーション創出までにはまだ少し距離があると思われる。一般論として「統合化は作業量の割には新規な研究成果に結びつきにくい」ことも事実であり、科学と技術が相半ばする研究活動では「イノベーションの可能性を明らかにする」に留める判断も重要と思われる。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(2-1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
十分な成果が得られた。

(2-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(2-3) 科学技術イノベーションの創出に資する研究成果
期待どおりの成果が得られた。

(3) 総合評価
十分な成果が得られた。

4.その他

 各階層/課題毎での100倍から1000倍の電力性能改善の目標は野心的であるが、各採択課題での評価基準は必ずしも一様ではなく、具体的ベンチマーキング手法も不明な点が多い。このため他の競合技術との比較も曖昧となり、結果的にイノベーションへの貢献度も計りにくい結果となっているようである。 また、“各階層で2桁〜3桁の改善”を掲げたため、システム全体では10桁以上の改善が期待さるかのように誤解された面がある。各課題の研究者の視点で「下位階層の成果とあわせて100倍から1000倍」と解釈しているのか、自己の課題だけで100〜1000倍を達成しているのか、さらにシステムに対する改善効果では“同じ階層の他の必須技術に足を引っ張られ”ているのか等、解釈の方法が分かりにくい面もある。
 また、今回の採択課題は(当然)すべてを網羅していないために、他の技術(典型的にはMore_Moore技術)に後押しされた“ただ乗り”を含む改善分と、課題によって得られた”真水“の改善分とが渾然一体としているようである。
 もし“真水の分”だけを評価するなら、分野によっても異なろうが、改善が2〜10倍程度であっても高く評価すべき思われる。
 採択課題には結果的にPlace &PlayのULPシステムに直結したもの、直結しないが短期的イノベーションの可能性のあるもの、さらに中長期的課題であって学術研究レベルのものが混在している。Place&Playの実証システムは採択課題の中の“部分集合”から構成されているようであるが、他の短期的イノベーション課題についてもより分かりやすい出口の実証例があると分かりやすかった。一方超伝導回路のような中長期的課題についてはCMOS大規模システムと競合するのではなく、CMOSが追従できない将来の差別的応用分野を示すことが必要ではないだろうか。
 今回採択された研究チームの中には、他のプロジェクトでも同様の研究テーマを掲げているチームも散見される。これ自体、直ちに排除されるベキものではないが、研究成果が主にどのプロジェクトで得られたものかについて曖昧となっているとの指摘もある。このことはわが国の他のプロジェクトと共通する問題でもあるが、少なくとも研究成果の評価の点では、複数のプロジェクトを実施中のチームからの成果の提示は、当該プロジェクトからの貢献度合いを明示し、似通ったプロジェクトの報告書間では成果の記述は排他的であるべきではないか、との趣旨の意見である。
 たとえば今回の研究領域では“外”に位置する“IT技術”のシステム全体の省電力化への貢献には高い可能性が期待されている。応用分野にもよるが、すべてのシステム階層の省電力へのポテンシャルは同等ではないと考えられ、省電力化への貢献と評価はより俯瞰的であることが望ましい、との趣旨の意見があった。
 事後評価委員全体の意見であるが、今回の研究総括の努力には心底よりの敬意を表したい。困難な課題に対し先駆的に大胆な数値目標の設定を行い、実証システム実現へ研究者を誘導した手腕は驚くべきものであり、今後の研究開発のよき先例と思われる。また研究総括のご意見のように、「政策的な必要研究分野への研究者の誘導」は、これまでのわが国の総花的、ボトムアップ型(特にアカデミヤの)研究施策には大きく欠けていた視点であり、米国はもとより、東アジア諸国にも遅れを取っている点である。全面的にご意見に賛同したい。

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