JST トップ戦略的創造研究推進事業 > 評価 > 戦略的創造研究推進事業における平成24年度研究領域評価結果について > CREST「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」事後評価

CREST「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」
研究領域事後評価報告書

総合所見

 研究総括である伊澤達夫氏は、光・光量子科学技術分野にかかわる材料、デバイス、計測技術、物性という広い分野から、国際水準を凌駕する革新的・挑戦的な課題を選定し、新産業の創出につながる成果を上げることを目指した。そのために、提案研究課題にはわかりやすい中心概念やマイルストーンの明示などを要求し、研究機関のバランスも考慮して妥当な選考をおこなった。領域アドバイザーは光・光量子科学技術分野で当代一流の研究者をそろえているが、採択された課題にデバイス開発的な内容を含むものがいくつかあることから、産業界の経験豊富なアドバイザーも何人か加わった方がさらによかったと思われる。
 幅広い分野を包含する研究領域の運営は容易でない。しかし、各分野を代表するアドバイザーの協力を得て、全体として適切な運営がなされた。各研究代表者の自主性を尊重しつつ、毎年1回の研究報告会、36回におよぶサイトビジット、5回の公開シンポジウムなどを通じて、研究の進行状況を把握・管理した。その中で、必要に応じて追加予算の配分、研究方向のアドバイスなどを適宜おこなった。また、研究報告会、公開シンポジウムなどを通じて、課題間、研究者間の交流・連携を深めることに腐心した。とは言え、研究分野が非常に広範だったためか、課題間の具体的な連携効果をあげることは難しかったように見受けられる。
 このようなマネジメントが功を奏して、光の新規な発生・検知技術、光による新規な物質の制御技術分野で、新規産業創出につながる成果を含めて多くの研究課題で世界トップレベルの独創性の高い研究成果が得られた。研究成果はこれまでに1034編の原著論文にまとめられている。招待講演も686件という多数にのぼり、成果の水準は全体としてきわめて高い。科学技術の進歩に資する特筆すべき研究成果としては、野田チームのフォトニック結晶関連の研究、馬場チームのフォトニック結晶によるスローライト導波路と高Q共振器の研究、兒玉チームのプラズマフォトニクスという新規分野の開拓、橋本チームの人工光合成膜(脂質二重層膜に色素蛋白複合体を再構築した試料)の作成などをあげることができる。また五神チーム、宮野チームは新規な物性の発見などを通じ基礎科学に大きな貢献をした。
 科学技術イノベーション創出に資する研究成果としては、野田チームによるフォトニック結晶を利用した大出力半導体レーザ、平山チームが開発した深紫外LED、橋本チームによる光合成の機構解明に関する研究などが特筆される。
 本研究領域の意義は以下のとおりである。トランジスタとレーザの発明が契機となって誕生した光・光量子科学技術―フォトニクスが科学技術の中核的な存在として社会を支えており、今後さらに進化・発展すると期待されている状況にある。日本はこの分野において研究開発から製造まで優位にあり、国際水準の研究者に恵まれている。この分野の大型プロジェクトは、新産業の創出と人材育成の両面で戦略的な価値が大きく、しかも時宜にかなったものであった。
 研究総括である伊澤達夫氏は光ファイバ、光導波路、光回路の分野で卓越した成果を上げた研究者である。さらに、日本電信電話鰍フ複数の研究所の所長、NTTエレクトロニクス(株)の社長をつとめ、フォトニクス分野の研究、開発、ビジネスの全てに通暁している。
 このような経験に基づいた卓越したマネジメントにより、本プロジェクトの推進を円滑に実行して大きな成果を挙げた。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究総括のねらいと研究課題の選考
 本研究領域では、光・光量子科学技術分野にかかわる材料、デバイス、計測技術、物性という広い分野から、国際水準を凌駕する革新的、挑戦的な課題を選定し、新産業の創出につながる成果を上げることを目指した。
 広い研究分野から提案を具体化するため、わかりやすい中心概念を掲げ、シナリオやマイルストーンなど研究の進捗度合いを明示した課題提案を要求し、研究機関のバランスも考慮して選考をおこなった。この選考方針は妥当なものである。
 領域アドバイザーは光・光量子科学技術分野で当代一流の研究者をそろえている。ただ、採択された課題にデバイス開発的な内容を含むものがいくつかあることから、産業界の経験豊富なアドバイザーも何人か加わった方がさらによかったのではないか。これは研究総括がカバーできる分野ではあるが、領域アドバイザーには研究総括とは異なる観点からの指導を期待できるからである。
 広い分野にわたり、国際水準の独創的、斬新な課題を採択した。蓄積豊富なテーマと理論先行のリスキーなテーマとの配分もよい。研究代表者の多くは光・光量子科学技術分野で日本を代表する研究者である。

(2) 研究領域の運営
 幅広い分野を包含する研究領域の運営は容易でないが、各分野を代表するアドバイザーの協力を得て、全体として適切な運営がなされている。各研究代表者の自主性を尊重しつつ、キックオフミーティング、毎年1回の研究報告会、36回におよぶサイトビジット、5回の公開シンポジウムなどを通じて、研究の進行状況を把握・管理している。その中で、必要に応じて追加予算の配分、研究方向のアドバイスなどを適宜おこなっている。
 研究領域全体として多くの研究者が参画していることから、研究報告会、公開シンポジウムなどを通じて、課題間、研究者間の交流・連携を深めることに腐心した。しかし、研究分野が非常に広範だったためか、課題間の具体的な連携効果をあげることは難しかったように見受けられる。

2.研究成果について

(1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
 光の新規な発生・検知技術、光による新規な物質の制御技術を開拓し、新規産業創出につながる成果を目指した。このねらいに応え、多くの研究課題で世界トップレベルの独創性の高い研究成果が得られた。

(2) 科学技術の進歩に資する研究成果
 野田チームのフォトニック結晶関連の研究は、面発光レーザなど新規なデバイスの発明に加えて、量子アンチゼノ効果など基礎科学においても画期的な発見をしており、国際水準をはるかに抜く成果として高く評価される。知的財産権でも国外特許、国内特許夫々14件、27件と多くの出願をしているのはすばらしい。馬場チームのフォトニック結晶関連の研究はスローライト導波路と高Q共振器で世界最高の性能を実現し、世界中から注目を集めた。兒玉チームはプラズマフォトニクスという新しい研究分野を提唱、プラズマを用いた高強度レーザ技術を開拓し、基礎科学の新規なツールを創出した。橋本チームは人工光合成膜(脂質二重層膜に色素蛋白複合体を再構築した試料)の作成により光合成のメカニズムに関して重要な発見をした。また五神チーム、宮野チームは新規な物性の発見などを通じ基礎科学に大きな貢献をした。

(3) 科学技術イノベーション創出に資する研究成果
 野田チームのフォトニック結晶を利用した大出力半導体レーザは半導体レーザの応用分野を大きく広げると期待される。平山チームが開発した深紫外LEDは世界水準を凌駕している。深紫外発光素子は社会的に高いニーズがあり、新規な産業を生み出す可能性がある。知的財産権の確保に積極的に取組み、国内9件、海外12件の特許出願をしているのは高く評価される。
 橋本チームの光合成の機構解明に関する研究は、その後関連する研究(例えば、神谷信夫・大阪市立大学教授らの光合成中心の酸素発生系に関する詳細な構造解析)などがベースとなり、同大学において人工光合成に関する集中的な研究がなされる組織が発足した。次世代エネルギー開発につながる大きな成果が今後期待できよう。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(2-1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
十分な成果が得られた。

(2-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(2-3) 科学技術イノベーションの創出に資する研究成果
期待どおりの成果が得られた。

(3) 総合評価
十分な成果が得られた。

4.その他

 制度的な問題に関わるが、成果の国民への還元ルートが明確でない。そのためか、外国特許を全く出願していない研究課題が16件中12件にものぼる。特許出願に積極的な研究チームは岸野チーム、野田チーム、平山チームの3チームに過ぎない。
 国の戦略に基づき国費を投じて行う研究においては、常に特許を積極的に出願する意思を持つことが強く望まれる。一方、研究者が有効な特許を申請することにはさまざまの制約があることも理解できる。JSTは知的財産権のサポートに取り組んでいるが、その態勢を一層充実させてほしい。
 大学発の未成熟だが革新性の期待できる技術を新商品、新ビジネスにつなげてゆく時間的、資金的余裕がひっ迫している現状を踏まえ、一層突っ込んだ形での産官学連携を図るべきだ。
 新産業のシーズを提供する側とそれを育てる側が情報を共有し、協同する場を拡充するよう一段の努力を期待する。

■ 戻る ■