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CREST・さきがけ複合研究「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 数学は自然を語る言葉であるが、我が国においては永らく「忘れられた科学」であった。本領域は、数学で初めての領域であり、同時にさきがけ・CREST複合領域である。
 研究総括は、数学・数理科学分野の現況、とくに我が国固有の特性を踏まえて、数学と諸分野の協働によるブレークスルーを目指し、知的ハブとしての「ヴァーチャル・インスティチュート」を標榜して、ヘテロな研究者集団のなすネットワークを形成した。領域アドバイザー、さきがけ研究者、CREST代表研究者の人選も適切であり、領域会議、さきがけ数学塾、JST数学キャラバン、文部科学省協働ワークショップ、領域シンポジウム、国際会議(SBM)、大学訪問(サイトビジット)などを有機的に配して、さきがけ先行型複合領域のメリットを活かした領域研究運営体制を構築し、適切なマネジメントを行っている。また、さきがけ、CRESTの時差採択も有効に機能している。
 これにより「ポリバレント」な研究を模索する若手研究者への指導・助言を行うシステムが確立されて、これまでの数学者の在り方と共存する新たなタイプの人材群が輩出しつつあること、また主導的な役割を担う研究者たちが相互に学び合い、数学領域におけるチーム型研究の有り様に関する共通理解の醸成が試みられていることは、ややもすれば閉鎖的と言われてきた日本における数学文化のイノベーションという観点からも、特筆するに値する。
 これは本領域の成果を導いた(さきがけ)/導きつつある(CREST)ことに留まらず、将来的に数学を核とするハイブリッド領域の研究体制に新たなモデルを提供した点でも高く評価できる。
 なお、CRESTの後半に関しては、それぞれの課題が新たな小分野の形成につながることを目標として研究を継続発展させるとともに、ヴァーチャル・インスティチュートとしてのひとつの雛型を提供することを期待する。また、数学とその周辺の研究者コミュニティや人材養成面に留まらず、数学領域に対する社会的なサポートの獲得を念頭においていっそうのアウトリーチ活動も展開することが望ましい。

1.さきがけ領域事後評価

1-1. さきがけ研究領域のマネジメント

 研究総括は、数学・数理科学分野の現況、とくに我が国固有の歴史と特性を踏まえて、数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索を目指し、「知的ハブとしてのヴァーチャル・インスティチュート」を標榜して事業を展開し、とくにこれまでの数学者の在り方と共存する新たなタイプの人材育成を強く打ち出している。
 さきがけ研究者の選考は研究総括のリーダーシップを発揮するために十分な配慮がなされており、アドバイザーはそれぞれの知見・視野および分野のバランスともに充実している。採択された課題の構成は、数学者が周辺分野の研究を行うものと、工学や物理、化学、医学などの研究者が数学を使って研究するものとで、協働する諸分野のバランスを配慮しつつ、将来の可能性に重点がおかれていて、適切である。研究費の配分もおおむね適切であると判断する。
 また、研究総括のリーダーシップのもとで、領域会議、シンポジウム、さきがけ数学塾等開催を通じて、研究進捗状況の把握とともに「ポリバレント」な研究を模索する若手研究者への指導・助言を行うシステムが構築され、運営されて、研究の進展に大きく寄与した。さらに、JST数学キャラバン、協働ワークショップ、国際研究会等の開催を通じて、課題間の研究交流あるいは複合領域間の連携の推進も十分に図られており、さきがけ研究者からのCREST採択者3名など、時差採択も有効に機能している。
 研究領域のマネジメントは、その体制作り、運営面ともにきわめて高く評価できる。

1-2. さきがけ研究成果

 研究総括のねらいは十分に達成されたものと判断する。とくに、人材の育成・養成に関しては、予想以上の成功をおさめている。諸分野との協働を志向した若手研究者群が誕生しつつあり、ひとつの文化運動として領域外の研究者への波及効果も既に見受けられる。このような領域が今後も継続されれば、将来の数学イノベーション創出につながっていくことが大いに期待される
 数学における研究の成果は数十年を経て社会に還元されるのが常であり、研究期間の終了時での最終評価は困難であるが、論文、口頭発表に関する限り、ほぼ十分な数の研究成果が既に公表されており、進行中の研究を含めて、今後の増加も見込まれる。それらの中には、新井仁之、西成活裕、水藤寛、伊藤公人たちの成果など、近い将来に科学技術として応用される可能性を思わせるものも含まれ、また、荒井迅、蓮尾一郎の研究など数学的手法を革新する可能性を秘めたものも目に付く。それまでの蓄積を基礎にした成果とはいえ、32件のさきがけ研究中にこれだけの成果あるいはその萌芽がすでに出ていることは、高く評価されるべきである。

2.CREST領域中間評価

2-1.CREST研究領域のマネジメント

 数学と周辺の科学をつなぐという、まさに現在必要とされている重要かつ適切なテーマであり、数学と他分野との文化の壁を乗り越えるという目標設定は高く評価できる。また、先行したさきがけをCRESTに接続させる可能性を拓き、実施に至っていることには注目すべきである。選考方針、領域アドバイザーの構成は適切である。採択された課題は、数学者が周辺分野の研究を行うもの、一方で工学や技術、情報科学などの研究者が数学を使って研究するもののバランスがとれ、適切な構成となっており、数学の活性化そして他分野への応用による、それぞれの問題への新たな展開という両面での成果が期待される。研究費の配分もおおむね適切である。
 日本の数学者集団はえてして閉鎖的であるといわれる。そうした状況を打破するために、研究領域の運営では、領域シンポジウム、サイトビジット、領域会議、また諸分野との協働に関するワークショップ、国際会議等を企画し、課題間、複合領域間の連携の推進とアウトリーチングを図ったことは評価できる。ただそうした活動は限られた範囲で行われており、今後さらにアウトリーチの幅を広げていくことが期待される。
 CRESTについては、研究課題ごとに研究代表者を中心に独立したチームによって研究が行われるのが常である。研究総括自身も認識されているように見受けられるが、これらのチームの連携を図り、ヴァーチャル・インスティチュートの実体化をさらに図ることが望まれる。

2-2. CREST研究成果

 数学領域は結果が出るのにきわめて時間のかかる基礎的な領域であり、さらに中間段階ゆえ、達成度を計るのは容易でないが、特色ある研究が進行していると思われる。流体、数値計算、力学系、確率過程といった既に応用数学では古典的な分野から、錯視、CG映像化、材料デザインといった新しい応用まで、選ばれた分野は適切であり、分野構成という点では研究総括のねらいに叶っている。今までにない方向性がみえつつあり、科学技術イノベーションの創出の展開の基盤になる成果もおおいに期待される。また、企業側と数学者の合同課題もいくつかあり、このような新たな試みの進展を見守りたい。
 研究総括のねらいは十分に達成される見込みであり、現時点での判断は難しいが、十分な成果も得られつつあるものと判断する。
 一方で、CRESTでは研究の推進や研究拠点の形成とともに新しい分野の創出も期待される。前者についてはいくつかの拠点あるいはネットワークが形成されつつように思われるが、後者については初期の段階で未だその姿を現していない感がある。こうした点では、長期滞在型の施設で、そこに実用側からの問題を持ち込む人と数学者が滞在し、ブレインストーミングをおこなうことなどが有効かもしれない。過大な期待かもしれないが、本領域におけるイノベーション探索の成果が数学にフィードバックされ、新たな数学の芽が生まれることも期待したい。
 今後着実な展開を行い、長期的に科学技術の進歩および科学技術イノベーションの創出に資する研究成果をあげていくことを期待する。

3.評価

3-1. さきがけ研究領域の事後評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
十分な成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

3-2. CREST研究領域の中間評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(2-1) 研究総括のねらいに対する成果の達成度
十分なマネジメントが行われている。

(2-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
期待どおりのマネジメントが行われている。

(2-3) 科学技術イノベーションの創出に資する研究成果
期待どおりのマネジメントが行われている。

3-3. CREST・さきがけ複合研究領域評価

十分なマネジメントが行われている。

4.その他

 数学領域における事業を継続させることが望ましい。さらに実質的な長期滞在型研究所に発展させることを期待する。欧米あるいはアジア諸国と比して、日本においては数学・数理科学関連で3〜4の特色ある研究所が役割分担をすることは自然であると思われる。
 JSTの事業においても女性が30%以上を占めるように配慮すべきであるとの意見があった。今後の課題として付記する。

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