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CREST「プロセスインテグレーションによる機能発現ナノシステムの創製」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 本研究領域は、トップダウンプロセスとボトムアッププロセスの有機的統合による製造技術の革新と次世代ナノシステムの創製という挑戦的テーマを掲げており、ナノテクノロジー分野における日本の国際的競争力アップに大きく貢献することが期待される。
 研究総括のねらいに即した募集課題の設定、広い分野をカバーするアドバイザーの選任、選考基準の明確化により、優れた研究課題が数多く採択された。研究課題ごとに2名の専任アドバイザーを配置するなど研究のフォローアップ体制を整えており、個々の研究課題に関して中間段階としては概ね順調に進行していると認められる。個別研究とともに、総括裁量経費による領域内共同研究で成果が挙がった事例も見られる。
 領域の目標である産業創成に結び付く機能性ナノ構造体の効率的製造技術の開発には、異分野研究者間の情報交換と目標を明確にした共同研究を一層活発にすることが必要であり、その推進に研究総括の指導力が発揮されることを期待する。次世代ナノシステムの創製という観点からは、現時点では具体的な研究成果は限られており、今後の展開に期待するところが大きい。産業創成に結び付く基盤技術の具現化のためには、国内外に積極的に研究成果を発信し産業界のニーズを刺激することも必要であろう。
 出口を見据えた課題解決型の研究テーマが多く設定されている点は評価できる。新規ナノデバイスの創出に向けて開発技術のベンチマークによる研究方針の見直しを定期的に行うことで新技術の方向性を実用に向けて確かなものにしていくことや、本領域の共通技術を整理して方法論として体系的にまとめてわかりやすく提示することが望まれる。
 本領域が担う学際研究の場を活かして、次世代を担う若手育成にも注力されることを期待する。本領域と関連の深い研究領域との合同研究会の開催など、交流の場を意識的に設けていることは有効な促進策である。
 民の発想を越える発明や発見を期待できるところがCRESTの良いところであろう。民間へ技術移転して実際の商品に取り入れられるまでには、相当の時間がかかると予想される。この領域から創出される新しい有望なプロセス技術等を、今後継続して発展させることを可能とする研究開発推進には、制度的な新しい工夫が必要である。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究領域のねらいと研究課題の選考
 半導体からバイオまで、次世代の産業基盤技術として期待の大きいナノシステムに関して、トップダウン/ボトムアップアプローチの統合により、機能やシステムを意識した研究開発を推進するという、挑戦的な旗を掲げた研究領域の設定は時宜に適ったものであった。課題募集時の「ねらい」の中にその実現に向けての異分野融合の重要性が示されており、幅広い分野の研究を統括するという研究総括の意欲が感じられる。そのねらいに沿って、幅広い分野の専門家を領域アドバイザーとしてバランスよく配しており、研究総括の専門からやや遠い分野も含めて課題選考・研究評価を的確に行う領域運営体制が整っている。
 研究総括の言によれば、研究課題の選考に際して「わくわく感を感じさせる研究者」という観点を重視したとのことである。採用年度ごとにそれぞれ個性ある研究者・研究グループが幅広い分野から選ばれており、各研究分野で既に世界的に活躍ないしは今後の活躍が期待できる研究者群となっている。生体系が示す自己組織性の電子デバイスへの応用など、バイオとエレクトロニクスの融合分野は本領域の大きな特徴となり得る。

(2) 研究領域の運営
 領域の運営は適切になされている。研究課題ごとに2名のアドバイザーを配置するなど、きめ細かいフォローアップの体制が整えられている。領域内の共同研究に研究費を配分して課題間の連携にインセンティブを与え、その成果が出始めている点は高く評価できる。3年間という短い期間で本領域固有の際立った成果を求めるのは少し性急ではあるが、優秀な研究者群が本領域で切磋琢磨するとともに異分野間の連携を実践することにより格段の成果が挙がるものとの予感がある。
 基礎から実用までの開発軸上の位置付けは研究課題ごとにさまざまであるが、出口を意識した研究テーマについては競合技術との優位性をベンチマークで示すことなども適宜実施することが望まれる。

2.研究成果について

(1) 研究領域のねらいに対する研究成果の状況
 各研究者が掲げる挑戦課題の難度、および、本領域開始時におけるその課題の達成度がそれぞれ異なることもあり、当然ながら現時点での目標達成度にはバラツキがあるが、数多くの応募者の中から厳選して採択されたポテンシャルの高い研究者だけあって総じて研究予算投資に十分に応える活躍をしているものと認められる。
 領域としての成果を評価するのは時期尚早であるが、少なくともこれまでのところは順調に進行しているものと認められる。

(2) 科学技術の進歩に資する研究成果や社会的および経済的な効果・効用に資する成果及び今後の見通し
 生体超分子を用いたナノ構造体の形成、生体分子の1分子デジタル計数、フレキシブル・エレクトロニクスの開発、濃厚ナノブラシの諸分野への応用、CNTバイオ電池、等々注目すべき成果が数多く挙がっている。研究成果のなかには産業応用にかなり近いところまで達しているものもあり、今後の展開が期待できる。競合技術との優位性をベンチマークで示すなど、成果の優位性の「見える化」の工夫があっても良い。

(3) 懸案事項・問題点等
 産業創成に結びつく機能性ナノ構造体の効率的製造技術の開発には、異分野研究者間の情報交換と目標を明確にした共同研究が不可欠であり、その推進に研究総括の指導力がさらに発揮されることを期待する。
 領域設定当初に強調された「トップダウン・ボトムアップ手法の融合による次世代ナノシステムの創成」という観点からは、現在までのところ「特筆すべき」と評価できるまでの成果は挙がっていないように見受けられる。生体系の自己組織性を活かしたバイオとエレクトロニクスの融合分野などに期待したい。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
期待どおりの成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
期待どおりの成果が得られつつある。

4.その他

 技術移転については、産業グローバル化の時代に適合した考え方をすべきであり、国内の民間産業だけへの移転では収まらない広がりがある。研究総括の指摘にもあるが、現在の国内産業だけでなく、海外への知財移転も視野に入れた展開が望まれる。

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