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CREST「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」
研究領域中間評価報告書

総合所見

 最先端の光源・分光法開発者とユーザー研究者が連携・融合してイノベーションをめざすという本領域のねらいは、未踏領域開拓と独創的研究開発の観点から優れた方向性を提示しており、そのような研究の推進過程において生みだされる新課題探求がさらに次世代の未踏領域研究の創出に繋がることが大いに期待される。高い実績をもつ研究者から構成される各研究チームは、短期間で学術上重要な成果を数多く上げていることから、研究は全体として順調に進展していると判断される。イノベーションに繋がる成果を評価するのは時期尚早であり長期的視点が必要であるが、本領域のねらいが浸透し実践されることによって「光と物質の係わり」を対象とする広範な分野において「先端光源・分光法を使い尽くす」挑戦的研究が進展することが期待される。
 本研究領域は、世界の最先端にある日本の「光源・計測法開発」研究と「光と物質のかかわり・光源利用」の研究を連携させることによってそのシナジー効果を引き出し、イノベーション創出に繋げることをねらいとしている。従来、この2つの分野ではそれぞれ世界最高水準あるいは世界をリードする研究が行われているが、両者の連携・協力が不十分であるために画期的な新分野の創出に至っていない。本領域のねらいは、このような現状を打開しそれぞれの分野を強化・発展させるとともに、光科学・技術の基盤に立脚した新たな融合分野を創出させるために有効であり、本研究領域の意義は極めて高い。特に、画像処理技術や制御技術が大きく進歩しているので、顕微鏡やレーザー技術の未開拓分野への応用展開が期待され、関連する産業の振興につながると思われる。
 研究課題チーム内のグループ間の連携・協力を強化して当初計画の目標達成に努めるととともに、原子・分子の量子科学、固体物性から光加工、医学・薬学応用までの広い分野をカバーしている課題チーム間の相互理解・触発と横断的な連携により、未踏領域・融合領域の芽となる成果を産み出して欲しい。
 各研究課題にとっての5年という研究期間は真に評価できる成果を上げ、イノベーション創出に繋げる成果を得るには十分な時間ではない。特に、本研究領域は光源・計測法開拓研究者とユーザー研究者の連携・協力による新分野・融合分野の開拓を目指しているので、研究期間で得られた学術上の成果と応用の萌芽を長期的なスパンで育てることが重要である。そのためには、終了チームも参加して研究状況報告会などを開催し連携と協力を進める場を継続させること、他のプロジェクト事業との交流・連携をさらに推進することなどが考えられる。

1.研究領域のマネジメントについて

(1) 研究領域のねらいと研究課題の選考
 「先端光源をブラックボックス化することなく、光源の特徴を徹底的に駆使した特色のある「物質と光の係わり」に関する研究を推進する」という研究総括のねらいは、先端光源・評価法の開発者とユーザーが密接に連携してオリジナルな研究を推進することによってイノベーションを目指すという強いメッセージである。これは、光科学・技術の主としてユーザーであるライフサイエンス分野に留まらず、全ての分野において開発要素を含む挑戦的なテーマの設定と光源・計測法開発者との連携を求めていることを意味し、優れた方向性の提示となっている。
 独創性、国際的水準など一般的な選考基準に加えて、異分野への波及効果、息の長い技術シーズとなる可能性、産業的・社会的ニーズとの繋がり、真に有機的連携のある研究実施体制などを選考の視点・基準としたことは、上記のねらいを具現化する選考方針として評価できる。
 採択課題は、1)光源の限界を駆使した物性探索、2)光の未開拓領域への挑戦とイメージング・新機能、3)最先端光量子を駆使した原子・分子・集合系の量子制御、4)イメージングや光操作によるバイオ・医学応用の4つに分類される。これらは戦略目標に挙げられている分野・キーワードを概ね網羅し、いずれも高い成果が期待できる優れた課題であるが、ライフサイエンス分野の潜在的な研究需要が十分に発掘されていないように思われる。
 本領域では、物質・材料からライフサイエンスまでにわたる広い分野および先端光源・計測法の開発者とユーザー研究者の二つの視点がアドバイザーの構成に求められるのに対して、概ねこの条件を満たし高い見識を有する専門家によって構成されている。ライフサイエンス分野のアドバイザーが少ないのが評価や助言など領域の運営上懸念されるが、公募開始後に医用工学分野の専門家1名を領域アドバイザーに加えている点は適切な対応として評価できる。融合研究を強力に推進する観点からは、先端光源を徹底的に使い尽くす研究に関して実績のあるユーザー側のアドバイザーがもう少し多く参画するのが望ましい。

(2) 研究領域の運営

 科学研究費補助金による研究とは異なり、戦略目標の下で研究代表者が設定した計画と目標を研究チームとして遂行・達成することを積極的に求めている運営方針は、CREST事業の趣旨からも高く評価できる。さらに、研究成果を光科学・光技術におけるイノベーション創出に繋げていく大きな目標に関して、それぞれの研究課題に応じて技術シーズ研究に対する要求の度合いを変えて対応している点は、学術研究の個性と多様性を担保しつつイノベーション創出を図るという観点から適切かつ健全な運営方針である。実用化が可能なシーズに対して民間企業との共同開発研究を推奨し、その連携が進行中であることは研究総括の指導力として高く評価したい。
 研究総括は、研究課題班会議への出席、58回に及ぶサイトビジットなど積極的に進捗状況の把握と問題点の洗い出しに努め、領域アドバイザーとともに各チームの研究方針、進捗状況、成果を把握して、研究計画の変更や研究項目の集約などについて助言・指導を行っている。当初計画を修正して研究チーム内に新たなグループを作り、追加予算を投入することによってさらなる研究の促進を図るなど、目標達成に向けた柔軟な対応と的確な指導は高く評価できる。
 研究状況報告会を単なる成果披露会ではなく、守秘義務の下で未公表の成果を含む研究討論の場として設定して運営していることは特筆に値する。その結果としてチーム間の共同研究が進み始めている。また、領域内のみならず文部科学省の最先端の光の創成を目指したネットワーク研究拠点プログラムとの交流により光源開発の研究拠点との連携を企図している点は評価できる。
 総括裁量経費と追加予算によって、研究の発展状況に応じて当初計画に予定されていない装置の購入や人材の投入、予期しない研究機材の故障・修理・更新などに迅速かつ柔軟に対応している点は高く評価される。追加予算の措置によって東日本大震災による被災から早期に復旧できたこと、装置の追加導入で研究が著しく進展し、民間企業との連携が進んだことなどが上げられる。

2.研究成果について

(1) 研究領域のねらいに対する研究成果の状況
 東日本大震災とその後の電力不足による研究の一時中断という事態があったにもかかわらず、全体としては研究領域のねらいどおりに卓越した成果が順調に得られていると判断できる。重要な発見や新しい手法の開発などが数多く報告され、学術的に極めて高い水準の成果として注目されている。一方、最先端光源と計測法のシステム化をめざした研究課題や光源開発者とユーザーが連携して進める研究課題においては準備研究の段階にあるチームも見られるが、問題を解決しながら確実に進捗しているので当初計画どおりの成果が得られると思われる。

(2) 科学技術の進歩に資する研究成果や社会的および経済的な効果・効用に資する成果及び今後の見通し
 多くのチームが学術上卓越した成果を出しているが、そのインパクトや関連分野における学問的評価を真に判断するにはさらに時間が必要であると思われる。特に、本領域では各研究チームは光源・分光法の限界や未開拓領域に挑戦しているので、長期的な視点から評価しなければならない。しかし、現時点においても領域アドバイザーの助言などにより25件の特許出願や民間企業との共同研究・連携が進んでいることは特筆に値する。特に、世界最高強度のテラヘルツ光源の開発とそれに関連する特許出願、民間企業との連携、および新規光源等を導入した2光子励起顕微鏡システムの改良開発とその医療・診断への応用などはイノベーション創出につながる優れた成果である。全体として十分な成果が既に上がっている領域であるので、敢えて長期的なビジョンに立脚してより革新的な領域融合をめざす研究に着手することを期待する。

(3) 懸案事項・問題点等
 比較的順調に進捗している研究課題であっても、必ずしも現存する光技術を凌駕する知見が得られるような革新的な手法とはなっていない課題もある。新しい概念の確立を目指すような大きなテーマには大きな困難とリスクが伴うが、本研究領域の趣旨と当初計画に沿って引き続き挑戦して欲しい。

3.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(2-1) 研究総括のねらいに対する研究成果の状況
十分な成果が得られつつある。

(2-2) 科学技術の進歩や科学技術イノベーションの創出に資する研究成果及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

4.その他

 学術上の評価において論文数や掲載誌の著名度・インパクトファクターなどが指標になり得ることは理解できるが、プロジェクトの実施期間中に他分野への波及効果や社会・経済へのインパクトを評価することは簡単なことではない。5年後あるいは10年以上経った後に大きな波及効果が現れることも多くある。各研究課題の評価にあたっては、プロジェクトを進めている期間においてその萌芽状態や将来性を見立てる視点・指標が必要である。また、研究領域終了後における成果の追跡とそれに基づく新たな研究支援も重要となろう。

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