戦略的創造研究推進事業HOME評価戦略的創造研究推進事業における平成23年度研究領域評価結果について > さきがけ「物質と光作用」事後評価

さきがけ「物質と光作用」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

 「光の究極的及び局所的制御」を目指し、その基礎と応用の研究展開のため、有機・無機・生物関連物質にかかわる幅広い材料群を対象とし、物理・化学・電子工学に渡る学際的研究領域、かつ材料・プロセス・計測・デバイスなどの幅広い研究分野に関し、「単なる新奇な思いつきではなく」、「基礎的で深みのある研究提案を期待する」という選考方針で若手研究者を集め、その中での研究者の視野拡大、新課題を創成するマインド醸成、領域内外での共同研究の奨励を挙げ、推進していることには大きな意義があると判断できる。また、先行するさきがけ研究「光の創成・操作と展開」(伊藤弘昌研究総括)と対をなす立場で研究課題の選定を行ったことも高く評価できる。さらに、研究総括、技術参事、事務惨事、事務員が一体となって、研究者を支援する体制はとても良いと考えられる。
 具体的には、ナノ物質の光場による操作の概念の理論解析、多重水素結合を用いた超分子モジュール化の手法の確立、ナノ集合体の微細構造・形状を制御した超分子集合体の創成、カイラリティを選択した単一カーボンナノチューブの電界発光、金属ナノ粒子における局所プラズモン共鳴による光誘起電荷分離、等の研究が高い評価を受け、文部科学大臣表彰(若手科学者賞)及び日本化学会学術賞の受賞に繋がっている。この他にも多くの研究者が学会表彰等を受けていることを勘案すると、採択された研究者及び研究課題の質の良さが明解に示されていると言える。数多くのすぐれた学術論文や招待講演に見られるばかりではなく、28名の内、19名の研究員(68%)が本プロジェクトの実施期間中に昇任、異動によりキャリアアップしていることも、そのポテンシャルの高さを証明しており、かつ、日本において当該研究分野が重要であることを意味している。
 最後に、28名のすぐれた若手研究者の「光電子機能材料・デバイス」に関する成果は、次世代というよりも喫緊の省エネルギー型ディスプレイや照明、光通信用情報処理素子を用いた量子通信のための単一光子検出などの実用化に必須の技術であり、日本の当該分野の先駆性を今一歩、推し進めるものであると確信する。

2.研究領域としての研究マネジメントの状況

2.1. 研究領域のねらいと研究課題の選考

 光と物質の相互作用において、物質・材料の側に重点をおき、関連研究領域との共通基礎部分と重複部分を考慮した研究領域の設定は妥当と考えられ、科学技術の発展につながる基礎的で若手研究者の独創性に重点を置いた選考方針は本来のさきがけ研究の主旨に合致していると判断できる。
 また、「光機能を物質から取り出す」、「光を用いて物質の本質を調べる」、「光を用いて機能物質を創成する」という観点で、各年度100件を超える応募書類の中から、当該分野に詳しい領域アドバイザーと意見を交換しながら2割程度を面接試験し、最終的に28件の課題を抽出している。特に、「単なる新奇な思い付き」でなく、すでに予備的な研究を踏まえた「基礎的な深みのある研究提案」を採択されたと判断できる。
 一方、領域アドバイザーは、領域発足準備段階からの9名に加え、中間期に4名を委嘱しており、幅広い学問分野をカバーする研究者に加えて、適切なバランスと考慮した領域アドバイザー構成となっている。特に、産業界から2名(内、1名は、発足直後に大学に移動)、女性2名に加えて、2名の外国籍アドバイザーは適切な構成と思われる。
 最後に、採択された課題は、当初想定したバイオ系材料を除き、バランスよい分野の課題が選ばれており、年齢層も30代が中心であり、若手研究者中心となっていることはさきがけ研究の趣旨にあっていると思われる。

2.2. 研究領域の運営の状況

 年に2回の領域会議(合計10回)に加え、8月の新規採択者発表会、1月の合同研究報告会など、関係者が一堂に会し、単なる成果の発表にとどまることなく、宿泊を伴うことで、情報交換と議論を促し、研究者のネットワーク化を狙った工夫も見て取ることができる。
 また、研究統括や領域アドバイザーも評価・指導の立場を超え、自らも研究開発の内容について講演を行うことで、アドバイザーとの共同研究も可能としたことも重要な観点と考えられる。特に、領域アドバイザーに、さきがけ研究の経験者でもある比較的若手の研究者を4名追加したことは、さきがけ研究者との意見交換・指導の面からはプラスに作用したと考えられる。

3.研究成果について

3.1. 領域のねらいに対する達成状況

 基礎科学技術としての学問の基盤をなす研究(4テーマ)、新しい計測法の開拓(4テーマ)、新規な物質の探索(1テーマ)、および応用科学上の進歩のための新規構造と物性の開拓(2テーマ)、新規機能材料(4テーマ)、新規反応(2テーマ)に加え、社会・経済的な価値創造に向けた産業利用の研究開発(4テーマ)と基礎から応用・実用化までを視野に入れた成果が生まれていると判断できる。また、新しく共同研究の立ち上げや、次のステップとして異なるプログラムへの採択など、より高い目標への展開が多くみられることは高く評価できる。最後に、学会等からの学会賞等の受賞、表彰を受けた研究者もかなりの数にのぼり、質の良い研究がなされたことの証左となっていると考えられる。

3.2. 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待

 本領域のさきがけ研究に従事していた若手研究者が、さらに次の研究展開に向けた提案公募型研究に応募し採択されたケースがかなりの数に上っている。例えば、プラズモニクスの基礎研究から太陽電池の高効率化の研究(別のさきがけ研究)、革新的塗布型材料による有機太陽電池の構築(CREST研究)、内閣府の最先端・次世代プログラム(4件採択)等にステップアップして研究を継続している。
 これらの事例も含め、次世代の科学技術の進歩を牽引するような基礎科学上の成果を数多く上げている。次世代というよりも喫緊の省エネルギー型ディスプレイや照明、光通信用情報処理素子を用いた量子通信のための単一光子検出などの実用化に必須の技術であり、日本の当該分野の先駆性を今一歩、推し進めるものであると確信する。

4.その他

 本領域のさきがけ研究者の多くが職位の昇任・昇進を果たしていることは特記すべきことと考えられる。若手研究者から、より自由に研究活動を行える場への移動、自ら研究室を主宰する講師・准教授・教授への昇任・昇進等であるが、自らの創意工夫で研究活動を展開できる地位を確保しつつあることは高く評価され、研究者の人材育成の観点からも満足すべき成果であると判断できる。これを機会に次のステップへ向けて個々の研究者が成長、新たな枠組みで研究を進められる事を期待する。
 一方、広範囲にわたる研究を取りまとめた研究総括の筒井哲夫先生の研究に対する奥深さを感じ取ることができた。異なる専門分野の若手研究者が自由に意見交換し、研究協力体制を構築しようとする意欲が領域会議等の機会に昂進され、新たな共同研究が始まったケースも数多くみられる。これこそが「さきがけ研究」の目指すものであり、本領域では十分にその目的が達成されたと判断できる。
 本研究領域において、企業側からの応募が少なく採択できなかったことに関し、企業が応募しやすいような工夫や領域アドバイザーに企業からの有識者を増やす等の今後の対応が必要と考えられる。

5.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成状況
十分な成果が得られた

(2-2) 科学技術の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待
十分な成果または萌芽が認められた

(2-3) 戦略目標の達成に資する成果の状況
十分な成果が得られた

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