戦略的創造研究推進事業HOME評価戦略的創造研究推進事業における平成23年度研究領域評価結果について > さきがけ「界面の構造と制御」研究領域事後評価報告書

さきがけ「界面の構造と制御」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

1)「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」という戦略目標に対して、本領域では、近年のナノテクノロジーの大きな展開を基礎として、
①界面をナノメートルスケールで制御する事が鍵となる現象の創出
②界面現象を観察する為の手法開発
を研究の重点として設定し、戦略目標をより具体化・明確化する事によって、多様な分野に属する34名のトップレベルの若手研究者を選抜してヴァーチャルラボを構成し、研究を展開した。この的確な領域のねらいの設定によって、領域研究者間の連携・共同研究も大きく促進され、異種物質間の界面で創出する革新的新奇機能の発現や、原子レベルでの界面構造制御・観測手法開発等において、多くの重要な成果を達成する事が可能になった。

2)研究課題の選考においては、研究総括は、領域アドバイザーとして表面科学、物理学、化学、工学、生命科学など幅広い分野から11名の各分野を代表する著名な研究者を集め、①ナノスケールレベルの界面の観測や分析手法の開発、②界面のナノ構造制御技術の創出、を基本的視点に設定しつつ、領域研究者を厳選した。その際、提案者自身のオリジナリティに富みかつ物質科学の新たなブレークスルーに繋がるテーマであって、なおかつ、①斬新な着想、②個性豊かなテーマ、③新しい研究分野を拓くテーマ、が重視されている。領域研究者34名中その7割近くが、優れた研究成果が評価されて研究期間中に栄転し、今後の界面科学における研究活動展開の大きな基礎を確立した事は、研究総括、アドバイザー諸氏の人選が、如何に厳正かつ適切であったかを証明している。

3)領域の運営においては、独創性に優れたテーマを提案した研究者自身が十分個性を発揮することを尊重しつつ、一方で相互の交流を促進する事を戦略的に意図した運営が実施された。研究総括は技術参事とともにすべての研究者を訪問し、研究設備・環境の視察やヒアリングを通して、必要に応じて研究計画の修正も含めて研究費の増額も行うなど、実効性と機動性の高い運営を行った。更に、本領域研究者間の交流のみならず、領域アドバイザー、他のさきがけ領域研究者、関連するCREST研究者らとの交流の場を積極的に設け、若手研究者の視野拡大と研究連携推進に大きな効果を挙げている。また、技術参事の協力の下、知的財産獲得に向けた特許申請への関心を高め、研究期間中に多くの特許を獲得している。

4)領域のねらいに対する達成状況については、第一に、さきがけ研究の第一義的な目的である、個人の自由な発想による研究を大きく推進し、大きな成果を達成した。厳選された34件の提案者自身のオリジナリティに富みかつ物質科学の新たなブレークスルーに繋がるテーマについて、本領域で達成された諸成果は、このねらいが十分に果たされた事を証明している。多くの論文が、世界的に著名な学術誌に発表されている事に加え、本領域研究者のこの間の受賞が29件に上ると共に、34名中23名が、この間の業績を評価されて栄転した事実は、個々の研究の推進という狙いが極めて高いレベルで達成された事をみごとに証明している。第二に、多様な分野を網羅する研究集合体としての本領域にのみ可能な異分野間の研究交流を通じての新たな研究展開というねらいにおいては、特に、界面計測を専門とする研究者とデバイス関係や生体科学研究を専門とする研究者との間の協力関係の構築が一つの重点として設定され、かつ実際に展開された。これによって、多くのかつ極めて新規な共同研究が展開され、重要な成果となって結実している。このねらいも十分に果たされたものと評価できる。
 界面現象は多岐にわたる応用分野がある一方で、その現象の解明のためには、量子現象から生物化学現象にいたる基礎科学的理解をめざす深い取組が求められる。従って、応用研究と基礎研究が車の両輪のごとく展開されてはじめて、多くの成果が達成できる分野である。本さきがけ領域はそれを実践し、研究者個人の独創性の発現とともに異分野交流により新たな発展の芽となる多くの可能性を生み出している。その実績は高く評価できる。

5)科学技術上の進歩に資する成果および社会・経済的な価値創出への期待についても、本領域の成果は見事である。上で述べたように、この領域研究は、基礎科学であると同時に、新たな現象の理解をベースに産業技術の新展開をもたらす新技術開発の可能性を豊富に有している。学術面においては、①界面をナノメートルスケールで制御する事が鍵となる現象の創出、②界面現象を観察する為の手法開発、の分野において、独創的な素晴らしい成果が成し遂げられている。さらに、応用面においても、多くの貴重な成果が生み出されたと共に、知的財産権活動に対して積極的に取り組み、領域全体としての84件の特許出願を成し遂げ、数多くの企業等との共同研究を展開させるなど、応用を重視した戦略目標の達成にも十分に寄与している。もちろん、この領域で成し遂げられた諸成果の社会・経済的な価値創出の対する最終的な評価は、本領域終了後数年以上の追跡調査を待って結論されるべきであるが、大きな期待を抱かせるに十分である。
 以上、それぞれの観点から評価した本領域の事後評価結果は、全ての面において、極めて高いレベルで成功裏に領域活動が展開されたものと評価できる。

2.研究領域としての研究マネジメントの状況

2.1. 研究領域のねらいと研究課題の選考

 「異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用」という戦略目標に対して、
1)界面をナノメートルスケールで制御する事が鍵となる現象の創出、
2)界面現象を観察する為の手法開発、
を基本的重点に設定しつつ、従来の材料分野の垣根をこえた多様な物質間で形成される界面における革新的な機能の発現を、本研究領域のねらいとした。
 その為に、多様な研究分野の中から、①斬新な着想、②個性豊かなテーマ、③新しい研究分野を拓くテーマ、を考慮しつつ、34名のトップレベルの若手研究者を選抜し、研究者個人の発想に基づく創造的な研究の推進に重点を置くと共に、異分野間の研究交流を積極的に推奨して領域活動を展開した。
 研究総括は、「オリジナリティ」と「ダイバーシティ」を両輪とした融合科学の展開というねらいを効果的に推進する為、領域アドバイザーとして、表面科学、物理学、化学、工学、生命科学など幅広い分野から11名の各分野を代表する著名な研究者を集め、多様な分野の優れた研究テーマを、厳正かつ適切に選考・採択した。採択されたテーマを、表面界面観測手法開発と界面機能の応用開発という区分で眺めると、極めてバランスのとれたテーマ構成・人員構成となっている。
 もとより、若手育成を一つの目的として含むさきがけ事業においては、研究者個人の発想に基づく創造的な研究の推進は最大の課題であり、本領域の展開においてもそれは十分に重視され成功裏に展開されている。特筆すべきは、研究総括とアドバイザーが、本領域の学際的性質とその融合の意義をねらいの一つに定め、異分野の交流を通じて新たな機能開拓を実効的なものとする人選がなされている事であろう。高く評価される内容である。
 界面科学という学際領域の研究においては、「界面科学の基本的な共通概念の構築」という作業も、重要な内容である。それに果たす理論研究の役割が重要な事は論をまたないが、採択テーマのうち、理論研究によるテーマが一件だけであった事は、理論が異分野の実験研究の融合を促進する触媒となりうるだけに、すこし少ないように思える。近年の理論研究の特徴として、計算機の発展に付随する傾向であろうが、個々の具体的な系に対する数値計算を主とする「理論研究」が圧倒的に多くなり、本領域で必要としたような物質科学における新たな概念形成に資する理論研究は減少傾向にある。その状況を反映して、本領域の目的達成に合致する提案そのものが非常に少なかった事がその主な理由である。この点は、今後の領域設定に引き継がれるべき課題である。

2.2. 研究領域の運営の状況

 本領域の運営方針として、34名の独創性にあふれるそれぞれのテーマの進展状況に適切に対応する領域運営と共に、特に、

の3点が中心的に設定されている。広い学際分野の若手研究者で構成される本領域の方針として、極めて妥当かつ適切な方針であり、3年間の本研究領域の運営において、その方針を生かし切るための最大限の努力をされていると判断できる。
 未曾有の大震災であった昨年の震災への対応、移転等に係る研究環境整備、更には重要な成果を成し遂げた研究者に対する研究加速等の諸措置は極めて適切であり、領域活動の成功に重要な寄与を成している。領域研究者の所属機関への直接訪問や、年2回開催された領域会議でのサマリー等、個々の研究進捗に対する指導・激励などは、本研究領域の研究者の成長を大きく促すと共に、領域活動全体としての成果に重要な寄与をなしたものと判断される。
 また、学際分野である本領域の若手研究者に対して広い視野を与え、研究交流を促進すべく、領域アドバイザーによる特別講演や、3領域合同シンポジウム、CREST研究領域との合同会議等、多彩な試みを展開している。この3年間で達成された諸成果から見て、これらの運営は、領域研究者の視野を広げ、相互交流・協力を促し、若手研究者の成長に大きく貢献したと判断される。
 更に、技術参事が中心となって行った戦略的な特許出願も、研究者に知財獲得の意義を啓発すると共に、研究成果の今後の実用化やその先の産業化を見据えた意欲的な領域運営の一つであると評価される。

3.研究成果について

3.1. 領域のねらいに対する達成状況

本領域のねらいとしては、上記2.1で記したように、
1)界面をナノメートルスケールで制御する事が鍵となる現象の創出や、界面現象を観察する為の手法開発において、独創性の高いテーマの研究を推進する事、
2)異分野の研究交流を通じて、無機材料・有機材料・生体物質といった従来の材料分野の垣根をこえた多様な物質間で形成される界面における革新的な機能の発現を実現する事
であった。
 まず、第一のねらいに対する達成状況について評価する。厳選された34件の提案者自身のオリジナリティに富みかつ物質科学の新たなブレークスルーに繋がるテーマについて、報告書に記載された諸成果は、このねらいが十分に果たされた事を証明している。多くの論文が、世界的に著名な学術誌に発表されている事に加え、本領域研究者のこの間の受賞が29件に上ると共に、34名中23名が、この間の業績を評価されて栄転した事実は、個々の研究の推進という狙いが極めて高いレベルで達成された事をみごとに証明している。34件の採択テーマの中には、残念ながら3年間という短い期間で最終目的にまで達しなかったものも若干数あるが、この期間の中で重要な研究上の進展を成し遂げている。今後の展開で成果が結実する事を強く予感させる。
 次に第二のねらいに対する評価であるが、異分野間の研究交流を通じての新たな研究展開というねらいは、多様な分野を網羅する研究集合体としての本領域にのみ可能な目的設定と言える。特に「界面計測を専門とする研究者とデバイス関係や生体科学研究を専門とする研究者との間」の協力関係の構築が一つの重点として設定され、かつ実際に展開された。これによって、領域事後評価用資料に記載されている如く、多くのかつ極めて興味深い共同研究が展開され、実際の成果となって結実している。このねらいも十分に果たされたものと評価できる。
 更に、本領域では、知的財産権活動に対しても大きな成果を達成している。領域全体としての84件の出願件数は、実用化が見込まれる研究に対して行った戦略的、集中的な活動であり、数多くの企業等との共同研究が生まれている。
 以上、領域のねらいに対する達成状況は、極めて高い。

3.2. 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済的な価値創出への期待

 本領域の研究領域事後評価資料では、この点について、
1)基礎科学技術上の進歩に資する成果:6名
2)応用科学技術上の進歩に資する成果:3名
3)社会・経済的価値創出:5名
の3つに区分し、計14名の具体例を紹介している。これらの紹介例は、それぞれの項目の中の特筆すべき例として紹介されているものであり、事後評価資料をつぶさに読めば、領域研究者のそれぞれが、3年間に上記3つの区分の中のそれぞれ、もしくは複数の区分で大きな成果を上げている事が判読できる。
 特に、領域の重点であった、①界面をナノメートルスケールで制御する事が鍵となる現象の創出、②界面現象を観察する為の手法開発、の分野において、独創的な素晴らしい成果が成し遂げられている。この点は、若手研究者の育成という側面を強く持つさきがけの役割からしても、極めて高く評価できる。見事な成果と言うほかはない。
 更に、本領域では、知的財産権活動に対しても大きな成果を達成している。領域全体としての84件の出願件数は極めて特筆すべき成果である。これは、実用化が見込まれる研究に対して行った戦略的、集中的な活動の結果であり、すでに数多くの企業等との共同研究が生まれている。しかし、領域全体としてみれば、この点の成果には研究課題間の差が大きい。これは「界面の構造と制御」という学問領域が、極めて有望ではあるが未だ発展途上の領域であり、具体的な社会・経済的価値創出に関しては、未知数と言わざるを得ない現状に起因しているものと判断する。3年間のさきがけ研究のあと継続される個々の課題の進展も含め、より多くの課題に関する内容での社会経済的な価値創出に対する寄与を期待したい。
 3.1でも記したが、本領域研究者34名の内23名が本研究開始後に栄転した事実は、特筆に値する。この領域での活動を通じて、若手の精鋭たちが大きく成長した事の実証でもある。この事は、上述した科学技術上の進歩に資する直接的な成果以上の極めて重要な意義を有している。今後の我が国の科学技術をになう多くの若手研究者を育て、今後の大きな活躍が可能な場所に処遇できた事は、経済的な尺度では測りきれない極めて貴重な効果をもたらすからである。
 本研究領域の研究者の今後の更なる活躍を祈念したい。

4.その他

1)事後評価資料にもあるように、本領域に対して、物理、科学、工学、生命科学を包含する広い学際分野である界面科学の、「基本的な共通概念の構築」に繋がる研究が提案されている。この共通概念の構築がどのように進展し、いかなる課題が未解決の課題として残されたか、という事項に関して、領域事後評価用資料に明確な記載がない点が少し心残りである。研究者個人の成長、研究成果、領域内での共同研究の諸成果が第一義的である事は言うまでもない事であり、その点が最も重要な内容である事は十分に了承できるが、領域活動全体の諸成果を個別的にではなく、学際科学である界面科学全体の将来的展開に寄与させるためには、今後、この「共通概念の構築」への努力がなされるべきではないか。それによって、本領域の諸成果が基礎学術面への貢献として更に生かされ、人類全体の知的活動としての科学研究の今後に引き継がれていくように思う。

2)さきがけ研究に参加し、その領域会議でいろいろな議論に参加し異分野交流できることは自分自身の研究の視野を広げる助けとなると考えられる。異分野の若手研究者間の積極的な出会いの場として、さきがけ研究は重要な役割を果たしているのは疑いのない事実である。数あるJSTのプロジェクトの中でも、長く安定的に継続する事が望まれる研究支援制度と言える。是非、さきがけ研究の安定的な継続をお願いしたい。また、さきがけ研究の事後評価に関して、研究終了時の評価を行うことはやむを得ない事である。その際、論文などを参考に、目に見えて分かりやすい研究成果のある研究者を中心に領域全体の研究成果を評価する事にならざるを得ないと思われる。中には、研究終了後もチャレンジングな研究を継続し、研究終了後5~10年で大きな研究成果を挙げる研究者もいると思われる。研究成果や若手研究者の育成の観点で、長い目で若手研究者のその後を評価して頂きたい。

3)さきがけ事業は、研究テーマが採択された若い研究者をエンカレッジする点で大いに良い事業であるが、明確な戦略目標が提示されている以上、さきがけ領域の研究内容が狭く限定的にならざるを得ない場合が多い。その結果として、多くの優れた若い研究者が自分の研究テーマを応募する適切な領域がなくて困るという実情を作り出し、彼らをディプレスしかねない状況を生み出す危険性がある。その対策として、例えば、「オリジナルな優れた研究であればどんな分野のテーマでも受け容れる」 “特別領域” をJSTが独自に作るべきである。

4)今回の審査において評価基準をどこに置いて良いかが難しかった。過去のさきがけ研究領域の各項目の評価状況とその基準の参考例があると,この点が改善できるように思われる。領域による違いがあることも十分理解した上で,今後の評価の精度を上げるという意味で何らかのデータの蓄積とその参照が必要であると考える。

5.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成状況
特に優れた成果が得られた

(2-2) 科学技術の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待
十分な成果または萌芽が認められた

(2-3) 戦略目標の達成に資する成果の状況
特に優れた成果が得られた

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