戦略的創造研究推進事業HOME評価戦略的創造研究推進事業における平成23年度研究領域評価結果について > さきがけ「RNAと生体機能」研究領域事後評価報告書

さきがけ「RNAと生体機能」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

 本研究領域「RNAと生体機能」は、「医療応用等に資するRNA分子活用技術の確立」を戦略目標として設定された。発足当時(2006年)は、小分子micro-RNA (miRNA)による遺伝子発現の制御研究が活発化し、疾患との関係にも注目されるようになった一方、ゲノムの非コード領域の広範囲な転写などが見出されるなど、Non-coding RNAに関わる未知の機能、新しい制御システムなどが注目されていた。そのような中で、多種多様な機能を持つRNAをキーワードとし、RNAの新たな機能を探索する基礎的な研究を行い、RNAの機能を最大限に引き出すことによって、RNAテクノロジーを推進することを目標としたことは妥当であり高く評価される。特に、このように新しい研究分野を、若い個人研究を対象とする「さきがけ研究」に設定したことも極めて当を得たものと言える。
 領域としては以下に述べるように、研究成果においても研究者育成の視点においても、期待を大きく上回る成果を挙げた。領域の戦略目標の具体的な達成目標である5項目は全てRNAテクノロジーとして設定されているが、研究課題の選考では、新たなRNA機能を探索する研究課題を中心に行い、それによってRNAテクノロジー研究を推進するバランスの取れた領域運営が、大きな成功につながったと思われる。このような選択は、研究総括の英断とリーダーシップがさきがけ研究において発揮されたもので、特に注目される成果につながっている。
 主な研究成果としては、

 などが挙げられる。
 また、RNAテクノロジーの研究成果としては、

 などが挙げられる。
 これらは、いずれも国際的に高く評価された研究成果であり、成果の多くは海外誌上に200報に及ぶ論文として発信され、また国内外で24件の特許出願を果たした。領域全体の研究課題が29課題であることを考慮すれば、これらの成果は数の上でも異例なほど顕著であり、さきがけ本来の目的を十分に達成したと考えられる。
 領域の研究推進に当たっては、多角的な方策が導入された。RNAの多様な機能に対応できるような多彩なアドバイザー陣を形成し、年2回の合宿形式の領域会議を実施した。また、サイトビジットを通して研究環境の整備、異動への対応、上司への協力依頼など、きめの細かい支援活動を行ったマネジメントは、領域としての優れた活動である。特に、研究期間終了後のフォローとしてOBの参加を促した領域会議などは特徴的で、人材ネットワークの将来へのつながりを意図した研究総括の熱意の表れであり、研究領域の本来あるべき姿として高く評価される。
 このような考察からは、本領域は当初の目標を十二分に達成する研究成果を創出し、次世代への人材と人材ネットワークを育成したものと評価される。

2.研究領域としての研究マネジメントの状況

2.1. 研究領域のねらいと研究課題の選考

 研究領域の戦略目標「医療応用等に資するRNA分子活用技術の確立」の具体的な達成目標は、1)有用な機能を持つRNAをデザインする技術、2)RNAの機能を高める技術、3)RNAを利用した機能制御の技術、4)RNAの検出技術、5)RNA薬剤の送達システム技術、となっており、戦略的事業としての最終目標に向けた応用技術開発が強調されている。研究総括はこの目標に束縛されることなく、さきがけ事業の性格から、目先の応用に傾くことよりも、質の高い基礎研究が、将来、大きな価値を生み出すことを意図して、研究課題の選考と領域運営に携わったことが、大きな成功につながったと思われる。即ち、生命現象におけるRNAの新機能の探索を重視し、機能性RNAを活用したRNAテクノロジーの展開へとつなげる選択がバランスよく行われたことが、領域の学術的幅を大きく広げ、いくつもの独創的RNAテクノロジーの開発につながり、戦略目標を充分に達成する成果となった。また、選考に当たっては「応募者の研究の主体性」、「高い独創性と新規性に富むこと」を重視し、研究者の将来性を見通して公正に取り組んだことは、さきがけ研究として特に重要な視点であろう。また、新しい視点に大胆に取り組むいくつかの研究対象が採択されていることも特筆すべき点である。
 領域アドバイザーは、医、薬、農、理、企業関係者と多彩であり、RNAの多様な機能と多様な応用に対応できるものであり、研究総括を中心に活発な研究支援集団を形成したこと、若手研究者に厳しくも有益な助言を与えることが出来る領域環境を形成したことは、余り例を見ない成功例として高く評価する。

2.2. 研究領域の運営の状況

 研究推進に当たっては、研究者間のネットワークつくりの重要性を喚起した点を特に高く評価したい。この促進のために、隔週の研究総括と領域事務所の打ち合わせ会、年2回の研究者・アドバイザーによる合宿形式の領域会議、毎月更新の研究者ホームページでの研究成果発表、異動者へのサイトビジットなどなどを実施し、研究の進展状況の把握のみでなく、研究環境の整備や計画の見直し、必要経費の追加支援等、きめの細かい支援活動を行った。この人的ネットワークは領域アドバイザーによっても有効に活用され、領域外の最適な共同研究者を紹介するなどの積極的な働きかけがなされ、あるいはアドバイザーとの間の共同研究に発展した例などもあり、極めて効果的に機能した。領域会議などでは、「激励とストレス」と報告書に記されているようにかなり活発で激しい議論が繰り広げられたようで、若い研究者にとって大きな刺激になったと思われる。
 公開シンポジウム、領域地域セミナー、プレスリリースなどの開催は、社会への発信として重要なだけでなく、その反応を感じとった若い研究者にとって有益な経験となったものと思われる。このようなマネジメントは、領域であるがゆえに可能であり、また領域の存在意義でもあるが、本領域のようにきめ細かく行われることの価値は高く、研究統括の熱意によるものとして格別の敬意を表したい。OBの参加を促した領域会議などは、人材ネットワークの将来へのつながりを意図した典型的な試みであり、本領域で活躍した若手のつながりが、今後の研究推進に大いに役立つであろうと期待される。あえて述べるならば、研究費の配分はかなり平等に配分されているが、高い成果をあげた研究者や研究室セットアップ時などに多目の配分があってもよかったと考える。

3.研究成果について

3.1. 領域のねらいに対する達成状況

 研究領域のねらいは「RNAの新たな機能探索と機能性RNAを活用するRNAテクノロジー開発」であり、このねらいは期待以上に達成されたと評価できる。各研究計画では、これらの両方を意図している例が多く、実際の研究もそのように進展した。多くの課題において進展がみられ、いくつもの研究課題で顕著な成果が上げられた。
 RNAの新機能の探索に関する基礎研究としては、1)Non-coding RNAとされていた遺伝子群の一部が極めて短いペプチドをコードし形態形成を制御する発見、2)RNA複製に関わるテロメラーゼの新機能の同定、3)RNA複製に関わる翻訳伸長因子の新機能の発見、4)マイクロRNAの生合成と作用機構に関する新たな知見、5)神経系における特有の蛋白質合成システムの解明、6)外来遺伝子によるRNAサイレンシングの新機構の発見など、本分野内に留まらない一流の研究成果が世界に発信された。
 RNAテクノロジーの展開としては、1)ウイルスベクターとmiRNAを用いたがん細胞特異的な治療法の開発、2)昆虫特異的なmiRNAを用いた革新的な殺虫剤の開発、3)独創的なアイデアによる人工siRNAによる肝炎ウイルスの効果的な複製阻害の成功など、医療・応用に直結するRNAテクノロジーの開発に成果が得られた。 また、RNAを検出する技術開発に関しても、1)RNAの蛍光可視化による選択的スプライシングの可視化技術の開発、2)哺乳類ゲノムに組み込まれたRNAウイルス遺伝子の初めての発見、3)HIVの潜伏感染における短鎖RNAの発現とその検出法の開発、に成功した。
 このように、本領域は、Non-coding RNAの新機能を解明するにとどまらず、RNAの持つ機能を最大限に引き出して医療・応用に直結するシーズを創成することに成功したと言えよう。これらの研究成果は、質においても数においても顕著であり、領域のねらい、戦略目標を十二分に達成したと言えよう。

3.2. 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待

 本領域では、RNAテクノロジーに関わる数々の発見・発明がなされ、科学技術の進歩に資する成果が得られたと評価される。
 主な成果としては、1)miRNAを組み込んだウイルスベクターによるがん細胞特異的な治療法の開発、2)昆虫特異的なmiRNAを農薬として利用しうることを示した革新的な殺虫剤の開発、あるいは3)HIV感染の迅速検出法などは、医療や産業の現場に直結する可能性を持つ技術開発であり、今後の展開によっては、社会・経済的価値の創出に寄与するものと期待される。
 また、4)特異的スプライシングの可視化技術の開発は、疾患や細胞分化の制御に関わる選択的スプライシングを標的とする創薬の開発を可能にするもので、将来の可能性を示唆する優れた成果であると指摘される。
 これらの成果についての特許出願は、国内15件、外国9件に及ぶ。いずれも独創的な技術であり実用化の可能性に富んでおり、今後の改良・開発に期待が持たれる。将来において有効に開発されるならば、害虫駆除、がん治療、認知症治療、エイズ予防、エイズ治療、等における新しい手段を提供するもので、社会的福祉においても、経済的効果においても大きな価値を創出する可能性を持つ。しかし、現時点での研究総括、アドバイザーを含めた企業への橋渡し努力が効を奏していないのは残念である。

4.その他

5.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成状況
特に優れた成果が得られた

(2-2) 科学技術の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待
特に優れた成果または萌芽が認められた

(2-3) 戦略目標の達成に資する成果の状況
特に優れた成果が得られた

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