戦略的創造研究推進事業HOME評価戦略的創造研究推進事業における平成23年度研究領域評価結果について > CREST「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」中間評価

CREST「ディペンダブルVLSIシステムの基盤技術」
研究領域中間評価報告書

1.総合所見

 研究領域としては微細化、高速化が進みゆくVLSIをシステムの中でさらに多様化していくという状況の中で特にディペンダビリティに着目して研究がすすめられているという点でユニークなテーマのとらえ方である。したがって今後ますます要求スペックが高くなるだろうと予想される中で的を射た題材であるといえる。
 現在までの研究は全体としては順調に進んでおり、学術的な発表も積極的になされている。一方でこれらの研究が産業界にどれくらい寄与しているのかは評価指標が未確立の部分もあり、まだ発展途上であるといえる。
 通常の集積回路の研究、開発という点からは違う視点での研究領域を定義している点でその意義は高く、新しい領域を構築、意識付けできたという点で非常に評価できる。またシステム、設計、製造の総合力が試されるテーマづくりであり、科学の発展のために的確な取り上げ方をしているといえる。
 現在の研究範囲はVLSIそのもののディペンダビリティを議論しているものが大半である。しかしながら、実際の応用としては全体のシステムとしてのディペンダビリティがあり、その中でそれぞれの構成要素にどうそれらを盛り込むのかという議論になるのでそこまで考察、もしくは実験計画が企画されればさらに実用に近くなるだろうと思われる。
 研究成果の評価として、産業・社会的な寄与が必ず項目として入っているが、現時点ではまだ実用まで至っていない技術が多いと考えられ、将来実用されても効果の実証が難しい。技術を実用化するにはいくつかの段階があるので、もう少し出口戦略の基準などをはっきりさせると同時に、純粋な科学の発展から生み出される技術を出口戦略に向けて役立たせる観点での評価軸も設けた方が良い。
 また、世界的な水準と照らし合わせて、本研究がどの程度進んでいるかを定量的に明らかにしていく努力をするとさらによいであろう。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考について

 テーマそのものは非常に重要であること、またシステムに組み込まれていくVLSIの数そのものがますます増大していくことを考えれば非常に的確なテーマといえる。評価用資料の中で記述されているとおり狙いは明確である。
 選考の方針についても、評価用資料に記述されているとおり、きわめてわかりやすく、かつ的確に運営されていると考えられる。
 領域アドバイザーの構成に関しては、研究機関、産業界ともバランスがとれかつ専門分野も広範囲にわたっており適切と思われる。一方で実用化を考慮するのであれば、実際にVLSIを使用する側の人間をもう少し入れたほうが良いと思われる。また、世界水準の研究を的確に判断するにはシーズ側の専門家の強化も考慮したいし、海外との協力を考えるのも一案である。
 採択課題の構成については、研究領域がアプリケーションからみても、またハードウェアからソフトウェアというVLSIの観点からみても多くの範囲をカバーしているが、少し観点が広がりすぎているという印象を受ける。

3.研究領域のマネジメントについて

 運営方針については評価用資料に書かれているとおりであるが、各人各様の取り方をされがちなので具体性をもう少し掲げたほうが良いと思われる。
 各テーマの進捗の把握はきちんとできているし、定期的な報告会(学会含む)、ウェブ公開などで進捗がみんなに見えるようになっていることは非常にいいことであるが、自分自身の立てた計画に対しての進捗報告になっている場合が多く、世の中の進捗(変化)に照らし合わせた評価が少ないようである。
 すべてのテーマで研究進捗が社会への貢献も念頭に評価されていると考えられるが、すべてがこの指標で評価できるとは思えないので、純粋に科学技術的な観点だけの評価だけでもいい場合はある。成果のデモンストレーションとして実際にVLSIを試作すべきかどうかは、よく議論してから進めるべきであろう。また、実証をするために違うアプローチもあると思われる。
 明確な課題間の連携はあまり見受けられないが、出口戦略の中で企業との連携を強化していくという考え方でいいと思われる。ただし、テーマがオーバーラップしているところはテーマを共有化して絞り込んでいった方がよいであろう。
 研究費の配分は実用化を含めた成果を見ないと適切であったかどうかはわからない面がある。しかしながら、成果がディペンダビリティ性能向上ということであれば尺度が必要であるし、新規性であれば従来の何に対して新しいのかをはっきりさせていく必要がある。また、VLSI(1チップ)に成果を押し込めるのではなく、もう少しモジュール的なアプローチをとりいれた方が、成果が早く出る場合もあるし、フィードバックのスピードや研究の精度も上がるであろう。

4.研究進捗状況について

 本研究の成果は多くの論文、もしくは学会に発表されており、概して活動は活発であるといえるし、対外的にもいいアピールができている。また特許などで知財権をきちんと成果にしているテーマもある。しかしながら、個別チームでは、関連する成果がすべて盛り込まれており、中には直接ディペンダビリティと関連しているのかどうか判断が付かないものもある。産業界との連携の点では各テーマでレベルが異なっており、評価が難しい。よし悪は別にしてどれくらい実用化に近いところで企業と連携を真剣に行っているのかは疑問が残る。世界標準という点では満足のいく成果が出ていないが、実際には時間がかかるし、企業との強力な連携が必要である。
 研究に参加されている方はどのチームの人もその分野では専門家であり、レベルの高い研究がされている。それぞれの研究領域では先端を走っていることは確認できるが、社会的、経済的という点では今の時点でこれを評価することは難しい。なぜならば社会的波及を評価するためには時間がかかるし、限定された領域の研究成果がはたして全体にどういう作用をするのかは、外部環境(科学技術の進歩)に非常に作用されるからである。
 研究の進捗が世の中の指標に対して進んでいるのか遅れているのかは学会などの採択で間接的にわかるが、実際にどうだろうかということには興味がある。たとえば外部に公表のできないSecurityの脆弱性を改善する研究などはどのようにして進めていくのかという課題がある。もう少し具体的に研究が進んだ先には導入技術とコストのトレードオフの議論も必要である。

5.その他

 本研究領域では各テーマがそれぞれの領域を設定して、ひとつのVLSIの中でこのディペンダビリティを完成させていこうという観点であるので、成果がはたしてトータルシステムにおいてどのように作用しているのかが分かりにくい点がある。ディペンダビリティを議論していく上では実に多くの課題があり、最終的にはトータルシステムとしての評価が必要である。
 総額で46億円を超える研究費の価値は、直接の製品開発ではないことを考慮すると、本当に産業貢献すれば波及効果は相当な額になるだろう。その意味で出口戦略が重要視されている。これらについては将来の成果波及評価で行うべきと考える。
 一方で、誰もやりたがらないけれど重要なものをもっと掲げてもいいのではないかと思う。本当に大事なものであれば、企業は黙って使う。また外部の技術の進捗により、その実用化の困難度はさまざまに変化していくことも考慮に入れるべきである(他の環境が変われば優しくなる場合もある)。

6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域のねらいに対する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(1-2) 科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果、及び今後の見通し
成果が得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

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