戦略的創造研究推進事業HOME評価戦略的創造研究推進事業における平成23年度研究領域評価結果について > 研究領域総合評価

戦略的創造研究推進事業公募型研究(CREST、さきがけ)
平成23年度研究領域総合評価報告書

総合所見

 JSTの戦略的創造研究推進事業は、我が国の科学技術政策や社会的・経済的ニーズを踏まえて文部科学省が定めた戦略目標の実現に向けて目的基礎研究をトップダウン型に推進する事業で、産業や社会に役立つ技術シーズの創出を目的として先導的・独創的な研究が推進される。戦略的創造研究推進事業において設定される戦略目標は、過去、研究分野を比較的広範囲に包括したものだったのに比べ、近年はかなり具体的に示されるようになり、その達成目標や目標設定の背景および社会経済上の要請、科学的裏付けが詳細に提示されるようになってきている。本年度評価対象となった平成16年度にスタートしたCRESTの2研究領域では、同じ戦略目標を掲げており、我が国の科学技術分野で真に諸外国を先導するために、世界最先端の研究データを取得できる新しい手法の開発に通じた先端的な計測・分析技術基盤の確立を目指している。 具体的には、無機材料や有機材料、生体・環境試料中に含まれる極微量物質の化学形態を計測・分析する基盤技術の確立であり、もう一方では、固体―固体界面、固体―液体界面の状態を計測・分析する基盤技術の確立を目指している。この具体的に示された戦略目標のもとでCREST「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域と「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域が研究総括のねらいに沿って募集され、それぞれ選考・採択されて推進された。チーム型の大型研究CRESTと個人型さきがけとそれぞれのプログラムの役割があるが、本年度評価の対象になったさきがけ4研究領域の内、「RNAと生命機能」を除く3研究領域では、CRESTと同じ戦略目標の下で対をなす領域として立てられたもので、合同領域会議での交流や研究総括が互いのアドバイザーに加わり情報交換するなどの領域の運営を支援するための施策がとられている。これらのさきがけ4研究領域でも、戦略目標に伴う具体的な達成目標がそれぞれ示されており、研究総括による研究領域のねらいに沿って選考・採択されて推進された。また、メディア芸術制作者に先進的な表現手法を提供しそれを民生化するための技術を創出するという戦略目標に対しては、CRESTとさきがけの複合型の「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域を設定し推進した。
 本年度終了したCREST2領域,さきがけ4領域,CREST・さきがけ複合1領域について、上述の視点で総合評価を行った。その結果、CREST「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域では、多くの先進的な成果が創出されたと評価できる。この領域は良い成果が得られてはいるが、異分野技術との融合を通して先端計測技術の発展につながるのは未だ先であろう。CREST「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」研究領域では、研究総括の方針として従来取り上げられることの少なかった中規模の分析・計測技術に焦点を当てて進めてきたことは評価できる。この領域からは世界初、世界最高性能の研究成果が数多く挙げられており、優秀な論文、受賞、国際会議での招待公演も非常に多く、優れたマネジメントを行ったと高く評価できる。一方、これらのCREST2領域では、今後計測・分析機器の製品化・実用化にまで結びつくまでには長い時間を要することからこの分野への継続的な施策の充実が望まれる。
 さきがけ「RNAと生命機能」研究領域では、生命現象におけるRNAの新たな機能を探索する研究を対象とするとともに、明らかとなっている機能性RNAを活用し、医療応用等を含めたRNAテクノロジーに関する研究が推進され、人材の育成と多くの成果に繋がっていると評価できる。さきがけ「界面の構造と制御」研究領域では、ナノ界面の構造や状態を観察・分析する技術開発、デバイスや検出システムの開発、新奇の材料開発、生体界面の機能創出、界面の理論の研究についてオリジナリティを重視して課題が選ばれ推進された。個々の研究者が自分の分野を越えて異分野の交流を進め、企業との共同研究にも結びついており多くの成果を上げたと評価できる。さきがけ「ナノ製造技術の探索と展開」研究領域では、ナノ加工、ナノ計測、ナノプロセス、ナノ材料などに関する新しい「ナノ製造技術」の実用化につながる基盤技術の構築を目指して研究が推進された。産業応用までには10年以上先かもしれないがこの分野への継続した施策・支援が必要であり、さらに発展させるためにもアカデミアと産業界の連携がさらに必要であろう。さきがけ「物質と光作用」研究領域では光の発生検知技術、光と物質の局所的相互作用、光による原子の制御など新しい角度から多面的に研究が実施された。多くの研究成果が得られ、また多くの研究者が異動・昇進しており次世代を担う若手研究者の育成でも高く評価できる。
 CRESTとさきがけの複合型の「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」研究領域では、原著論文発表に加えて、予感研究所や先端ショーケースなどの実践の場を通じた作品展示や新たなアート概念の提唱とそれに基づいた作品群の創作,文化庁メディア芸術祭との協賛展の開催,優秀賞を初めこれらの活動における多数の受賞など本研究領域特有の優れた成果が得られた。
 以上のように、先端的計測・分析基盤技術に係わる2つのCREST研究領域では、世界最先端の計測・分析機器の実現に向けた基盤技術の確立を目指すという共通の戦略目標の下に、それぞれの分野で研究が推進され、重要な成果が上げられた。4つのさきがけ研究領域においても、RNAテクノロジー、ナノ界面、ナノ製造技術、光制御・応用に関して、次世代の研究開発を先導する重要な研究成果が上げられた。CRESTとさきがけの複合型研究領域では、複合型により全体の活性度が高まる効果も認められ、当初の期待以上に広汎な成果をもたらし新しい発展の基を築いたという点で、特に優れた成果が得られた。
 尚、一部のさきがけ研究領域では、多くの優れた研究成果や企業との共同研究があげられているものの、採択された研究者に、助教・ポスドクが比較的少なく、さきがけの趣旨に沿ってより若い研究者のポテンシャルにかけるべきであろう。研究領域毎にいくつかの問題点の指摘はあったものの、難度の高い研究成果を上げており、研究領域の運営は全般的に極めて良く行われたといえる。
 JSTの戦略創造推進事業には産業応用など目標の達成までには長い時間が必要であり、制度設計・運営には戦略的な方策が必要である。例えば、いきなり大きな研究費では無くさきがけで育ててCRESTで展開するなど組み合わせながら推進することも効果的であろう。また、地方大学でも面白い研究が数多くやられており、採択に際して支援体制をより一層充実することで、高い成果が期待でき課題選考の幅を広げることができるであろう。

CREST研究領域:物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術

戦略目標:新たな手法の開発等を通じた先端的な計分析技術の実現に向けた基盤技術の創出
研究総括:田中 通義

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 我が国が科学技術分野で真に諸外国を先導するためには、世界最先端の研究データ、独自の研究データを取得できる先端計測分析技術・機器開発の重要性が再認識されており、本研究領域が、物質や材料に関する科学技術の発展の原動力である新原理の探索、新現象の発見と解明に資するとともに次世代の産業にもつながるナノスケールの計測・分析や極微量物質の計測・分析などにかかわる基盤技術の開発・発展を目指して研究が進められた。その中で研究総括の方針として従来取り上げられることの少なかった中規模の分析・計測技術に焦点を当てて進めてきたことは評価できる。
 本研究領域では、個々の研究テーマについては電子スピン共鳴-走査トンネル顕微鏡装置の開発と世界最高の感度とエネルギー分解能をもった超微細分析の成果、高輝度放射光X線光源を用いたピコ秒・サブミクロンのピンポイント構造計測システムを開発と材料の構造ダイナミクスの解明を可能にした研究、近年世界に遅れを取っていた日本の電子顕微鏡では、非対称型収差補正装置の開発による世界最高性能の0.47Å分解能の達成、スピン分解光電子分光装置による世界最高のエネルギー分解能を達成しフェルミ準位近傍における微細電子構造と物性発現機構との関連を明らかにした成果、半導体量子構造を利用した新たなテラヘルツ計測技術を創出し超高感度の散乱型走査光学顕微鏡により熱励起エバネセント波を世界で初めての検出など多くの成果で高い評価を得ている。
 本件研究領域では全ての研究チームにおいて世界初、世界最高性能の研究成果をあげており、優秀な論文、受賞、国際会議での招待公演も非常に多い。我が国が進める政策の重要性を研究総括は深く理解して、優れたマネージメントを行ったことを高く評価したい。
 一方、技術創出が計測・分析機器実現まで結びつくには相当に長い時間を要することから、日本にとって重要なこのような分野を伸ばすにはアカデミアだけでなく企業が積極的に参画することが重要であり継続的な施策の充実が望まれる。

CREST研究領域:生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術

戦略目標:新たな手法の開発等を通じた先端的な計分析技術の実現に向けた基盤技術の創出
研究総括:柳田 敏雄

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 本研究領域は、生命現象の解明と応用に資するというかなり幅広い研究領域で、今後大きく展開する生命科学の分野で、我が国が世界最先端の研究データ、独自の研究データを取得できるためには先端計測分析技術・機器を整備していくことが重要となる。そのために全く新しい発想に基づく技術開発、新原理の探索を通して未解明の生命現象の解析に資する新たな計測・分析に関する基盤的な技術を創出し、診断や医療の向上に寄与することを目指すものであり、研究総括のねらいは妥当なものである。
 本研究領域では、生命系科学技術にブレークスルーに挑み全体として質の高い研究成果が得られている。生命現象解明へのプロセスとして、高速でイメージングできるAFMを開発し、たんぱく質やたんぱく質の集合体の動きを動画で捉えることに成功した、また、細胞内でたんぱく質の構造を決定できるNMRの開発し、構造の安定性を計測した結果、細胞内ではたんぱく質は不安定化していることを示めし新しい知見として注目を浴びた。RNAアプタマーの研究では、RNA分子の特性を突き詰めそれを使ってRNAアプタマー創薬、RNAアプタマーツールへの道を切り開いたとして高く評価されている。
 社会的波及効果につながる成果としてはRNAアプタマー、光・電子ハイブリッド顕微鏡、蛍光プローブ、次世代無侵襲・定量的脳機能イメージング法による脳温度計測などの技術創出が、計測法の確立、計測・分析機器の実現までに結びつくには長い時間を要するが、他の研究者にも再現できるような普及効果も含め今後の発展が期待される。
 このような新しい発想に基づく技術開発、真原理の探索を通してチャレンジングな計測・分析に関する基盤技術に取り組むには、いきなり大きな研究費ではなく、異分野融合も含めて、さきがけから始めてCRESTに繋いで伸ばしていくなど幅広く、長期的な研究支援していくことも必要であろう。

さきがけ研究領域:RNAと生命機能

戦略目標:医療応用等に資するRNA分子活用技術(RNAテクノロジー)の確立
研究総括:野本 明男

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 我が国は、急速な高齢化社会での医療費の増大、さらに新興・再興感染症の脅威などの問題があり、したがって疾患の予防・治療技術の向上は経済的にも社会的にも急務の課題である。本研究領域が発足した当時はRNAの持つ新たな生体機能、新しい制御システムなどが大いに注目されていた。
 本研究領域では、戦略目標「医療応用等に資するRNA分子活用技術の確立」に基づいて、具体的な達成目標としてRNA分子の多様な機能を応用技術開発に繋げることが示されている中、研究総括はさきがけ制度の主旨に合わせて敢えて質の高い基礎研究を重視した選考を行ない、生命現象におけるRNAの新たな機能探索を中心として機能性RNAを活用した独創的RNAテクノロジーの展開をこの領域で推進した。その結果、この研究領域から数多くの学術的成果が生み出され、戦略目標の達成に資する多くの独創的RNAテクノロジーの開発につながったと言える。さきがけ研究領域として若手研究者の力を結集して本研究領域を推進したことは時宜を得たものであり高く評価される。
 本研究領域では、Non-codingRNAと思われていたRNA分子が胚発生に必要な11aaペプチドをコードしているとの発見、テロメラーゼの新機能の同定、ウイルスベクターとmiRNAを用いた癌細胞特異的な治療法の開発、昆虫に特異的なmiRNAを用いた革新的な殺虫剤の開発、など新発見を含む、実用面でも将来大きな価値を生み出すと予測されるような成果が多数得られており、いずれも国際的に高く評価されている、さらに、これらの研究成果論文は著名誌へ数多く発表され、研究領域終了時点で、国際誌に196報掲載、特許も外国9件、国内15件出願されており優れた成果が出ていると評価できる。
 ただし、これらの成果を企業に橋渡しする取り組みは容易ではなく、今後更なるフォローアップ、将来これらの成果を応用・実用化に繋げるための方策が望まれる。

さきがけ研究領域:界面の構造と制御

戦略目標: 異種材料・異種物質状態間の高機能接合界面を実現する革新的ナノ界面技術の創出とその応用
研究総括:川合 眞紀

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 本研究領域では、異種材料・異種物質状態間の接合界面として、ナノバイオ医療技術、エレクトロニクス技術、発電・蓄電エネルギー技術などに関連した、生体材料と人工物との接合界面、ソフト材料とハード材料との接合界面(有機物と金属・絶縁体など)、異なる機能材料の接合界面(半導体と金属・絶縁体など)、エネルギー変換と物質移動を伴う固液界面などの高機能化、界面や表面の機能を積極的に利用し、新規反応場や新規プロセスなど広い観点を背景とした着想をもつ研究が集められ推進された。特に個々の研究者が自分の分野を超えて異分野の交流を実現したことは高く評価できる。さらに、他領域や国内外研究機関との共同研究にも発展している例が見られる点も特筆すべきであろう。
 本研究領域では、ナノ界面の構造や状態を観察・分析する技術開発、デバイスや検出システムの開発、新奇の材料開発、生体界面の機能創出、界面の理論の研究についてオリジナリティを重視して課題が選ばれ推進された。
 結果として、著名な学術誌に多数の論文が掲載されるとともに、特許出願84件(外国出願28件を含む)、受賞など多くの成果が出ている。企業との共同研究も多く、人材育成の面でも34名中23名の異動・昇進が見られ特筆すべきである。企業との共同研究も生まれており、将来が期待される。

さきがけ研究領域:ナノ製造技術の探索と展開

戦略目標: ナノデバイスやナノ材料の高効率製造及びナノスケール科学による製造技術の革新に関する基盤の構築
研究総括:横山 直樹

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 本研究領域は、国際競争力維持の観点から緊急性を有する重点施策としてナノ加工、ナノ計測、ナノプロセス、ナノ材料などに関するシーズを高度化・統合して実用化・産業応用に繋がる新しい「ナノ製造技術」の基盤技術を構築するとともに、新たな技術イノベーションの創出、さらにはナノテクノロジーに係る現象をナノスケール科学により解明することを目指して研究が推進された。
 本研究領域では、カーボンナノチューブの精密直径制御による高効率・低コスト量産技術、独創的なグラフェン製膜技術、10nmレベルのナノ光リソグラフィー技術、スピンの電圧磁気異方性制御技術など多様な基盤技術が創出された。このような要素技術を現実の産業界の技術に適用されるには多くの解決すべき障壁が予想される、しかし、今後10年以上先かもしれないが独創的な産業基板技術として応用に繋がるものと期待される。その結果、本領域では著名な国際誌への論文も多く(13報/人)、特許も70件そのうち国際出願も17件と多く出願され十分な成果が出ている。さらに、その後の継続研究として最先端次世代研究プログラムへ4名採択されており、さらには応用プログラムへの展開としてJSTのA-STEPやNEDOの実用化プロジェクトへ採択された研究者もでており高く評価される。
 一方、産業応用・社会還元に繋がる基盤技術の構築を期待するものであり、産業界から来た研究総括を支えるアドバイザーにもっと企業出身者が多くしても良かったと思われる。今日、アカデミアと産業界が総合的に連携してやれる枠組みができやすくなっているので、このような分野をさらに発展させていくことが必要であろう。

さきがけ研究領域:物質と光作用

戦略目標: 光の究極的及び局所的制御とその応用
研究総括:井筒 哲夫

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 本研究領域では、光の究極的及び局所的制御に基づき、光・光量子技術を核にして光の発生検知技術、光と物質の局所的相互作用、光による原子の制御など新しい角度から多面的に追及する研究が実施された。これらの研究開発は基礎科学への貢献のみならず、産業界への応用など多様な波及効果も期待されることから、引き続き我が国がこの分野で世界をリードしていくために、さらに強化を図る必要がある。1年先行して発足したさきがけ研究「光の創製・操作と展開」(伊藤弘昌研究総括)と同じ戦略目標のもとで、物質・材料の側に強調点をおいて光との相互作用の観点で研究課題を選定したことは高く評価される。
 本研究領域では、多様な電子常態と光の相互作用に関する化学と物理、新規光機能材料・電子機能材料の創製とその材料設計指針と合成技術の確立、新規計測技術の開発、生物関連物質の利用技術の開拓、光デバイス・電子デバイスの原理探索や作成技術の確立、さらにはデバイス応用のための利用環境下での物質の安定性と信頼性を追求して、合成化学、材料科学、応用物理学、デバイス工学の分野から広範囲に研究者を結集して研究が実施された。
 研究領域全体として優れた原著論文が多数発表され、受賞歴などもレベルが高いものが多い、さらに、次なるさきがけ研究への採択、CREST研究への展開が各1件、最先端・次世代プログラムへ採択された研究者が4名に採択され、また多くの研究者が異動・昇進しており次世代を担う若手研究者の育成の面からも十分に満足すべき成果が上がったものと判断され、研究総括が高い見識を持って取り組まれた結果として高く評価できる。

CREST・さきがけ複合領域「デジタルメディア作品の制作を支援する基盤技術」

戦略目標:メディア芸術の創造の高度化を支える先進的科学技術の創出
研究総括:原島 博

評価点:十分な成果が得られた

講評:
 科学技術と文化芸術の融合領域であるメディア芸術分野は日本の強みの一つとして戦略的に研究を推進することが重要である。従来、戦略的創造研究推進事業では自然科学を対象とした研究領域が主流であった中で、このような科学技術と文化芸術の融合研究領域を設定したことは高く評価される。
 採択された研究課題は「文化芸術」・「社会産業」・「科学技術」という異なる価値の三本柱を軸にバランスの取れた構成になっており、原著論文発表に加えて、予感研究所や先端ショーケースなどの実践の場を通じた作品展示や新たなアート概念の提唱とそれに基づいた作品群の創作,文化庁メディア芸術祭との協賛展の開催,優秀賞を初めこれらの活動における多数の受賞など本研究領域特有の優れた成果が得られた。CRESTでは先端技術からメディア芸術の新たな展開を図る研究,デジタルコンテンツ作品制作の支援技術開発を通じて社会・産業に貢献する研究,アートとエンターテインメントの基盤となる科学技術の創成を目指す研究を行い原著論文や国際会議などの成果発表の面でも非常に活発であった。一方、さきがけでは研究終了後16名中10名がさきがけ研究員,大学院生,助手,講師などから教授,准教授に昇進するなど若手研究者の昇進が多く,若手研究者育成の面で高く評価できる。CRESTとさきがけの複合型研究であることも全体の活性度が高まる効果があった。研究領域発足当初は「芸術的な創造性」と「科学的な知見」をどう調和させるかという点が懸念されたが、本研究領域では当初の期待以上に広汎な成果をもたらし新しい発展の基を築いたという点で、特に優れた成果が得られたと判断される。また、文化芸術を含めた異分野が一つのプロジェクトで実行されたのはJSTとしては全く新しい試みであり、成果に加えて、その挑戦的な取り組みも大いに評価すべきであろう。
 今後、要素技術の開発としての発展以外にも、文化芸術系の専門家の感性を技術評価に採り入れるなど本研究領域の成果をメディア芸術分野の発展に役に立てる方策を講じ継続的な取り組むことが望まれる。

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