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さきがけ「光の創成・操作と展開」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

 光の科学・技術はこれまで実用の域に達し科学と社会の発展に大きな貢献をなしてきたものの、限界追求や総合化の面では電子技術に比して未開拓な領域が多く、さらに大きな発展への努力が必要とされる。本研究領域では、光の本質的理解、新現象、究極的制御という挑戦的領域に積極的に取組み、若手研究者の独創性を生かした革新的研究を遂行している。特に光そのものの制御,光を用いた物質制御に関する基礎的研究で将来の技術革新の萌芽となり得る大きな成果があげられている。研究総括、アドバイザーおよびJST関係者が良く考えたマネージメントシステムを構築し、視野拡大、研究者間協力、異動への対応など、きめ細かな運営がなされている。光科学・技術の革新につながる可能性を有する数多くの知見が得られていることは論文発表数や引用数の多さからも明らかである。さらに、新しいタイプの研究成果発表の場を研究者達が主体となって企画運営したことや海外との交流促進など、情報発信にも十分な指導が行われており、若手研究者の優れた資質を開花させるのに極めて有効である。
 いっぽうで科学および社会に真に影響力のある成果まで完成させるにはさらなる努力が必要であることを考えると、光のコミュニティー以外の専門家集団との緊密な交流を進めることによって困難な課題の洗い出しやシステム化の方策を探求することが求められる。本研究プロジェクト終了後も各研究者が継続してこれらの課題に取り組まれるよう期待する。

2.研究領域としての研究マネジメントの状況

2.1. 研究領域のねらいと研究課題の選考

 全体として選考方針、アドバイザーの構成、採択課題の構成のいずれも適切である。
 24件の課題の分布を見ると、光科学の最先端である(A)超短光パルスの展開と物質制御、(B)量子情報処理の基礎となる量子光学の深化、(C)ナノサイエンス・テクノロジーを活用した新規光学素子・材料の開拓、にグループ分けできる。これらは今後、ますます重要性が高まることが確実なテーマ群であり、将来の大発展を生み出すための基盤となるものである。実際に採択された研究課題および研究者の志向するところを見ると、この戦略目標にきちんと適合していると評価できる。特にそれぞれのテーマ群に理論研究のテーマを加えて採択したバランスは高く評価できる。
 また、領域アドバイザーには光科学各分野の指導的な研究者が就任しており、多角的なアドバイスが期待できる適切な構成と考える。
 選考にあたって各申請者のこれまでの実績のみならず,提案の革新性,個人の資質をも重要視した評価を行っており,野心的な提案が少なからず採択されている。

2.2. 研究領域の運営の状況

 若手研究者の成長を促すため種々の施策がとられ、中でも異動後の研究環境立ち上げ,共同研究の促進などにおいて効果があったと評価できる。異動等による環境変化のための研究アクティビティの一時的低下は、特に若手研究者の場合に課題となる点であるが、研究者との連絡を密にし、立ち上げ費用支援など、アクティビティ低下の影響を抑制した、きめ細かい領域運営は、若手研究者の実態に即した適切な運営と考える。
 理論研究者の提案を積極的に採択した結果、実験研究者との連携が促進できた。諸外国の独創的研究では、その多くが理論と実験の融合チームでなされた事例が少なくない。我が国において新しい方向性を提案する理論研究とそれを確認する実験研究の連係プレーを促進できたことは高く評価できる。
 個別研究テーマのほとんどがよい成果を生み出していることを見ると、研究総括及び領域アドバイザーによる研究進捗状況の把握と指導が適切に行われたことは間違いない。若手研究者がこのような適切な研究指導のマナーを学び、今後の後輩、学生指導などに生かしてもらうように期待する。
 滞在型ワークショップのように、我が国の全国共同利用研(京大基礎研など)が進めようとしている新しい研究連携に挑戦したことも重要な試みである。

3.研究成果について

3.1. 領域のねらいに対する達成状況

 基礎的な研究であるため若干の例を除きすぐに実用に繋がる成果にまでは至っていないが,革新的技術の萌芽を生み出すという目的は十分に達成されたと判断する。海外研究機関に所属した研究者は、海外滞在時の研究成果を基礎にした新しい研究分野の開拓に発展させている。国内に研究基盤を持つ研究者は、確実に成果を挙げつつ視野を拡大し、長期的な視点を持った研究へと展開しつつあるように見え、頼もしく感じられる。領域テーマの中から、CREST、新学術領域、最先端次世代などのファンドに発展したものが出ていることや数多くの受賞はその証左といえる。

3.2. 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待

 さきがけプロジェクトが目指す若手研究者に萌芽的、挑戦的研究課題への取り組みの機会を提供・サポートする活動が効果的に機能し、科学技術上の進歩に資する基礎的、概念的な新しい成果が生み出された。評価委員が指摘した特に注目する研究テーマ・テーマ領域を以下に示す。
評価委員A:基礎的なテーマ群として、位相制御超短パルス発生、高強度光科学、位相制御光による原子分子ダイナミックス、物質波制御、ボーズアインシュタイン凝縮(BEC)、クアントロニクス、重力波など。応用指向に及ぶテーマ群として、プラズモニック・メタマテリアルやテラヘルツ研究;
評価委員B:分子制御への短光パルスの適用手法の探索、THz光の発生、物性制御への適用、ナノ金属光学材料、レーザーによる微細構造形成など。
評価委員C:超精密原子分光のための高Q共振器、オクターブラマン周波数コム、5fs光+DASTアンテナによる超広帯域光電場検出、ラゲールガウスパルス光源の開発と光渦による微粒子操作、光記録材料中のフォノン追跡、共振器QEDによる光ターンスタイル観測と外部信号取り出し、プラズモン機能素子、分子挙動観測用位相制御軟X線パルスビームライン、高純度エンタングルメント光源開発、超高感度干渉計の揺らぎ制御など。
 全体として、すぐれた論文発表,招待講演にみられるように,基礎研究としての成果は十分にあげられたと考える。将来,革新的な技術展開に繋がることを期待したい。

4.その他

 基礎研究の成果を発展させ、社会に貢献する技術に結び付けるための留意点として評価委員から以下のコメントが寄せられた。
 「本当に新しい概念を実用につなげるには、その本質を極める努力を継続することが必要である。これらの研究は全体として、人類の知識を積み上げると共に、それをわかりやすく理解できるようになり、具体的な応用を生み出す基盤を構築していっている。さきがけは先端を切り開くことに成功した。このような基礎研究を進めた研究者を、無理矢理、社会的・経済的な価値創造につなげる研究への発展を強制するのは有害である。自然に発展する場合は当然、応用研究にまで発展させるべきだが、基礎→応用→開発→製品化まで、結局、同じ人間に任せてきた我が国企業の研究開発体制が破綻を来していることを考え、次のステップに適した研究グループの育成が必要となるだろう。これはどちらが優れているという比較ではなく、研究者に内在する必要性の違いがあるという指摘である。基礎研究と開発、実用化には、別のものが要求されることが多い。」
 「これまでの研究を概観すると全体として光の本質に迫るテーマについて真摯に取組み、独自性の高い新手法を考案し、専門家コミュニティーの中で高い評価を得る段階まで成果を積み上げてこられた。よって期待に十分こたえる活動であったと言える。ただし、20世紀後半の展開でそうであったように全ての夢が単純に成就するわけではなく、研究の進展にともなって困難な点も明らかになり多くのアイディアが淘汰されるプロセスが必要である。そのためには光の専門家の中だけではなく、隣接する他分野との交流の拡大が次の段階では必要とされる。本研究領域の場合にはナノテクノロジーの専門家(化学系の専門家を含む)、量子情報システムの専門家、先端計測システムの専門家などが最も近い隣接コミュニティーと思われる。さらには材料産業、情報通信産業、エネルギー産業等へのルート探索という課題もある。これらの課題について各研究者が本プロジェクト終了後も継続して考え、展開されるよう希望する。」
 「本領域の活動を期間内のみとするのではなく、光の分野の若手研究者の交流の場としての研究会の実施としたことは、若手研究者対象のさきがけの効果をより高め、より大きな発展への布石として、今後の効果を期待させる優れた取組と考える。」

5.評価

(1) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

(2) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果の状況

(2-1) 研究領域のねらいに対する達成状況
特に優れた成果が得られた。

(2-2) 科学技術上の進歩に資する成果、社会・経済・文化的な価値創出への期待
特に優れた成果または萌芽が認められた。

(2-3) 戦略目標の達成に資する成果の状況
十分な成果が得られた。

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