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CREST「脳の機能発達と学習メカニズムの解明」
研究領域事後評価報告書

1.総合所見

 当研究領域の戦略目標は、将来的に学習や教育等の解決や脳神経疾患の治療法の開発に貢献する脳科学の研究の展開である。脳科学と教育・医療の研究の現状には大きな乖離がある。それを架橋しようという目標設定は野心的であるが、性急な答えを要求することはかえって弊害がある。しかし、研究総括がアドバイザーの協力の下、適切な研究者と研究課題を選定することにより、全体として優れた成果を上げたといえる。研究成果のうち、直接、教育や医療の現場に活かせるものもいくつかある一方、領域の目標と明確にはつながらない研究も散見される。しかし、多くは、教育や医療の課題解決の土台となる脳科学的根拠と今後取り組むべき方向を明示したものといえる。
 本研究の内容は、発達や学習に関与する脳機能の解明、言語等の高次機能の発達メカニズムの解明、発達障害からの回復メカニズムの解明、実験動物を用いた発達脳における神経回路網可塑性の分子機構の解明など多岐にわたるが、研究成果の多くはトップレベルの国際誌に掲載されている。このことは世界における当該分野の進展に大きく貢献するもので,高く評価できる。さらに,本プロジェクトの中で,新たな研究手法が開発され,多くの特許が取得された。今後の当該分野での研究の加速と,関連分野への波及効果が期待できる。
 資源の乏しい日本において,子ども達の教育は何よりも重要である。従来から経験的に行われてきた教育をEvidence Based Educationとするために、また、発達障害など精神・神経疾患の新たな治療法や予防法の開発を行うためにも、本プロジェクトに期待するところが大きい。しかし、そのためには、更なる積み重ねが必要である。長期的な戦略のもとに、しっかりした研究支援と研究領域の育成を図るべきである。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考について

 研究領域のねらいは、胎児期から成人までの一生を通した視点で,脳の機能発達と学習メカニズムの解明、精神神経疾患の治療法や予防法の開発、精神神経障害からの機能回復メカニズムの解明などであるが、人の生涯を対象にして,学習や発達、機能回復のメカニズムを解明するプロジェクトはこれまでに例がない。今日の日本は,教育・育児・機能回復支援など様々な課題を抱えているが,それらの根本的な解決,予防策の確立などのために、このような研究は重要である。対象が多岐にわたるため、どのように応募課題を絞り込むか、領域としての一貫性をつらぬくかは決して容易ではなかったと思われる。そのなかでも、戦略方針に合致し、5年間で目標達成が見込まれる研究、学術的にも独創性が高い研究を選考するという方針をたて、この分野をリードする優れた研究者をアドバイザーとして選び、選考を行った結果採択された課題は、おおむね、選考方針にかなったものであるといえる。また、そのことが、本領域から多くの優れた研究成果が生まれたことにつながったといえよう。

3.研究領域のマネジメントについて

 内容が多岐にわたるなか、各領域研究代表者の自主性,リーダーシップを尊重しながら,領域の戦略目標に合致するように、研究をリードするのは容易とはいえない。しかし、研究総括は、参加メンバーの全員が参加する領域内研究報告会やサイトビジット,研究報告書,中間評価によって適切に研究課題の進捗状況を把握し,適切な助言、指導を行っている。このなかで、領域の方針に合致しない複数の共同研究者をはずしたことなどの積極的な指導は、研究総括として適切な対応であったと評価される。
 課題間の連携は、一部不十分なところがあったと認めざるを得ないが、メンバー全員が参加する報告会が活発に行われたことは重要で、研究チーム内外の相互連絡や協力関係を強化し,そのことが若手研究者の育成にもつながったといえよう。
 研究費の配分については、報告やサイトビジットによって研究の進捗状況を把握し,一律の配分ではなく,状況に応じて研究費が配分されたことは評価されるが、そのことが研究成果に直結したかどうかは明確に示されていない。また、もっと大きなメリハリをつけることによって、さらに大きな成果が得られたのではないかという意見もある。
 研究成果の一般社会への情報発信として大規模な公開シンポジウムやニュースレターの発行を行い,参加者からの意見を反映させ,研究成果を正確に分かりやすく発信したことは,一般人の脳科学に対する興味と知識を向上させたことにつながっている。また,参加者からの意見を反映させて,分りやすい講演を心がけたことにより,参加者の脳科学への理解が向上したと言える。

4.研究成果について

(ⅰ)当研究領域の戦略目標を、将来的に学習や教育等の解決や脳神経疾患の治療法の開発に貢献する基礎的研究と捉えたとき、成果の達成度は高いといえる。研究成果のうち、直接、教育や医療の現場に活かせるものもいくつかある一方、領域の目標と明確にはつながらない研究も散見される。しかし、多くは、教育や医療の課題解決の土台となる脳科学的エビデンスと今後取り組むべき方向を明示したものといえる。

(ⅱ)本研究の内容は、発達や学習に関与する脳機能の解明、ヒトに特有な言語等の高次機能の発達メカニズムの解明、発達障害からの回復メカニズムの解明、実験動物を用いた発達脳における神経回路網可塑性の分子機構の解明など多岐にわたるが、科学技術の進歩に資する多くの成果が得られている。その主なものとして、英語の習得過程における「文法中枢」の機能変化の実証、乳児脳機能計測技術の確立と3ヶ月児大脳皮質機能分化の発見、顔と表情知覚発達、自閉症への応用行動分析治療法の評価、脊髄損傷後の機能回復に関わる大脳皮質活動、脳梗塞後の代償回路などをあげることができる。新しい研究手法の開発や、脳科学と教育との連携・融合が進むことによって新たな研究の展開が期待できる。

(ⅲ)学習メカニズムの解明は、教育における効果的な指導方法、学習方法につながることが期待できる。また、障害回復メカニズムの解明は、新たな治療法の開発につながることが期待できる。そのためには、一段の技術開発が必要であろうが、その方向性は示されたといえる。研究成果をシンポジウムおよび図や写真を用いたわかりやすいニュースレターで公開したことは、シンポジウム参加者からのアンケート回答にみられるように、一般の人たちの脳科学への理解向上に役立ったと評価できる。これらの成果を引き続き、科学技術振興機構のホームページに公開し、継続的に広く社会に公開することを提案したい。

5.その他

6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成度
特に優れた成果が得られた

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
特に優れた成果が得られた

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
成果は得られた

(1-4) 戦略目標の達成に資する成果
十分な成果が得られた

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた

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