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CREST「ナノ界面技術の基盤構築」
研究領域中間評価報告書

1.総合所見

 本領域は有機、無機、金属、半導体、絶縁体、生体物質などの種々の界面をナノスケールの視点で扱いナノ界面機能に関する横断的な知識を獲得するとともに、飛躍的な高機能を有する革新的材料、デバイス、技術の創出を目指そうとするものである。単純・均一な物質を対象とする従来の分子科学や物性科学の限界を超え、広い意味での複雑系に対して「ナノ界面」という明確な視点を提示して、無機・有機・バイオまで含め、未来を見据えたチャレンジングな研究領域であり、基礎科学の面のみならず、次期科学技術基本計画の中心課題であるグリーンイノベーション、ライフイノベーションの基盤としても非常に重要である。
 多様な背景を持った高いレベルの研究代表者を採択しており、それぞれの研究チームは、外から見ての突出度という意味では差があるが、いずれも重要な成果を挙げており、これまでに世界的に特筆される成果がいくつか得られている。
 一方で、異分野間の交流を、環境を整えることによる自発的な課題間の連携や共同研究の推進とそれを通じてのシナジー効果を求めるという研究総括のねらいの実現については、若干不足している感がある。尾嶋チームの装置を他のチームが共同で使うような「従来型の共同研究」はかなりうまく機能しているが、研究総括が狙っている真の境界領域誕生にはつながっていないようである。研究総括の狙いが実現するためには、研究者自身が従来とは異なる視点を持ち、別の方面への興味をドライビングフォースとして研究を進めることが必要と思われるが、すでに高い業績を上げ、特定の分野をリードしているCRESTの研究代表者にそれを望むのは困難であることは良く理解できる。このような隘路を打破するため、例えば3日間程度の全員泊まり込みの会合を持ち、それぞれの研究の背景、問題点、うまくいっていない点を徹底的に話し合うことを提案したい。世界をリードする多忙な研究者で構成されるCREST領域ではこのような日程を組むのが難しいかもしれないが、本領域を推進する上での研究総括の意図を各メンバーに充分浸透させ、是非実現していただきたい。
 専門分野が多岐に渡るため、統一的な学問分野としてのナノ界面の学理を構築するには、まだまだ時間がかかると思われるが、後半においてはより一層の融合研究により新たな学理としてのナノ界面科学の発展を期待したい。
 なお、チームメンバーの異動からは、若手研究者の昇進が顕著に読み取れ、次世代の研究者養成の意味でも成功している。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考について

 『「ナノ界面」というキーワードを広義に定義して境界領域を積極的に取り込み、対象とする界面を一般的な材料間、物質状態間の2次元界面に限定せず、0次元(ナノ粒子、べシクル、細胞表面など)、1次元(ナノチューブ、分子集合型ナノファイバーなど)、ならびに3次元(多孔質結晶の空孔など)の超構造体が提供する界面あるいは表面も含めて考え、用いる材料も金属、粒子などのハードマテリアルに留まらず、高分子、分子集合体、ゲル、バイオ由来物質などのソフトマテリアルを含める』という研究総括の考え方は妥当なものである。選考は以上のねらいを具現化した方針に従って行われている。全体の構成をバランスが良いものとするため初年度での採択メンバーの分野構成を考慮して2年目の募集・採択方針を決定している点も妥当である。このような幅広い分野のレベルの高い研究者を厳正に選考するために、物理、化学、生物、材料などの幅広い分野の、しかも大学、企業、独法という多様な組織に所属している研究者を領域アドバイザーとしており、問題はない。選考も、領域のねらい、選考方針に従って行われており、高いレベルの研究チームがバランス良く採択されている。

3.研究領域のマネジメントについて

 全く新規でかつ物理・化学・バイオなど極めて多分野にわたる難しい領域設定にもかかわらず、研究総括のコンセプトが各チームに良く伝わり、ナノ界面・ナノ空間での特異な現象の開拓に注力され、個々のチームの進捗状況の把握と、それぞれのテーマの特性に応じたきめ細かい評価・指導という、適切なマネジメントを通して多くの優れた研究成果が得られており、高く評価されるが以下の改善を提案したい。
 『研究代表者は既に能力が確立した一人前の研究者である前提に立ち、個人では出来ない研究環境をCREST領域が提供する事によって、より高みを目指す』という研究総括の運営方針は素晴らしいものである。そのために異分野融合が進んだ課題を採択し、かつ新規な融合を目指しているとのことであるが、高い業績を上げているレベルの高い研究者を研究代表者としているがために融合の難しさもあるように思える。実際、課題間の連携については必ずしも活発という印象は受けない。界面という共通のキーワードを持ちながらも、多様な背景の研究チームでバランス良く領域を構成することは、それ自体が目的ではなく、そのことによって飛躍的な進展を図ることが期待される。また、各々の研究者にとってもそれまでの研究の延長ではなく、新しい視点での研究が行われ、新境地が開かれるのではないか。そういう意味で、研究進捗状況の把握と評価が、領域全体としては年に1回の研究進捗会議のみであることはもの足りない。研究期間も終盤に入っており、融合をさらに加速し、領域としての成果を打ち出すために、より緊密な議論(例えば全員泊まり込みの会合)を期待したい。
 10%の研究費を留保して、研究総括裁量経費として必要に応じて配分するシステムも極めて有効に機能しているように思えるが、今後は本領域の目標への合致や融合度合いなどの評価に基づくメリハリをつけた配分により、融合や挑戦的研究を推進してほしい。例えば、当初の計画が見込み違いで実行できていない、当初の計画から大きく逸脱し、ナノ界面研究から逸れている等の場合は、研究総括と研究代表者の充分な話し合いの上で、途中退場も有りにしてはどうだろうか。その場合、最終発表等での義務を軽くする等の処置が必要であろう。

4.研究進捗状況について

①研究領域のねらいに対する成果の達成状況
 広義に「ナノ界面」をとらえ、有機、無機、金属、半導体、絶縁体、生体物質など多様な物質・材料が作り出す0次元、1次元、2次元ならびに3次元の超構造体が提供する界面あるいは表面も含めて考え、ナノ界面機能に関する横断的な知識を獲得するとともに、飛躍的な高機能を有する革新的材料、デバイス、技術の創出を目指そうとするねらいに対して、研究チーム毎の研究の進捗に違いは見られるが、全体としては順調に進んでいると判断できる。その中でも、新しい概念に基づく世界的に特筆される成果がいくつか見られる。しかし、一方で本研究領域における研究目標や得られた研究成果が必ずしも明確でなく、これまでの研究から大きな飛躍が見られない研究チームも見受けられる。また、非常に高い成果が得られていても現段階で必ずしも界面という認識が充分ではないものも見られる。例えば微少空間に閉じこめられた水が特異な物性を示した場合、その物性の発現において微少空間を構成している物質と水との界面が重要な役割を果たしているのか、水の微少構造そのものが示す物性なのかが充分議論されているようには思えない。

②科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する成果、及び今後の見通し
 物質創製、計測などにおいて大きな飛躍が見られ、科学的な進歩に大きく寄与している。技術面の進歩や社会的及び経済的な効果・効用はまだ限られているが、新しいタイプの触媒の開発など端緒は見えており、今後のさらなる進展を期待したい。

③懸案事項・問題点
 個別に見ると、かなり発展的な成果が出ているもの、それなりの業績は上がっているが、本来の目標にはまだまだ距離があるもの、当初の目標に迫れるのかどうか怪しいもの等、様々である。物理系や化学系では、ある程度の方法論が確立しているように見えるが、バイオ系ではナノ界面の役割が未だ明確ではないように感ずる。この分野では、未だナノ界面という切り口が未成熟なのかも知れず、今後は、物理・化学系の研究者との交流によりもう少しクリアになる事を期待したい。
 また、研究総括のねらいであるチーム間、分野間の融合が必ずしも進んでおらず、領域全体としての方向性がはっきりしない。特にバイオ系、エレクトロニクス系の研究チームと他分野のチームとの相互作用が少ないように思える。また、中にはチームの研究目標がはっきりせず、構成グループの方向性がそろっていないチームもみられる。研究総括からのさらなる督促、研究資金の再配分機能の活用等により、本領域のねらいをより強力に具現化するための工夫が必要であろう。また、物理・化学系でのナノ界面現象の研究は、個々には極めてクリアに展開されており、高く評価されるが、それらを統合した学理の構築という意味では未開拓であり、チームを越えた研究者間の議論を通して、総合的な視野の確立が必要である。成果のとりまとめに際しては、この点に配慮した書籍などを刊行することによって、将来の学術的な発展の指針となる事を期待したい。

5.その他

 研究総括が、人材選考と育成がCRESTの本来のミッションである、との高い見識を持ち、領域内研究者のメンターとして、個々の研究者の個性を尊重しつつ、領域の明白な目標とねらいを示し、熱心かつ公平無私に評価・指導されている事は敬服に値する。
 なお、いくつかの研究チームの報告書が個々のグループ別に書かれており、違和感がある。チーム間の共同研究、融合研究が求められるCRESTの趣旨からすると、構成グループ毎の成果ではなく、チーム全体としての成果を打ち出すべきであろう。

6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域のねらいに対する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(1-2) 科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果、及び今後の見通し
特に優れた成果が得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

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