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研究領域「新機能創成に向けた光・光量子科学技術」
中間評価

1.総合所見

本研究領域の意義 トランジスタとレーザの発明が契機となって誕生した革新的な光・光量子科学技術―フォトニクス―は,今や科学技術の中核的な存在として社会を支えており,今後さらに進化・発展すると期待される。幸いこの分野は日本が研究開発から製造まで世界をリードしており,優秀な研究者に恵まれている。日本が今後ともこの優位を保つために,独創的で魅力的な研究の核を育成,強化することは重要な課題である。一方,研究開発の一翼を担ってきた民間企業の研究開発力に現在はITバブルの崩壊に端を発したかげりが見られる。こうした転換期に,光・光量子科学技術分野の大型プロジェクトを発足させ,インパクトの大きな成果を狙うことは,科学技術面の成果にとどまらず,人材育成という面でも大きな意義がある。
 本研究領域では,材料,デバイス,計測技術,物性という広い分野から課題を選定している。16課題中,高強度レーザを含む新光源関連が9件,フォトニック結晶関連が2件,バイオ関連が2件,物性・近接場関連が3件であり,レーザにかかわる野心的なテーマが中心となっている。平成20年度に発足した研究領域「先端光源を駆使した光科学・光技術の融合展開」は本領域の光利用分野の深化・連携・融合を目指しており,本研究領域と合わせて日本の光・光量子科学技術分野の発展にとって一層の追い風になるであろう。

研究領域全体としての成果及び当該分野の進展への寄与の見通し 本研究領域の成果は,これまでに853編の原著論文にまとめられている。招待講演も国内278件,国外495件という多数にのぼり,成果の水準は全体としてきわめて高い。たとえば,岸野チームの緑色半導体レーザ,野田チームのフォトニック結晶レーザ,平山チームの紫外LEDなど,早い実用化が期待される成果,また山下チームの超高速光計測技術,兒玉チームのプラズマミラー,馬場チームのスローライト実験,渡部チームの超短光パルス技術など,科学技術の進展に資するブレイクスルーも出ており,本研究領域の狙いは十分に達成されつつあると判断される。

今後の研究推進への提言など 今後は,これまでの路線を揺るぎなく続けることで所期の目的を達成することを期待する。さらに,日本の科学技術の弱点である研究のシステム化の推進に努めて欲しい。異なる研究グループ,研究領域,産業界,あるいは世界の研究フロンティアとのダイナミックな交流・連携を進めることによってブレイクスルーが生まれることが多いからである。本研究領域では,量子情報・極限光源・光物性・バイオフォトニクスなどの分野の研究においてそのような交流・連携がとくに有効と思われる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

研究領域のねらい 本研究領域では,光・光量子科学技術分野にかかわる材料,デバイス,計測技術,物性という広い分野から,国際水準を凌駕するような,独創性とインパクトのある課題を選定することをめざした。

選考方針 広い研究分野から提案を具体化するため,わかりやすい中心概念を掲げ,シナリオやマイルストーンなど研究の進捗度合いをイメージする内容を課題提案に要求する選考方針を軸にし,研究機関のバランスも考慮して選考をおこなった。この選考方針は妥当なものである。

領域アドバイザーの構成 領域アドバイザーは光・光量子科学技術分野で当代一流の研究者をそろえている。ただ,採択された課題にデバイス開発的な内容を含むものがいくつかあることから,産業界の経験豊富なアドバイザーも何人か加わった方がよかったのではなかろうか。これは研究総括がカバーできる分野ではあるが,領域アドバイザーには研究総括とは異なる観点からの指導を期待すべきであろう。

採択課題の構成等 広い分野にわたりで,国際水準を抜く斬新な課題を採択している。また,蓄積豊富なテーマと理論先行のリスキーなテーマとの配分もよい。今後応用的な課題については産業界とのより緊密なパートナーシップが望まれる。

3.研究領域のマネジメント

 幅広い分野を包含する研究領域の運営は容易でないが,各分野を代表するアドバイザーの協力を得て,全体として適切な運営がなされている。各研究代表者の自主性を尊重しつつ,キックオフミーティング,毎年一回の研究報告会,25回におよぶサイトビジト,公開シンポジウムなどを通じて,研究の進行状況を把握・管理している。その中で,必要に応じて追加予算の配分,研究方向のアドバイスなどを適宜おこなっている。
 研究領域全体として多くの研究者が参画していることから,研究報告会,公開シンポジウムなどを通じて,課題間,研究者間の交流・連携を深めることが望まれる。
 研究進捗報告書は,国内外の関連研究にもふれることにより,当該チームの立ち位置を明示することが望ましい。また,特に,基礎的分野の研究進捗報告書は,成果の学術的意義が専門外の読者も理解できるよう配慮して欲しい。さらに,領域全体として,研究成果の広報活動にも一段とつとめて欲しい。

4.研究進捗状況

①研究領域のねらいに対する成果の達成状況 研究目標達成に向けて困難を抱えている課題もいくつかあるが,研究領域全体として着実な進捗が見られる。特に,いくつかの課題ではインパクトのある大型の成果が得られている。たとえば,岸野チームの緑色半導体レーザ,野田チームのフォトニック結晶レーザ,平山チームの紫外LEDなど,産業へのインパクトが期待される成果,山下チームの超高速光計測技術,兒玉チームのプラズマミラー,馬場チームのスローライト実験,渡部チームの超短光パルス技術など,科学技術の進展に資するブレイクスルー,さらに五神チーム,宮野チームなど,アカデミアで高い評価を得ている物質科学分野での成果も出ており,本研究領域の狙いは十分に達成されつつあると判断される。

②科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する成果及び今後の見通し 領域全体として,得られた成果は科学技術の進歩に十分資するものである。また,産業化が期待される成果もいくつか上がっている。しかし,実際の産業化・工業化に伴うリスクや多くの課題を考慮すると,社会的・経済的効果・効用は性急に求めるべきではなかろう。とはいえ,CRESTの成果は,究極的には社会に還元すべきものであるから,産業界との一層の連携を探り,深める努力を続けて欲しい。

③要望など プロジェクトの前半では,研究内容の充実に専念するグループが多かった。後半では,研究をさらに深めるとともに,研究成果の広報につとめることが求められる。新しい研究の種が生まれ,育ち,実を結ぶまでには多くの人・組織の協力が必須であるから,研究成果に対する理解者,応援者を獲得することは研究の一環とも考えられる。個々の研究者の努力に加え,CRESTプロジェクト内での工夫も要望したい。また,プロジェクトで育成された研究開発資産や人材がスムースに次のフェーズに移っていけるような枠組みの手当も望みたい。


5.その他

研究者の相互交流の促進 柔軟性を確保しつつ,目標と時間スケールを意識した計画研究を支援する点で,また,関連研究間の連携や競争を奨励する点で,CRESTは極めて優れた助成制度である。その特長を十二分に発揮させるために,領域内及び領域間の相互交流を積極的に推進する運営が望まれる。

成果の効果的な発信 研究上の機密保護に十分配慮した上で,研究進捗報告書や評価書の開示の範囲の拡大や効果的な発信を望みたい。現状の進捗報告書の中には,読者を意識しているとは考えにくい了解性に乏しいものや国内外の関連研究に全く言及していないひとりよがりのものなども見受けられる。想定すべき読者層などを含めた執筆ガイドラインがあるとよいかも知れない。

産業界の人材の積極活用 本研究領域では,研究総括が企業出身者であるとはいえ,領域アドバイザー,チームリーダーは全員アカデミアから選ばれている。昨今,産業技術は急速に範囲を広げ,かつ専門度を増し,開発期間も驚くほど短くなっている。このような社会・経済の変貌を先取りし,社会の要請に応えるために,研究領域の立案からその運営にいたるまで,産業界の人材と経験を活用することがますます重要になると思われる。

成果の国民への還元 CRESTの成果を国民に還元する道筋をより明確にして欲しい。たとえば,現状では研究者が有効な特許を申請することは容易ではない。国としてサポートする枠組みを作ることはできないだろうか。


6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果や社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果、及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われている。

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