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研究領域「マルチスケール・マルチフィジックス現象の統合シミュレーション」
中間評価

1.総合所見

 研究領域全体としての成果は充分上がっており、重要な政策目標を達するために有効なマルチスケール・マルチフィジックスシミュレーション技術の進展に大いに寄与している。 開発される超ペタフロップス級コンピュータを有効に活用する領域を切り拓いている。
 幅広い分野にまたがり、超大規模・複雑なシミュレーションを実現しようとする試みは、研究総括の指導の下に、順調に推移している。特に、国内外において広く注目を集めているペタフロップス級コンピュータへの実装を念頭にした、基礎から応用までの幅広い取り組みは、高く評価される。これまでスーパーコンピュータの利用によって発展してきた理学・工学の分野の枠を取り払い、既存の狭い分野の枠を超えた統合化の試みが随所でおこなわれている。その意味では新たな学術体系育成の姿勢が感じられる。
 このCRESTプロジェクトは、計算科学に関連する研究者にとっては当初から多くの注目を集めていた研究領域である。ソフトウェアによる研究推進という独特の内容であることから、ペタコンピュータ開発の時勢に乗り、国内に大きな流れを生んでいる。また、事業仕分けによって、科学者・研究者のスーパーコンピュータに対する関心の高さが浮き彫りになったことも、本研究領域の重要性を示している。本研究領域で得られた成果のいくつかは、その重要性を社会に伝えるのに大きな役割を果たすと考えられる。
 今後の研究推進への提言としては、①同様のコードの開発を取り扱っているテーマの関連性を明らかにして、連携すべきものは連携を進めて欲しい。②ジェネラルなプラットフォーム・ソフトの開発のテーマであっても、幾つかの具体的課題を対象として適用した場合に、充分なプラットフォームであることを検証しながら開発を進めて欲しい。③このプロジェクトの完遂で個々の目標のどこまでが達成され、残る課題は何かを明確にしておいて欲しい。
 日本発の世界標準ソフトウェア開発は、これまでに実績が無く、ソフトウェアの管理・運用について日本は必ずしも優れた経験を有していない。本研究領域の最終的な実績の一つとしては、世界を代表するソフトウェアが挙げられる。このためには、本プロジェクト終了後も息の長い国の財政的支援が必要である。 日本における科学技術のレベルの高さを示すためにも、是非、実現が望まれる。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本研究のねらいは文部科学省の掲げる「次世代高精度・高分解能シミュレーション技術の開発」の戦略目標に合致し、この目標を達成するための具体的なシナリオを定めていることを高く評価したい。
 研究の対象とする、地球環境、次世代材料、生命現象、自然災害の4分野に、計算科学を加えたわが国トップクラスの専門家からなる領域アドバイザーが構成され、選考方針を具体的に定めた上で平均採択率13.3%(7.5件に1件)の厳しい選考が行われている。
 基礎的、先端的分野を重視するとともに、より応用的、社会的出口を見据えた分野の課題についても積極的に採択しており、この方針は高く評価できる。
 採択された課題はいずれもそれぞれの分野で国際的に活躍する現役の研究者が担当するとともに、状況に応じて計算科学の専門家がチームのメンバーに加わり、それぞれの分野の課題を達成するための「ペタフロップス級計算機環境をフルに活用できる大規模ソフトウェアの開発」を促進するための仕組みが作られている。
 この的確な課題の選択により、本領域のねらいは半分達成されたといってもよいと思われる。

3.研究領域のマネジメント

 研究の推進は基本的にそれぞれのチームの自主性に任せるというソフトマネジメントで行われており、これが研究者の能力を最大限に発揮できる手法であると考えられる。
 中間期に研究総括およびアドバイザーによるピアレビューと建設的な指導助言が行われており、それぞれのプロジェクトが緊張感を持って着実に進められていることが理解できる。
 年一度の公開シンポジウムを通じて課題の進捗度を公表するとともに、課題をまたがる横断的な情報交換が行われていること、それぞれの課題ごとに国際シンポジウムを奨励し実施していること、また全課題の成果を発表するために国際会議の場においてポスターセッションを開催していること等いずれも高く評価される。
 今後につながるものとして、次世代スーパーコンピュータ対応の6課題を選定し、理化学研究所と連携してチューニングを始めたのは、機を見た臨機応変なマネジメントとして評価できる。
 領域全体を見渡して、各課題におけるマルチフィジックスおよびマルチスケール解析を実現する共通の手法について、領域全体の成果としてまとめる必要があるように思われる。

4.研究進捗状況

①研究領域のねらいに対する成果の達成状況
 個々の課題においては、それぞれの課題の目標とそれを達成するためのスケジュールにしたがって順調に成果が挙げられている。中には当初の目標を上回る成果をあげているものもある。

②科学技術の進歩に資する成果や、社会的および経済的な効果・効用に資する成果、および今後の見通し
 成果は論文として公表され(国内誌64篇、国際誌603篇)、いずれも国の内外で高い評価を受けている。またその一部はマスコミでも取り上げられ、この分野に対する社会的関心の高いことを示している。長期的な視点に立てば、これらの成果は学術の発展に大きく貢献するものであり、新材料の開発、創薬、地球環境の長期・短期にわたる予測、および災害予測等に大きく貢献するものである。したがってこれらの成果を以って、この領域のねらいはほぼ達成されたということもできよう。

③懸案事項・問題点
 領域全体を俯瞰した場合、課題を横断的に見ることでさらに大きな成果を引き出せる可能性があるのではないかと思われる。
 例えば以下のような意見をいただいている:
 ナノ・バイオのQM/MMコードの開発を取り扱っているテーマ、粒子シミュレーション/CFDのハイブリッド化を取り扱っているテーマ、および、海流・大気流のシミュレーションコードの開発に取り組んでいるテーマが、それぞれ複数あるが、それぞれが解決しようとする課題と方法とを両軸としたマップを作り、位置づけを整理して欲しい。そうして連携するべき点を検討して、連携を推進して欲しい。
 マルチフィジィックスおよびマルチスケールそれぞれを扱う上で各課題にかなり共通の理論・技術が見られるように感じられ、非常にもったいないと思われる。今後は、マルチフィジィックスおよびマルチスケールを扱う上で、各課題に特有の理論・技術といくつかの課題に共通のものに分類して、各課題間での相互議論を行う場を設け、分かりやすい形で提示して欲しい。また、研究領域全体を見渡して、方程式の解法としての区分(例えば、領域法(有限要素法・差分法)・境界要素法・粒子法)から見た共通性や独自性といった観点からのまとめも加え、将来の計算科学に役立つものを残して欲しい。さらに、できれば共通の理論・技術をまとめた、マルチフィジィックス・マルチスケールを扱う基盤的理論・技術(プラットホーム)を構築して欲しい。


5.その他

 課題終了後の展望について、本分野の研究・開発をさらに発展させていくために、CREST事業の一環として本領域を設定し研究を推進しているJST、さらには当該事業を所管している文部科学省に対して、以下の要望をしたい:

 本領域の終了後、領域における成果をしっかりと我が国に根付かせて行くために、また本領域の成果に限らず他プロジェクトにおける開発ソフトも真に有用なものとしていくために、例えば開発ソフトの維持発展、さらには普及を目的としたプロジェクトを設定するなど何らかの予算制度を確立すべきである。
 本分野の研究・開発の重要性について広く社会の理解を得るために、また世界との激烈な競争を強いられるこの分野での次世代の人材を育てるためにも、専門的な報告書のみならず、一般啓蒙書の形での夢のある報告書をまとめて欲しい。


6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成状況
特に優れた成果が得られつつある。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果や社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果、及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

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