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研究領域「水の循環系モデリングと利用システム」
事後評価

1.総合所見

 本研究領域の多くの研究課題が、当初目指した目標に対して高い進展度・達成度を示し、我が国の水循環モデリングと水利用に関する科学技術の基盤の拡大とレベルの向上に大きく貢献した事は間違いなく、このプロジェクトは成功であった。特にCRESTという予算的にも大型のプロジェクトが「水問題」を念頭に置きつつ、しかし行政機関の付置研究所ではない大学やそれに類する機関の基礎的研究の推進に向けられた事の意義は大きい。
 水問題という社会的重要問題に直結した本研究領域において多くの成果が得られたが、領域名に掲げられた「水循環モデリング」については、レベルアップした個別研究をつないで分野統合的水循環モデル(世界、アジア、日本)の構築を図る必要があるし、「利用システム」という観点では、未だ道半ばというべきであり、研究をこれで終了するのではなく、継続する必要があるのは言うまでもない。今回のプロジェクトで確かなものとなった基盤の上に新しい発展を期待する。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 研究総括によって示された「募集・選考に当たっての考え方」を見ると、領域名の示す目標に向け貢献する(必要とする)多様で広範囲の研究課題を募り、その中から新規性や問題解決への有効性といった基準で個別課題を選択している。選ばれた課題を見ると広範な専門分野の中からバランスよく選んでおり、また研究成果を見ると、それぞれの課題を追求する上で十分なポテンシャルを持つ研究グループを選択したと判断される。そして選択課題にマッチしたアドバイザーを選んだとの点で全委員の見方は一致している。
 一方、国が定めた戦略目標「水の循環予測及び利用システムの構築」は、一見して目標や対象が絞り込まれ、それ故、目標に向けての戦略とロードマップを作り、それに沿って課題を選び研究を推進するものとの印象を与えたことは否めない。そのため、中間評価においては「個々の課題で新しくレベルの高い成果が多く見られる」とした上で、「広範囲に点在する個別課題を関連づけ共通の目標に向けた筋書き、戦略が見えるようにする事も必要ではないだろうか」とコメントしていた。
 しかし、あらためて研究総括の考えを聞きCRESTチーム型研究の趣旨を勘案すると、「水循環系モデリングと利用システム」は既に行われた地球環境分野の「地球変動のメカニズム」に比べ専門分野の広がりが狭いように見えるものの、現実に必要性のもとに選ばれた課題を見れば、モデリング関係だけでも河川工学はもとより衛星からの気象リモートセンシング、森林生態学など広い専門分野にわたり、研究総括が評価用資料において述べているように、研究総括が旗を掲げてトップダウンで指揮する形の運営は困難な実情であったであろう。水循環モデリングに必要な複数の研究集団を八ヶ岳のような高みに並び立てるようにする事が総括の当初からのねらいであり、それは十分達成された。
 今後の展開について「水循環系モデリング」と「利用システム」に分けて考えるならば、前者については次のステップとして複数の専門を統合した水循環系のモデルづくりに進むことは望ましく可能でもあり、その段階でミッション志向プロジェクトになり得よう。

3.研究領域のマネジメント

 項目1に記したように、課題の選択方針から強い組織化はもともと意図しておらず、研究領域名の示す目標に貢献する研究課題を広範囲から選んだものなので、領域の運営に当たっては目標に合致する限りチームリーダーの自主性を尊重し、それをのばす策を考える、というのが方針であった。それは適切であったし、うまく行ったと思われる。
 すなわち、専門分野がかなり特定された他のCREST研究領域のように研究総括が旗を掲げてトップダウン的に指揮する形の運営は適切ではない、との考えのもと、運営において研究総括が意を払ったのは、各チームの研究がそれぞれにうまく進むように、時にはアドバイザーを含めて助言したり、路線修正を求めたりした点にある。この面に関しては研究総括から報告された事、あるいは他の情報によるものも含め、研究総括のリード、助言を多くの委員が高く評価している。チームの運営においてリーダーより年長のメンバーに対してリーダーの方針を尊重させるようにし向けるなどキメ細かな配慮がなされていたのには感心した。「領域全体がのびのびと明るく楽しく研究が推進され、研究総括の全体としての指導力が本領域の成功を導いたと言っても過言ではない」との委員コメントがそれを示している。
 研究費の配分については、資料と評価委員の知識にもとづく判断では妥当なものであった。

4.研究成果

 本研究領域の狙いは、統一された目的に向けた組織研究ではなく、目標の基盤を成す広範囲の研究個々のレベルアップが研究総括の意図した所であったが、それは十分に(課題によっては100%以上)達成された。注意すべきは広範囲と言ってもいわゆるバラまきではなく、目標とのつながり・位置関係が確かなものを適切に選んだからである。
 このように領域の目標に貢献する個別研究課題を推進したので、成果もそれぞれの課題のものを検討する。個別課題の性格を見れば、予定したプロダクトを出すタイプのもの、創造性に期待するもの、将来につながる基礎的知見・データを取得するもの、特定の新しい技術の開発等多様なものである。したがってそれぞれに応じて評価の尺度は異なるが、多くの課題で研究領域のねらい・目標に向けての進展度・達成度は高い。幾つかの例について見ると:

 上記の例に見られるように、科学研究としてまた、社会的問題の資料として、あるいは実用化の準備として、それぞれに高い価値を持つ成果が他にも多く得られている。

5.その他

 今後の基礎・応用の両面に役立つ貴重なデータがたくさん得られている(数量データ、画像データなど)。とくに現地観測データはかけがえのないものである。事業が終わっても散逸させるべきではなく、研究者の業績である事を示しながら広く世界に公開すべきである。アジアに地球環境関係データ提供サービス機関が必要であり、研究事業のような次元でなく持続的な体制であってほしい。少なくとも終了した研究で得られたデータは資金源にこだわらずに一括して管理・提供する態勢が望ましい。

6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に資する成果

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する成果の達成度
十分な成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
特に優れた成果が得られた。

(1-4)戦略目標の達成に資する成果
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われた。

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