戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成20年度研究領域評価結果について > 研究領域 「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」 事後評価

研究領域「たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム」
事後評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果、当該分野の進展への寄与、本研究領域の意義、等)

 本研究領域は、研究総括の意気込みにあるように①従来にない新しいアイデアに基づくたんぱく質の解析方法の開発と②高次の生命現象を解析し、それに関わるたんぱく質の構造・機能解析という選考方針のもとに、研究課題が選考された意義は非常に大きい。その結果、総計17課題の研究成果は期待される以上のものであり、国際的にもレベルが高く、当該分野で世界をリードする成果も多数見られる。
 特筆すべき成果として、新しいアイデアに基づくたんぱく質の解析法であるNMRによる構造解析技術SAIL法の確立、高次の生命現象を解析例である薬物排出トランスポーターがあるが、それ以外にもNADPHオキシダーゼ、アミロイドたんぱくの研究など多くの高レベルの研究があり、一流欧文誌への原著論文の発表は総計969報にも及んでいる。本領域全体として成功したプロジェクトといえる。
 上記の特筆すべきたんぱく質の基礎的な研究成果が、直ぐに治療に役立つといった経済的な速効性は期待できないが、機能・構造解析から得られた知見は疾患メカニズムの解明や創薬の研究開発などに役立ち、将来の生命科学への貢献は予想できないほど大きいものと思われる。この点からも、生命科学の分野では息の長い研究を支えることも重要と考える。このことは研究総括が、ヘモグロビンの構造解析に25年の年月を要したペルツの例を引いて述べておられる。
 なお、長い目で見て社会的に波及効果がどの程度かを客観的に測るためには、本研究領域に参加した研究者の本領域にかかわる代表的論文の5−10年後の被引用件数を比較することを提案したいが、現時点では評価できないので、追跡評価に期待する。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考(研究領域のねらい、選考方針、領域アドバイザーの構成、採択された課題の構成、等)

 ヒトゲノム計画の成果として、2001年2月に公表されたヒトゲノム概要DNA情報を受けて、ポストゲノム戦略において、たんぱく質の構造・機能解析の推進が図られた。その中で、たんぱく構造の網羅的解析を柱に据えて、2002年度に発足した「タンパク3000プロジェクト」に対し、本研究領域は戦略目標「遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新」の下に、「生命活動の中心的な役割を担うたんぱく質を重点的に取り上げその機能・構造解析」にねらいを定めた。これは結果的に「タンパク3000プロジェクト」に対する様々な批判を学問的視点から中和することにもなり、研究総括のすぐれた調整能力とあいまって日本国内の複数のたんぱく関連プロジェクトを成功に導いてきた。
 選考については、①従来にない新しいアイデアに基づくたんぱく質解析方法、②高次の生命現象にかかわるたんぱく質の構造・機能解析、③失敗を恐れない大胆な発想に基づくたんぱく質研究などを拾うことを方針とした。③の方針は大いに期待されたが、研究総括の発言にもあるように、③の応募数は少なく、全体の競争倍率が高い領域では採択が難しく、結果的には手堅い選考となった。③のような革新的な研究課題の選考については、公募の方法から検討する余地があると考える。しかし①、②の方針に合う研究課題には国際的にもレベルの高い優れた成果が多く見られ、将来のたんぱく質研究の基盤構築に貢献している点では高く評価できる。
 アドバイザーの構成は、本研究領域は構造生物学と生命現象を直結することを目標とすることから、構造生物学すなわちX線構造解析、NMRならびに分子分光学を専門とするアドバイザーが大半で、これに発生生物学者、核酸研究者、有機化学者も加わり全体として調和が取れている。
 採択された課題の構成は既に実績のある研究者のライフワークとなっている研究が主だが、生命科学の進展に貢献する課題であったと思われる。欲を言えば、構造生物学を基盤として生命科学の本質に迫るような研究課題が欲しかった。また、一部の研究課題については、領域のねらいとは必ずしも一致せず適切とは言い難い面もある。

3.研究領域のマネジメントについて(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、課題間の連携の推進、研究費の配分、等)

①研究領域運営の方針と課題間の連携

 本研究領域運営の方針として、研究者の主体性を尊重し、課題間の連携など無理な統括を行わず、各々の研究者がそれまでの研究をさらに発展させることに重点をおいた点や、各研究課題の特徴を細部に渡りアドバイザーが指摘するなどして、成果に結びつけるように適切な運営を図った点は評価できる。また、本領域とさきがけ「生体分子の形と機能」の連携により、課題選定や合同で成果報告会を開催するという方針を立て、着実に実行してきたことは評価に値する。このような試みにより、本領域の研究者に加えて「さきがけ」の若くて野心的な研究者が研究成果を学ぶと同時に、切磋琢磨することで、研究活動が活性化され、将来の好成果が期待される。さらに、成果発表の一環として、第2回環太平洋タンパク質科学国際会議で企画したシンポジウム「革新的タンパク質科学研究」は高い評価に値する。

②研究進捗状況の把握と評価

 定期的な現場訪問や、共同研究者やJST事務局も参加する連絡会議、地方での報告会開催など多彩な取り組みにより、逐次、研究の進捗をフォローし、円滑な運営を図っている。特に、連絡会議に研究代表者のみならず共同研究者も参加できたことは、課題分担者の意識を高めるとともに、課題間の自然な連携を推進する効果もあったと思われる。

③研究費の配分

 研究費については、本領域の研究課題の性質と特徴からその機器設備、人員などを考慮し、メリハリの効いた研究費配分となっている。人員構成のダイナミックな運用や中間評価結果に基づく予算の傾斜配分は評価できる。
 しかし、領域中間評価では、論文が出にくい分野、特にたんぱく質研究手法・技術の開発やリスクの大きい研究課題の追加についてのアドバイスがあったにもかかわらず、CRESTの制度上、追加の採択は難しいとのことで、実施に至らなかった点については残念である。今後、JSTとして、制度の変更も含めて検討していただきたい。

4.研究成果について(①研究領域のねらいに対する成果の達成度、②科学技術の進歩に資する成果、③社会的及び経済的な効果・効用に資する成果、等)

①研究領域のねらいに対する成果の達成度

 日本のたんぱくの機能・構造研究は、本領域の発足当時は世界的にかなり遅れをとっていたが、本領域への集中投資により、世界をリードするまでに成長したことは評価に値する。その成果は欧文誌へ原著論文を969報発表したことや、国内特許27件、国際特許17件を出願したことなどからも窺える。
 なお、「タンパク3000プロジェクト」が構造解析に偏りすぎて、解析の容易なたんぱく質が選ばれているという批判に対して、本領域は複雑なたんぱく質を扱っているが、予算の規模に対して、構造解析例か必ずしも多くないとの批判があるように思う。これは「タンパク3000プロジェクト」と本領域が相補的であることを示すものであり、今後は予算規模に見合った構造解析結果を得るために、分子生物学者と構造生物学者の共同研究の組み方や構造生物学に専念できる若手スタッフの養成などを提言したい。

②科学技術の進歩に資する成果

 中間評価時には、特筆すべき成果として、NMRの測定限界分子量を5万に伸ばすSAIL法と金粒子をたんぱく質分子に結合させてX線で観測する一分子解析法が紹介された。当時、SAIL法については、「個々のアミノ酸から高分子量たんぱく質の骨格を見ることができる画期的方法であるが、20種類のアミノ酸すべてに選択的重水素化を施すことは不可能」と評された。その後の甲斐荘チームの努力により、本法が画期的新技術として確立されたことは、特段の評価が与えられるべきである。また後者のX線による一分子解析法は、現段階では、確立した技術としては普及に至っていないが、将来性のある方法である。
 また、アドバイザーによる課題中間評価では「構造解析に力を注ぐべし」との意見が出ているが、上記「タンパク3000プロジェクト」に対して、本領域は高次の生命現象にかかわる機能の複雑なたんぱく質など試料調製も難しいものの解析を目指している点で、構造解析という点では不利であったといえる。ところが、その後の山口チームの薬物排出に働くトランスポーター(複雑な膜たんぱく質)の構造・機能解析の成果はこの分野の研究者を驚愕させ、1998年の膜たんぱく質であるシトクロム酸化酵素(吉川・月原)、2000年の7回膜貫通型のG-たんぱく質共役受容体(GPCR)ウシ・ロドプシン(パルチェフスキー・宮野)以来の興奮を世界中にもたらした。なお、住本らのNADPHオキシダーゼも複雑な膜たんぱく質であり、その機能の本質的解明には活性化因子のNMR解析に続いて、オキシダーゼ本体のX線結晶構造解析が切に望まれる。

③社会的及び経済的な効果・効用に資する成果

 一般的には、たんぱく質の基礎的・基盤的な研究が、治療に直ぐ役立つといった経済的な速効性は期待できないが、たんぱく質の立体構造を基にその機能を具体的に分子レベルで議論できるまで進歩しきたことで、疾患メカニズムが解明され、その結果、医療への応用が期待される。実際、医学分野の教科書にも、薬物の作用機序を初めとして様々な分子による生物機能論が標準化されつつある。
 本研究領域では上記②に記載した山口チームの薬物排出トランスポーターの構造解析は基礎研究としてばかりでなく、創薬の研究開発において、薬物動態予測を通した薬物設計等の新たな視点を加えるものと思われる。後藤チームのアミロイドーシスの研究は「アミロイド構造生物学」という新たな潮流を起こし、たんぱく質研究の進展にも大きく貢献している。七田チームのロドプシンをモデルとしたGPCRの機能解析や箱嶋研究代表者の細胞内の動的複合体構造解析は創薬ターゲットの糸口となり、10年後あるいは15年後の創薬の可能性を示唆するものである。また、吉森チームのオートファジーによる病原菌排除の発見や、鈴木チームの転写因子の原型である大腸菌のLrpホモログが病原微生物の遺伝子調節に関与しているという発見は感染症の新たな治療のターゲットとなることが期待されている。
 以上のように、本領域の成果は今後の医学、薬学、生理学の展開に英知を与えることは確実で、将来の生命科学への貢献は予想できないほど大きいものと思われる。

5.その他

①文科省の科研費とCRESTの区別をするには研究総括がトップダウン型で、大きな権限と自由度を持つことが大切だと思う。本評価にあたり、評価報告書ならびに研究総括の発表から判断すると、研究総括はボトムアップ的要素を重視して、民主的運営に重点を置いている。本領域は歴史のある成熟した分野といえるので、ボトムアップ型の良さを研究総括が証明したと考えるべきであろう。

②CRESTは非常に良い制度なのでぜひ継続して展開できる道を探るべきである。CRESTの高い競争率や事前評価(採択)の公正性重視を考慮すると、大胆な提案を採択できないことは理解できるが、採択課題数を増やすことや、研究総括の裁量経費枠を増加し、柔軟性を持たせることが望まれる。また、当該分野は高額な実験設備などの投資以外には、高額の研究費は必要ないため、1課題あたりの研究費を少し下げて、採択件数を増やしたほうがよかったという研究総括の意見に大賛成である。

③真に革新的な手法の開発を行うためには、非常に視野の広い研究者に、その研究者の責任を明確化してプロジェクトを立ち上げる必要があると思われる。ただし、評価体制を抜本的に変更することを考えないと難しいかもしれない。

④評価のやり方を考える時期に来ているので、評価者と被評価者の立場と見識を明確にする必要がある。インパクトファクターや被引用論文数と言った数値はある程度は客観性があるので、事務局が用いるには好ましいが、研究者が見識を捨てて、インパクトファクターに頼ることは避けて欲しい。研究者は研究がどの点で優れているか、将来の洞察を含めて分析的に評価し、またその社会的責任を明確化していく必要がある。


6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成度
特に優れた成果が得られた。

(1-2) 科学技術の進歩に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-3) 社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果
十分な成果が得られた。

(1-4) 戦略目標の達成状況
十分な成果が得られた。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
特に優れたマネジメントが行われた。

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