戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成20年度研究領域評価結果について > 研究領域 「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」 中間評価

研究領域「生命現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
中間評価

1.総合所見(研究領域全体としての成果及び当該分野の進展への寄与の見通し、本研究領域の意義、今後の研究推進への提言、等)

 X-線結晶解析やDNAの塩基配列決定法などの新規な計測技術の出現が、分子生物学の扉を開いたように、生命現象の解明に飛躍的な進歩をもたらして来た。本領域はこの事実に立脚し,ポストゲノム時代の革新的な計測技術の創出により、生命現象を担う多彩な分子を、その機能を発揮する階層的な舞台、単一分子から細胞そして個体まで貫く新しい概念の創出を目指し、生命現象の解明に新たな道を開こうとするものである。
 チャレンジングかつ広範な研究課題が採択されているが、研究総括、領域アドバイザー、領域参事の活動を通して、各研究代表者は課題の目指している計測技術に近い位置にいる。しかし、いくつかの課題に於いて、遅れも散見されるので、領域内のより緊密な連携により、当初に掲げた目標をクリアして欲しい。
 本領域で遂行されている多彩な計測技術が、目標どおり完成し、実用化され、多くの研究者に提供されれば、従来の個々の分子の機能に基づく生命の微視的理解に、新たに生命全体を巨視的に理解する道が付け加わる。その意味で本研究領域の意義は大きい。
 本領域は革新的な技術の創生に的が絞られているが、今後は単なるテクノロジーの開発から一歩進んで、生命科学の研究に於ける基本指針を提案されることを期待したい。
 技術開発の立場から言えば、本領域で得られる計測技術や分析技術を、医学、特に臨床医学へ展開するための努力と環境作りを強く望む。
 最後に、領域としてかなりの成果が見られるにも関わらず、その成果が本領域内に留まっており、余り知られていない。より多くの基礎研究者や企業などの開発関係者等に知ってもらう努力とそのシステムの構築を是非、検討して欲しい。成果報告会を公開シンポジウムとして開催することや、非公式な討論の場を設け、研究から技術開発への連携について、企業関係者からの意見を取り込むなど、今後の展開を期待する。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考について(研究領域のねらい、選考方針、領域アドバイザーの構成、採択課題の構成、等)

 本領域のねらいは、生命現象を担う多彩な分子を、その機能を発揮する階層的な舞台、単一分子から細胞そして個体まで計測し得る画期的な測定技術を開発し、生命現象を貫く新しい概念の創出を目指している。このねらいはポストゲノムの流れの中で、生命を分子パーツの単なる寄せ集めではなく、より高次の未知なる動作原理の存在から捉えようとするもので、その成果は、個々の計測技術の完成とその他分野への応用と共に、今後の生命科学の基本指針となり得るものである。
 個々の革新的な計測技術の開発は、各研究者個人の創造性に強く依存し、領域全体の纏まりと相容れない部分が有るが、上記の基本方針に沿って巧妙に、多彩な採択課題を配置し、この難点を克服する試みは評価出来る。この点から見ても選考方針、採択課題等は本領域の主旨に沿って適切に行われている。また、領域アドバイザーは幅広い分野から見識のある人材を登用したことで、成果に繋がっている。
  あえて加えるならば、組織レベルや臓器レベルの計測、更に開発中の各種計測技術を医学分野への展開を意識した採択課題があれば、得られた成果の社会への還元も容易になると考える。

3.研究領域のマネジメントについて(研究領域運営の方針、研究進捗状況の把握と評価、課題間の連携の推進、研究費の配分、今後の取り組み、等)

 本領域のねらいから、あえてチャレンジングかつ広範な研究課題を採択したことによる、まとまりの欠如に対する懸念は、研究総括の強烈な個性の基、領域アドバイザー、特に領域参事の活動と、領域報告会その他の集まりで、徹底した議論によって、かなり払拭されている。すでに、幾つかの課題間で新たな相互乗り入れも行われており、予期せぬ成果も見られる。
 革新的計測技術の開発は、革新的で有れば有るほど試行錯誤の連続であり、その間、成果は殆んど見えない。従って、各課題間で進捗状況にかなりのバラツキは当然であろう。その遅れを取り戻す為にも、本領域の幅の広さを生かした課題間の連携の推進を更に期待したい。
 真に革新的な新技術の開発は投入する研究費と必ずしも比例しない。個人の努力と創造性が全てであり、課題ごとに人件費などの配分に工夫が見られることは評価できる。他方、有る程度目処が立ち、実用化が見える成果が出た場合には、社会への還元のためにも、実用機開発など企業関係者を巻き込んで、より応用的は展開を計ることを考慮して欲しい。
 研究者の個性を最大限尊重する総括の運営方針は、近年の成果主義のプロジェクトの中で貴重であり、この方針に従った、領域マネジメントは良好である。

4.研究進捗状況について(①研究領域のねらいに対する成果の達成状況、②科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する成果、及び今後の見通し、③懸案事項・問題点、等)

①研究領域のねらいに対する成果の達成状況

 各課題の達成度にある程度のバラツキが見られるのは、当然であるが、突出した成果がすでに出ているものもある。例えば、安藤チームの高速AFMは世界をリードする技術として注目できるし、総じて、一分子計測として分類される課題の進展は著しい。
 一方、細胞レベル、個体レベルの課題は、“生きたまま”測るとの付加条件が加わるため、困難さはより増大する。この中で、白川チームの細胞内の特定分子の挙動が観測できる技術はNMR技術の細胞生物学への展開が見えてきた点で成果の一つに挙げられる。
 既に、計測技術としてほぼ確立した物もある。例えば森チームのたんぱく質の結晶化などは、今後、結晶学者のみならず多くのたんぱく質の構造研究者が利用するものである。総じて多少の凸凹はあるが、各課題の進捗状況は順調と言える。

②今後期待される科学技術の進歩に資する成果や社会的及び経済的な効果・効用に資する成果の達成状況

 上述のような確立しつつある段階の成果を積極的に実用化するために、企業との連携も始まっており、製品化の手前まで来た課題もある。今後、より積極的に成果を社会還元する上で、企業との橋渡しをスムーズにするためには、例えばJSTの先端計測分析技術・機器開発事業など製品化への国の支援事業に積極的に参加することが強く望まれる。
 本研究領域で採択された課題は、分子1個の働き方を、細胞や個体の生きたままで解析する手段を提供する。従って、生命を生命全体で理解しようとする現代の生物学への寄与はかなりの程度で達成されるであろう。各課題で得られたそれぞれの計測技術の実用化は、我々人間の生存に関与する学問、例えば、医学や創薬などに広く応用され、将来的には企業活動を通して、大きな経済効果を生み出すことが期待される。既に申請されているいくつかの特許がその礎となるものと考えられる。
 現時点では、多彩な研究課題のそれぞれの完成が最も基本である。次にこの開発された新技術をいかに纏め上げ、新しい生命現象の理解に繋げるかが今後の課題である。


5.その他

①本領域の評価に当たり、2008年10月に行われた中間報告会で、各課題の研究代表者の報告を聞き、多数のポスターの前で実際に開発を担当している多くの研究者と討論をした。そこで最も強い印象を受けたのは、本領域は研究統括の強烈な個性に支えられ、目先の成果を強要されることなく、個々の研究者の自由で独創的な開発姿勢が守られていることである。一般に大型研究プロジェクトの成果として、しばしば特許や実用化が問われるが、最大の成果は若い次世代の人材の育成であろう。この点を、本領域の成果の中で最も高く評価する。

②本領域は世界に誇る技術を創出することを目的にしているので止むを得ないと思うが、全体としてまとまったときに、この領域は何を可能にすることを目指しているのか見えにくくなっていると感じる。ポストゲノムでは生命をより深く理解するには何がもっとも重要と考えるのか、また、医療応用では何がこれから重要になるのか、それらにどのように開発技術は活用できるのかなどの議論を開発技術の使用者も含めた形で広げることが望ましい。

③計測技術開発では其の技術でどのような新しい分野が開けていくのか、どれくらい多くの人が其の技術を使ってくれるかなどが価値を左右する。技術の可能性を拡げるために、少しでも多くのユーザー予備軍の方々と議論をしてよりインパクトの大きな応用(それには更なる技術開発が必要なことが多い)を目指しつつ技術開発することが望まれる。

④得られた成果を多くの研究者やユーザーに広く活用してもらう為の何らかの集まり、例えばワークショップなどをJSTで企画されることを望む。


6.評価

(1) 研究領域として戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域としてのねらいに対する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(1-2) 今後期待される科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネジメントの状況
十分なマネジメントが行われている。

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