戦略的創造研究推進事業HOME評価CREST・さきがけの研究領域評価戦略的創造研究推進事業における平成20年度研究領域評価結果について > 研究領域 「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」 中間評価

研究領域「物質現象の解明と応用に資する新しい計測・分析基盤技術」
中間評価

1.総合所見

 近年、我が国の発展を支えてきた計測・分析に関する基盤技術が弱体化していることが懸念されている。大学では、工作室や装置開発室などのサポート体制が弱体化したことがあり、また欧米諸国と異なって、装置開発の研究者がベンチャー企業を立ち上げる機会が少ないことも大きく影響している。そのような状況の中で本研究領域が新しい計測・分析の手法・技術を世界に向かって発信し、世界標準になりうるような基盤技術を開発することを目標として掲げたことは時宜に適い、極めて妥当であると高く評価できる。その推進は国として積極的に支援すべきことは言うまでもないが、本領域の進捗状況もそれに答えるようなものとなっている。
 領域総括の尽力によって全ての研究チームに目が行き届いており、極めて良好な研究マネージメントがなされている。今回16課題の中間評価を行って、日本でも着実に新たな装置開発の芽が出つつあることが実感された。この研究領域からは計測・分析技術分野において大きな寄与が期待できる。今後は、研究課題ごとにその目標とする基盤技術を確立することはもちろんのこと、多くの分野で広く使われる技術になることが望まれる。そのために、他分野との交流や、応用研究への展開に向けての情報発信にも努力を払ってほしい。領域内個別研究間の交流はより密度を上げるとともに、次のステージである成果の応用技術への展開を積極的に進めていただきたい。
 この研究領域の成果の事業化に当たって懸念されることは、日本においては技術の種を事業化するスタートアップ組織と資金が不足していることである。現在の日本の企業ではリスクを負う事業に手を出しにくくなっているので、公的ファンドの活用と、大学、企業をリタイアあるいはリタイア直前のリスクのとれる有能な人材を活用した日本型の起業システムをつくることも考えるとよいだろう。

2.研究領域のねらいと研究課題の選考

 本研究領域の主要な目標は、極微量物質の化学形態や固固、固液界面状態の計測などに関して、先端研究の推進に必要な画期的な測定技術・装置を開発することであり、広範な分野から課題を選択することを考慮している。近年の我が国の科学技術は、しばしば短視野的な成果主義を強調するあまり、計測技術に関する腰を据えた研究開発が軽視される傾向がある。特にこの意味で本研究領域のねらいは非常に当を得たものであり極めて高く評価できる。
 選考に当たっては、基礎・応用を問わず、また資金的に恵まれない研究者や若手の研究者にも目を向けて選考している。このような方針に対応して、領域アドバイザーは広範な分野の委員から成り、委員構成は概ね適切であると考えられる。
 採択課題は20倍を越える応募課題の中から選ばれており、全体的に見てバランスのとれた研究領域となっている。採択課題の分布に関しては総括の十分な配慮がなされている。しかし詳細にみると、とくに競争の激しかった平成16年度の課題採択においては、採択6課題のうち、走査トンネル顕微鏡課題が2件、電子顕微鏡1件とやや偏りがあったことは否めない。応募課題が偏っていたのかもしれないが、次年度以降には改善されている。年度が進むにつれて申請数が減少して、選択の幅が小さくなったことは問題で、JST側の広報に改良の余地があると思われる。
 予算規模を考慮した総括の方針(シーズ作りより種のあるものを育成する)により、実績のある研究者を中心に採択されている。この中には一部製品開発を目指すフェーズのものも含まれる。JSTで別途進行中のより実用化に近い研究開発を意図したプログラム(先端計測分析技術・機器開発事業)との連携や識別を考慮すべきであろう。一方では、資金的に恵まれない研究者や若手研究者を重視した課題採択も行われている。この場合の問題点としては、資金だけでなく、周囲の研究環境のサポート体制にも配慮する必要があると思われる。しかし、地方大学の研究者発掘も行なわれた結果、全体のポートフォリオとしては多様で妥当なものになったと思われる。

3.研究領域のマネジメント

 領域総括が領域全体のマネージメントを強く意識して運営している。サイトビジットなども定期的に行っており、また評価も適切にかつ厳しく行っていて、マネージメントは優れている。各々の研究チームに専任のアドバイザー3名(主担当1名、副担当2名)を任命して、総括と研究代表者の間を密接につないだのは大変よい試みである。このような運営方法や、総括とアドバイザーとの指示や連絡の記録などは、JSTが保存、整理して、次のプロジェクトの総括担当の参考に供するとよいと思われる。
 研究報告会は、分野が異なるとは言えいろいろな意味で刺激を与え合いブレークスルーのきっかけをつかむチャンスともなるので、もう少し頻繁に行うことを助言したい。これまで報告会は年度毎の採択課題だけで開かれていて、本年初めて全体のワークショップが開かれる。報告会は、採択年度毎でなく合同の開催が望ましい。さらに、これらがすべて非公開で行われることには疑問がある。その理由は極めて専門的かつ基礎的な内容を議論するからと言うことであるが、そのようなCREST領域は数多くあるので説得力のある理由とはなっていない。特許権にからむこともあるが、その点を配慮した発表は可能である。
 このような報告会のあり方を反映して、社会や研究成果を直接受容すべき研究者、企業へのアピールが少々不足していると思われる。別プログラムである先端計測機器開発プログラムと組み合わせシーズから応用、実用にいたる全体像を納税者に対して開示し説明責任を果たすと同時に、この分野に対する研究総括の熱い想いを伝えて欲しい。これはむしろJSTが企画すべき事項である。

4.研究進捗状況について

 個々の課題についての進捗状況は、それぞれに異なる特徴を持ちつつも全体としては概ね良好と考える。大多数のチームでは目標に近い成果が得られていると思われる。しかし、18年度スタートのものについては、まだ具体的な成果が少ない段階であるという事情があるものの、評価用資料において先が見えない記述になっているのは改良の余地がある。途中経過でももう少し具体的に記してほしい。また、今回の成果報告も電子顕微鏡の話題に少し偏した傾向にあり、他の研究課題がどうなっているかが見えにくいという、問題点があるように思われた。総括が現時点での問題点を整理して明確に記述し、発表するのが望ましい。
 これまでの成果の中には、実用化が進んでいる高分解能電子顕微鏡の他、近い将来の実用化が期待できるいくつかの装置が含まれる。これらの装置が我が国の科学技術の発展に寄与することになり、分析機器産業の発展にも寄与すると思われる。このように装置開発としては世界のレベルに達したもの、または若干抜いたものも見受けられるが、それぞれの課題が将来世界のトップの地位を築く基になれるかどうかが問題である。広く国際的な評価を乗り越えてこそ、真の競争力が得られると思われるので、国際的なベンチマーク、異なる計測手法間の利害得失の考慮、計測手法を受容するユーザの評価等を今後実施して欲しい。研究が進んだテーマに関しては国際的にわが国が研究、産業両面でリードをとれるような戦略を構築するところまで、他のプログラムなどとの連携も図り実施していただきたい。さらには、これらの新装置が他の分野の研究者をも刺激して、科学上の新しい成果が生まれる契機となるように、色々な機会を利用して積極的なアピールを図っていただきたい。


5.その他

特記事項なし


6.評価

(1) 研究領域としての戦略目標の達成に向けた状況

(1-1) 研究領域のねらいに対する研究成果の達成状況
十分な成果が得られつつある。

(1-2) 科学技術の進歩に資する成果や、社会的及び経済的な効果・効用に資する研究成果、及び今後の見通し
十分な成果が得られつつある。

(2) 研究領域としての研究マネージメントの状況
特に優れたマネージメントが行われている。

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