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戦略的創造研究推進事業 公募型研究(CREST、さきがけ)
平成20年度終了研究領域総合評価報告書

総合所見

 JSTの戦略的創造研究推進事業において設定される戦略目標は、初期の頃は比較的短い単語数により大変広いものとして表現されており、それを反映して設定されるCREST領域のねらいも、漠然としたものであった。その後、戦略目標は年とともにより明確に絞られた内容のものとなる傾向にあり、本年度の評価対象になった研究領域のねらいは、戦略目標と直接関連付けられた具体性の強いものになっている。このことは、目的基礎研究としての色彩を増し、科学研究費とのすみわけを明確にする点でよい傾向であると考えられ、また、戦略目標への達成度に関する総合評価を容易にしている効果があることを指摘したい。しかし一方で、いずれの研究領域においても、それぞれのテーマの下で直接的に戦略目標達成を目指すのではなく、その達成の過程で解決することが必須な基礎的・基盤的課題の研究に重点が置かれていた点も特徴である。イノベーション創生という社会貢献型のプロジェクトではあっても、文部科学省管轄のプロジェクトとして健全な方向であると考えられ、そのことが長期的には大きな社会貢献につながるものであり、適切な方針であったと思われる。本年度終了したCREST研究領域から、iPS細胞に代表される優れた成果が得られ、社会的にも強いインパクトを与えることになったことは、この方針が適確であったことを示している。但し、基礎的・基盤的研究に重点が置かれていることは、戦略目標に対する研究成果の達成度を研究終了時点で評価することを困難にしている面があり、評価の視点や手法を再検討する必要があると思われると同時に、プロジェクト終了後5年、10年経過後の追跡調査の必要性を強く感じさせる。
 研究領域運営は全般的に極めて良く行われたといえる。第1の理由は研究総括として優れた人材が得られていること、第2は領域アドバイザー制度がよく機能していること、また、第3が外部評価制度である。特に、中間評価は後半の領域運営の改善に役立っている。このような運営体制は、研究費の有効活用のためによく機能していて、今後もそれぞれに良い人材を得てこの方式を継続すべきである。
 CREST・さきがけでは、研究領域というバーチャルラボを作って研究を推進することにより、チーム間・研究者間の研究のシナジー効果を発揮し、それぞれが単独で研究を進めることでは得られない大きな成果を生むことが期待される。このようにして優れた研究成果をあげたチームや研究者が、研究プロジェクト終了後も更に研究を発展させるためには、研究期間に培われた他チームや周辺分野とのネットワークや交流の維持・展開が極めて重要である。そのような意味から、研究期間終了とともにバーチャルラボを解消させてしまうのではなく、その後も研究者の交流の場としての研究会や研究連絡を制度として支援しても良いのではないかと思われる。
 また、現在のCRESTは公募のみにより採択課題を決めているが、このことにより、重要なテーマが欠けることがあり得る他、研究課題間の独立性が強く、研究領域全体としての戦略性が十分に発揮されない恐れなしとしない。公平性と透明性の観点に留意しつつも、研究領域全体としての方向性を重視した研究へのインセンティブを働かせるなど、今後、制度として検討の余地があるのではないか。
 現行のCREST・さきがけの領域の設定に関する問題点としては、次のような指摘をしたい。文部科学省から示された戦略目標は、一度定められると、研究推進時点で見直されることがないことから、場合によっては、研究総括・アドバイザーが柔軟に再解釈をして、より現実的な領域運営を行わざるをえないことになる。その結果として、戦略目標の達成という観点からは十分に評価されない恐れもある。今後の戦略目標の策定と研究領域の設定において、考慮すべきことと考えられる。
 岸本研究総括の方針である「真髄をついた基礎研究は必ず応用につながる」は全ての研究領域に通ずるものである。CREST、さきがけにおいて、今後もしっかりした基礎研究を追及し、世界をリードする研究を数多く生みだして、将来の社会や産業の発展に大きな貢献をすることを期待したい。

CREST研究領域:たんぱく質の構造・機能と発現メカニズム
−たんぱく質の機能発現メカニズムに基づく革新的な新薬、診断技術及び物質生産技術の創製を目指して−

戦略目標:遺伝子情報に基づくたんぱく質解析を通した技術革新
研究総括:大島泰郎

戦略目標の達成に資する成果 評価点:成果が得られた

講評:
 本研究領域は、ゲノム科学の進展を受けて、ポストゲノムの最重要研究領域であるたんぱく質の機能・構造解析をとりあげ、同じ時期に進められた「タンパク3000」プロジェクトと相補的な関連を保つべく、生物学的に重要な現象を抽出し、それを担うたんぱく質の構造解析を通してたんぱく質の役割を分子・原子レベルで解明し、構造生物学と生命現象を直結させることをねらいとした。このため、「タンパク3000」では対象としない斬新な解析手法の開発も対象とした。
 研究領域全体として国際的にも質の高い研究成果が得られ、特に一流欧文誌への原著論文が1000報近くあることは高く評価できる。NMRの測定限界分子量を5万に伸ばすSAIL法の開発、薬物排出に働くトランスポーターの構造・機能解析の研究成果などは特筆に値する。本研究領域の研究を中心として、「タンパク3000」プロジェクトやさきがけの研究者と連携しこれらの顕著な成果を出したことは、たんぱく質科学の分野における日本の研究レベルを向上させることに大きく貢献している。基礎研究のみでなく、長期的にみて将来の応用も期待され、CRESTの研究としては成功したといえよう。
 但し、研究領域のねらいとして掲げられたことの内、たんぱく質の構造解明に関する研究に重点が置かれ、構造生物学を飛躍的に発展させる技術・方法論の開発を目指した研究が乏しいことは残念である。結果として、研究領域のねらいが十分に達成されたか否かに関して、やや課題が残ったと言わざるをえない。
 本CREST研究以前には、日本のたんぱく質構造・機能解析研究は世界をリードする立場にあるとは言い難かったが、今や国際的に高く評価される幾つかの画期的な研究成果が得られており、これらの基礎・基盤研究の成果を更に医学・薬学等の分野に生かすことを目指して、今後の我が国の研究開発戦略を議論すべきである。

CREST研究領域:免疫難病・感染症等の先進医療技術
−遺伝子レベルでの発症機構の解明を通じた免疫難病・感染症の新たな治療技術の創製を目指して−

戦略目標:先進医療の実現を目指した先端的基盤技術の探索・創出
研究総括:岸本忠三

戦略目標の達成に資する成果 評価点:特筆すべき十分な成果が得られた

講評:
 本研究領域は、再生医療や抗体工学等を含む先進医療のうち、免疫が関わる各種疾患に対する先進医療技術を中心とし、その他関連する先進医療技術も含め、次世代の医療技術の基礎と応用に関する研究を対象とした。研究総括は特に、「真髄をついた独創的な基礎研究は、確かな礎となり、必ず応用につながる」との考えの下に、創造性に富んだ挑戦的な研究を選ぶことを重視した。
 本研究領域は、生命科学分野でも特に先端的であり、我が国の国際的な位置づけも高い免疫学の成果をもとに免疫難病、感染症に対する新たな医療技術の開拓を目指したものであるが、感染ルート、ワクチン、免疫制御、再生医療などの分野から基礎のしっかりした挑戦的な課題を採択している。本研究領域から、iPS細胞の開発という予想せぬ大成果だけでなく、世界的に突出したインフルエンザの研究など、将来に向けて大きなインパクトのある成果が生まれた。特に、iPS細胞が世に出る以前に、萌芽期にあった山中プロジェクトを採択したことは、研究総括の識見の高さと先見性を示している。研究領域のほとんどの研究代表者がNature、Cell、 Scienceなどのトップジャーナルへ論文を発表し、学術賞の受賞なども極めて多く、研究領域全体として非常に高いレベルの研究成果が得られている。これら多くの研究成果は基礎研究として重要であるのみならず、今後先進医療の実現に向けて実用面でも大いに期待できるものであり、社会的インパクトも大きい。小手先だけの応用研究が多い中、基礎研究を重視した方針を堅持して大きな成果を上げたことは、他のプロジェクトの手本となるであろう。戦略目標に謳う社会貢献と言う観点からも、その成果は「十分な成果」以上の特筆すべきものといえる。
 戦略目標に示された先進医療の実現という最終目標に向かって、JSTとしては今後も本研究領域の研究をフォローしていくことが望まれる。

CREST:情報社会を支える新しい高性能情報処理技術
−量子効果、分子機能、並列処理等に基づく新たな高速大容量コンピューティング技術の創製を目指して−

戦略目標:新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築
研究総括:田中英彦

戦略目標の達成に資する成果 評価点:成果が得られた

講評:
 本研究領域では、量子コンピュータや分子コンピュータ等を含む新しい原理に基づく情報処理システム、従来型のコンピュータの性能を新しい時代に合わせて飛躍的に向上させる要素技術、従来システムの安全性や信頼性向上のための技術、大負荷に耐えられる大容量システム技術等、高速大容量情報処理に不可欠な新しい情報処理システムの実現に向けてそのベースを強化するということに重みを置いて研究が進められた。
 本研究領域は、全固体量子演算方式実現の可能性の実証、大容量ホログラム記憶装置の実現、分子メモリの実現法とその限界の提示、ディペンダブル情報処理基盤の確立、ロボット向け実時間処理技術の確立など、新規性、独創性に富む世界的レベルの優れた成果をあげたと評価できる。論文発表のみでなく、特許出願や登録にも積極的に取り組んでおり、企業との共同研究に発展している研究もある。これらは情報科学技術の基盤技術として将来の発展に大きく資するものであり、領域全体としては科学技術の進歩に貢献した成果が得られたと評価できる。研究総括の「情報関係領域の基盤強化」という基本方針は十分達成されたと言える。
 一方、本研究領域に関して難を言えば、戦略目標が「量子コンピュータなどの新原理に基づく計算機構の探索」と「ノイマン型コンピュータにおいて全く新しい技術の導入」という2つの異質な目標を示していたことから、研究領域においても、「量子コンピュータや分子コンピュータ等を含む新しい原理に基づく情報処理システムに向けた研究」と、「従来型のコンピュータの性能を新しい時代に合わせて飛躍的に向上させる研究」という2つの異質な研究分野に狙いを定めざるを得ず、研究総括が苦心されたことと推察される。実際の研究は、前者は材料・デバイス系の研究が中心となる一方、後者は情報通信系の研究が中心となり、研究領域としての纏まりには課題が残ったと言わざるをえない。また、研究領域の対象とした分野が非常に広いものであったために、各研究課題の単独の成果以上のものを領域としてどこまで引き出せたのか、領域としてのシナジー効果はどうであったのかもやや疑問とせざるを得ない。
 高速大容量処理技術の構築のためには、多数の研究者・技術者の結集が必要であり、本研究領域の研究は、その前段をなす萌芽期としての基礎的研究と捉えるべきであろう。今後は、本領域から生まれた基盤技術が実用化に向けて進展するよう、国として注力すべき分野を絞り込み、産学官を併せて研究・開発を推進すべきと考えられる。

CREST研究領域:水の循環系モデリングと利用システム
−水資源と気候、人間活動との関連を踏まえた水資源の循環予測・維持・利用のシステム技術の創製を目指して−

戦略目標:水の循環予測及び利用システムの構築
研究総括:虫明功臣

戦略目標の達成に資する成果 評価点:成果が得られた

講評:
 本研究領域は、大気・陸域・海域における水の循環の諸過程を明らかにし、水循環モデルの構築を目指した「現象解明型研究」と、社会における持続可能で効率的な水利用システムの創製を目指した「問題解決型研究」を研究対象とした。
 水資源循環のモデル構築に関しては、多様なスケールのモデル開発が行われ、非常に有用なデータセットも整備されて、水資源循環予測などの分野で、我が国が技術的に世界をリードする基盤を築いた。グローバルな水循環系の把握のための全球統合水資源モデル構築、衛星搭載マイクロ波放射計データを利用した全球降水マップの作成などの成果は、既に実地に利用されている。更に、特定地域の水循環系と生態系のモニタリングとモデリングの研究、ならびにアジアの河川流域における水循環・利用システムの研究として、多くのチームが、メコン川流域、黄河流域など、東南アジアの広い地域でデータ収集・解析などを行い、アジアの水資源問題の研究に多くの基礎資料を提供できる成果を挙げたことは、今後の科学技術外交、ODAの視点からも注目すべきである。これらの研究課題が所定目標の達成と共に、その過程における成果を広く世に問う形で社会的なインパクトを与え、水資源研究の重要性・有効性の周知に成功したと考えられる。
 一方、以上のような「現象解明型」のカテゴリに属する研究課題が大きな成果を挙げているのに対して、「問題解決型」の研究課題では成果は限定的なレベルにとどまっている。特に後者については、公募による多様な研究課題が広範な領域に個別に存在しているとの感が避けられず、このため、研究領域全体としての当初のねらいに対して、課題が残されていると言わざるをえない。CRESTの事業目的が一般的に「革新的な新技術の創出」とされ、その視点から「戦略目標の達成に資する」という評価がなされることが、本研究領域のように社会的課題の解決への貢献を目指す研究領域の特徴に適合するものであるかどうかという疑問もある。今後、「社会のための科学」の範疇に入る研究領域をどのように評価するか、本質的な考え方を含めて、議論することが必要であろう。

さきがけ研究領域:量子と情報

戦略目標:①「情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築」(平成15年度設定)
戦略目標:②「新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築」(平成13年度設定)
研究総括:細谷暁夫

戦略目標の達成に資する成果 評価点:十分な成果が得られた

講評:
 本研究領域は、量子力学的現象を利用した情報処理を実現するために、光子、電子スピン、核スピン等を用いた量子情報処理素子の研究開発を通して、量子力学と情報処理の間に横たわる諸問題の解決に資する研究を対象とした。未来型で長期的な視野が必要なことから、後継者が育つことを重視した。
 本研究領域は、研究自体が萌芽期にある極めて挑戦的な課題として、「さきがけ」にふさわしいものといえる。また、半数が理論研究であることも他の研究領域と比較して大きな特徴であり、チームとして理論研究と実験研究の融合が図られた点が評価される。CREST「量子情報処理システムの実現を目指した新技術の創出」(山本喜久研究総括)と連携してこの領域を運営したことも高く評価できる。研究成果としては、量子もつれの度合いや量子鍵配送への応用など国際的にもレベルの高いものが得られており、時間軸を取り込んだ量子もつれ理論、量子通信路容量や量子符号化理論など今後に期待が持てる成果も得られている。実験研究においても、単一量子ドットでの多光子量子操作による干渉時間測定、AFMによる原子識別、原子集団への光学的手法による量子力学の基本原理実験などは興味深い。また、さきがけ研究領域全体の成果は若手がどこまで伸びたかで判断されると言っても過言ではなく、本研究領域では15人中8人が昇進し、2名が顕著な受賞をしていることから、期待通りの成果を挙げたと判断される。
 尚、本研究領域は、「情報通信技術に革新をもたらす量子情報処理の実現に向けた技術基盤の構築」と「新しい原理による高速大容量情報処理技術の構築」の2つの戦略目標に基づいて企画されたが、特に後者に対しては、本さきがけ研究は、ようやく基礎基盤研究に踏み出した段階にある。次世代を担う研究者によるチャレンジがさきがけ研究の重要な使命であることも考え合わせると、この戦略目標自体がさきがけ研究領域に対するものとして十分に適切なものだったかどうか振り返ってみる余地があろう。
 本研究領域が量子情報に研究を集中したことは「さきがけ」研究としては適切な運営と言え、多くの若手研究者がこのような目標に向かって研究を進めた結果、今後この分野に大きなインパクトを与えると期待される。量子情報分野では息の長い研究が必要であり、継続した国の支援が望まれる。

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